こぼれ話 熱闘! 兵(つわもの)たち 前編 山本の爆弾提案
みなさん、お久し振りです。
おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
「各軍の親交を兼ねて、親善スポーツ大会を、催したいと思う」
ハワイ会戦が開始される1ヶ月程前、ハワイ・オアフ島真珠湾海軍基地に入港した、大日本帝国統合軍省統合作戦本部指揮母艦[信濃]の統合作戦室で行われた、大日本帝国軍、新世界連合軍、新世界連合支援軍、菊水総隊、朱蒙軍、ハワイ連邦軍の合同会議の席上で、統合作戦総長である山本五十六大将より、突然の爆弾提案が成された。
「・・・と、言う訳で、海軍作戦本部長の宇垣さんなんかは、『連合国からの攻勢が、いつ始まるか判らない時期に、お祭り騒ぎというのは、いかがなものか』と、言って反対されたんだけど・・・ハワイ駐留軍司令官の栗林さんや、新世界連合軍のアメリカ軍の、お歴々方はノリノリで大賛成して、親善スポーツ大会の開催が、決定されました!」
楽しそうに、氷室匡人2等海佐が、語っている。
「ふ~ん。いいんじゃない。偶にはスポーツでもして、気分転換をするっていうのは。此処のところ、連合国、枢軸国の合同軍によるハワイ奪還戦に備えて、厳戒態勢が敷かれているけど、ずっと緊張状態だと精神的に不衛生だし・・・それに・・・これは、これで・・・ぬっふっふっふっ・・・」
その話を、氷室から聞かされた[信濃]酒保店長である桐生明美は、意味深な笑みを浮かべる。
「・・・ナニ、カンガエテマス・・・?」
何となく、桐生が考えている事は、読める。
氷室は、棒読み口調で惚けて質問する。
「もっちろ~ん!それだけ大々的に、スポーツ大会を催すとなれば、トーゼン、販売業を生業とする者にとっては、儲け時!参加する意義があるし。ガッポリ儲けるチャ~ンス!!」
「・・・・・・」
ですよねぇ~・・・貴女は、そういう人ですもんねぇ~・・・
エプロンのポケットから取り出した算盤(計算機では無い)を弾いて、ニマニマと、ほくそ笑んで皮算用をしている桐生に、氷室は内心で、つぶやいた。
「ところで、種目は何かな?野球やサッカーは当然として、他は?」
「陸上競技全般に、バスケにバレー・・・水泳、トライアスロンなんかも、候補に挙がっていました。後は・・・大日本帝国軍側からの希望で、剣道とか柔道とかですかねぇ・・・」
「フンフン。ホント、大々的。オリンピックみたい。さっすが、山本さん!」
「いや、そんなに種目は、多く出来無いですよ。施設の関係上・・・てか、種目が多くても、参加する人数に限界がありますからね」
もう、目がお金マークになって輝いている桐生に、氷室は、ため息を付きながら釘を刺す。
それに、氷室は山本から頼まれている事がある。
「そこで、桐生さんに山本総長から、お願いしたい事があるそうですよ」
「?」
「スポーツ大会の主目的は、各軍の親睦と気分転換を図る事ですが、士気を高める事も目的としています」
「それは、わかっていますよ。だから、私たち販売業に従事している人間は、各軍の将兵さんたちの士気を高めるための、お手伝いをするんです。そのついでに、お金も儲かる。Win‐Winでしょう?」
時代劇でよく見る悪徳商人感丸出しでは、説得力は皆無である。
「氷室2佐。言われた通りに、日程スケジュールの予定を組んでみましたが、こんな感じでどうですか?」
何気に運営を任された氷室は、石垣達也2等海尉たちを巻き込んで、下準備に奔走していた。
「ご苦労様」
「・・・氷室2佐。何気に、張り切っていません?」
同じ様に、手伝いをしている側瀬美雪3等海尉が、聞いてくる。
「楽しいでしょう。何か、体育祭や文化祭の準備で盛り上がる、生徒会って感じで・・・いやぁ~20年くらい経って、こういう気分を再び味わえるなんて・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
いや、生徒会って・・・大日本帝国軍、新世界連合軍、連合支援軍、菊水総隊自衛隊、朱蒙軍、その他諸々・・・
総数30万を遥かに超えるマンモス校って、どんな高校だよ?
1人で盛り上がっている氷室に、付いていけない石垣と側瀬は、生温かい視線を送っていた。
もちろん、運営が氷室たち3人である訳が無く、多くの人間が携わっているのだが、氷室はそれらの人員を適切に割り振り、効率よく準備を整えていく。
「氷室さんは、多分、ミッチータイプなんだよね」
石垣を筆頭に、石垣チームの面々は氷室の指示で、酒保へ飲料や軽食等の買い出しをさせられていたが、それらに対応してくれたのは、桐生だった。
ある時に、世間話ついでに桐生は、氷室の事をそう評した。
「ミッチー?」
「・・・石田三成だな」
側瀬と一緒に、酒保に注文していた飲料を、受け取りに来ていた任春蘭中尉が、つぶやいた。
「石田三成って、関ケ原で敗れて処刑された人だよね」
側瀬の一言で、石田三成の人生が終わった・・・
「・・・簡単に纏められた・・・」
側瀬の解答に、桐生がつぶやく。
「えへへへ・・・日本史の授業は寝ていたから、よく覚えてなくて・・・でも、歴史ドラマとかでは、豊臣秀吉の腰巾着で陰謀家、もの凄い嫌われ者って感じの人だよね」
「・・・まあ、そうイメージされるのは、江戸時代中期から後期に書かれた書物等の資料のせいでもあるかな・・・」
「?」
側瀬の頭の上で、?マークがクルクル回っている。
「詳しく教えてあげたいけれど、話が長くなるから簡単に言うと、関ケ原で敵軍の大将だった徳川家康公の、お孫様の水戸藩主、光圀公は、ミッチーは敵だったけれど、それは仕えていた主君に義を尽くしただけで、憎む存在では無く、武家に生まれた者としては、その心意気は、お手本になるって、いう言葉を残しているくらいだからね。ミッチーと同じ時代に生きた人や、近い時代を生きた人たちは、ミッチーに対して、現代人が思い込んでいる人物像とは違う印象を持っていたと思うよ。多分、仕事柄憎まれ役に徹する部分も多かったとは思うから、他人から見たら好き嫌いが分かれるタイプだったんだろうね。因みに光圀公は、時代劇の世直し旅で有名な、ご隠居さんね」
「水戸のご隠居さんて、日本中を世直しして回っていただけじゃ無いんだ・・・」
「・・・あれは、フィクションなんだよ・・・」
側瀬は、何となく納得はしてくれたようだが、少しズレている気がしないでもない・・・
さてさて、そんなこんなで準備は滞りなく進み、山本の主催するスポーツ大会は、当日を迎えた。
パールハーバー・ヒッカム統合軍基地内の陸上競技場に設置された檀上に登壇した山本は、スポーツ大会の開会を宣言する。
「ここに、親善スポーツ大会の開催を宣言する。諸君たちの中には、世界各地で銃火が交わされ、同盟国や同胞が生死を掛けて祖国のために戦っている最中に、このような催しをするのは不謹慎なのではと、考えている者もいるかもしれない。だが我々も、ただ傍観している訳では無い。既に、連合国各国は枢軸国と共に、ハワイ諸島奪還作戦を実行しようとしている。オアフ島が戦場となる日は、直近に迫っている。我々も、将兵一丸となって防衛戦に当たらねばならない。恐らくは天王山と言っていい、激しい戦いとなるだろう。だからこそ、今は英気を養うために、思う存分スポーツに打ち込んで貰いたい。この一時を、心ゆくまで楽しんで貰いたい」
「「「オォォォォ!!!!!」」」
陸上競技場に集結している各軍の将兵たちから、歓声が上がる。
運営の一員として、準備を進めていた石垣は、ここにきて山本の意図が理解出来た。
様々な情報から予想されている、ハワイ奪還戦に投入される米英独伊4ヵ国の人員は、陸海空併せて、およそ300万。
これは、少なく見積もって・・・と、言われている。
それこそ、最低でも約10倍の敵を迎え撃つ事になるのだ。
正直、怖くないと言える人間は、いないだろう。
誰もが、心の内で恐怖とプレッシャーと戦っているだろう。
恐らく山本は、ハワイに到着早々、その張り詰めた空気を感じ取ったのだろう。
だから、これから戦いに臨む将兵たちの硬くなっている気持ちを解すために、大々的なスポーツ大会を提案したのだろう。
因みに、種目に付いては色々希望が出ていたが、競技場、日程の関係で、野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、陸上競技、柔道、剣道に落ち着いた(陸上競技の内、ホノルル市街地でのフルマラソンも候補の1つに上がっていたが、陽炎団警察ハワイ派遣隊、新世界連合連合警察ハワイ派遣隊から、治安等の問題を指摘され、規模を縮小して、パールハーバー・ヒッカム統合軍基地内でのマラソンに、変更されている)。
「では、ここでスポーツ大会の開会に臨み、特別にイベントを用意している。氷室君、後は、よろしく」
山本は、そう告げると氷室に振り返る。
「では、皆さん。あちらの特設モニターを、ご覧ください!」
氷室は、マイクを片手に競技場に設置されている巨大モニターを指差す。
そこには、ドヤ顔の氷室が、大写しになっている。
「このモニターでは、他の会場での試合も同時に、ご覧になれます。野球を観戦しながら、同時にサッカーの試合の中継もされるといった感じですね。モニターは各会場に設置されています。試合に参加されない方でも、楽しめるようになっています」
説明する氷室の言葉通り、画面が分割され、サッカー場、野球場、体育館の映像が映される。
「・・・・・・」
「・・・氷室2佐・・・本当に楽しそう・・・」
モニタールームで、流れる映像を眺めながら、側瀬が、つぶやいている。
「根っから、こういったイベント事の企画や運営が好きなんだろう。損得抜きでな・・・」
冷静に答える任だが、「ここまでやるか?」という呆れは多少含まれているが、表情は楽しそうである。
「・・・そんなもんですかね・・・?」
運営の中心となって、準備を進めていた氷室だが、確かに一番動き回っていた気がする。
それこそ、石垣たちも氷室に引っ張られるように、準備を推し進めていたが、落ち着いて考えれば、1週間やそこらで出来るような仕事量では無かった気がする。
(これが、ノリと勢いってやつかな・・・)
取り敢えず、やる事はやったので、ここからはゆっくりと競技の観戦を楽しみたいが、石垣は氷室と一緒に、剣道の試合への出場が、知らない間に決まっていた・・・(一番出場者が少なかったというのが、理由らしい)
それなら今回は、剣道の試合を見合わせても良かったような気もするが、「絶対、入れて欲しい」という希望が、大日本帝国軍から強く出ていたらしい・・・
ベン!ベベン!ベベン!!ベン・・・ベン!ベン!!
突然、弦楽器の音が、競技場に響き渡る。
山本の言っていた、イベントが始まったのだろう。
何をするのかに付いては、氷室が1人でコッソリと準備をしていたのだろう。
石垣たちには、イベントの内容がどんなものかは、知らされていない。
モニター前に設置された舞台で、大日本帝国海軍のセーラー服姿の若い兵士が、琵琶を手に、弦を掻き鳴らしている。
そして、朗々と歌声を上げる。
「これ、古文で習った!」
側瀬が、声を上げる。
「平家物語だな・・・」
「・・・あの兵士は?」
琵琶の奏者には、見覚えがある。
戦艦[大和]が、大日本帝国海軍聯合艦隊旗艦だった時の機関要員の1人だ。
[大和]に石垣が乗艦していた時に、休憩中によく琵琶を奏でていたのを見掛けた事がある。
素人とは思えない演奏の腕前に、石垣も話しかけた事があった。
当時、[大和]酒保店長だった桐生とも仲が良かったらしく、桐生に頼まれて酒保の飲食コーナーで、ミニコンサートのようなものをやって、酒保に買い物に来る将兵たちを慰撫したりもしていた。
それもあって、今回のイベントに大抜擢されたのだろう。
巨大モニターには、日本史の教科書にも載っている、源平合戦の様子を描いた絵巻物と共に、古文の授業で習う平家物語の「祇園精舎の鐘の音・・・」で始まる文章が、日本語と英文で表示されている。
琵琶の演奏と相まって、見応えはあるが・・・特別という程では無い気がする。
「・・・ちょっと、地味かなぁ・・・」
側瀬が、ボソッと感想を漏らした時、モニターの画面が切り替わった。
「ワイキキビーチ・・・」
恐らく、ドローンを使用して空撮をしているのだろう。
広々とした砂浜と、青い海が画面に広がっている。
その海に、沖から漕ぎ寄せる一艘の小舟。
そして、その小舟には白と青の襲に紅の袴を纏った美女が、舟の舳先に立てた先に赤い扇に金の日輪の描かれた扇が付けられた竿の側で陸に向かって手招きをしている。
この光景、日本人なら一種の既視感がある。
「那須与一の扇の的!」
思わず、石垣は叫んだ。
そう、源平合戦の屋島の戦いの名シーンだ。
「あれ!メェメェだ!!」
美女が、大写しになった瞬間、側瀬が叫んだ。
「「「ウオォォォォ!!!」」」
会場でも、もの凄い感嘆の叫び声が上がっているのが、モニター越しに伝わって来る。
「メリッサだな。氷室2佐に個別に呼び出されて、何かと思っていたが・・・こういう事だったのか・・・」
「綺麗・・・メェメェ、カッコカワイイ!」
側瀬も、ウットリとした表情を浮かべている。
メリッサ・ケッツァーヘル少尉の美麗な平安時代の女房(女官)姿のコスプレに一瞬、魂を抜かれたように見とれた石垣だが、ハタッと、ある事に気が付いた。
「いや!ちょっと!危ないでしょう!!この成り行きだと、那須与一が扇の的を射るんですよ!もしも、外したら怪我どころの騒ぎじゃ無い!!」
慌ててモニタールームを出ようとする石垣を、任と側瀬が止める。
「落ち着け、石垣!」
「いや、止めないと!」
2人の女性に床に組み伏せられて、石垣は喚く。
「石垣2尉。これが、私やレンちゃんだったら止めます?」
「・・・・・・」
もがいていた石垣が、側瀬の冷静な突っ込みに動きを止めた。
「まったく、落ち着いて見ろ。メリッサと的の間には、透明なアクリル板の盾がある」
「・・・・・・」
任に、ガッチリとホールドされた状態で、石垣はモニターを見上げる。
確かに、任の言う通りだった。
石垣は、気まずそうに立ち上がる。
モニタールームの要員たちが、ジトーとした目で石垣を見詰めていた。
「でも、石垣2尉。メェメェの事が好きだから心配するのは、わかりますが・・・アタシ達との扱いの差が酷くないですか?」
「・・・ごめん」
側瀬の苦言に、石垣は素直に謝った・・・そこで、やめておけば良かったのだが・・・
「いや、任中尉は、いざという時カンフーアクションみたいに飛んでくる矢を叩き落としそうだし・・・側瀬は、謎のチート能力を発動させて矢が自分から避けるって感じで・・・」
「何だ、その言い訳は?」
言い訳にならない言い訳をする石垣に、任が呆れたように両手を広げて首を振る。
一方、そのころ・・・
「時は1185年、処は讃岐国屋島。京の都を追われ、一の谷の戦いで敗れた平家一門は、拠点の1つである屋島に陣を敷き、追って来る源氏の軍勢を待ち受けていた・・・」
氷室が、ノリノリで日本人以外にも、わかりやすいように概要を説明している。
巨大モニターには、CGを使った説明画面が映っている。
「そこで、登場するのは日本人皆大好き、戦の天才、源義経!義経は、瀬戸内海を南下して舟で攻めて来ると考えていた平家の意表を突き、阿波国から陸路を取って平家の軍勢の後背から襲い掛かった!これは溜まらんと、海上へ避難した平家の軍勢。落ち着いて見ると源氏は少数、何だとばかりに、陸上へ弓矢で攻撃を仕掛ける平家。波打ち際での攻防は夕刻まで続き、双方一旦休戦かと思いきや、平家の総大将は、ある余興を仕掛けて来る。それが、この『扇の的』。美女を小舟に乗せ、見事扇を射抜いて見せよと挑発してくる」
まるで、無声映画の講談師のように語る氷室だが、これが中々ハマっていて、会場内はシンとして、モニターを注視している。
恐らく、他の会場でも同じだろう。
「この挑発に乗った義経は、1人の武士に『あの的を射よ』と命じる。それが、下野国の武士、那須与一。はてさて、この結末や如何に・・・」
勿体ぶった氷室の口調に合わせて、ワイキキビーチの中継映像が、ズームアップされる。
砂浜を、黒毛の馬が駆けてくる。
それに跨っている、大鎧に太刀を佩いた武士。
馬の装備もそうだが、大鎧も完全に再現されている。
(そんなの、いつの間に用意したの!!?)
メリッサの衣装もだが、短期間で、こんな小道具をどうやって準備したのか・・・
疑問は残るが、石垣の目は画面に釘付けになる。
景色は異なるが、本当に12世紀後期の屋島にタイムスリップをしたような感覚にさえなる。
黒毛の馬を駆る武士は、騎乗のまま海に乗り入れる。
的までの距離、およそ70メートル。
本当に、平家物語に書かれている記述を再現している。
そして・・・
弓に矢をつがえた与一は、弦を引き絞り、矢を放つ。
ヒュウゥゥゥ!
唸る音と共に飛ぶ矢は、扇の要の部分に命中し、青い空を舞いながら扇が海に落ちる。
「「「ウオォォォォ!!!」」」
まるで、地鳴りのような歓声と、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
多分、聞こえてはいないだろうが、それに応えるように、与一は再び矢をつがえ、今度は青い空に向けて矢を放った。
「兵たちよ!合戦だぁぁぁ!!」
「「「オォォォォ!!」
氷室が叫び、将兵たちが応える。
ハワイ会戦を前に、1つの熱闘が幕を開ける。
こぼれ話をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の8月9日を予定しています。
活動報告で、連絡すると言いましたが、外伝1の投稿準備が整いましたので、この場を借りて、連絡させていただきます。
外伝1の投稿日は8月15日を予定しています。




