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薄明光線 第7章 生と死の境界線 3 虚々実々

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 第1航空艦隊第10戦隊に所属する、[利根]型航空巡洋艦[筑摩]から発艦した零式水上偵察機は、出撃して来た米英独伊連合軍連合海軍の空母機動部隊の捜索を行っていた。


「いないな・・・」


 操縦席に座る機長が、つぶやく。


「いません」


 後部座席に座る偵察員が、それに答える。


「今回は、外れかもしれません・・・」


 真ん中に座る爆撃員が、答える。


「いや!上の判断は、正しい。必ず、この海域にいるはずだ!」


 機長は、自信のある口調で、断言する。


「その自信は、どこから来るのやら・・・」


 一番後ろの席に座っている偵察員が、答える。


「司令部の言う事は絶対だ。絶対に正しい!」


 機長が、後ろに顔を向けながら、部下たちに言った。


 彼の自信は、根拠の無いものではあるが、敵空母機動部隊が接近している事は、確実である。


 それは、聯合艦隊司令部が軍令部を経由して、新世界連合軍連合防空軍宇宙防衛軍麾下の偵察衛星が、空母機動部隊を捉えたという情報を得たからだ。


 残念ながら、偵察衛星の寿命を長持ちさせるために、長時間の偵察は行われなかったが、聯合艦隊司令部には、それだけの情報だけでも、ありがたい事であった。


 だが、機長たちに、そのような特殊な情報が、もたらされる事は無い。


 知らされているのは、各戦隊司令官及び艦長クラスのみであるため、詳しい内容はそれ以外には伝えられない。


「!?」


 機長は、嫌な気配を察し、操縦桿を右に倒した。


「うわぁ!?」


「おおぉ!?」


 後部座席に座る2人の搭乗員たちが、驚きの声を上げる。


 零式水上偵察機が、急に右旋回した後、上方から機銃弾の攻撃を受けた。


「機種を確認しろ!」


 機長が、偵察員に叫ぶ。


「了解!」


 偵察員が、上方に顔を向ける。


「あれは・・・」


 偵察員が、雲の合間から現れた機を、確認した。


「シーファイアです!」


「という事は、イギリス海軍の空母機動部隊か!?」


 機長は、予めに教えられていた情報と、今の情報を照らし合わせる。


「どうやら、上の予想は、当たっていたぞ!」


 2機のシーファイアが急降下し、零式水上偵察機を追跡する。


「機長!ただちに、第10戦隊に連絡します!」


「おぅ!!」


 偵察員は、すぐに第10戦隊に所属する、航空巡洋艦[筑摩]に連絡した。


「機長!![筑摩]より、ただちに、帰投せよ。との事です!!」


「わかった。だが、それは敵空母機動部隊を、発見してからだ!」


「わかりました!!」


「必ず見つけましょう!!」


 後部座席に座る2人の搭乗員の返答を聞くと、機長は、零式水上偵察機を増速させた。


 零式水上偵察機は、水上機であるため、速度、加速力は不足しているため、シーファイアの速度、加速力には敵わない。


 しかし、操縦席に座る機長の操縦技術は高い。


 シーファイアが射線を確保した段階で、ギリギリで右か左に急旋回するため、シーファイアも、うまく照準を合わせる事ができない。


「どうやら、敵機の搭乗員は飛行時間が短いようだな。この程度の回避飛行にも、ついて来られないようだ」


「機長!敵空母機動部隊を、発見しました!」


 偵察員が、叫ぶ。


「艦種を、確認しろ!」


 機長の言葉に、偵察員は記憶を探る。


 偵察員は、この日のために軍令部が作成した、各国海軍の艦船のシルエットを頭に叩き込んでいる。


 しかし・・・


「わかりません!2隻の正規空母は、軍令部が把握していない新造艦です!」


「なにぃ!?」


 その時、右の主翼に機銃弾が被弾した。


「わかった。ただちに、第10戦隊[筑摩]に連絡!」


 機長の指示で、偵察員が緊急連絡をする。


 回避飛行をしていると、被弾した主翼に無理がかかったのか、主翼が折れた。


「連絡が、完了しました!」


 主翼が折れたと同時に、偵察員が報告を終えた事を告げる。


 そのまま零式水上偵察機は、海上に激突した。





 米英独伊連合軍連合海軍イギリス海軍第5空母機動部隊旗艦である、[インプラカブル]級航空母艦[インプラカブル]の艦橋では、司令官の少将が紅茶を飲んでいた。


「提督」


 先任参謀が、報告する。


「敵の偵察機に、発見でもされたか?」


 少将は、ティーカップを受け皿に置いた。


「サー、その通りです」


 少将にしてはかなり若いが、優秀な指揮官である。


 上級貴族階級の出身ではあるが、平民階級や下級貴族出身の将兵に対して、格下と見下す事は無く、常に彼らの立場になって物事を考える海軍軍人である。


 そのため、部下からの信頼が、非常に厚い。


 少将は、ティーカップをテーブルに置くと、シェフが用意したスコーンを口に運ぶ。


「先制権を、奪われたな。こちらの偵察機は敵空母機動部隊を、未だに発見していない・・・」


「その通りです。提督」


 少将は、上級貴族出身であるため、貴族特有の相手の考えを見抜く能力が高い。


 相手が何を話したいのか、表情を見るだけで、わかるのだ。


「提督!」


 航空参謀が、飛び込んできた。


「ついに見つけたか?」


 少将が、顔を向ける。


「サー!敵空母機動部隊を、発見しました!」


「ゴーストフリートか?大日本帝国海軍か?」


「大日本帝国海軍の、第1航空艦隊です!」


「そうか・・・」


 少将は、残念そうな顔をした。


 海軍軍人である以上、より強い相手と戦いたいと思うのは、武人として本望である。


 それも、スペース・アグレッサー軍ゴーストフリートであれば、なおさらだ。


[インプラカブル]級航空母艦は、[インドミタブル]級航空母艦に改良を加えて、設計された新造艦である。


 大日本帝国本土の戦いに参加した、[イラストリアス]級航空母艦を、発展させた空母である。


 残念ながら、[インプラカブル]級航空母艦に乗艦する操艦要員及び航空要員たちは、スペース・アグレッサー軍ゴーストフリートの戦いに、参加した経験のある者はいないが、士気は極めて高い。


「だが、第1航空艦隊は、大日本帝国海軍が開戦前に編成した空母機動部隊である。そんな空母機動部隊と戦えるのは、大変名誉な事である」


 少将が、司令官席から立ち上がる。


「必ずや我々の手で、第1航空艦隊を撃滅する」


「「「サー!」」」


 参謀たちが、答える。


「攻撃隊発艦準備!」


 少将の命令で、第5空母機動部隊に所属する正規空母[インプラカブル]、[インディファティカブル]、[フォーミダブル]の、3隻の空母から攻撃隊の発艦準備が行われていた。


 艦載機数は、205機であるが、度重なる出撃で、90機近い艦載機が撃墜されているため、現有の航空戦力は110機程度である。


「提督!クリスマス島より、緊急連絡です!」


「壊滅したのか?」


 少将は、またもや相手の言おうとする事を読んだ。


「サー。レシプロ攻撃機の攻撃の後、ジェット攻撃機の攻撃を受けて、島の航空戦力等は壊滅しました。基地の通信隊の報告では、上陸部隊の接近が確認されています。ただちに、島の防衛を目的とした、攻撃隊の出撃を要請する。との事です」


 通信参謀の報告に、少将は、即答した。


「その必要は無い!」


「そうですね。まずは、敵空母機動部隊の撃滅が先です」


 参謀たちも、少将の判断に納得した。





 第1航空艦隊独立旗艦[神武]の艦橋では、通信参謀が敵空母機動部隊を、偵察機が発見した事を報告した。


「水偵は、どうなった?」


 山口は、聞くまでの事の無い事を、通信参謀に聞いた。


「空母機動部隊の位置及び空母の数を報告してから、一切の連絡がありません」


 通信参謀の報告に、山口は長官席に深く腰掛けた。


 零式水上偵察機は、長距離偵察機であるが、最大速度は370キロメートルと遅く、空母機動部隊の防空及び警戒を行う迎撃戦闘機に見つかれば、簡単に撃墜されてしまう。


 特に、電探が高性能化しているため、零式水上偵察機が艦隊に接近すれば、簡単に探知され、すぐさま迎撃戦闘機が上がって来る。


 本来の零式水上偵察機の任務は、艦隊周辺の哨戒及び警戒である。


 今回のような偵察任務は、九七式艦上攻撃機を偵察機に改造した、九七式艦上偵察機が行うようになっている。


 何故、零式水上偵察機を偵察任務に参加させたかというと、九七式艦上偵察機に、自分たちの任務を取られた(・・・と、考える)、零式水上偵察機の搭乗員たちから寄せられた嘆願書の量が、あまりにも多かったからだ。


「参謀長」


「はい」


「これ以上の偵察を行わせる必要は無い。全機に帰投命令を出せ」


「はっ!」


「敵機!予想到達時刻まで、30分!」


 航空参謀が海図を見ながら、敵空母機動部隊から出撃する攻撃隊の予想到達時刻を、計算する。


「長官。五航戦に、攻撃隊発艦を命令しましょう」


 参謀長が、具申する。


「第五航空戦隊、空母[飛龍]より、通信!攻撃隊発艦準備完了!」


「五航戦も、やる気満々だな」


 山口は、笑みを浮かべた。


 彼は立ち上がり、参謀たちに顔を向けた。


「五航戦、空母[飛龍]に通信、攻撃隊、発艦せよ!」


 同時に山口は、空母[神武]に温存されている残りの攻撃隊も、発艦させる指示を出した。


「いいか、別の歴史の中のミッドウェー海戦の悲劇を、この時代で繰り返しては、いけない!帝国海軍の面子にかけて、必ずや我々だけで、敵空母機動部隊を叩く!!」


「「「はい!!」」」


 山口の訓示に、参謀たちが返事をする。


「長官。1つよろしいですか?」


 航空参謀が、手を挙げる。


「何だ?」


「空母機動部隊は、本当に・・・これだけでしょうか?」


「何だと?」


「敵の動きに、疑問を感じます。何故、足の遅い水偵を、艦隊に接近させたのでしょうか?」


「それは敵が、油断をしていたのでは無いか?」


 別の参謀の言葉に、航空参謀は首を振る。


「その可能性は低いでしょう。米英独伊連合軍連合海軍空母機動部隊の艦載機は、ハワイ・オアフ島での激戦で、かなり消費しているはずです。これ以上損耗する事は、許されない・・・それこそ、全力で我々を潰しにかからねば、今後の戦闘を続ける事が出来なくなり兼ねない。それなのに空母機動部隊は、1個だけ・・・これは明らかに、おかしいでしょう?」


「だが、クリスマス島での通信を傍受した内容を、貴官も聞いただろう。空母機動部隊は、1個だけだ」


「それが、そうでも無いのです」


 今度は通信参謀が、口を開いた。


「あの通信なのですが、怪しい部分がありました」


「怪しい部分?」


 山口が、通信参謀に顔を向けた。


「はい、あの通信は、最初から我々に傍受させるために使った、通信内容のようなのです」


 それを聞いて、山口の疑問は確信に変わった。


 山口自身も、これまで入手した敵軍の情報が、怪しいと思っていた。


 だが、確証が無い以上は、部下に余計な心配や不安を与えないようにするため、疑問を口にする事をしなかった。


「第4航空艦隊及び第1艦隊に連絡!敵空母機動部隊は、囮の可能性がありだ!」


「はっ!」


 山口の言葉を通信参謀が復唱し、挙手の敬礼をした。





「提督!」


 戦艦[モンタナ]の艦橋で、[モンタナ]級戦艦[モンタナ]と、[オハイオ]の2隻を基幹とする戦艦部隊の司令官であるブレット・アリスター・スコット少将が、先任参謀に呼ばれて、目を開いた。


「あ、居眠りをしていたようだ・・・」


「お休みのところ、申し訳ございません」


 先任参謀が、詫びる。


「いや、かまわない」


 スコットは、従卒にコーヒーを持ってくるように言った。


「はい、只今!」


 従卒の兵卒が、食堂に駆け出す。


「それで?」


 スコットは、先任参謀に顔を向けた。


「何か緊急の要件か?」


「サー。敵は、我々の作戦に気付いたようです。第1航空艦隊から暗号通信が発信され、その暗号通信を解読したところ、彼らに攻撃を仕掛けるイギリス海軍の空母機動部隊は、囮の可能性ありという、注意喚起の内容でした」


「そうか・・・やはりな」


 スコットは、司令官席から立ち上がった。


「敵の司令官、タモン・ヤマグチ中将は、稀代の名将だ。イソロク・ヤマモト大将が、これからの海戦は戦艦では無く、空母が主力となると主張した時代から、その主張を理解し、空母の重要性を強固に主張した。10年先の未来を見抜く力がある。そんな指揮官が相手だ。我々の小細工など、簡単に見抜くだろう」


「それでは作戦を、中止しますか?」


「いや、継続だ」


 スコットは、艦橋の窓から海上を見下ろした。


「戦艦[ヤマト]との決着を、ここで付ける。報告によればスペース・アグレッサー軍ゴーストフリートの戦艦[ミズーリ]が、現れたそうではないか、それに対し、こちらも戦艦[ミズーリ]を投入した。海戦の結果は、我々の敗北だった。これ以上の敗北は許されない。このまま敗北が続けば、我が海軍の面子が潰れるだけでは無く、この戦争に対する国民の意識も変わってしまう」


「提督。コーヒーを、お持ちしました」


 従卒が、トレイにコーヒーとアップルパイを乗せて、現れた。


「頼んだのは、コーヒーだけだったはずだが?」


「料理長が、眠気を吹っ飛ばすにはコーヒーだけでは無く、甘いものも必要との事です」


「そうか、さすがに料理長だ」


 戦艦[モンタナ]に勤務する料理長は、スコットが下級士官だった頃からの付き合いだ。彼は、料理一筋であり、何かと世話になった。


「どうぞ」


 従卒が、トレイをスコットの前に出す。


「ありがとう」


 スコットは、コーヒーを啜る。


 さすがに30年の付き合いだけあって、コーヒーの味もスコットの好みである。


 ミルクや砂糖も、絶妙なバランスで淹れられている。


「では、アップルパイも頂く事にしよう」


 スコットはフォークを持って、アップルパイを口に運ぶ。


 これも、絶妙な甘さ加減だ。


「みなさん。コーヒーとデザートを用意しました」


 料理長と、厨房員たちがトレイを持って、艦橋に現れた。


 参謀たちや士官たちに、コーヒーとアップルパイを提供した。


「これから大規模な海戦が待っています。士官様たちの頭が冴えてないと、海戦には勝てません。どうか召し上がって下さい」


 アフリカ系アメリカ人の、料理長が告げた。


 参謀たちは、トレイを受け取り、スコットが一押しする料理長が作った、コーヒーとアップルパイを楽しむのであった。


「なかなかいい味だな。隠し味は何だ?」


 艦長が、聞く。


「それは秘密です」


 料理長が答える。

 薄明光線 第7章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は9月28日を予定しています。

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