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薄明光線 第14章 最後の戦い 2 海岸線の攻防

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 ハワイ連邦陸軍ハワイ方面軍オアフ島軍管区第2歩兵師団第5歩兵旅団第51歩兵大隊は、オアフ島西側の海岸線に、防衛線を敷いていた。


「何だ、これ!?冷たいぞ!」


 ホワイトシチューのパックにスプーン入れて、すくったシチューを口に入れた兵士が、叫んだ。


「こっちもだ!」


 他の兵士たちからも、苦情の叫び声が上がる。


「おい!新入り!これ、ちゃんと温まってないぞ!」


 兵士たちの中で先任の者が、ホワイトシチューを温めた新入りの兵を怒鳴りつけた。


「も・・・申し訳ありません・・・パックは、熱かったので・・・」


「ちゃんと、説明書通りにやれ!そんなことも、出来ないのか!?」


 別の兵が、不機嫌な顔で怒鳴る。


「まあ・・・食えなくもないな・・・」


 1人の兵が、冷たいシチューを口に入れながら、つぶやく。


「おい、冷えたシチューに、パンを入れてみろ。味が深くなるぞ」


「マジで!?」


 数人の兵たちが、携帯パンを千切って、冷えたシチューにつける。


 一斉に、そのパンを口に入れる。


「確かに、美味いな」



「冷えているから、違った食感を味わえる」


 一部の兵たちからは、好評であったが、別の兵士たちは・・・


「そうか?」


「冷たいから、味がいまいちだ」


「も、申し訳ありません・・・」


 シチューパックを温める係の兵が、謝罪する。


「もういい。食えない訳では無い」


 先任の兵が、クラッカーをホワイトシチューにつけながら、言った。


「暑いから、冷めたシチューも美味い」


 等々と、「問題無い」といった感じで、手を振る兵士たちもいる。


 個人個人の感想であるから、冷たいと文句を言った兵士たちも、仕方ないという感じで、黙ってシチューを食べ始めた。


「分隊長!」


 見張りについている兵の1人が、叫び声を上げる。


「どうした?」


「敵襲です!」


「寝ぼけた事を言うな!ここは、戦場から遥か後方だぞ!」


 分隊長は、双眼鏡を持って、塹壕から頭を出す。


 双眼鏡を、覗くと・・・


 10隻程度の艦影が、見えた。


 マストに掲げられている、星条旗・・・


「て、敵襲!!」


 分隊長が、叫んだ。


「警報を鳴らせ!!」


 分隊長の指示に、警報器に近い所にいる兵士が、警報器のボタンを押す。


 ものすごい音量で、警報機が鳴る。


 しかし・・・それを越える騒音と振動が、響いた。


「爆撃だ!!」


「空母も、いるぞ!!」


「敵機だ!!」


 さまざまな叫び声が、交差する。


 アメリカ軍のマークをつけた急降下爆撃機が、爆弾を海岸線に投下する。


 それだけでは無く、駆逐艦や揚陸艦から艦砲射撃が、実施される。


 砲弾が炸裂し、砂の雨が塹壕内に降り注ぐ。


「本部に連絡!連合国軍の大規模上陸の兆しありだ!!」


「どうなっているのだ!?連合国軍は、東側に展開しているのではないのか!!?」


「・・・上の連中は、戦況優勢と言っていたが、実は戦況は、不利だったのでは無いのか?」


 等々と、兵たちから不安の声が、上がる。


「敵の第一陣が、上陸するぞ!」


「機関銃を、乱射しろ!!」


 機関銃兵の1人が、M60を構えて、引き金を引く。


 他の兵士たちは、M16を構えて乱射する。


 しかし、フルオート射撃機構は外されているため、バースト射撃で、射撃をする事になる。


 これは、フルオート射撃に馴れていない兵士が、フルオート射撃をしてしまうと、すぐに弾薬を消費する上に、弾切れが続出するからだ。


「ファイア!!ファイア!!」


 指揮官の怒号と共に、M16やM60の乱射音が響く。


「戦車だ!戦車が、上陸して来たぞ!!」


 上陸した戦車の砲塔が回り、砲口がこちらに向く。


 砲口から閃光が走り、塹壕内で砲弾が炸裂する。


「撤退だ!!」


 大隊指揮官からの、通信が入る。





「撤退しているな・・・」


 M24[チャーフィー]の車長席から身体を出した車長が、つぶやく。


 目の前では、軽戦車であるM3[スチュアート]が、炎上している。


「確かに、僕たちの敵では、無かった・・・」


 通信手の2等兵が、つぶやく。


「これは単なる序盤戦だ。これから本番だ!」


 車長が、無線機に答える。


「左方向!!敵戦車部隊!!」


 車長が、新たな戦車部隊を確認した。


「M3[リー]だ!」


 車体に75ミリ戦車砲を装備し、砲塔には37ミリ戦車砲を装備した、独特な形状の戦車を、車長が間違えるはずが無かった。


「5輌編成の1個小隊か・・・」


 車長は、そうつぶやきながら、車内に入り込んだ。


 彼らの目の前に現れた中戦車のM3[リー]は、ハワイ連邦陸軍が保有する中戦車である。


 ほとんどの戦車は、鹵獲品であり、このM3[リー]も南方戦線で、鹵獲した戦車だ。


 中には、ソ連軍から鹵獲した戦車もある。


 M3[リー]は、ドイツ第3帝国軍の西進と東進の際に、ソ連軍戦車やフランス軍戦車等が、ドイツ第3帝国国防軍陸軍戦車に大敗した事がきっかけで、アメリカ陸軍が慌てて開発させた中戦車である。


 あくまでも、M4[シャーマン]を開発するための繋ぎとして、開発された中戦車だったが、同盟国に輸出するために、M3[リー]も量産された。


 イギリス軍、ソ連軍等に輸入され、北アフリカ戦線だけでは無く、南方戦線でも、M3[リー]は、戦場に投入された。


 しかし、その戦果は、それほどでも無かった。


 北アフリカ戦線では、ドイツ帝国軍のⅣ号戦車やⅤ号戦車に勝てず、さらに新たに登場したⅥ号戦車にも、まったく歯が立たなかった。


 南方戦線でも、大日本帝国陸軍機甲部隊が運用する戦車にも歯が立たず、さらにスペース・アグレッサー軍に惨敗する始末だった。


「徹甲弾!装填!」


「装填!」


 車長の号令で、装填手が徹甲弾を装填する。


「M3[リー]の正面装甲も、貫く事が出来る。焦る必要は無い!」


 車長が、砲手に伝える。


 M24[チャーフィー]は、軽戦車であり、本来の任務は歩兵支援、偵察、警戒といった任務が主任務であるが、軽量砲の75ミリ戦車砲を搭載している。


 装填されている徹甲弾は、強化弾であるため、通常の徹甲弾よりも威力が高い。


 それだけでは無く、増加装甲も取り付けられているため、防御能力も高い。


「ファイア!!」


「ファイア!!」


 砲手が、発射ボタンを押す。


 M24[チャーフィー]の砲塔に装備されている、75ミリ戦車砲が吼える。


 発射された徹甲弾は、まっすぐM3[リー]の正面装甲に吸い込まれ、そのまま貫通した。


 M3[リー]が、爆発炎上する。


 僚車が撃破された、M3[リー]の戦車小隊が散開し、砲撃の姿勢をとるが、そんな隙を与えるはずも無く、他のM24[チャーフィー]が撃破する。


「こいつら、素人集団だな」


「恐らく、経験者は主戦場に、送られているのだろう」


 車長が、M3[リー]の動きを見ながら、そう評価する。


 残り2輌になった所で、ようやくM3[リー]が反撃に転じたが、その砲弾は大きく外れるだけであった。


「徹甲弾、装填!!」


「装填!!」


 車長の号令で、装填手が徹甲弾を装填する。


「ファイア!!」


 車長の発射命令で、砲手が発射ボタンを押す。


 75ミリ戦車砲が、吼える。


 発射された徹甲弾は、M3[リー]の側面に命中した。


 そのまま側面装甲を貫き、爆発炎上した。





 菊水総隊航空自衛隊第10航空団第205飛行隊に所属する嘉村義彦(きむらよしひこ)1等空尉と高居(たかい)(なお)()1等空尉は、それぞれの愛機であるF-15FXで、米英独伊連合軍が強襲上陸した、西海岸に接近していた。


「空母連合艦隊の上空護衛の次は、西海岸に上陸した、米英独伊連合軍地上軍か・・・」


 嘉村は、不機嫌そうにブツブツと、つぶやくのであった。


「あの・・・嘉村1尉。機嫌を直しては、いかがですか?」


 後部座席に座る、中川(なかがわ)リン2等空尉が、声をかける。


「俺の貴重な!ヒジョ~に、貴重な!時間を邪魔したんだ!!あいつらを完膚なきまで叩き潰さなければ、俺の気がすまねぇ!!!」


 喜村は、さらに機嫌を悪くして、叫ぶ。


「フィーニックス1。今のそいつに、何を言っても無駄だ。そいつにとって食事は、とても大事な憩いの時間だ。それを邪魔されたんだからな。上陸した部隊を、全滅させるまでは直らない」


 相棒である高居が、中川に告げる。


「フィーニックス1。了解しているだろうが、近辺には空母から発艦した艦載機が、展開している。一応、対空装備をしているが、あくまでも自機自衛用だ。無理はするなよ」


「わかっているよ!俺たちの任務は、地上に展開する戦車部隊を、撃破する事だろう。このマーベリック・ミサイルで・・・あ~!俺の憩いの時間が!!」


「・・・駄目だ。こりゃ・・・」


 喜村のぼやきを聞きながら、高居がつぶやく。


 まあ、気持ちは、わからなくも無い。


 これが、睡眠中に叩き起こされたとなれば、ブチ切れしているのは、嘉村では無く、自分だろうから・・・


「高居1尉。そろそろ攻撃ポジションです!」


 高居機の兵装システム士官である、伊倉名波(いくらななみ)3等空尉が、叫ぶ。


「マーベリック・ミサイル発射準備!」


 高居が、叫ぶ。


 伊倉がディスプレイを操作し、マーベリック・ミサイルの発射準備を行う。


「米英独伊連合軍め!徹底的に、思い知らせてやる!俺の憩いの時間を奪った罪は、重いぞ!!後悔したって、遅いからな!!」


「はぁ~・・・マーベリック・ミサイル発射準備!」


 中川が、ため息を吐きながら、ディスプレイを操作し、マーベリック・ミサイル発射準備を行う。


「レーダーに、多数の接近機!」


「気にするな!」


 伊倉の報告に、高居が答える。


 強襲上陸部隊の上空援護として出撃している敵艦上戦闘機部隊が、2機のF-15FXに接近するが・・・


 F-15FXに近付く事も出来ず、次々と炎の塊と化した。


 護衛機として、同じく第10航空団第205飛行隊のF-15J改が、AAMを発射したのである。


「ロック完了!」


 ピー!というロック・オンしたというアラーム音が聞き、高居は発射ボタンに指を置く。


「マーベリック・ミサイル発射!」


 高居は発射ボタンを押し、主翼下及び胴体下に搭載されているAGM-65[マーベリック・ミサイル]が、白い尾を引きながら発射される。


「マーベリック・ミサイル発射!」


 喜村の叫び声と共に、嘉村機からもマーベリック・ミサイルが発射される。


 発射されたマーベリック・ミサイルは、ロック・オンしたM24[チャーフィー]に向かって飛翔し、そのまま戦車の急所である砲塔上部を直撃した。


 戦車の上部は、最も装甲が薄いため、機関砲でも貫通するから、マーベリック・ミサイルの直撃に耐えられるはずが無い。


 一瞬にして20輌以上のM24[チャーフィー]が爆発炎上した。


 敵にすれば、本当に一瞬の事であろう。


 自分たちを守る戦車が、1秒も経過しないうちに、炎の塊と化したのだから・・・


「後は欧州合同軍に、任せよう」


 高居はつぶやき、操縦桿を引いた。





「戦車が、全滅した!?」


 誰かの叫び声が、響く。


「おい!大丈夫か!?」


 兄貴分が、声をかける。


 弟分は、兄貴分の声掛けにより意識を覚醒させる。


「あ、ああ。大丈夫だ・・・」


「よし!立て!ここで寝ていたら、やられるぞ!」


「スペース・アグレッサーだ!!」


 誰かの叫び声が、響く。


 見慣れない戦車を主力に、歩兵部隊が接近してくる。


 M24[チャーフィー]よりも遥かに大きく、恐ろしく速い。


 その見慣れない戦車の砲口が、一斉に吼えた。


 75ミリ榴弾とは比べ物にならない程の絶大な威力が、砂浜に炸裂する。


 海兵たちが、吹き飛ばされる。


 上空には軽空母から発艦した急降下爆撃機がいるが、次々と炎の塊と化している。


 スペース・アグレッサー軍の回転翼機も現れ、無数のロケット弾攻撃を行う。


 海兵たちは空や地上に向けて、小銃、機関銃、携帯式対戦車火器等の、ありとあらゆる歩兵携行火器を使って、挑むが・・・すでに、戦車が無く、航空支援の攻撃機も無い。


 この状況下では、どのような抵抗をしても無駄である。


 スペース・アグレッサー軍の戦車は、前進を続け、どんどんと距離を詰めて来る。


 海兵たちは後方に下がり、どんどんと追い詰められていく。


「隊長!もう、逃げ場が、ありません!!」


 洋上に展開している駆逐艦や揚陸艦等も、ロケット弾による攻撃で、炎上していた。


 駆逐艦の数隻が、くの字に曲がり、そのまま沈没していく。


「・・・降伏だ」


 隊長は、小さくつぶやいた。


「降伏だ!降伏しろ!」


 副隊長の命令により、海兵たちは小銃等を高く掲げ、戦う意志が無い事を示した。


 スペース・アグレッサー軍の戦車や、回転翼機の攻撃が止まった。


 こちらに砲口や機銃口を向けている状態で、攻撃を停止した。


「そのまま跪け!銃を地面に置け!ゆっくりと・・・だ!!」


 訛りのある英語で、指示される。


 海兵たちは、その指示に従って、銃を地面に置き、ゆっくりと跪いた。


 それを確認した歩兵たちが、見慣れない自動小銃を構えた状態で、速足で向かってきた。


 地面に置かれた銃等を回収し、降伏した1人1人の兵士の、武装解除をする。


「兄貴・・・俺たちは、どうなるのだろう・・・?」


「さあな。俺にはわからん」


 弟分の言葉に、兄貴分は答える。


「負傷兵は、いないか?」


 訛りのある英語で、語りかけられる。


「ここにいる!」


 兄貴分が、叫ぶ。


 すると衛生兵が現れ、負傷兵の元に駆け寄った。


 負傷兵は、腰の部分に戦車の破片が突き刺さっている。


 先程の戦闘爆撃機によるロケット弾攻撃で戦車が破壊された時、その破片が腰に突き刺さったのである。


「待っていろ!今、モルヒネを打つ」


 衛生兵は、モルヒネが入った注射器を取り出し、注射器を突き刺す。


「これで痛みが引く」


 衛生兵は、応急処置をした後、トリアージを行った。


 健全な海兵たちは、そのままトラックの荷台に乗せられた。


 軽傷者も同じく、トラックに乗せられた。


 重傷者に関してはトリアージ後、優先順位に従って、赤十字のマークが付けられた回転翼機に乗せられた。


「噂によれば、スペース・アグレッサー軍は、捕虜の安全は保障するそうだ・・・」


 誰かが、つぶやく。


「わかるものか!俺は、洗脳されると聞いた事があるぞ!」


 ・・・等々と、トラックの荷台で、海兵たちが騒ぐ。


「静かにしろ!」


 スペース・アグレッサー軍の兵士が、訛りのある英語で、怒鳴る。


 場は静まり返った。

 薄明光線 第14章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は11月16日を予定しています。

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