こぼれ話 祭りは終り 祭りは始まる
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
親善スポーツ大会は、すべての種目の日程を終え、幕を閉じた。
閉会式では山本自らが、各種目の優勝者、準優勝者、優勝チーム、準優勝チームに賞状と記念品を授与し、そして、参加したすべての選手の健闘を、称えたのだった。
そ・し・て。
閉会式後の、お楽しみは・・・
各試合会場での親睦パーティと、ワイキキビーチでの花火大会である。
「メリッサさん。たこ焼きと焼きそば、買ってきました」
「ありがとう。そこに置いといて」
「石垣2尉。ビールがなくなっちゃった。買って来てぇ。あと、ピザも欲しいなぁ・・・それと、フライドポテトも~・・・あっ、唐揚げも欲しい」
「・・・はいはい」
ワイキキビーチの砂浜で設置されているテーブルの1つを確保して、石垣たちは花火大会が始まるのを待っている。
ビールで乾杯している女性陣を後目に、石垣は、おつまみ等の買い出しに奔走していた。
言ってみれば、パシリである。
「・・・あの・・・私が買いに行きます。石垣さんも皆さんと一緒に食べていて下さい」
3人組にプラスして、一緒にテーブルに着いている伊藤が、遠慮がちに申し出る。
「い~のい~の。これは、恵美ちゃんのための、慰労会も兼ねているんだから。石垣2尉には、しっかり働いてもらわないと・・・ねぇー!」
「・・・おっしゃる通りです・・・」
「でも・・・」
「一度した約束を反故にするというのは、うっかりミスだとしても、許されるものでは無い。親しい友人であればある程、駄目な事は駄目と、はっきり言わないといけない」
石垣に同情している伊藤に、紙コップに注いだビールを飲みながら、任が伊藤を諭すように言う。
「・・・・・・」
任の正論に、伊藤は反論出来ずに黙ってしまった。
「はい、恵美ちゃん。ビールが進んでないよ。ジャンジャン飲んで。それとも、ソフトドリンクがいい?」
空になっている伊藤の紙コップに、側瀬がビールを注ごうとするのを、伊藤は慌てて止めた。
「あっ、ウーロン茶でいいです」
「OK」
和気藹々と楽しい時間を過ごしている女性陣を後目に、石垣は注文品を買いに行くためにテーブルを離れる。
「はぁあぁぁぁぁ・・・」
そもそもの原因が、自分のやらかしであるから、仕方が無いが・・・ため息が出る。
石垣に、すっぽかしを喰らった(マラソンの行われていた時間帯が、偶然剣道の決勝戦と被っていたため)、伊藤を慰めるのが目的であるので、このくらいで罪滅ぼしになるなら、安いかもしれない。
「ええと・・・追加のビールと、ピザと、フライドポテトと、唐揚げと・・・」
ブツブツとつぶやきながら、目当てを探す。
パールハーバー・ヒッカム統合軍基地内の歓楽施設のレストラン等が、キッチンカーや、屋台を出しているので、目当てのものを探すのは苦労しないが、どこも大盛況で長蛇の列が出来ているので、時間がかかる。
「・・・腹減った・・・俺もビール飲みたい・・・たこ焼き食いたい・・・」
さっきから、腹の虫が情けない音を、立てている。
「あの・・・石垣さん」
「うわっ!?ビックリした!」
いつの間にか、伊藤が側に来ていた。
「エヘッ。トイレに行くって言って、付いて来ちゃいました」
「ええと・・・」
「2人で買い出しをしたら、早く終わります。さっ、早く並びましょう」
笑顔を浮かべて伊藤は、石垣の腕を引っ張る。
「え・・・ええと・・・」
手を繋いでいる恋人同士と見えなくない形で、石垣は伊藤に引っ張られる様に、列の最後尾に並ぶ。
「恵美ちゃん、上手く石垣2尉と、合流出来たかな?」
出来立ての焼きそばを啜りながら、側瀬がつぶやく。
「伊藤さんは、達也よりしっかりしている。間違っても迷子になる事は無いだろう。それに、彼女は販売業のベテランだ。効率的に買い物を済ませる術を、私たちより熟知している」
ビールを飲みながら、任が私見を述べる。
「そうね、タツヤは普通に買い物しても、レジで列に並ぶ時にウロウロして、逆に時間を食うって事しそうだし・・・」
自分の前に置かれている、たこ焼きに手を付けずにメリッサは、海を眺めている。
「メェメェ・・・ホントは自分が、石垣2尉に付いて行きたかったんじゃないの?」
「別に・・・」
「2人きりで、ワイワイキャッキャの、お買い物デートというのも、ありだからな」
「それを、恵美ちゃんに譲ってあげるなんて、メェメェも太っ腹!」
「そんなんじゃ、無いわよ!」
そう言って話を打ち切るようにメリッサは、たこ焼きを口に入れた。
「あっつぅ!!!」
焼きたての、たこ焼きの罠。
外側は、程よい温度でも、内は火傷する程熱い。
その罠に引っ掛かったメリッサは思わず口に入れた、たこ焼きを吐き出し、口の中を冷やすためにビールを流し込む。
非常にわかりやすい反応である。
「買って来ました~」
伊藤と2人で、大きな袋を両手に持って、石垣が戻って来た。
「ありがと~タッチンも恵美ちゃんも、座って、座って。皆で食べよ~」
石垣から袋を受け取った側瀬が、席に座るように勧めて来る。
「タッチン?」
それ誰?と思った石垣が、疑問を口にする。
「プライベートな時間だし、別に愛称付けて呼んでもいいでしょ~?あっ、呼んで欲しいリクエストがあれば、受け付けますよ~」
どうやらタッチンというのが、自分の事だとわかったが・・・石垣は、それに付いては苦情を言わなかった。
「・・・酔っているよね・・・絶対・・・」
側瀬の前には、空になったビール缶が、己の存在感を主張しながら並んでいる。
1人で、それを飲んだとは思わないが・・・いや、思いたく無いが・・・
「はいはい~タッチンも、恵美ちゃんも、飲む飲む~」
酔っ払いのオッサンか?
かなり強引な感じでビールを勧めてくる側瀬に、石垣は引き気味になる。
「なぁにぃ~?私の注いだビールは、飲めないってぇ~?」
「いえ、いただきます」
酔っ払いの常套句?で、勧めてくる側瀬に、さらに石垣はドン引きになる。
ここは、逆らってはいけない・・・と。
「グーッと、グーッと!」
いや、もう完全にオッサン化している・・・
囃し立てる側瀬の声に、石垣は紙コップのビールを飲み干した。
「くぅ~生き返る~」
やはり、労働(買い出し)の後の、ビールは美味い!
「はいタッチン、唐揚げ~」
「たこ焼きもあるわよ」
「ピザも食べるか?」
あっという間に石垣の前に、女性陣が取り分けてくれた料理が並ぶ。
空腹だった事も手伝って、石垣は片端から平らげていく。
「美味い!」
石垣は幸福そうに、モグモグと口を動かしている。
「皆さん、かき氷も買って来ました。どうぞ」
伊藤が人数分のかき氷を、袋から取り出して、皆に配っていく。
「わぁ~ありがとう!」
「ありがとう」
「ありがとう。ちょうどサッパリしたものが、欲しかったの」
かき氷を受け取りながら、女性陣たちが伊藤に礼を言う。
「恵美ちゃんて、絶対いいお嫁さんになるタイプだね。私、恵美ちゃんを、お嫁さんにしちゃおうかなぁ~」
完全に、オッサン化した側瀬が、何か言っているようだ・・・
「・・・そんな、お嫁さんなんて・・・」
照れたように、ボソボソと小さな声で、つぶやく伊藤が、ビールの入った紙コップを片手に、ピザにがっついている石垣に視線を向けたのを、メリッサは見逃さなかった。
「・・・・・・」
無言で石垣の足を踏むと、席を立って波打ち際に向かって、歩いて行った。
「?」
なぜ足を踏まれたのか理解出来なかった石垣は、条件反射のように、メリッサを追いかける。
「どうしたんです、メリッサさん?」
「・・・別に。花火の打ち上げが始まる時間だから、近い所で見ようと思っただけよ」
「いや、近い所って・・・打ち上げ地点は、安全を考慮してかなり沖合ですよ。テーブル席から見るのも、ここで見るのも大して変わり無いですよ?」
「・・・鈍感」
「へっ?」
ご機嫌が斜めになっているメリッサに、訳がわからず、石垣は頭に?マークを浮かべている。
ヒュウゥゥゥ~ドドォ~ン!!ドン!ドン!!ドン!!
大きな音が響き、6月下旬初めの夜空に幾つもの花が咲く。
「「「オォオォォォ!!!」」」
歓声が上がった。
「綺麗ねぇ~・・・」
さっきまでの不機嫌さは何処へやら・・・
メリッサは、顔を綻ばせて漆黒の空に幾重にも開く、花々を見上げていた。
2人並んで花火を眺めている姿を、遠巻きに眺めながら・・・
「何か、一番美味しい所をメェメェが、持って行っちゃったね・・・」
「これくらいの役得なら、いいんじゃないか」
任と側瀬が、囁き合っているその隣では・・・
「・・・しょっぱい・・・」
ポツリと、つぶやきながら、伊藤が、かき氷を食べていた・・・
後に、石垣の彼女を自称する女性が出現する事で、石垣の周囲は、さらに混沌と化し・・・石垣の姉が「二股に懲りたと思っていたのに、今度は何股に挑戦するつもり~!!?」と、弟を締め上げる事態にまで発展する事になるのだが・・・それは、まだまだ先の話である。
アメリカ合衆国西海岸近海。
無音航行で、偵察任務に当たっていた[シエラ]級攻撃型原子力潜水艦[キート]は、無数のスクリュー音を探知した。
その報告を受けた[キート]艦長のアレクセイ・マクシム・ザハロフは、小さくつぶやいた。
「・・・遂に、始まるな・・・」
祭りは終り、新たな祭りが始まる・・・
こぼれ話をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は今の所未定ですが、活動報告で改めて連絡する予定です。




