圧勝の内訳
「はい。ちょっと大人げないというか、学生さんには申し訳ないであります……」
ナリンさんが苦笑とも心配ともとれるような表情で呟く。
「いやまあ、地球でもプロと学生の練習試合なら無い訳ではないですが」
それだけにJ2であったアレは衝撃だったのだが。
「リストさんが8点でダブルハットトリック以上、ダリオさんも3点でハットトリック、後はリーシャさんが1点にガニアさんも1点。これはセットプレーですか?」
俺が訊ねると彼女は静かに頷いた。ナリンさん仕込みのセットプレーで昨シーズンのCBレギュラーが点数を取っているのは心強い。
「しかしどういう形でこんな大差に?」
大量得点を必要とするチームが無謀なくらい前がかりになり、守備に回ったチームのカウンターが悉く決まる……という展開ではない筈だ。何せこれは学生さんとの練習試合なんだし。
「あの『ゾーンプレス』が想像以上に効果を発揮しまして」
ナリンさんが得点したシーンの状況を図で示したものを何枚か机に広げる。後ろの幾つかは典型的なカウンター、自陣深くでボールを奪って一気に前線へ送ってから……というモノだが、それ以外は相手陳内で数人がボールホルダーを囲い込み、奪ってからリストさんが個人技で突破し素早くシュートを決める、という型が多かった。
「リストさんはやっぱ本番型か。確かにブラジル人っぽいもんな」
Jリーグのチームに鳴り物入りで新加入したブラジル人選手、練習ではさっぱりなので「ハズレかな?」とレギュラーにせずにいたが、試しに試合に出してみたら大活躍……みたいな話は良く聞く。練習よりも試合や実戦形式の練習の方が輝くタイプというのは実在するのだ。
「嬉しい誤算ではありますし、本人の精神状態も好転したようでありますが……」
ナリンさんの声は言葉と裏腹に明るいものではなかった。
「どうしたのですか?」
「今回の勝ち方は、ちょっと」
彼女の声に被さるように、大きな歓声が食堂の方から聞こえてきた。盛り上がっているな。レブロン王が帰って良かった。
「慢心、環境の違い、を呼びそうだと?」
「環境でありますか?」
「すみません、ネットスラングを使っただけで意味は無いです。ちょっとチーム全体が浮かれてしましそうな勝ち方だったのですね?」
俺がそう問うとナリンさんは黙って頷いた。しかしまあ、予想のされた展開でもある。
ゾーンプレスとはつまりボールを持っている選手に複数人が襲いかかる守備方法であって、ボールをしっかり保持して丁寧に繋ごうとする真面目なチームにより効果を発する。
つまり……エルフのチームとか。しかも今回の相手は身体能力、テクニック共に自分たちより落ちる学生のチームで、ゾーンプレスの洗礼を受けるのは初めてで。対戦ゲームにおける「ハメ」の様な形になるのも当然と言えよう。
「せめてもう少し失点すれば、守備陣は気を引き締めたと思うのでありますが」
ナリンさんはゴソゴソと書類を探しながら言う。
「あ、1点取られてましたね。どんな状況だったのですか?」
「はい。あ、これであります」
やっと目当てのものをみつけたらしいナリンさんから、俺はまた別の図を受け取る。
「ほう、レイさんなんだ」
「はい。補習を受けていたので合流が遅れて後半30分からの出場でありましたが。しかも彼女の希望で学生チームの選手として、です」
代表ではなく学生のチーム、しかも負けている方で出場したいとは彼女らしいな、と思いながら図を読み解く。
「あ、この時間帯はアイラさんが左SBか。上がった裏でボール貰って彼女とガニアさんとの間をドリブルで抜けて、ファーにみせかけてニアをぶち抜くシュート……と」
「はい。外にガニアを引っ張りつつ、わざとアイラが守備に戻るのを待って門の様になった真ん中をドリブルで抜けたであります」
それを聞いてなんとなく、楽しそうに二名を抜き去るレイさんの動きと彼女の唇の端に浮かんだであろう微笑みがイメージできた。
「アイラさんの攻め残りとガニアさんの喰い付き癖がモロに突かれたって事なんでしょうけど。実際にやり抜くのがレイさんのえぐい所っすね」
もし俺がその場にいた相手チームのコーチでそのように指示を与える事ができたとして。それでシュートまで至って実際に得点できるとまでは思わないかもしれない。
『ウチらね。娘が狙いに狙ったシュート、外したとこ見たことあらへんのやで』
というフィーさんの言葉が脳裏に浮かんだ。





