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撥雲見天 終章 2 春は遥か彼方なり

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

『パシフィック・スペース・アグレッサーとの、講和成立!トルーマン大統領、アメリカ合衆国の主権を、堂々と主張!』





 大手新聞社の一面に踊る文字を眺めて、1人の男は、ほくそ笑んだ。


「物は言いよう・・・いや、書きようだな」


 彼は、つぶやくと執務机の上に置かれている報告書の山に、視線を落とす。


 それは・・・


 FBIの捜査官から上がって来た、ルーズベルト前大統領暗殺事件関しての、報告書だった。


「今のところは我々の思う通りに、事は順調に進んでいるようで、何よりです」


 執務室の来客用のソファーに、横に広い巨体を沈めて、ジェンキンズはコーヒーを啜っている。


 彼の視線の先では、執務用の椅子に腰かけて、新聞を広げて記事に目を通しているFBI長官の姿がある。


「元々、我々は連合国・枢軸国各国の主権を侵害するつもりは無かった。しかし、これらの記事により連合国・枢軸国各国の国民は、自分たちの国家元首の尽力で、主権を守り切ったと、思う事でしょう・・・」


「・・・落ち着いて考えれば、講和の条件で相当な譲歩を迫られた・・・という事に、気付けそうなものだが・・・まあ、賠償金を請求されなかった事で、敗北した訳では無いと思い込んでいる部分もあるだろうが・・・」


 アメリカ合衆国だけでも、ハワイ準州、グアム、アッツ島をニューワールド連合に譲渡する事になっている。


 イギリスに至っては、期限は定められているが、東南アジア方面の植民地を独立という形で失う事が既定路線となっている。


 それらの事実は、伏せられてはいないが、大きく書かれた見出しによって目立っていない。


 今の所は講和が成立し、祖国が占領統治される訳では無いという事に意識が向いて、安堵している人々も、いずれは、その事に気付くだろう。


 その前に、手を打つ必要がある。


「そして、その時のための準備も整っている。死者を揺り起こすのは本意ではないが、講和への道筋を定めた前大統領は、英雄として国民の心で生き続ける・・・そうさせるために・・・そのための、スケープゴートの準備は整えている」


「・・・これは、我々の史実にある赤狩りより大規模な事態に、なりそうですな・・・」


 報告書を元に、作成されたリスト。


 数ヵ月後には、前大統領の暗殺を教唆した・・・主戦派の国民を、悪意を持って扇動した・・・という容疑で、大量の逮捕者が出る事になるだろう。


 リストに挙がっている容疑者の中には、連邦議会の議員だけでは無く、全米各州の議員、大企業の有力者、各界の著名人も含まれている。


「・・・マスコミも、報道するネタに困らないようで、何よりだ・・・そういえば、海軍長官の指示で拘束された、例の法務士官は未だに、黙秘を続けているようだが・・・現時点では、アメリカ国内の情報を知らされていないから強気でいるだろうが・・・帰国したら、さぞかし驚くだろうな・・・自分の味方をしてくれるはずだった主戦派の有力者が、軒並み逮捕されていると知ったら・・・」


「FBI長官も、人が悪い・・・NIC(海軍捜査局)に密かに情報を流して、今回の手始めとして、そうなるように仕向けたでしょう?」


「人の悪さは、君も負けてはいないだろう?」


 ジェンキンズもFBI長官も、ある意味では似た者同士、食えない人物である。


 だからこそ、馬が合ったのだが・・・


 どちらもが、他者が自分に下す評価等気にも留めず、私情に走る事無く公を優先する。


 それを貫くためには、一般人なら悪と断じて忌避する手段を使う事も、厭わない。


 そんな彼らが目指すのは、新たなる時代、新しい秩序の中で、祖国アメリカを生き残らせる・・・それだけだ。





 この先数年は、どの国も対外戦争に目を向ける余裕は、無くなるだろう・・・


 その間に、新しい国際的ルールを構築する。


 武器を取っての戦争は、終わった。


 しかし、彼らの戦争・・・新しい世界秩序の構築のための戦争は、これから始まるのだ。





 トルーマン大統領一行が乗った内火艇が、[ひゅうが]を離れていく。


 挙手の敬礼をして石垣たちは、それを見送った。


「・・・これで、戦争は終わったんだな・・・」


 万感の思いを込めて、石垣はつぶやいた・・・


 もちろん、これからも色々な困難はあるだろう。


 連合国・枢軸国との間で正式に講和を成立させ、新たなる同盟関係を構築する。


 停戦状態のサヴァイヴァーニィ同盟との講和に向けての働きかけも、しなければならないし、他にも・・・


 とにかく、やるべき事は・・・すぐに思い付かなく事も含めて沢山あるだろう。


 それでも今だけは、これで戦争が終わったという安堵感に浸りたい。





 石垣の脳裏に、ハワイに向けて発つ前に参拝に訪れた、日本共和区平和神社の参道に植えられていた桜の苗木群が浮かぶ。


 あの苗木は、少しは大きく成長したのだろうか・・・


「・・・必ず、今年中に戦争を終わらせる・・・」


 あの時、誓った言葉は実現した・・・来年の桜の花を見る事が出来る者、出来ない者・・・


 それでも、平等に春は巡って来る・・・

 撥雲見天 終章2をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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