薄明光線 終章 2 薄明光線 後編 特使
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
連合国アメリカ合衆国海軍[ファーゴ]級軽巡洋艦[ニューアーク]は、護衛の駆逐艦2隻と共に、ハワイ諸島オアフ島へ向かって、航行していた。
[ニューアーク]のマストには、使者が乗艦している事を示す、白旗が掲げられている。
ニミッツからの指令により、レイモンドは特使として、パールハーバー海軍基地に赴く事になった。
「・・・たった、1ヵ月半程度・・・なのに、もう何年も戦っているように感じるなんて、不思議だな・・・」
潮風を受けて、はためく白旗を眺めながら、レイモンドは、つぶやいた。
正直、色々と思う事はあるが、この会戦の結果は、最初から決まっていたのだろう。
80年という時間は、途轍もなく大きな壁だった。
今の自分たちでは、その壁を越える事は出来なかった・・・それを、痛いほど理解させられた。
ただし、今の・・・で、ある。
この、未来と現代の衝突という、絶対あり得ないはずの大戦。
現代人である自分たちは、途轍もなく多くのものを、失った。
だが、それでも得たものもある。
だからこそ、自分は使節として、彼らの元へ赴くのである。
「でも、やっぱり反則だよね、アメリカ軍・・・」
少し、渋い表情を浮かべて、白旗からマストに掲げられている、星条旗に視線を移す。
第1護衛隊群の[いずも]に滞在していた時に、親しくなった自衛官たちから、自分推しの映画を色々と薦められて鑑賞したが、戦争映画・・・(洋画と、彼らは言っていたが)その大半は、アメリカ映画だった。
彼らの史実を元にしたものや、実際にあった戦闘を元にしたものは、そうでも無いが、近未来等の架空物では、大体、最後の最後で窮地に陥った主人公たちを救いに現れる、戦闘機や戦闘ヘリ等々には、アメリカ軍のマークが煌めいているし、海上に浮上した潜水艦や、堂々とした布陣の空母機動部隊では、これでもか!と、いう圧で、星条旗がはためいていた。
「・・・彼らの言うところの、お約束のって、ヤツだけれど・・・それを、見せつけられる方の気持ちを、ちょっとは考えて欲しいな・・・」
渋い表情を、さらに渋くして、レイモンドは、つぶやく。
あくまでも、これはレイモンドの個人的な意見ではあるが・・・
ニューワールド連合軍の空母機動部隊が集結するまでは、レイモンドは、第1護衛隊群首席幕僚の村主京子1等海佐を相手に、作戦を練っていた。
自分の立案した作戦を、彼女がどう看破し、対策を練って来るか、それを想像するのが楽しかった。
これを他人が聞けば、不謹慎だと批判や非難をされるだろう。
それは、重々承知しているが、彼女との知恵比べは、一種のゲームのようにさえ感じている部分があった事は否定しない。
しかし・・・
その楽しい時間も、ニューワールド連合軍連合海軍の空母機動部隊が、集結するまでだった・・・
それ以降は、所詮、1個護衛隊群の首席幕僚でしかない村主では、作戦行動全体に関わる事は出来ない。
何だか、無理やりゲームの時間を終わらされた、楽しいデートを邪魔された・・・そんな、モヤモヤとした不満が、心の奥底で蟠っている。
(あぁ~!何だかなぁ~!何、あの『正義の味方、アメリカ軍参上!!』感全開の、登場の仕方!!なんか、腹立ってきたんだけどぉぉぉ~!!)
いや、自分もアメリカ人でしょう?
・・・と、突っ込みを受けても仕方が無い事を考えつつ、1人で悶々としているレイモンドの様子を、レイモンドの随行を命じられた、下級士官や通訳の語学技官は、ドン引きして眺めていた。
「失礼する」
[ニューアーク]の艦長が、声をかけてきた。
「先ほど、パールハーバー海軍基地より、連絡が入った。ゴーストフリート・・・ニューワールド連合軍連合海軍アメリカ海軍の駆逐艦を、出迎えに出すそうだ。駆逐艦の誘導に従っての入港を許可するとのことだ」
「・・・そうですか・・・」
艦長の言葉を聞いて、レイモンドは艦橋横のウイングへ出た。
空を見上げると、垂れこめた雲間から、一条の光が射している。
[天使の階段]とも[ヤコブの梯子]とも言われる、薄明光線という自然現象だ。
その光は、何かを暗示している様にさえ見える。
人間がこれまで歩んできた争いの歴史が、変わらずに続くのか・・・新たなる変化への希望なのか・・・
あの光は、どんな未来を指しているのだろう・・・ふと、レイモンドは、そう思った。
薄明光線 終章2をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




