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保護者会の罠

「今日はお越し頂きまことにありがとうございます。ここまでまだ試合はありませんが選手達は非常に集中して練習し、素晴らしいサッカードウを見せてくれています。それはひとえに皆さん、選手のご家族やパートナーである貴方たちが素敵なお子さんを育て上げ、私生活の面で支え、協力して下さっているからです。本日はささやかではありますがそのお礼として、この会を開催することにしました。皆さん思う存分に食べて、飲んで、親好を暖めて下さい。何か疑問があればそこらを歩いているコーチ、スタッフ、誰にでも聞いて下さい。気になる設備がある? それも質問してどうぞ触れてみて下さい。ただ一つ。監督室に置いてある『秘密の作戦ノート』、その中身だけは見ないで下さい」

 どっと笑いが起きる。

「それでは皆さんの健康とアローズの幸運を祈って。乾杯!」

 乾杯、と唱和が続き、懇親会が始まった。

「お前も随分、スピーチに手慣れたもんだな」

「準備の時間は十分にあったからね」

 からかうステフにそう答えながら俺は遠い目をした。


 作戦室でのコーチ会議から一週間。例によって練習は主にコーチへ任せつつ、俺はこの会の準備に全力を注いできた。

 ナリンさんに宣告していた通り選手のご家族、パートナーだけを集めた親睦会。アゴアシ費用(食費交通費)は全てこちら持ちで、またムルトさんに皮肉を言われるだろう。だがサッカードウのプレーは全て、安定した家庭や充実した私生活あってのもの。その根幹を支える保護者の皆さん――と言っても恋人だったり逆に自分の子供だったり保護者とは限らないが――の貢献に応える、そしてパイプを作っておく事は非常に大事だ。それを考えれば会の費用なんて安いものだ。

「まああたしは無料飯が喰えれば文句ないけどよ。しかもいつもより豪華じゃん!」

 警備担当であるステフは会場となっている食堂に並べられた料理に目を輝かせている。確かにラビンさんに奮発して貰った品々だが、これは一言いっておかねば。

「ステフ、君には仕事があったよね」

「分かってるって! いただきまーす!」

「まてまて!」

 まったく分かってない感じでご飯へ猫まっしぐらしかけたステフの首筋を掴む。

「今日はいつもと違って、選手以外のエルフだらけでしょ?」

「ああ、そうだな」

 ちなみに選手達はナリンさんの引率でレイさんポリンさんの学校へ行き学校のサッカードウチームと練習試合をしている。これは保護者の皆さんが近くにいる選手に遠慮して正直な言葉が言えない、という事態を避ける為だ。

「知らないエルフ同士で喧嘩したり変な事件が起きたりしないように?」

「あたしが……」

「うんうん」

「目を光らせて……いただきまーす!」

「こらこら!」

 俺は再びダッシュしかけるステフの後ろ首を掴む。

「離せよ! フーッ!」

「いやいやお笑いとしては百点の出来ですやん」

 睨む俺と唸るステフに向かって、やや懐かしい声がかかった。

「あっフィーさんフェルさん! 息子さんたちも!」

 そこにいたのはレイさんのご家族たちだった。地下から無事ここまでこれたらしい。

「今日はお招きに預かりましてありがとうございます。姉がお世話になっています」

 レイさんの弟、カイ君がやや緊張した面もちで頭を下げる。その左手には下の弟、ヌノー君の手も握られている。

「いえいえ、こちらこそ」

「なんやお前、偉いかしこまって」

「地上のエルフのお嬢さんたちにええかっこうみせようとしてるんとちゃうか?」

 そう言ってフェルさんフィーさんがイジると、カイ君は否定するように顔を伏せて首を左右に振った。しっかりと会話をするのは初めてだが、確かにカイ君はレイさんに似て顔の造作も良いし、保護者会出席者の若いエルフのお嬢さんからやたらと視線を受けているように見える。

「俺……僕はただ姉が悪く言われる事ないように、宜しくお願いしますって声をかけただけで。それよりもステファニーさん、スワッグさんには妹が良くして貰って……」

 カイ君のその声で気がついた。レイさん所の一番下の妹、ジョアちゃんは側にいない。あちらで、ステフと同じく会場護衛でここにいるスワッグと再会しテンションが上がったのか、彼の背に跨がってキャイキャイ言っている。

「おうおう、気にすんな! あたしもアイツもお前等に会えて嬉しいからよ! それよりもカイ、少し髪切った?」

 ステフはそう言って馴れ馴れしくカイ君の頭を撫でた。カイ君はまんざらでもない表情でその手を受け入れていたが、別の手がその肩を掴む。

「カイさん……で良かったかしら? レイ選手の弟さんの?」

「ミノタウロスのシェフが作ったらしい面白い料理がございますのよ? 一緒に食べてみません?」

 その声はたしかユイノさんの従姉妹さん達だ。ユイノさんと近い年齢で、ロマンス小説や少女漫画が大好き……らしい。

「え? 俺は……でもステファニーさんも行くなら……」

「おっけ! いくいく!」

 ユイノさんの従姉妹さん達に連行されかけたカイ君が咄嗟にステフの手を握った。ステフはこれ幸いとその手を握り返しブンブンと振って、料理のテーブルへ向かう。

「ほほう……」

 俺は今見た風景から得た情報を脳内にメモしながら唸った。何やら複雑な関係が生まれそうだ。しかもそういうのとは無縁のステフまで巻き込んで。

「ほほう、やありまへんで」

 しかし、感心する俺にフィーさんが呆れた声で言う。

「何がですか?」

「招待状貰った時は、てっきりレイとの披露宴のかと思いましたわ。でも蓋を開いてみたらこれですやん? あの子とはちゃんと進んではりますん?」

 んな!

「そんな相手の親に連絡もなしに披露宴開きません! ってそもそも進んだりする訳ないでっしゃろ?」

 俺はびしっと右手の裏でフィーさんの肩を叩いた。しかし返って来たのはフィーさんとフェルさんの冷たい視線だった。

「監督さん、まだ観念してはらへんのか」

「ウチらね。娘が狙いに狙ったシュート、外したとこ見たことあらへんのやで」

 ほほう、それは得点源として頼りになるな!

「いや俺は監督ですからね! 選手とそういうのはナシなんで!」

「やあやあ盛り上がっておるな! 僕も混ぜてくれるかな?」

 今度は必死で否定する俺の肩に、エルフ男性の手が置かれた。反対の手にワイングラスを持ったその男性の顔を見て、俺は全身の力が抜ける思いになってしまった。

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