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こぼれ話 父親たちの陰謀?

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 ニューワールド連合軍総司令部総参謀長ヴィクトル・バルツァー大将。


 石垣チームの一員である、メリッサ・ケッツァーヘル少尉の、実の父親である。


 何故、親子なのに姓が違うのかというと、娘は父親に対して、ある理由から複雑な気持ちを抱えており、敢えて母方の姓を名乗っている。





 1942年(昭和17年)11月。


 ニューワールド連合、大日本帝国と、連合国、枢軸国との間で正式に講和が成立し、第2次世界大戦は終結した。


 もう1つの勢力であるサヴァイヴァーニィ同盟とも、近いうちに正式に講和、相互不可侵条約が締結され、世界は一時的にでも、平和な時を迎える事になるだろうと思われる。


 平和な時間が一時的なものなのか、永続的なものになるかどうかに付いては、双方の文民が中心となった外交次第であろうが、それでも一息が付けるというのは、ありがたい事である。





 某日、グアムにある新世界連合軍総軍司令部基地内の歓楽街にあるクラブで、バルツァーはカウンター席で、バーボンを嗜んでいた。


 カラン・・・


 空になったグラスの中で、氷が音を立てる。


 スー!


 それを見越していたように、バーボンの入ったグラスがカウンターを滑ってきて、バルツァーの前で止まった。


「・・・アーサー?」


 グラスが滑ってきた方向に目を向けると、少し離れたカウンター席に、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総司令官である、アーサー・スタンプ・ケッツァーヘル大将が、手を上げていた。


 ケッツァーヘルは、バルツァーの亡き妻の兄であり、メリッサの伯父である。


「お前も、休日だったのか?」


 グラスを片手に、バルツァーは、年下の義兄であるケッツァーヘルの隣の席へ移動する。


「戦争は終わったのに、随分と時化た顔だな。ヴィクトル」


 嫌味では無く、単に素直に頭の中に浮かんだのであろう言葉を、ケッツァーヘルは、口にした。


「1つの事が終われば、次を予測し、それに備える・・・いつもの事だ・・・」


 グラスを傾けながら、当然といった表情で、バルツァーは答える。


 平和の立ち位置の認識は、人によって異なる。


 戦争の後に訪れる平穏と考える者もいれば、次の戦争への準備期間と考える者もいる。


 前者を平和的、後者を好戦的な性格の持主と捉える者が多いかもしれないが、必ずしも、そうとは言い切れない。


 むしろ、後者の方が平和な時を長続きさせるために、常に不測の事態に備えるという必要性を感じている者と、言えるかもしれない。


 幸せは、自分からは歩み寄って来ないという意味の歌詞の歌謡曲が日本にはあるが、平和というものも、それと同じであろう。


 幸せも平和も、待っているだけでは訪れて来ない。


 アプローチする方法は複数あるが、様々な手段を講じて・・・場合によっては強引にでも掴み取りにいかない限り、それを掴みとる事は出来ない。


 バルツァーは、それを知っている。


 そのために自分が成す役割が、何であるかを知っている・・・ただ、それだけだ。


 2人の大将は、口数少なくグラスを傾ける。


「メリッサには、会ったか?」


ケッツァーヘルの問いに、バルツァーは、首を左右に振る。


「俺は、娘に憎まれている・・・知っているだろう?」


「さあ、どうかな・・・」


ケッツァーヘルは、敢えて言葉を濁したが、理由を知らない訳では無い。





 メリッサは幼い時に、母と姉を、アメリカ国内で起こった、宗教テロリストによる同時多発的テロ事件で亡くした。


 幼い子供にとって、いつも一緒にいた存在・・・これからも、変わらずに側にいられるはずだった存在が、突然いなくなってしまう。


 それが、どれ程幼いメリッサにとって、重い現実となっただろうか?


 バルツァーは、ポケットから1枚の写真を、取り出した。


 妻と2人の娘、そして自分が、満面の笑みを浮かべて写っている。


 もう二度と撮る事の出来ない、最後の家族写真だ。


「・・・・・・」


 ため息を付いて、ポケットに写真を入れる。


 あの悲しい出来事以降でも、メリッサは、いつも明るい笑みを絶やさなかった。


 軍人である以上、バルツァーは、常にメリッサの側にいる事が出来なかった。


 メリッサの世話は、ケッツァーヘルの妻や、家政婦、シッターに任せる事が多かったが、メリッサは決して寂しいといったような言葉を、口にした事が無かった。


 気丈な心を持っている娘だと思っていた時期もあったが、今にして思えば、幼いなりに父親に心配をかけまいと、相当無理をしていたのでは無いかとも思う。


 可能な限り、成長していく娘に愛情を注ぎ、寄り添っていたつもりだったが、十分とは言えなかっただろう。


 それでも、周囲の人々の協力の元、メリッサは優しい素直な心を持った娘に成長してくれた。


 成長したメリッサは、陸軍士官学校(通称ウエストポイント)に入校し、父と同じ陸軍軍人としての道を歩む事になる。


 何故、メリッサは父親と同じ陸軍軍人になろうと決意したかに付いては、バルツァーは何度かメリッサ自身に尋ねたが、娘は微笑を浮かべるだけで、答えてはくれなかったが、バルツァーは、娘が自ら決めた自分の将来の選択を祝福したのだった。


 そして、メリッサはウエストポイントを卒業し、少尉に任官する。


 その頃からだろうか・・・


 バルツァーとメリッサとの間に、小さくではあるが溝が出来たのは・・・


 軍隊というものは、ある意味では特殊な世界でもある。


 一般社会と同じであって、同じでは無い常識も、目に見えない形、気が付かない形で存在する。


 一般社会では知られていない暗部も、当然ながら存在する。


 今までは、守られ隠されていた負の部分も、1人の軍人となったメリッサに、怒涛の様に襲い掛かって来る事になる。


 これまで、アメリカ軍人として、世界各地で起こる様々な紛争を収めるために、参謀の1人として、従事していた父親を英雄視していたメリッサも、父の立案し、成功させてきた数々の作戦の裏の部分・・・負の部分を、嫌でも知る事になる。


 バルツァーは、作戦を成功させる事を、何より重視する冷徹さがある。


 その冷徹で厳格な姿勢を評価する意見は、圧倒的に多いが、少数であっても、その姿勢に人命を顧みない非情さを感じる者もいる。


 当然、バルツァーの姿勢を批判的に見ている軍人も存在する以上、そんな意見も、メリッサの耳にも入って来る事になる。


 メリッサは、聡明な娘である。


 自分の信じる父親像のみを信じて、父に肯定的な意見だけを妄信して否定的な意見に聞く耳を持たないでは無く、否定的な意見にも耳を傾けて、世間には出回らない事情等を閲覧が許可されている範囲内で、資料を独自で調べる等していたようだ。


 その頃は時折、質問という形で自分に対して意見をするという形で父親の作戦至上主義を諫めようという形を取っていたようだが、もちろん、バルツァーも娘の意見に耳を傾けてはいたが、自分の姿勢を変える事は無かった。


 その時に娘の気持ちの変化に、気付けていなかったのが悔やまれる。


 メリッサが、これまで自分の抱いていた父親への尊敬の念と、新たに知った父親のもう1つの姿への反発を覚える自分の感情に、揺れ動いていたという事に。


 やがてメリッサは、危険な紛争地域への派遣を志願する様になる。


 もちろん、それにはバルツァーは反対をし、自分の権限を使って、メリッサが紛争地域へ派遣されない様に、手を尽くしていた。


 職権濫用と言われれば、その通りだ。


 しかし、何処の国に自分の子供を、喜んで危険な戦場へ送り出す親がいる?


 これは、いつの時代でも同じだ。


 その手段と権限を持っているのなら、それを使う事を躊躇う理由は無い。


 しかし、この行為はメリッサの心情に、父親に対する不信感と反発心を醸成する事になる。



 


 メリッサが父親のバルツァー姓では無く、母親のケッツァーヘル姓を名乗るようになったのは、この頃ぐらいからだった・・・





 2杯目のバーボンは、すでに空になっている。


 ケッツァーヘルは、ウエイターに追加で、2つのバーボンを注文する。


「・・・俺の息子が戦死したのも、その頃だったな・・・」


 ケッツァーヘルが、つぶやく。


「・・・確か、中東だったな・・・?」


 ウエイターが、新しいグラスを持って来た事で、一瞬だけ話が途切れる。


「テロリストが乗り込んだ、小型船による自爆攻撃を受けて・・・息子の乗艦していた駆逐艦は、沈没こそ免れたが、激しく損壊した・・・息子は、その時甲板での作業中だった・・・爆風で吹き飛ばされた甲板建造物の直撃を受け・・・」


 辛そうに言葉を切ったケッツァーヘルは、悲しみを飲み込むように、グラスを傾けた。


「・・・・・・」


 陸軍と海軍であるため、若い頃のバルツァーとケッツァーヘルは、直接に会う機会は無かった。


 それこそ、ケッツァーヘルの妹と、軍主催のパーティーで偶然に出会い、恋に落ち、恋を育んだ後に、結婚の許しを得るために、ケッツァーヘルの両親に会いに行った時に、初めて会ったくらいだ。


 それでも、不思議と馬が合い今に至る。


 ケッツァーヘルは、やや激情型の性格で正義感が強く、部下思いという一面を持ち、下級士官だった時は、上官の理不尽な命令に毅然と抗議をするという事や、その勢いで拳を上げる等々・・・色々と問題を起こしたりしていた。


 階級が上がり、軍上層部や最高司令官である大統領にさえ発言出来る立場になると、自分の信念に反する命令には、度々強い口調で反対を唱える等、若い頃と変わらない正義感を貫いている(さすがに、拳を上げる事は無くなったが・・・)。


 バルツァーも、作戦会議等の場で、度々ケッツァーヘルとは、衝突している。


 言い争いから、実力行使に移行する事等、2人が参加する作戦会議の、いつもの風物詩になってしまっているくらいだ。


 作戦上では度々対立するが、バルツァーは、ケッツァーヘルの歯に衣着せぬ物言いが好きであったし、どんな場面でも自分に正直な心意気に、憧れているし敬意を持っている。


 海軍の下士官や、兵士たちからも自分たちが言いたい事を代弁してくれるケッツァーヘルに対する信頼は、厚いそうだ。


 だが、そんなケッツァーヘルも、自分の信念に後悔が無かった訳では無い。


 自分の信念によって、息子が死に至る事になってしまった・・・


 一度だけ、バルツァーに苦悩を語った事がある。


 ケッツァーヘルは、若い頃に軍の高級将校や政治家等の高官が、軍に所属している自分の子供たちが紛争地域に派遣されないように、様々な手を尽くす事を批判した事がある。


 曰く、「他人の子供たちを死と隣り合わせの戦場に送っておいて、自分の子供は安全な後方に置いておくのか?」と。


 自分自身が、戦場に身を置いている立場であった時は、それで良かったかもしれないが、いざ自分が送り出す立場になり、息子の中東の紛争地域への派遣が決まった時、何も言う事が出来なかった。


「俺は無知で愚か者だった時の自分自身を、殴りつけたかった。高官たちが公と私の間で、どれだけ苦悩していたかが、今になって分かった・・・彼らは、批判を甘んじて受ける覚悟で、親としての私の感情を優先したのだと・・・」


 息子の死の報告を受けて、ケッツァーヘルは、涙を流しながらバルツァーに語ったのだった。


 それ以後、ケッツァーヘルは、その事に付いて触れる事は無いが、それまで以上に紛争地域に送られる軍人たちが、1人でも多く帰還出来るように、力を尽くすようになった。


 そして、上手くいっていないメリッサとバルツァーの関係が少しでも修復出来るように、色々と心を砕いてくれていた。





 そんな折、メリッサとバルツァーの間に、決定的な亀裂が入る出来事が発生する。





 ニューワールド連合軍が、過去の時代へタイムスリップする1年程前。


 アフリカの某国で発生した軍事クーデターに巻き込まれた、その国に駐在する民間のアメリカ人の救出作戦が行われた。


 その際、バルツァーは救出作戦をスムーズに行わせるために、クーデター派が拠点にしている都市への、空爆の命令を下した。


 作戦そのものは成功し、民間人たちを無事に救出する事が出来たが、救出作戦に投入されていた地上部隊の内、1つの部隊の撤退が遅れ、空爆に巻き込まれて犠牲者を出した。


 原因として、通信が混乱し撤退命令が、その部隊に届かなかったと言われているが、事実は違っていた。


 撤退命令は、届いていた。


 しかし、撤退する寸前に、救助者リストに載っていない民間人が取り残されている事が判明し、その部隊は、その民間人を救出に向かう旨と、空爆予定時間を遅らせる旨を、司令部に要請してきた。


 司令部は、空爆の予定時間に変更が無い事と、即時撤退を続けて命令してきた。


 もちろん、司令部も悩まなかった訳では無い。


 しかし、これ以上の作戦の遅延は、せっかく救出した他の民間人も危険に巻き込む事になりかねず、空爆予定時刻が迫る中、救出を断念するしか無かったのだった。


 当然、司令部の命令を無視すれば、軍規違反であり、支援も一切見込めない。


 人道と軍規の板挟みになった部隊だが、空爆までには僅かながらも、まだ時間がある事から、民間人の救出を決断した。


 しかし、結果は間に合わなかった・・・という訳だ。


 アメリカのマスコミも、救出劇の成功は大々的に伝えたが、この成功の裏に隠された出来事に触れる者は無かった。


 その部隊の犠牲者の中に、当時のメリッサの恋人も含まれていた・・・






 恋人の死に衝撃を受けたメリッサは、救出作戦成功の裏の事実を知り、深い悲しみと、強い怒りを父親にぶつける事になる。





 そして、父と娘は以後、一切の関係を断ち・・・その状態は、今に至っている。





 ケッツァーヘルも、これには何も言えない。


 その作戦を実行させたのはバルツァーであるが、いかに作戦至上主義者と言われていようが、バルツァーの信念は、いかに犠牲を少なくするかという点を、常に重視している。


 長い付き合いだからこそ、時折強硬にも見えるバルツァーの作戦至上主義の裏に潜む深い思慮も理解している。


 だからこそ、ケッツァーヘルは、総参謀長であるバルツァーに、会議の席上で強い口調で作戦案に異議を唱えたり(鉄拳付き)、代案を主張したりするのだ。


 それに対し、バルツァーも、作戦案への理解を求める(鉄拳付き)、代案の採用や却下等で応じるのだ。





「・・・ところで、メリッサは元気でやっているのか?」


 ある意味、絶縁状態とはいえ、やはりバルツァーは娘の事が気懸りである。


「大日本帝国海軍との関係上、指揮艦[シナノ]に出向いた際に会う事はあるが・・・恋人を失ったショックからは、立ち直りつつあるようだ」


「・・・そうか」


「ところで、以前から聞こうと思っていた事があったが、ヤマモト提督付き士官であるイシガキ2尉のチームに、メリッサを配属させたのは、やはり・・・?」


「まあな。菊水総隊司令官の、ヤマガタ海将からイシガキ2尉の為人は、ある程度には聞いていたが、メリッサが亡くした恋人と、イシガキ2尉は、顔立ちは違うが雰囲気が似ている・・・もしかしたら・・・イシガキ2尉が、メリッサの心に負った傷を癒してくれるかもと、期待した部分は確かにある」


「なるほど・・・」


 納得したように、ケッツァーヘルは、つぶやいた。


「イシガキチームに配属されてからも時折、メリッサとは会う機会があったが、明るい表情が増えてきたように思う。しかし、肝心のイシガキ2尉が頼りなさ過ぎて、メリッサに、尻・・・いや、叱咤激励をされているのが、何とも・・・」


 一瞬、何かを言おうとして言葉を変えたケッツァーヘルに、バルツァーは僅かに笑みを浮かべた。


「実は・・・今は、まだ腹案なのだが・・・ニューワールド連合軍総司令部直轄部隊に新部署を設立しようと考えている。具体案はまだだが、それに、イシガキチームを配属させようと考えている」


「ほう。それは、それは・・・娘の婿として、彼が相応しいかどうか、直接見極めるつもりかね?」


 半ば冗談のつもりで、ケッツァーヘルは聞いた。


「いや、そこまで俺は傲慢では無いつもりだ。メリッサが決めた伴侶が誰であれ、あの娘を幸せにしてくれるなら、それだけで俺は十分だ」


 ニヤニヤ笑いを浮かべるケッツァーヘルを無視して、バルツァーは澄ました顔でグラスを傾けている。


「それは、中々・・・では、俺も一枚嚙ませてもらうとするか」





 バルツァーの真意は、わからないが・・・石垣の知らない所で、色々な事が動き始めようとしていた・・・

 こぼれ話をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は10月18日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  (鉄拳付き)この言葉は作戦会議の喧々囂々具合が容易く想像できるパワーワードですね^^;  そして、パパに期待される石垣君、大丈夫かなぁ。
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