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薄明光線 第9章 生と死の境界線 5 ネセサリー サクリファイス 後編

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

[エンタープライズ]から攻撃隊が、全機発艦してから5分後・・・


「[ヤマト]は、何としても海の藻屑に、せねばならん」


 ハルゼーが、艦橋横のウィングで、つぶやく。





「・・・スペース・アグレッサー軍の記録では、俺は、どのように伝えられているのだ?」


「さ・・・さあ。それは、何とも・・・」


 以前、米英独伊連合軍旗艦である重巡洋艦[インディアナポリス]に乗艦する、作戦参謀のレイモンド・アーナック・ラッセル少佐に、興味本位で聞いた事がある。


「確か・・・猛牛と、呼ばれているそうです」


 言い難そうに口を開いたレイモンドの言葉に、ハルゼーは最初、その意味が理解出来なかった。


 その意味を理解した時、ハルゼーは「何だ、それは!失礼な!!」と、激怒した。


 レイモンドは、「僕に、言われましても・・・」と、ぼやいていたが・・・


 ある程度、気が済むまで文句を言ったハルゼーは、冷静になり、何故自分が猛牛と言われるのかを考えた。


 そこで導き出された答が、さっきの激怒した自分であった。


(未来の人間たちの評価は、確かに鋭いものだ。その人物の性格や振る舞いを、様々な角度から検証するのだから・・・)


 レイモンドから、未来人の自分に対する評価について聞いてから、ハルゼーは自分を改めるように努力した。


 しかし、人間の性格等、そうそう簡単に変わる訳では無いが・・・


「魚雷接近!!」


 そんな思考は、水兵の叫び声で掻き消された。


「何だと!?」


 ハルゼーが、叫ぶ。


「回避行動!!機関全速、右舵一杯!!」


 艦長が、回避行動を命令する。


 [エンタープライズ]の左舷に、3本の水柱が上がった。


 激しい衝撃が、[エンタープライズ]を襲う。


「司令官!お怪我は!?」


 衝撃で、ハルゼーが倒れた。


 倒れた拍子に、艦橋の機材に額をぶつける。


「俺なら大丈夫だ。被害を報告せよ!」


 ハルゼーが、額を押さえながら、立ち上がる。


「提督。血が!すぐに手当てを!」


 副官が軍医を呼ぼうとした時、ハルゼーは叱った。


「その必要は無い!俺は、かすり傷だ。俺以上に必要な者が、いるでは無いか!!」


 飛行甲板では、魚雷の直撃を受けた事により、衝撃で倒れたクレーンに挟まれた水兵がいるのが見えた。


「彼を助け出して、軍医に診せろ!」


「イエス・サー!」


 ハルゼーは、ポケットからハンカチを取り出し、額に押し付けた。


「機関室に、魚雷2本が直撃!現在、浸水中です!」


「格納庫で火災発生!予備の爆弾や魚雷が誘爆し、手が付けられません!」


「負傷者多数!集計が困難です!」


 次々と報告が、艦橋に上がる。


「機関室からの浸水が、拡大中であります!排水ポンプも作動しません!」


「艦長。復旧は絶望的!もって、40分です!」


 被害状況を確認していた先任士官が、艦長に報告する。


「提督。この艦の命運は尽きました。退艦してください」


 艦長が、ハルゼーに報告する。


「提督。旗艦機能を[ミッドウェイ]に、移動させましょう」


 副官が、具申する。


「わかった。旗艦機能を[ミッドウェイ]に、移動させる。艦長!」


 ハルゼーは、艦長に顔を向けた。


「サー」


「出来る限り、多くの乗員を、退艦させてくれ」


「イエス・サー!」


 艦長が、挙手の敬礼をする。


「提督。ボートに」


「その必要は無い。ボートは、負傷兵のために残す。俺たちは、そのまま海に飛び込む!」


「サー!」


 ハルゼーは、艦橋の窓に顔を向けた。


「雷撃を加えたのは、潜水艦か・・・?」


「そのはずです」


「だとしたら、大日本帝国海軍だな」


「何故、そう思うのですか?」


「ゴーストフリートなら、ここまで優しくは無い。確実に轟沈させられる」


 副官から渡された、救命胴衣を身に付けながらハルゼーは答えた。


 浸水のために、傾斜が酷くなっていく艦橋を後にし、退艦する多くの将兵たちと共に、ハルゼーは海に飛び込んだ。





 米英独伊連合軍旗艦[インディアナポリス]の総司令官、チェスター・ウィリアム・ニミッツ・シニア元帥の公室で、レイモンドは、チャールズ・ホレイショー・マクモリス少将と3人で会食をしていた。


 会食と言っても、昼食では無い。


 デザートとコーヒーで、たわいない会話を楽しんでいる。


 もちろん、給仕係として、カズマ・キリュウが、司令官公室にいる。


 レイモンドは、料理長特製のチェリーパイを、がつがつと食べている。


「ラッセル少佐。そのような下品な食べ方は、控えて下さい」


 キリュウが、嗜める。


「・・・フガッ!・・・モガ、モガッ!・・・」


 口一杯のチェリーパイを頬張りながら、レイモンドが何か言っている。


「・・・・・・」


 ここが、レイモンドの個室であれば、遠慮なく雷を落としているところだが、さすがに2人の将官がいる前では、それは出来ない。


 キリュウが片方の眉を吊り上げて無言でいる事に、肩を竦めながらレイモンドは、口の中に残ったチェリーパイを、コーヒーで流し込む。


「チェリーパイの、おかわり。貰えるかな?」


 空になった皿を受け取ったキリュウは、自分の横のワゴンに載せている皿からチェリーパイを盛り付けると、レイモンドに手渡す。


 料理長特製のチェリーパイは、1ホールの半分以上が減っているが、その大半はレイモンドが平らげている。


 2人の、どう見ても母親と子供にしか見えない遣り取りを、やや苦笑交じりで眺めているニミッツとマクモリスだった。


「私に、コーヒーを頼む」


「は・・・はい、ただ今」


 ニミッツに、空になったコーヒーカップを差し出され、キリュウは、慌てて受け取った。


「・・・そういえば・・・」


 ふと、マクモリスが、何かを思い出した表情になった。


「キリュウ君。君の身長は、どのくらいかね?」


「・・・? 5フィート1インチ(約155cm強)くらいですが・・・それが、何か?」


「ふむ・・・」


 マクモリスが、顎を撫でながら考え込んでいる事に、レイモンドは首を傾げた。


「総参謀長、何か気になる事でも?」


「いや、以前イギリス海軍の将官から、取るに足らない世間話レベルで聞いた話を、思い出したのだが・・・」


 顎を撫でながら、マクモリスは続ける。


「東南アジア方面での、大日本帝国軍のクアラルンプール攻略が開始される以前の話だが・・・クアラルンプール司令部の物資集積所の食料庫が、食糧不足から暴徒化した現地民に襲撃されたそうだ。その直前に、食料庫で歩哨に立っていた兵士が、正体不明の賊に襲われ、重傷を負わされたという。それ以外にも、そういった物資集積所だけではなく、陸上の輸送隊も襲撃された際に、多くの兵士たちが、それらしき賊の姿を目にしていたそうだ。それに、毎回奪われるのは、食料や医薬品、日用品といった生活物資ばかりで、武器兵器は破壊されるか捨て置かれるそうだ。その強奪された物資は、近隣の困窮する現地民の集落に、いつの間にか配られている。元は軍の物資とはいえ、強制的に回収する事は、現地民に悪感情を植え付けるために出来ず、返還を要請しているが、戦争で生活必需品が不足している状態では、それも、ままならない・・・おかげで、シンガポール司令部と、クアラルンプール司令部は、その対策に、頭を抱えていたらしいそうだ」


「現地の住民を利用するとは・・・何とも、悪辣な遣り口ですね・・・大日本帝国軍に、協力している、現地民のレジスタンスの仕業では?」


 ただし、これに関しては、植民地支配をしているイギリス側も、親英派の現地民のレジスタンスを使って、進軍を続ける大日本帝国陸軍に対して、同じ事をしていたので、片方だけを非難する訳にはいかないが・・・


 大日本帝国陸軍のマレー攻略が始まる時期の前後は、親英派のレジスタンスが、親日派の民衆や、大日本帝国から支援物資を提供された集落を、襲ったりしていた。


 これに加えて、大日本帝国軍のマレー半島上陸が遅れた事から、大日本帝国軍に協力していたレジスタンスが、大日本帝国軍に対する不信感を募らせ、離反しかけていたのだが・・・





 潮目が変わる事態が、発生した。





 大日本帝国南東諸島に侵攻したイギリス・オランダ連合軍は、自国の植民地の東南アジア各地から現地民を徴兵したが、撤退の際、彼らを見捨てて撤退をした。


 もちろん、正規兵も多数残しての撤退ではあるので、見捨てたと言うのは言い過ぎだろう。


 それから程なく、東南アジア各地に南東諸島侵攻に従軍した徴兵された兵士たちが、中立国を通さず帰国して来たという。


 シンガポール司令部が把握出来た範囲でも、帰国した兵士たちの数は、相当だったそうだ。


 その兵士たちの口から、箝口令の網の目を潜って、多くの情報が親英派の民衆に流れる。


 親英派だった現地民の支持に、ヒビが入りかけた時に起こった、不正規戦の情報が流れた時、そのヒビは大きく広がった。


 大日本帝国軍は、自軍に味方する勢力を、決して見捨てない・・・で、ある。


 それからの大日本帝国陸軍の侵攻速度は、異常な速さであった。


 ジットラ・ライン要塞を瞬く間に陥落させ、クアラルンプールも陥落。


 現在、シンガポールには、指呼の間といった状況である。


 これには、現地民の協力が必要不可欠であるのは、言うまでも無い。


 それに、完全に補給線を絶たれた事で、シンガポールは深刻な食糧不足となり、食糧を求めた民衆が起こした暴動を、司令部が武力鎮圧した事で、現地民との信頼関係は、ほぼ失われたそうだ。


(・・・中国の兵法書にも、敵国を侵略する際に、敵国の民衆を武器として利用するっていう方法が、書いてあったな。ここまで完璧に、その兵法通りに事を運ぶというのは、中々無いだろうけれど・・・)


 ふと、東南アジア方面の事務報告を読んだ時の記憶が、レイモンドの頭の中を過ったが、今の話題と関連するかどうかに付いては、何とも言えない。


「ゴホン!」


 多分、他事を考えているとキリュウに見透かされたらしく、わざとらしい咳払いをされた。


 振り返ると、キリュウが「人が話している時は、ちゃんと聞くように」という視線を送って来る。


 後が怖いので、マクモリスの話に集中する事にする。


「そうでも無いらしい。その賊の容姿を目撃した兵士たちが口を揃えて言うには、その小柄な賊は、少年のようにも、女性のようにも見えて、性別も年齢も、はっきりしないそうだ。ただ、現地民では無いのは確かなようなのだ。常に日本刀のような物を携えているのと、『Nezumi Kozo Was Here !(鼠小僧 参上!)』等という、人を食ったようなカードを、必ず残していくそうだ・・・」


「・・・ネズミコゾウって、確か・・・サンジョウガワラで、釜茹での刑にされた、日本の昔の有名な盗賊?」


「ゴホン!」


 キリュウが、咳払いをする。


「あれ?違った?」


「・・・・・・」


 無言のまま、ジト目で自分を見るキリュウに、レイモンドは首を傾げる。


 場所が場所だけであるのと、素で惚けて話を脱線させかねないレイモンドに、「後で、ちゃんと説明する」という視線を、キリュウが送って来る。


「キリュウ君、そのネズミコゾウとやらに付いて、何か知っているのかね?」


 興味をそそられたらしい、ニミッツが、声をかけてきた。


「はい・・・でも・・・」


 自分が言っていいのか?という戸惑った表情を、キリュウは浮かべた。


「僕も聞きたいな。話してよ」


「わかっ・・・いや、はい。鼠小僧というのは、江戸時代後期の盗賊で、大名屋敷ばかりを狙って盗みを働いていたそうです。当時の記録では、屋敷に侵入した数は90回以上、盗んだ金は、3000両以上だとか・・・ドル換算だと・・・よく、わからないのですが・・・億単位だと思います。ただ、逮捕して取調べをした役人も、あまりの余罪の多さに呆れて、途中で取調べを止めたそうです。最後は小塚原刑場で、打ち首獄門。斬首の上、晒首の刑にされたそうです」


 簡潔にキリュウは、説明をする。


「あっ!思い出した。盗んだ金を、貧しい人々に配っていたという、ロビン・フッドみたいな義賊だね!」


 ポン!と、手を叩いてレイモンドが相槌を打つ。


「・・・それは、良く言い過ぎだと・・・その鮮やかな盗みの手口から民衆には人気があり、死後もその人気から、歌舞伎や芝居の演目にもなりましたが・・・実際のところ、盗んだ金は、自分のギャンブルに、つぎ込んでいたそうです」


「・・・・・・」


 それは、聞きたくなかったという表情で、レイモンドは黙った。


「ふむ。ロビン・フットの物語には、私も子供の頃は、心を躍らせたものだが・・・民衆を迫害する代官を懲らしめたり、悪徳な貴族や聖職者から、不正に蓄えた富を奪って貧しい人々を助けたり・・・とか。だが、見方を変えれば、彼の行動は、テロ行為と言われるものかも知れない。世界には、民衆の英雄の存在は数多くあるが、多角的に見て行くと、中々興味深くなるかもしれないな」


 マクモリスが、顎を撫でながら答える。


「ところで参謀長。その正体不明の賊と、カズマの身長とが、何か関係があるのですか?」


 脱線しかけた話題が、ようやく元へ戻った。


 件の謎の盗賊(?)の話と、キリュウの身長の話では、全然繋がりが無いように思えるのだが・・・


「その人物を目撃した兵士たちの証言では、賊は、かなり小柄な体格だそうでね。4フィート10インチ(約148cm)あるかないか・・・だったそうだ。こう言っては失礼だが、キリュウ君よりも小柄で、体格も貧弱な人間に、練度はわからないが、正規軍の陸軍兵士が束になっても敵わなかったというのは、戦場伝説にしても、あり得ないとしか思えないが・・・」


「ずいぶんと、チンチクリンなのですね・・・」


 意外という表情で、レイモンドは思った事を述べたが、何故か、ゾクッと背筋に悪寒が走った。


 思わずキリュウを見たが、キリュウは素知らぬ顔で、コーヒー淹れたカップを、ニミッツの前に置いている。


「失礼します」


 そんな、会食の場に通信参謀が、慌ただしく現れた。


 マクモリスに、通信文を渡す。


「総司令官。戦艦[モンタナ]の、ブレッド提督よりの通信で、『釣り餌に大魚が、喰い付いた』以上です」


「うむ」


 マクモリスから渡された通信文に目を走らせて、ニミッツは、立ち上がった。


「気分転換は、これまでとしよう。行こうか、少佐」


「はい・・・」


 返事をして立ち上がったものの、レイモンドの視線は名残惜しそうに、食べかけのチェリーパイに注がれている。


「・・・夜食用に残しておくから・・・仕事は、ちゃんとするように・・・」


 ヤレヤレと内心で肩を竦めながら、レイモンドに囁くと、子供のように嬉しそうに顔を綻ばせた。





 食器類をトレイに載せて、厨房に戻るために通路を歩いていたキリュウは、途中で士官とすれ違った。


「3人は、何の話をしていた?」


 すれ違いざま、士官は、そう問いかけて来た。


 その士官は、以前キリュウに、第1海兵隊の事を告げた人物だ。


 ただ・・・何となくではあったが、彼とは、あまり関りを持ちたく無い・・・そんな気がしていた。


 彼らは極秘裏に、スペース・アグレッサー軍に個人的な恨みを持つ者たちを集めて、何かを画策しているらしい。


 キリュウも、兄や第1海兵師団の事で、スペース・アグレッサー軍に憎しみは持っている。


 しかし、だからといって安易に彼らの誘いに乗るべきでは無いと思っている。


 第一、詳しい事は、何も教えられていないのだ。


 信用出来ない。


 キリュウの場合、レイモンドと個人的に親しいと、周囲に認知されているから、キリュウの口から、レイモンドに情報が流れる可能性があるから、そう簡単には話せないという事かも知れないが・・・


 だが、そんなコソコソと、悪巧みをしているような態度が、個人的に気に入らない。


 そのため、あれから何度か世間話に託けて話し掛けてくるが、基本、無視を決め込んでいる。


「別に・・・他愛の無い世間話くらいしかしていない。それに、俺みたいな下っ端の前で、重要な話をする訳無いだろう」


 素っ気無い口調で、キリュウは答える。


「フン。戦場では多くの兵士たちが、敵の銃口の前に斃れているというのに・・・呑気なものだ」


 士官は、吐き捨てるような口調で、つぶやく。


「・・・別に、いいだろう。アンタたちだって、休憩くらいするだろう」


「・・・相変わらず、可愛げが無い物言いだが・・・まあ、いいだろう・・・だが、現実は君が思っているより、ずっと深刻だ」


「・・・・・・」


「本国では、ハワイだけでは無く、ヨーロッパ、北アフリカ、東南アジアでの戦況の悪化に、国民の講和を望む声が、大きくなりつつある。恐らく、近いうちに停戦・・・撤退の命令が下るかもしれない。そうなれば、我々は何の戦果も挙げないままの帰還・・・という事になるだろうね。そうなれば、当然、4ヵ国連合軍総司令部は、責任を追及されるだろうね。総司令官であるニミッツ提督は、良くて解任と降格。悪ければ軍法会議。幕僚たちも、連座で同様な措置が、取られるだろうね」


「レイモンドは、頑張っている!レイモンドが立てた作戦で、スペース・アグレッサー軍ゴーストフリートの軍艦を、沈めたじゃないか!」


 思わずキリュウは叫んだ。


「1隻だけ・・・それで、国民が納得すると思うのかい?」


「・・・・・・」


「ここだけの話だが、陸海軍省と連邦政府関係者の極一部の、お偉いさんは、大日本帝国と開戦する以前から、スペース・アグレッサーと言われている者たちが、実は、自分たちの子孫らしいという事を掴んでいた・・・という噂がある。もちろん、真偽は不明だがね。マスコミの中には、嗅覚が鋭い連中もいる。もしも、その連中が、この噂を嗅ぎつけて、疑惑として書き立てたらどうなるだろうかね・・・」


「・・・・・・」


「当然、政府も軍関係者も、火消しに躍起になるだろう。そうなれば、国民の目を疑惑から逸らすための、犠牲の羊が必要になる訳だ」


 士官は無表情であったが、キリュウは、嫌な予感を覚えた。


「まさか・・・」


「そうだね。君が慕っている、ラッセル少佐あたりは、階級的にも手頃かもしれない。彼は1度、スペース・アグレッサー軍の捕虜になっているという事実がある。そのお蔭で、色々な情報を持ち帰って来たけれど、逆に、スペース・アグレッサー軍のスパイとして、太平洋艦隊に潜入していたのでは・・・なんてね。いわゆる悪魔の証明と、いうやつだね。そうだという証拠も無いが、違うという証拠も無い。でっち上げの方法なんて、いくらでもある。権力者という奴は、自分たちの名誉と権力を守るためなら、何でもするだろう」


「そんな・・・」


 キリュウは、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。


「だから、そうならないようにするための方法はある。以前、君にも言ったが、我々の計画している作戦が成功すれば、講和の目は無くなる。そうなれば、ラッセル少佐にも、ゴーストフリートを殲滅するというチャンスが、再び与えられるかもしれない・・・」


「・・・・・・」


 士官の言葉は、悪魔の囁きのように感じられる。

 薄明光線 第9章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は10月12日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  鼠小僧を思い浮かべるとパワースポットとして有名で、ギャンブラー達から墓石が削られるという話が浮かんできました。あまりにも削られるので、お墓の手前にある「お前立ち」の石…
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