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薄明光線 第6章 生と死の境界線 2 艦上爆撃機[彗星]出撃

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 第1航空艦隊は、ミッドウェー諸島とハワイ諸島の中間海域から、南下を開始した。


 南下を開始した頃、中間海域は低気圧に覆われる。


「随分と天候が、荒れているな」


 山口が、艦橋の窓に叩きつける雨粒を見ながら、つぶやく。


「はっ!菊水総隊司令部からの報告では、低気圧は、ここだけでは無く、作戦海域にも発生しているそうです」


「そうか・・・」


 この低気圧は、台風程では無いが、それに匹敵する勢いがある。


「神風か・・・」


 山口が、つぶやく。


「は?」


「開戦以来、何度か台風やそれに匹敵する低気圧が発生した。その度に我が陸海軍は、勝利を収めて来た。しかし、今回は、どちらに傾くかな」


「・・・・・・」


 山口の言葉に、参謀長は、何も言わなかった。


 今回のクリスマス島攻略作戦は、大日本帝国海軍の独自作戦である。


 そのため、菊水総隊、新世界連合軍等の支援は、一切無い。


(これまでの我々は、運命の女神に逆らって、作戦行動を行った。それは彼らの支援下でこそ、実行出来たのだ。しかし、今回は、それが無い・・・)


 山口は、部下に知られないように、弱音を心中で吐露した。


 第1航空艦隊は、開戦前に編成された、正規の空母機動部隊である。


 そのため、艦上戦闘機、艦上攻撃機、艦上爆撃機等の搭乗員の練度は高い。


 だが、どんなに練度が高くとも、運命には逆らう事は出来ないと、誰かが言った事がある。


 それに逆らう権利が与えられたのは、菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群と、行動を共にしているからだ。


(もっとも、運命も、新たな方向に行ったかもしれんな・・・)


 山口は、新たな結論を導き出す。


「聯合艦隊司令部より、暗号通信を受信しました!」


 通信兵が、報告する。


「読め!」


 通信参謀が、叫ぶ。


「はっ!」


 通信兵が、電文を読み上げる。


「米英独伊連合軍連合海軍司令部は、我が海軍のクリスマス島攻略作戦を察知し、アメリカ海軍の正規空母3隻、軽空母2隻を基幹とする空母機動部隊を、クリスマス島に急行させています。さらに、アメリカ海軍の戦艦[モンタナ]を基幹とする戦艦部隊も、クリスマス島攻略作戦に参加する上陸部隊を乗せた揚陸艦隊を、撃滅するための作戦行動についた。との事です」


 通信兵の報告に、山口は、司令長官席に座り直した。


「敵空母の位置は?」


「今だ、不明です」


 通信兵が、報告する。


「航空参謀」


「はっ!」


「五航戦に連絡。攻撃隊は、敵空母攻撃のために、雷装及び爆装せよ」


「はっ!」


「彼らの史実にある、ミッドウェー海戦の時のような不始末は、断じてしてはならない」


「長官。念のために、第1護衛航空戦隊に連絡して、上空警戒機の数を増やそうと思いますが、どうでしょうか?」


「許可する」


 山口が、うなずく。


「長官。そろそろ」


「?」


「夜食の時間です」


「おお。もう、そんな時間か」


 山口は、立ち上がった。


 艦橋に設置されている時計も、夜食時間を指している。


 山口は、参謀たちを連れて、作戦室に移動した。


 基本的に大日本帝国海軍では、朝食、昼食、夕食、夜食という4食態勢である。


 作戦室に入った時には、主計課の水兵たちが、夜食を準備していた。


「今日の夜食は、お茶漬けか」


 梅干しが1個乗せられた状態で、湯気を上げるお茶漬けが、テーブルの上に置かれていた。


「では、いただこう」


 山口が、手を合わせた。


 いつもの通り、大食いである彼のお茶漬けは、他の者に比べると、かなりの大盛である。



 空母[神武]の飛行待機室でも、主計課の水兵たちが、夜食であるお茶漬けの準備をしていた。


 神武飛行隊戦闘機隊隊長である斧田(おのだ)敬一(けいいち)少佐は、トレイを持って主計課の水兵が、お茶漬けを配るのを待った。


「お茶です」


 冷たいお茶が入った湯飲みが、トレイに置かれる。


「ご飯は、大盛ですか?小盛ですか?」


「普通で頼む」


「わかりました」


 海軍将兵は、常に身体を動かすのが仕事である。


 艦上機の搭乗員だからといって、空を飛ぶだけでは無い。


 体力維持等のために、常に運動している。


 そのため、身体は常に栄養を求めている。


  斧田は、大食いでは無い。


 大食いでは無いが、小食でも無い。


 そのため、一般的な平均的な量の食事しかしない。


「どうぞ」


 熱いお茶漬けが、トレイに置かれた。


 斧田は椅子に腰かけると、テーブルの上にトレイを置いた。


「少佐殿。隣、よろしいですか?」


 中尉の階級章をつけた、飛行士官が声をかけてきた。


「いいぞ」


「ありがとうございます」


 中尉は、テーブルにトレイを置いて、椅子に腰かける。


「珍しいな」


「何がでしょうか?」


「普通は、同じ隊の隊員同士で食事をするが、今回は違うのか?」


「はい、たまには違う感覚で、食事をしたいものなので・・・」


 斧田は、茶碗を持って、お茶漬けを啜る。


 中尉も箸で梅干しを掴み、梅干しを口の中に入れる。


「おお。この梅干しは、とても美味いですね」


「いつもの味だろう?」


 斧田が、肩を竦める。


「いえ、そんな事はありません。自分も地上飛行隊や、加賀飛行隊に勤務していましたが、梅干しの味は、その場所、その場所で、違います」


「そうなのか」


 そんな事を気にした事が無かったが、わかる奴にはわかる・・・というものか。


(たしか、前にも米の味が違うと言った、兵曹がいたな・・・)


 米に関しては、各鎮守府経由で得意先の農家から購入しているため、鎮守府が違えば米の味も違うだろうと思うが、同じ鎮守府に属する艦艇でも米の味が違うそうだ。


 その事について、興味が出た斧田は、主計課の士官に聞いた事がある。


 すると、主計課の士官は・・・


「単に、各艦艇での保存態勢の環境が、違うのでしょう」


 彼の説明によれば、米の保管態勢は各艦によって異なるものだ。


 そのため、保管場所の湿度や温度等で、米の味が微妙に変わるそうだ。


 嘘か本当か、わからないが・・・


 真珠湾攻撃及びハワイ攻略作戦で、洋上補給の回数を可能な限り減らすため・・・特に駆逐艦は、可能な限りスペースを確保して、重油が入ったドラム缶を積載した。


 そのため、兵員室には常に重油の臭いが充満していたそうだ。


 それだけでは無く、出された食事の味や匂いにも、重油の臭いが混じっている・・・という何とも笑えない話があったという。


「だが、どこの艦も、味は一流だ」


 斧田は、お茶漬けに付けられている漬物を口に運んだ。


「やはり、漬物が一番美味い」


 斧田は、漬物が一番好きなのである。


 漬物だけで、ご飯が何杯もすすむ、というレベルだ。


 中尉は、お茶漬けを全部食べると、漬物を食べ始めた。


「中尉」


「はい?」


「漬物を食べる時は、食事の終わり頃に食べると一番美味いぞ」


「そうなのですか?」


「ああ。そうだ」


「自分は、いつも最初に食べていましたから、一番美味しい時を逃していたのですね」


 これは、人それぞれであるが、基本的には漬物を食べるのは、食事の最初か、終わった後に食べるという者に、分かれる。


 中には、途中で食べる人もいる。


 しかし、これはあくまでも個人の嗜好の差であって、どのタイミングで食べても味は同じである。





 早朝を迎えたと同時に、第1航空艦隊独立旗艦の空母[神武]は、慌ただしい空気になっていた。


「菊水総隊空軍の無人偵察機が、クリスマス島及び周辺海域を偵察しました!」


 通信兵が、報告する。


「基地、駐機場には、離陸態勢の戦闘機部隊が待機しています!さらに、クリスマス島周辺空域に警戒機及び索敵機が展開しています!」


 いくら大日本帝国海軍の独自作戦と言っても、菊水総隊や新世界連合軍等が、まったく支援をしない訳では無い。


 このように、偵察活動や警戒活動は、行っている。


「空母の位置は?」


 山口は、司令長官席に腰掛けたまま、通信参謀に聞いた。


「いえ、周辺海域には展開していない様子です。菊水総隊海軍航空隊や新世界連合軍連合海軍航空隊の対潜哨戒機が、偵察飛行していますが、発見の報告はありません」


 通信参謀が、報告した。


「わかった。先にクリスマス島への、航空攻撃をかける。一航戦に信号!ただちに、攻撃隊発艦!」


 山口の指示を、通信参謀が復唱して、発光信号で、第1航空戦隊、空母[赤城]、[加賀]の2隻に、攻撃隊出動命令が下された。





「山口司令長官より、出撃命令が下った。ただちに、諸君等は出撃し、クリスマス島の航空兵力を無力化し、制空権を確保せよ!後方には陸軍の玉田支隊が待機中である。必ず、我ら[赤城]及び[加賀]の攻撃隊で、同島の航空戦力を無力化しなければならない。以上だ!」


 空母[赤城]の飛行長が、赤城攻撃隊の搭乗員たちに訓示を行う。


 訓示を終えると、攻撃隊搭乗員及び航空戦隊司令官([赤城]のみ)、艦長以下の士官たちに、盃が渡された。


 盃には少量の日本酒が注がれている。


「諸君等の成功を、祈る!」


 司令官である少将が盃を高く掲げ、攻撃隊の搭乗員たちに叫んだ。


 攻撃隊の搭乗員たちも盃も高く掲げ、頭を下げた。


 その後、盃に入った日本酒を一気に飲んだ。


 攻撃隊の搭乗員たちが日本酒を飲み干すと、盃を返し、それぞれの搭乗機に乗り込んだ。


「代わります!」


 整備兵が操縦席に座り、発動機を始動させている。


「エンジン、快調です!」


 整備兵が報告し、搭乗員と代わる。


 搭乗員が操縦席に腰掛けると、最後の確認を行う。


 整備兵が最後の確認をしただろうが、搭乗員も発艦前の最後の確認を行う。


 計器類、主翼、尾翼という順で確認を行う。


 最後の確認を終えると、赤城攻撃隊の隊長機に搭乗する隊長が、手で発艦する事を伝える。


 誘導員が旗を降ろして、発艦せよ、という合図を出す。


 隊長機が飛行甲板を滑走し、そのまま空母[赤城]から発艦する。


 隊長機の発艦が完了したら、後続機が次々と発艦する。


 司令長官である山口多聞中将の訓練により、第1航空艦隊の艦載機搭乗員たちは、15分以内に全機発艦させる事ができる。


 空母[赤城]及び[加賀]から、クリスマス島攻撃に参加する攻撃隊が、全機発艦した。





「さすがに、うちの攻撃隊は早い」


 山口が双眼鏡を覗きながら、第1航空戦隊、空母[赤城]、[加賀]の攻撃隊が発艦する光景を見届けた。


「長官」


 航空参謀が、声をかける。


「何だ?」


「神武第1次攻撃隊、全機発艦しました」


 航空参謀が、報告する。


[神武]型航空母艦の艦載機搭載数は、102機である。


 そのうちの90機が、艦上戦闘機、艦上攻撃機、艦上爆撃機である。


 山口は、半数の45機の攻撃隊に、陸上攻撃用の爆装を命じていた。


 45機で編成された第1次攻撃隊は、クリスマス島攻撃のために出撃したのである。





 第1航空戦隊、空母[加賀]から発艦した艦上爆撃機である[彗星]。


[彗星]は、史実でも登場した艦上爆撃機であるが、史実に登場した[彗星]とは大きく異なる。


 未来の技術提供等により、かなりの改良が行われた。


 どちらかというと、彗星四三型に相当する。


 史実に登場した彗星四三型は、一般的に特別攻撃機仕様として認知される事が多い機種であるが、未来の技術提供により開発された彗星四三型仕様機は、特攻機としての仕様では無い。


 オリジナル彗星四三型と異なり、後部座席は廃止されていない。


 防弾性能は、軽量化防弾板が導入されたため、防弾能力は、オリジナルよりも強化されている。


 爆弾倉扉が廃止されたため、直接爆弾を主翼下又は胴体下に搭載するしか無いが、搭載能力は、800キロ爆弾であれば1発、500キロ爆弾であれば2発、250キロ爆弾であれば4発を搭載できる。


 最大搭載量1トンであるが、いくらエンジンが強化され、軽量化防弾装甲板を搭載しても、かなりきついのが現状だ。


 そのため、1トンまで爆弾を搭載しないという事が、決められている。


 空母[赤城]及び[加賀]から発艦した[彗星]は、250キロ爆弾2発と150キロ爆弾2発を搭載している。


「機銃手!まもなく、クリスマス島だ。後方の警戒をしっかり頼むぞ!」


「はい!任せて下さい!」


 機長の言葉に後部座席に座る機銃手が、インカムのボタンを押しながら、答える。


「敵機だ!」


 機長のインカムに、前衛に配置されている戦闘機隊指揮官の声が響く。


「爆撃機各機へ、敵の迎撃戦闘機が現れた。迎撃戦闘機は、[海鷹]が対処するが、完全では無い。後方に注意しろ!」


 爆撃隊指揮官の声が響く。


[彗星]の後部座席には、後上方を狙える旋回式七.七粍機銃が搭載されている。


 七.七粍機銃弾では、後方から迫る敵戦闘機の装甲板を貫通する事はできないが、風防ガラスに命中する場合もある。


 風防ガラスに命中すれば、搭乗員の命は無い。


「頼むぞ。敵機を、俺たちに近付けないでくれ」


[彗星]に搭乗する飛行兵曹が[海鷹]の奮戦を見ながら、つぶやく。


 突如として、空から白い尾を引く飛行物体が見えた。


「誘導噴進弾です!」


 後部座席に座る機銃手が叫ぶ。


「ああ、見えている」


 その誘導噴進弾は、迎撃に出動した米英独伊連合軍連合空軍の戦闘機を完全に捕捉した。


 敵戦闘機も誘導噴進弾に気づき、回避飛行するが、回避出来ず、そのまま木の葉のように火の塊にされた。


 誘導噴進弾を発射したのは、菊水総隊航空自衛隊でも無ければ、新世界連合軍連合空軍等では無い。


 超空母[回天]から出撃した、F-14[隼]である。


 独立旗艦空母[神武]、第1航空戦隊空母[赤城]、[加賀]の攻撃隊に所属する戦闘機部隊と、超空母[回天]から出撃した噴進戦闘機の援護下で、爆撃隊は、クリスマス島に近付いた。


「見えた!」


 飛行兵曹が、操縦席からクリスマス島を確認した。


「これより、爆撃を開始する!全機、我に続け!!」


 隊長機が、急降下を開始した。


「行くぞ!」


「はい!」


 飛行兵曹の番となり、操縦桿を押し込む。


[彗星]の機首が、島に向く。

 薄明光線 第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は9月21日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  小説を読むとき、イラスト、漫画、映像(アニメまたは実写)を想像しながら読んでいるのですが、ミリオタではないので戦闘機や戦艦などの形が判らずボンヤリした形の飛行機や船で…
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