撥雲見天 序章 1 2等海尉の独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
米英独伊4ヵ国連合軍総司令官チェスター・ウィリアム・ニミッツ・シニア元帥が派遣した特使から、停戦と会談の申し入れを受け、大日本帝国統合軍省統合作戦本部統合作戦総長である山本五十六大将は、菊水総隊司令官の山縣幹也海将との協議の上、これを受諾した。
「・・・終わった・・・」
第2水陸機動連隊本部で、その報告を受けた石垣達也2等海尉は、小さくため息を付きながら、つぶやいた。
連隊本部内では、通信員が停戦命令を、各部隊に通達している。
「・・・・・・」
長かった・・・本当に・・・
心底から、そう思った。
昨年の12月8日。
真珠湾攻撃から始まった、太平洋から東南アジア方面まで拡大した戦争・・・
その天王山とも言える、ハワイ攻防戦。
まだ、戦争そのものは終わった訳では無いが、1つの区切りが付いたと言っていいだろう。
敵も味方も含めて、多くの人命が、失われた・・・
そして、多くの人の心に、深い傷が刻まれた・・・
1つの実感としてあるのは、資料や記録では、現実というものを完全に理解する事は難しいという事だ。
自分が何年も、学び、考えていた戦争の歴史についての考察の時間よりも、タイムスリップをしてから2年も経たない時間の方が、遥かに多くのものを学び、考える事が、出来たようにも思える。
「・・・・・・」
石垣は、第2水陸機動連隊本部の片隅で、物思いに耽っていたが、連隊本部内の他の隊員たちは、次々と上がって来る情報に、慌ただしく動き回っている。
停戦を受理したからと言っても、前線各所までその通達が、完全に行き届いている訳では無い。
米英独伊4ヵ国連合軍も、使用出来る通信回線をフル稼働して、地上軍残存部隊に、即時戦闘中止命令を発令しているが、地上軍総司令部が司令部機能を消滅させている以上、通信が途絶している部隊も、数多く存在する。
そのため、戦闘行為が完全に収束するには、まだまだ時間が掛りそうだ。
それらに対処しているのだから、連隊本部の隊員たちは、石垣のように停戦の余韻に浸る余裕は、まだ無い。
「石垣2尉」
石垣に付き添っていた広報官が、声をかけてきた。
「何ですか?」
「たった今、[信濃]から連絡がありまして、山本作戦本部総長からの命令で、至急[信濃]に、帰投せよとの事です」
「わかりました」
山本が、自分を呼び戻そうとする理由。
(・・・もしかして・・・俺も、ニミッツ提督との停戦の会談に、総長の随行者として参加出来るのかも・・・?)
・・・そんな、考えが過った。
もし、それが実現したら・・・こんな歴史的瞬間に居合わせる事が、出来るとすれば・・・
これ程、幸運な事は無い。
それを想像すると、笑みが自然に浮かんでくる。
「・・・石垣2尉、何、ニヤニヤしているんです?キモ~い!!」
それを見咎めた側瀬美雪3等海尉が、顔を顰めて告げてくる。
「キモいって、失礼な!?」
確かに、意味も無く、ヘラヘラと笑みを浮かべていれば、傍からは、不気味がられるのは仕方が無いが・・・その言い方は、酷い。
「・・・もしかして・・・ヤラしい事を想像していた・・・とか?」
「失礼な!俺は、変態じゃない!!」
思わず、石垣は叫んだ。
「ムキになってる!やっぱり、図星なんだ~!!石垣2尉の、ドスケベ~!!」
「違う!!」
「そこ!静かにしていろ!!!」
叱られた・・・
撥雲見天 序章1をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




