撥雲見天 第13.5章 押しかけて来た同行者
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
一路、アメリカへ向かう輸送船団。
それを護衛する護衛艦隊。
その旗艦である、ヘリコプター搭載護衛艦[ひゅうが]には、4ヵ国連合軍から派遣されてきた、士官たちも乗艦している。
「お久し振りです。ラッセル少佐」
「ええと・・・ゴメン。誰だっけ?」
「・・・・・・」
昼食後、自分たちの世話係として現れたのは、エクアドルでのPKO活動の際、[いずも]の広報係士官として、レイモンドに様々な説明をしてくれた、松荷可奈子3等海尉だった。
しっかりと、忘れられている事に、松荷は絶句した。
レイモンドにとって、忘れ得ぬ存在とは、村主であり氷室、キリュウ、マーティ・シモンズであり、新たに桐生が加わったというぐらいである。
後は・・・まあ、どうでもいいという、かなりいい加減な基準である。
因みに石垣の立ち位置は・・・レイモンド基準では、どっちつかずという、微妙なラインにいたりする。
「で・・・では、[ひゅうが]艦内の案内を、始めます・・・」
引き攣った笑顔を浮かべながら、松荷は4ヵ国連合の派遣士官たちに、艦内の施設、設備等の案内を始めた。
一通り、案内と説明が終わった後、レイモンドが手を上げて質問する。
「以前[いずも]の資料室を使わせてもらったけれど、[ひゅうが]の資料室も、使わせてもらえるのかな?」
「書籍については、ご自由に閲覧していただいて結構です。ただし、パソコン等の機器を使用するのであれば、ラッセル少佐は、必ず事前に申し出て下さい。サポートする者を、付けますので・・・」
「えっ?僕だけ限定で、許可制なの?」
「はい、また備品を壊されては、堪ったものではありませんので」
「・・・・・・」
当然と言った表情で告げる松荷に、レイモンドは天を仰ぐ。
「だって、ラッセル少佐が壊した[いずも]の備品の弁償を、アメリカ海軍省に要求していますけれど、未だに、支払われていません。防衛装備局は、カンカンですよ。『このまま踏み倒す気なら、[あかぎ]のトマホークを、海軍省に、ぶち込んでしまえ!』って、過激な発言をする人も、出てきているんですよ!」
「ま・・・まあまあ、今は戦時とはいえ、もう少し穏便にいこうよ。講和が成立すれば、支払われると思うよ・・・多分・・・だけど」
冗談とも本気とも取れない口調で話す松荷に、レイモンドは、しどろもどろに答える。
一緒に行動している、他の派遣士官たちの視線が、心なしか冷たい・・・
その少し前、[ひゅうが]の士官食堂でも、ちょっとした出来事が、起こっていた。
「ヤッホー!石垣君、元気だった!?」
「何でいる?」
会食始めのラッパと艦内放送があり、石垣たちは士官食堂へ向かった。
そこには、当たり前のように席に着いている、小松紫花3等陸尉の姿があった。
「私も、石垣チームの一員として、特使団に加わっているのよ。知らなかった?」
「知らん!!」
「もう~照れちゃって。嬉しい癖に。はいはい、早く席に着く!」
自分の隣の椅子を、ポンポンと叩いて誘う小松を無視して、石垣は離れた席に着こうとしたが、後ろにいたメリッサに、肩を掴まれ・・・そのまま、小松の隣に座らされた。
石垣を真ん中にして、メリッサは、石垣を挟んで小松の隣に座る。
「貴女とは、一度じっくりと話そうと、思っていたわ・・・」
危険な光を双眸に湛えたメリッサが、石垣越しに小松を見据える。
「へぇ~・・・何かな?」
バチ!バチ!バチ!・・・という擬音が、両隣から聞こえる・・・ような、気がする。
ついでに、弾ける火花も見えるような・・・
石垣は、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
とにかく、この状況を何とかしなくては・・・
「お前は、俺たちとは別だろう?何で・・・?」
一番知りたいのは、そこである。
「任務も終わったし、暇だぁ~って言ったら、8人目が石垣君に付いて行ったらって、手配してくれたのよ」
「だから、8人目って、誰だよ?」
その名称は、小松経由で何度か聞いた事があるが、石垣にとっては謎の人物である。
一度、面と向かって文句を言いたいものである。
「石垣君も、よぉ~く知っている人よ」
石垣の耳元に、息を吹きかけながら、囁く小松。
その反対側では、物凄い冷気が膨れ上がっている。
(やめてくれぇぇぇ・・・!!!)
両隣から放たれるプレッシャーに、石垣は、心中で絶叫する。
任は我関せずで、メリッサの隣に座り、その隣に座った側瀬は、修羅場の様子を、目を輝かせて眺めている。
2人とも止める気は、さらさら無いようだ。
後から、士官食堂に入室して来た自衛官たちは、この異様な光景を見て、ドン引きしていた。
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次回の投稿は5月17日を予定しています。




