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薄明光線 第19章 最後の戦い 7 戦いの代償

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 朱蒙軍海兵隊第3海兵旅団強襲任務大隊砲兵小隊に所属する、155ミリ自走榴弾砲M109が砲撃を開始してから、菊水総隊陸上自衛隊水陸機動団第2水陸機動連隊と、第3海兵旅団強襲任務大隊が、進撃を開始した。


 10式戦車及びM48A3Kを前衛に出し、進撃する。


 米英独伊連合軍地上軍も、それを、ただ指を咥えて眺めている訳が無い。


 彼らと最初に接敵したのは、イギリス陸軍である。


「スペース・アグレッサー軍の、戦車が来るぞ!17ポンド砲を、用意しろ!!」


 イギリス陸軍の下士官の叫び声に、兵たちが17ポンド対戦車砲の準備に入る。


 58口径76.2ミリ対戦車砲である17ポンド砲は、第2次世界大戦中に開発された、イギリス軍が運用する対戦車砲の中では、もっとも威力が高い。


 17ポンド砲は、シャーマン・ファイアフライ等に搭載され、ティーガー重戦車等の重戦車を、仕留める戦果を見せた。


 イギリス陸軍歩兵部隊が運用している17ポンド対戦車砲は、歩兵運用のために開発された、対戦車砲だ。


 装填手が徹甲弾を装填し、砲手がスペース・アグレッサー軍の戦車に、照準を合わせる。


「照準よし!!」


「発射準備よし!!」


 兵員からの報告を聞き、下士官が叫ぶ。


「シュート!!」


 下士官の発射命令で、17ポンド対戦車砲の砲手が、発射レバーを引く。


 17ポンド対戦車砲の砲口が、吼える。


 発射された徹甲弾は、スペース・アグレッサー軍の戦車である、10式戦車の正面装甲に、直撃した。


 しかし・・・


 カン!という金属音と共に、徹甲弾は、弾き返された。


「次弾装填!!」


 下士官が、次弾装填の指示を出す。


「何としても、ここを通すな!!!」


 下士官の言葉に、兵たちは逃げ出そうともせず、徹甲弾を装填するが、次弾発射が許される訳も無く、スペース・アグレッサー軍の戦車の砲口が、17ポンド対戦車砲に向き、閃光を発する。


 17ポンド対戦車砲が、炎に包まれ、爆発炎上した。


 近くの砲弾に誘爆し、17ポンド対戦車砲陣地が、大爆発した。


 砲撃から奇跡的に生き残った兵たちも、それが幸運だったと感じる暇も無く、その誘爆に巻き込まれ、空高くに飛ばされた。


 抵抗したのは、彼らだけでは無い。


 17ポンド対戦車砲という、イギリス陸軍の切り札とも言える対戦車砲が、まったく歯が立たない事が、わかっていても、イギリス陸軍の将兵たちは、これよりも威力が低い6ポンド対戦車砲(52口径57ミリ対戦車砲)や、2ポンド対戦車砲(52口径40ミリ対戦車砲)を使って、激しく抵抗する。


 しかし、10式戦車やM48A3Kの正面装甲及び側面装甲を貫徹する事が出来ず、向けられた砲口から、撃ち出された砲弾によって、次々と撃破されていく。


 確実に1門ずつ破壊され、スペース・アグレッサー軍の戦車が、前進する。


 戦車の後衛に、高射砲を搭載した自走高射砲が、現れた。


 これは、87式自走高射機関砲である。


 高射砲は、航空機に対して威力を発揮するが、地上目標に対しても、その大口径の機関砲が、猛威を振るう。


 特に、87式自走高射機関砲を運用する第7機甲師団第7高射特科連隊の高射特科部隊は、地上目標への攻撃も訓練で行うため、10式戦車の抜け穴を補助する事が出来る。


 87式自走高射機関砲が搭載する90口径35ミリ対空機関砲KDAは、とてつもない威力であり、歩兵陣地に撃ち込まれると、詰まれた土嚢を吹き飛ばし、歩兵たちを、ズタズタに切り裂いていく。


 しかし、それでも抜け穴がでるため、それに対処するため、10式戦車の砲塔上部に装備されている12.7ミリ重機関銃が活躍する。



 菊水総隊陸上自衛隊第1ヘリコプター団第11対戦車ヘリコプター隊第1飛行隊第2小隊に所属するパイロットを務める、森上八代3等陸佐と、射撃員を務める池浪久美夫1等陸尉が搭乗するAH-64D[アパッチ・ロングボウ]が、水陸機動団第2水陸機動連隊の前衛に展開していた。


「前方に、クルセーダー!!」


 池浪の報告を聞き、森上は巡航戦車[クルセーダー]を確認した。


「センチュリオンは、いないようだな・・・ちぇっ!ちょっと、期待していたんだが・・・」


「・・・だから、脳シュガーは・・・」


「何だ?」


「いえいえ、何でも無いですよ」


 つぶやきを、聞きとがめられた池浪は、適当に誤魔化した。


「・・・恐らく、センチュリオンは、前線に出ているのでしょう。90式戦車、10式戦車等の主力戦車に対抗出来るのは、センチュリオン等の重戦車や巡航戦車しかありません」


「だが、クルセーダーは、厄介だな・・・6ポンド砲を搭載し、時速40キロメートルで、走行する。10式戦車は問題無いが、その後方に展開している部隊には、脅威だ。ヘルファイア・ミサイルで、撃破するぞ!」


「了解!」


 池浪が、ディスプレイを操作し、ヘルファイア・ミサイルを選択する。


「ロック完了!」


 ロックの完了を知らせる、ピー!!というアラーム音が、コックピット内に響いた。


「発射!」


「発射!!」


 池浪が、発射ボタンを押す。


 ヘルファイア・ミサイルが、左右から2発ずつ発射され、そのまま巡航戦車[クルセーダー]に向かった。


 ヘルファイア・ミサイルは、戦車の弱点である上部装甲板に直撃し、そのまま上部装甲板を貫徹する。


 第2次世界大戦中の戦車であれば、上部装甲板で無くても、それ以外の装甲板も貫徹する事が出来るが、ヘルファイア・ミサイルは、事前にプログラムされた通りに進む。


 上部装甲板を貫徹したヘルファイア・ミサイルは、内部に侵入すると、そのまま炸裂した。


 4輌の巡航戦車[クルセーダー]は、膨らみ過ぎた風船が弾けるように、爆発炎上した。


「四丁上がり!!」


 池浪が、叫ぶ。


「まだ・・・」


 その時、AH-64Dの側面に、機関砲弾が直撃した。


「何だ!?」


「敵機だ!!」


 AH-64Dの上方を、イギリス海軍航空隊のシーファイアが、通過した。


 AH-64Dは、20ミリ機関砲弾程度の機関砲弾の直撃に耐えられる装甲板があるため、AH-64Dの側面には、弾痕が出来た程度だった。


「よりによって、イギリス軍の最新鋭機が、相手かよ!?」


 森上が、叫ぶ。


 シーファイアは、零式艦上戦闘機に匹敵する、速度と機動性を有する。


 それに対してAH-64Dは、時速360キロメートル程度の速度しか出ない。


 まともに戦えば敵う訳が無いが、AH-64D[アパッチ・ロングボウ]が、世界最強と言われる所以は、対航空機戦が出来る装備がある事だ。


 固定装備の30ミリ機関砲M230A1が、対地攻撃だけでは無く、対航空機戦にも対応出来るが、それだけでは無い。


 AIM-92[スティンガー]が、装備されている。


「スティンガー・ミサイルで、対処しろ!!」


 森上の言葉に、池浪が叫ぶ。


「了解!!」


 AIM-92[スティンガー]を、選択する。


 回転翼機と違い、固定翼機は小回りが効かないため、旋回するのに時間がかかる。


 AH-64Dが素早く旋回し、先に機首を、シーファイアに向ける。


 シーファイアも旋回が完了し、再び射線を確保する。


「ロック完了!!」


 池浪は、ロックが完了した事を伝える。


「発射!」


「発射!!」


 池浪が、発射ボタンを押す。


 スティンガー・ミサイルが発射され、スティンガー・ミサイルは、ロックオンしたシーファイアに向かう。


 シーファイアもスティンガー・ミサイルの接近が確認出来たのか、回避飛行をするが、間に合わず胴体に直撃する。





 戦車及び自走高射機関砲の後方に、AAVP7A1が、展開していた。


 普通科隊員たちが下車しているため、普通科隊員たちの足に合わせて、前進している。


 AAV7は、砲塔が装備されており、砲塔には40ミリ自動擲弾銃Mk.19と、12.7ミリ重機関銃M2がある。


 戦車や自走高射機関砲には匹敵しないが、普通科部隊の火力支援としては、十分過ぎる。


 戦車や自走高射機関砲が、前進するという事は、その後方から歩兵部隊が前進する、という事である。


 それを理解している敵部隊は、目の前の戦車や自走高射機関砲に攻撃を仕掛けず、やり過ごす部隊もある。


 イギリス陸軍の部隊の中には、そういった部隊もあった。


「銃剣を着けろ!接近戦を想定する!敵のガンベルトを掴むつもりで、突撃しろ!!」


 イギリス陸軍の小隊長が、小隊に聞こえるように叫ぶ。


「PIATを、あの戦車に撃ち込め!」


 小隊長は、対戦車兵に指示を出す。


「いいか、側面装甲でも、スペース・アグレッサー軍の戦車や戦闘車の側面装甲は、固い。我々の対戦車火器では、貫徹できない。キャタピラーを狙え!」


「サー!!」


 若い対戦車兵が、返事をする。


 これまでの戦闘内容は、末端の兵卒にも聞かされている。


 そのため、自分たちが保有する対戦車火器では、効果が薄い事は理解されているが、絶対では無い。


 自分たちが保有する対戦車火器でも、運用次第では効果的な一撃を与える事も出来るということが、士気の向上にも、つながっている。


「スタンバイ!スタンバイ!」


 小隊長が、距離を測る。


 PIATを構える対戦車兵が、狙いを定める。


「シュート!!」


 発射命令を受けて、PIATを装備する対戦車兵は、引き金を引く。


 対戦車攻撃用の対戦車榴弾が、発射される。


 発射された対戦車榴弾は、AAV7のキャタピラーに直撃し、キャタピラーを破壊した。


「迫撃砲!!」


 小隊長の叫び声に、アメリカ軍から供与された60ミリ迫撃砲M2に、迫撃砲弾を装填する。


 60ミリ迫撃砲M2の砲口が、吼える。


「迫撃砲!!」


 普通科隊員の、叫び声が響く。


 迫撃砲弾が炸裂し、普通科隊員たちを、吹き飛ばす。


「突撃!!」


 小隊長の叫び声を響き、自動小銃の先端に銃剣に取り付けた、イギリス兵たちが、塹壕から駆け出す。


 AAVP7A1の砲塔が旋回し、突撃して来るイギリス兵たちに向かって、40ミリ自動擲弾銃Mk.19が、火を噴く。


 毎分300発程度の40ミリ擲弾を発射するMk.19は、主に対人用の榴弾を使用するが、対装甲車両にも効果ある。


 そんな高威力の40ミリ擲弾が地面で炸裂し、土砂を吹き飛ばし、歩兵たちを爆風と衝撃波が襲う。


 だが、距離が近かったため、すぐに12.7ミリ重機関銃に変更され、12.7ミリ重機関銃の銃口が火を噴いた。


 展開していた普通科隊員たちも、89式5.56ミリ小銃や5.56ミリ機関銃MINIMIで応戦し、突撃するイギリス兵たちを、次々に倒していく。


 だが、数人のイギリス兵が、普通科隊員たちに接近戦を挑むまでの距離に近付いた。


 銃と銃がぶつかり合う、金属音が響く。


 一瞬の隙をついて普通科隊員が、89式5.56ミリ小銃の先端に装着している89式多用途銃剣を、イギリス兵の胸元に突き刺す。


 イギリス兵は絶命する。


 しかし、別の所では、イギリス兵が普通科隊員の首元に銃剣を突き刺し、普通科隊員を絶命させたり、自動小銃を捨て、手榴弾の安全ピンを外して、普通科隊員たちを巻き込んだ状態で、自爆したイギリス兵もいる。


 水陸機動団第2水陸機動連隊も、少なく無い犠牲者を出しながら、前進を続けた。





 上陸部隊を吐き出した多機能輸送艦[わかまつ]は、病院船としての機能を果たしていた。


[おおすみ]型輸送艦は、登場当時、自衛艦として、もっとも医療能力があった。


 だが、それ以降に登場した自衛艦は、大規模災害時や国際派遣任務に備えて、病院船として機能するよう整備されている。


[おおすみ]型輸送艦は、第1甲板に手術室、歯科診療室、集中治療室2床、病床6床というレベルであった。


 多機能輸送艦[わかまつ]は、[おおすみ]型輸送艦、[ましゅう]型補給艦、[ひょうが]型ヘリコプター搭載護衛艦、[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦を優に超える、病院船機能を有する。


 多機能輸送艦[わかまつ]は、手術室4室、歯科診療室2室、集中治療室10床、病床100床が整備されている。


 海上自衛隊の医官、歯科医官、看護官、准看護官だけでは、対応できないため、有事の際には、陸上自衛隊の医官や民間の医師等の医療スタッフを乗艦させ、対応させる。


 菊水総隊陸上自衛隊第1ヘリコプター団第102飛行隊第2小隊に所属するUH-60JAは、戦場と[わかまつ]を、何度も往復している。


 往復している理由は、戦闘で発生した負傷者の搬送である。


 戦闘で発生した負傷者は、まず水陸機動団第2水陸機動連隊本部管理中隊衛生小隊が、負傷者の負傷程度を把握し、トリアージを行う。


 衛生小隊で治療可能な軽傷者は、衛生小隊で治療を行うが、それが出来ない重傷者は、[わかまつ]に搬送をされる。


 防衛局長官直轄部隊陸上自衛隊中央衛生団第1中央衛生隊第106野外病院隊所属する救急救命医官である石垣(いしがき)(あずさ)1等陸尉は、[わかまつ]の手術室の1つを与えられ、救急救命処置を行っていた。


「石垣医官!患者の身体には、迫撃砲弾の破片が残っています!」


「わかったわ」


 ベッドに移された負傷した水陸機動団の隊員を素早く触診して、身体のどこに破片があるかを確認する。


 事前に各種検査を受けているため、破片がどこに埋まっているか把握している。


 手で触って確認するのは、正確な位置を把握するためだ。


「ここね」


 石垣は正確に位置を確認すると、助手の医官研修生に告げる。


「メス」


 助手の医官研修生は、メスを石垣に渡す。


 石垣は、メスを踊るように走らせる。


 あっと言う間に破片を見つけ、それを取り出す。


「病室に運んで」


 処置を終えた石垣が告げると、看護官たちが負傷者を手術室から出す。


「首の負傷だ!首の負傷だ!」


 休む暇も無く、新たな負傷者が搬送されてくる。


「首の頸動脈に被弾して、大量出血している!」


 簡単に説明を受けると、石垣はカルテを見る。


 一瞬のうちにカルテを見終わった石垣は、負傷者の首を見る。


「止血開始」


 石垣が、他の医官や助手の医官研修生たちに言うと、止血に必要な器具が用意された。


「輸血を」


 別の医官が動脈を探し出し、注射器の針を刺す、輸血用パックを繋ぎ、輸血を開始する。


 彼女は救急救命医官としては、高技術を有する名医であるため、この程度の負傷は簡単に処置できる。


 こちらも、あっと言う間に、処置が完了した。


 戦闘が続く限り、どんなに優勢でも負傷者は敵味方関係なく出てしまう。


 そんな彼らの最後の砦は、石垣たち救急救命医官たちである。


「医官。代わります」


 交代の救急救命医官たちが、現れた。


「お願いするわ」


 石垣は、速やかに交代した。





 次々と搬送されて来る負傷者たち。


 医療に従事する者たちは、彼らの命を救うために、全力を尽くす。


 しかし、医療従事者たちも人間である。


 無限に働く事は、不可能である。


 だからこそ、常にベストの状態で医療活動に当たれるように、休息を取る事も必要なのだ。

 薄明光線 第19章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は12月21日を予定しています。

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