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撥雲見天 第8章 ネメシスの計略 6 武士の一分

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

「とんでもない事に、なってきましたね・・・」


 銃撃戦の様子を双眼鏡越しに眺めながら、市川が、つぶやく。


「・・・・・・」


 狙撃眼鏡を覗いたまま、高荷は、答えない。


「・・・こんな騒動になって、停戦会談、大丈夫でしょうか・・・?もし、決裂って事にでもなったら・・・」


 市川は、心配そうに言葉を口にする。


「・・・俺たちが、それを心配しても、どうにもならん。それよりも・・・注意しろよ。テロリストの1人が、陸軍の兵士から奪った装備で、変装しているらしい。目的は・・・まあ、色々あり過ぎて、こうだとは言えないが・・・方法はどうあれ、停戦会談をぶっ潰す魂胆なのは間違いない。何としても、阻止するぞ!」


「は・・・はい」


 国家治安維持局治安部から、フォード島に大日本帝国陸軍から派遣されていた、警備部隊所属の兵士が、テロリストに襲われ、装備一式を奪われたという報告が、停戦会談直前に伝わってきた。


 戦争映画や、スパイ映画等で、大抵は敵地に潜入する手段の1つとして、お馴染みの方法である。


 だから、それには先手を打って、襲撃が発覚した時点で、陸軍警備部隊には非常呼集を発令し、各部隊で人員の確認は、既にされている(陽炎団国家治安維持局によって、保護された兵士は除く)。


 陸軍兵士が、ここに姿を現す事はない。


 もし現れたら、それは・・・


 要人を含む関係者が避難した施設の建物内は、徹底した防御態勢が敷かれている。


 建物内に侵入する事は、まず不可能・・・


(だが・・・)


 油断は、出来ない。


 高荷は、狙撃眼鏡を覗きながら、ゆっくりと周囲を見渡していた。


(・・・どこだ・・・どこにいる・・・)


 勘というものに、信憑性があるかどうか・・・それは、不明である。


 しかし、高荷は確信している。


 息を潜め、虎視眈々と機会を窺っている存在が、確実にいる!





 抵抗は、ほとんど無くなった。


 傍からは、そう見える。


 決して動こうとしない山本を置いて、避難する事が出来ず、その場に留まっていた石垣たちだが、襲撃者たちの、動きがまったく感じられなくなったのに、気が付いていた。


 山本を、守るために防弾楯を構えている隊員たちの背中越しに、周囲を見回すと、警戒をまだ解いていないSWATやSATの隊員たちが、倒れている者たちや、拘束されても暴れている者たちを次々と連行し、警備犬を連れた隊員が、周辺を捜索している様子が窺える。


「終わったの・・・かな?」


 石垣が、つぶやく。


「・・・おかしい・・・」


 同じ様に、周囲を見回しているレイモンドの、つぶやきが聞こえた。


「・・・おかしいとは、どういうところがですか、ラッセル少佐?」


 それが耳に入った石垣が、問いかける。


「・・・・・・」


 一瞬、しまった!という表情を浮かべたレイモンドだったが、仕方ないという風に、ため息を付いた。


「・・・[インディアナポリス]から、脱走した乗組員がいるという話は、聞いていたのだけど、その数は10数人程度だったはず。なのに、連行されている人数は、20人は超えているようなのだけれど・・・」


 もちろん、正確な人数を聞いていた訳では無いので、そこのところは、何とも言えない。


「・・・多分だけど、パールハーバー・ヒッカム統合軍基地に潜入していた、諜報員や工作員の一部も、この襲撃に加担したのだろうね。武器の調達やら何やらも、彼らが手配していたらしいし・・・」


「「えっ?」」


 石垣とレイモンドが、氷室に振り返る。


「知り合いに、警察関係者がいるからね。それだけだよ・・・事細かくは、教えてくれなかったけどね・・・注意喚起を、されたくらいだよ」


「「・・・・・・」」


 2人の無言の視線に、色々な意味が含まれているのを感じるが、氷室はそれを無視した。


「それよりも・・・ラッセル少佐。何か、気懸りな事が、あるみたいだけど・・・?」


「え・・・あ・・・その・・・」


 言うべきか言わざるべきか・・・迷った表情を浮かべたレイモンドだが、氷室の知り合いに、警察関係者がいるなら、協力を頼めるかもしれない。


「・・・僕の友人が、[インディアナポリス]から脱走した乗組員と、共に行動していた可能性があるのです。ただ・・・僕が見たところ、その友人は襲撃には加わってはいないような・・・」


「・・・・・・」


「う~ん。それって、周囲の勢いに流されて脱走したものの、いざとなったら怖くなって、逃げだして行方を晦ませたって事かな?でも、そういう捜索は、そっちのMPの仕事だよね・・・要請を受ければ、行方不明者の捜索をするのは、可能だと思うけれど・・・僕が、勝手には、判断は出来ないよ」


 知らない仲ではないから、レイモンドに協力を頼まれれば、それなりに力は貸したいと思うが・・・


 さすがに、そこまでの権限は、氷室には無い。


「まあ、個人的に頼めるかどうかの保障は出来ないけど・・・知り合いに、伝えてみるよ」


 桐生に、こんな事を頼んだら・・・依頼料として、どれだけ請求されるだろう・・・ちょっと、怖い。


「お願いします!カズマは、僕にとって、とても大切な友人なのです!」


「カズマ・・・?その人は、日系アメリカ人なのですか?」


 石垣が、口を挟んできた。


「カズマ・キリュウ。確か・・・貴官も、第81歩兵師団の司令部陣地で、会った事が・・・」


 ようやく、レイモンドは石垣の事を、記憶の底から掘り出してきたようだ。


 それよりも・・・


「「桐生!!?」」


 レイモンドの言葉を遮って、氷室と石垣は、声を上げた。


「はい?」


 驚いた表情で、顔を見合わせている2人に、レイモンドは、不思議そうに首を傾げる。


「ええと・・・確か、桐生さんって・・・アメリカ生まれで・・・子供の時に両親が亡くなって、日本にいる遠い親戚に引き取られて、その時に日本国籍を取得したとか・・・だったですよね?」


 記憶の糸を手繰り寄せるような表情で、石垣が、つぶやいた。


「・・・あの・・・?」


 何やら、思い当たる節があるような、石垣の言葉が気になる。


「え・・・うん・・・まあ・・・」


 氷室は、微妙な表情で、言葉を濁している。


「すみません・・・どういう事ですか・・・?」


 自分には、わからない会話を続ける2人に声を掛けるが、完全に無視をされる。


「もしかして・・・!?」


「あの!僕を、置いてきぼりに、しないで下さい!!わかるように、説明してください!!」


 思わず、レイモンドは大声を上げた。


「あっと、失礼」


「・・・すみません・・・」


 氷室は、脱線した話を、強制的に元へ戻す。


「え~と、行方不明のキリュウ・カズマ君を捜す。取り敢えず、これは、僕の知り合いに任せる。それでいいね」


「はい」


「確か・・・あの時会った少年は、10代半ばくらいだったから・・・80年後なら、90代・・・桐生さんの、お祖父さんの可能性が・・・」


 石垣は、ブツブツとつぶやき、1人で頷いている。


「・・・これは・・・桐生さんに、聞いてみなくては・・・」


 早速、桐生に聞きに、すっ飛んで行きそうな石垣だが、今は、それどころでは無い。


「石垣君!だ・か・ら!桐生さん繋がりから、い・ま・だ・け・は、離れてくれない?今は、それどころじゃないって、わかっているよね?」


「・・・はい」


 氷室は少し、怒った表情になっている。


「・・・あの、話を元に戻して、申し訳ないのですが・・・その、キリュウさんという人は、どんな人なのですか?」


「ラッセル少佐も、僕の話、聞いていた?もちろん、君の友人の事を放っておくつもりは、無いよ。でも、今僕たちが気に掛けなきゃいけない事は何なのか、わかるよね?何かを始めるためにも、まずは、終わらせる事が、あるって事!」


「・・・すみません」


 少し、キレ気味で諭す氷室に、怯えた口調で、レイモンドは返す。


 そもそも、この話が始まった発端は、氷室だったのだが・・・まあ、ここまで話が変な方向に、向かっていくとは思ってもいなかったのだろう。


「コホン!」


 取り敢えず、1つ咳払いをすると、3人の何処へ転がっていくのか本人たちでも、わかっていない会話を、意識の外に置いて立っている山本に声を掛ける。


「総長。取り敢えず、状況は終了したと思われます」


 ようやく山本は、石垣たちに振り返った。


「どうやら、そのようだね」


 山本が何を思っているのか、その表情から窺う事は出来ない。


「総長。とにかく中へ入りましょう。会談の予定は、多少変更しなくてはならないと、思われますが、こんな事で延期や中止になったら、襲撃者たちの思うつぼです。我々は、テロなどに屈しないと、思い知らせてやりましょう!」


「そうだね。しかし・・・ニミッツ閣下には、ご迷惑を、おかけしてしまった・・・」


 それが気にかかるのか、山本は表情を曇らせる。


「ヒムロ中佐の言う通りです。ニミッツ総司令官も、ヤマモト提督と同じ思いでしょう」


 レイトン中佐に聞かされた話を思い出しながら、レイモンドも、力強く主張する。


 今回の件の責を問われるのは、彼らの方では無く、自分たちだろう。


 脱走が判明した時点で、大日本帝国なりニューワールド連合に、通達していれば、もっと別の対処法があっただろうから・・・


「うむ。まずはニミッツ閣下と、直接話し合ってみよう」


 踵を返すと、山本は一歩踏み出そうとした。





 それを、物陰から窺っている視線がある。


(・・・あいつが、ヤマモト・・・)


 正面から襲撃を掛けた連中に、黒一色の戦闘部隊は、集中している。


 おかげで、その隙に、ここまで接近出来た。


 後は・・・


 両手で握り締めた、64式7.62ミリ小銃改に、力が入る。


(レイモンド?)


 何故、山本の側にレイモンドが、いるのか?


 親友の姿に、一瞬、決意が鈍る。


 レイモンドは、今から自分がやろうとしている事を、決して許さないだろう・・・それは、わかっている。


 躊躇いを感じる心に、別の声が響いて来る。


『このまま停戦し、撤退したとなれば、我々は、祖国の国民から非難されるだろう・・・』


『もちろん、多くの戦死者を出して、結果を出せなかったのだ。国民の怒りは、もっともだ。非難や罵倒を受ける事は、当然であり、それに耐える覚悟は、持ち合わせている』


『当然、責任を追及されるだろう。家族を殺された国民は、敵を憎む。そして、それ以上に我々を憎む。そして、憎悪を向ける存在を探すだろう。愛する者を失った悲しみに、心を潰されないために・・・』


『君も、それは理解出来るだろう?君も、家族をスペース・アグレッサー軍に、殺されている。第1海兵師団の仲間たちを、殺されている。君のように、直接戦場に立っている人間は、まだ救いがある。憎悪するべき存在・・・敵を、直接その目に出来るからだ』


『しかし、国民は違う。どれだけ、悲しみ、怒り、憎悪しても、敵は目の前にいないのだ』


『だからこそ、憎悪をぶつける存在を探す。たとえ、それが理不尽な事だと、わかっていても・・・』


『ラッセル少佐辺りは、その憎悪を向ける矛先として手頃だろうね。彼は、今回の奪還戦で、様々な作戦を立案した。もちろん、我々は、彼の功績を知っている。しかし、国民にとっては、結果がすべてなのだよ。結果として、多くの戦死者を出した。その前では、どれだけの功績も、蜃気楼のようなものだ。愛する者を失った家族たちは、決して彼を許さないだろう・・・それに、彼はヨーロッパ系アメリカ人と、先住民系アメリカ人のハーフだ。有色人種である君なら、わかるだろう?差別や偏見が、真実を歪め、理不尽を正当化する場合があると・・・』


『だが、諦めるのは早い。停戦交渉が決裂し、再び戦端が開かれれば、ラッセル少佐が名誉を回復出来る可能性が与えられる・・・そのためにも・・・』


 その声を振り払うように、キリュウは頭を振った。


 自分と同じように[インディアナポリス]から脱走した者たちは、家族や友人の誰かが、スペース・アグレッサー軍との戦闘で、命を落としている。


 スペース・アグレッサーを憎む気持ちは、キリュウと変わらない。


 軍法違反である脱走という愚行を犯しても、停戦を阻止しようと行動を起こしたのも、只々、家族や友人の復讐のためだ。


 大切な存在を奪った者たちを許さないと思う事は、人間なら誰しもあり得る事だろう。


 その奪った者たちに、それと同等、若しくはそれ以上の苦しみを与えてやりたいと思ったとしても、不思議はないだろう。


 だが、自分たちのやっている事は、どんなに自分たち自身が正当化しようと、単なる愚行だ。


 仮に、これで停戦会談が決裂し、再戦闘状態となっても、もう勝ちの目は無い。


 米英独伊4ヵ国連合軍は、圧倒的復讐心に燃えた、大日本帝国軍、パシフィック・スペース・アグレッサー軍によって、消滅させられるだけである。


 末端の兵士ですらないキリュウでも、そのくらいの未来予想は出来る。


 それでも・・・


 それでもレイモンドが、同胞であるアメリカ人から、憎悪の目を向けられる・・・それだけは、させない!





 どんな、僅かな動きも見逃さないように、狙撃眼鏡を覗き続けていた高荷は、1つの影を見つけた。


「見つけた!」


 建物の死角から、走り出た大日本帝国陸軍兵士!


 万歳突撃をするように、小銃を構えて、突っ込んで来るのが見えた。


 高荷は、呼吸を整える間もなく、RPGー1の引き金を引く。


 ターン!


「高荷巡査部長!」


「外した!?躱した!?・・・だと!?」


 ライフル弾の弾道は、間違いなくヘッドショットするはずだった。


 だが襲撃者は、それを察知した。


 額を貫く寸前で、僅かに頭を振った。


 ライフル弾が撃ち落としたのは、襲撃者の被っていた軍帽だ。


「・・・勘の良いガキだ・・・」


 狙撃眼鏡越しに見える襲撃者は、まだ少年だった。


「マジですか!?」


 ある意味、称賛とも取れる高荷の言葉に、市川は大きく目を見開いた。


 しかし、狙撃音で地上に展開する隊員たちは、襲撃者の存在に気付く。


 襲撃者も、狙撃音に一瞬躊躇し、動きが鈍るはずだ。


 それを、取り押さえるのは難しくは無い・・・はずだった。





「うおぉぉぉぉ!!!」


 雄叫びを上げながら、キリュウは、64式7.62ミリ小銃改を構えて、全力疾走する。


 標的は、山本五十六、ただ1人。


 ターン!


 狙撃音が響き、自分の頭のすぐ側を抜けて行った銃弾が、被っていた軍帽を吹き飛ばす。


 それでもキリュウは、走るスピードを落とさない。


「ゴー!!」


 リードを外された警備犬が、一斉に猛スピードで、キリュウに追いすがって来る。


 防弾楯を構えた隊員が、キリュウを盾で囲い込むように、突撃してくる。


 タッ!


 タイミングを計って、キリュウは地面を蹴り、盾を足場にして隊員の頭上を飛び越える。


「何だとぉ!!?」


 隊員たちが振り返った時、山本と、自分たちを飛び越え着地した襲撃者の距離は、至近であった。


「カズマ!!?」


 襲撃を仕掛けて来た者が誰であるか、レイモンドは悟った。


 それと、ほとんど同時に、石垣は襲撃者が、誰を狙っているかを察した。


 2人は無意識下で、同時に行動を起こす。


 石垣は、山本を守るために・・・


 レイモンドは、キリュウを止めるために・・・


「総長!!!」


「やめるんだ!!カズマ!!!」


「石垣君!!?」


 山本の叫び声が、響く。





「!!?」


 両手を広げて、目前に飛び出て来たレイモンドの姿を認めて、キリュウは思わず立ち止まった。


「ガウッ!!」


「うわぁっ!!」


 3頭の警備犬に、背後から飛び掛かられ、キリュウは地面に突っ伏した。


「ガウッ!ガウッ!!」


「やめろ!!カズマを、離せっ!!」


 レイモンドは、キリュウを押さえ込んでいる警備犬を、引き剝がそうとした。


「ガルルルッ!!」


 牙を剝いて威嚇する警備犬にも怯まず、レイモンドは1頭の警備犬の首輪に手を掛け、引っ張る。


「あれ?」


 レイモンドの視界で、天と地が反転する。


 気が付いた時には、レイモンドは、地面に寝っ転がっていた。


 何が起こったのか、理解出来ないでいるレイモンドを、氷室が上からのぞき込む。


「・・・ヒムロ中佐?」


「こう見えても、僕は、剣道と合気道の、段持ちだからね。凄いでしょ!」


 エッヘンといった感じで、威張っている氷室を見上げながら、何が起こったのかを理解した。


 自分は、氷室に投げ飛ばされたのだ・・・と。


「警備犬だって、れっきとした、お巡りさんなんだからね。君まで公務執行妨害で、本当に逮捕されちゃうよ」


 おちゃらけた口調だが、氷室が何を言いたいのかは、わかる。


「・・・・・・」


 レイモンドは、無言で身体を起こした。


 すぐ側では、SAT隊員に拘束されたキリュウが、後ろ手に手錠を掛けられている。


「・・・カズマ・・・」


「・・・・・・」


 キリュウは、呆然として、虚ろな表情を浮かべている。





 建物の陰から、その一部始終を見ていた桐生は、腰に差した刀の柄から手を離した。


「残念だったな。せっかく、暴れられる絶好のチャンスだったのに・・・」


 後ろから、声を掛けてくるリドリーに背を向けたまま、桐生は、小さくため息を付いた。


「もしも・・・あの少年が制止を振り切っても、山本総長に向かって行ったら、私は、あの少年を斬らなくてはならなかった・・・」


「おいおい・・・あのボウズは、お前さんの・・・」


「私は、桜川参謀長と約束をした。必ず、山本総長を守ると・・・その約束は、如何なる事があろうとも、反故にはしない・・・個人的理由など、意に介する事は無い」


「武士の一分ってヤツか?約束は、命を懸けても守るとかっていう・・・俺は、そんな堅苦しい生き方は、遠慮したいものだ・・・」


 ポケットから取り出した、煙草に火を点けながら、リドリーは、つぶやく。


「そこまで、大袈裟では無いかな・・・」


 桐生は、空を見上げる。


「・・・あの青年・・・レイモンド・アーナック・ラッセル少佐だったかな・・・彼には、感謝しなければ・・・彼がいたから、桐生きりゅう和真かずまは、最後の最後で、道を踏み外さずにすんだのだから・・・」






 呆然とした表情のまま、キリュウは、隊員によって連行されて行った。


 何とか、最悪の結果は避けられたが、何とも後味が悪い結果である。


「・・・・・・」


 両脇から隊員に腕を掴まれて、歩いて行くキリュウを見送るレイモンドは、予想された事態を止められなかった事に、深い後悔を覚えていた。


「・・・・・・」


 そんなレイモンドに、石垣は、掛ける言葉が見つからなかった。





 ハワイ・オアフ島で起こった停戦会談を狙った、テロリズム。


 当事者にとっては、終生忘れる事が出来ない程の、重大事であったのだが・・・


 世界中の耳目を集めるには事足りない、些細な出来事であった。


 しかし、この些細な出来事が、連合国アメリカ合衆国内全土を巻き込む、大嵐の前触れであったという事に、気が付いている人間は、現時点では、ごく少数でしかない。

 撥雲見天 第8章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は3月29日を予定しています。

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[一言]  更新お疲れ様です。  あ~、えぇ?あっ!?はぁ~~。  読んでいて、感嘆詞だけ口から零れる一幕でした。  でも、良かった~。
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