薄明光線 第5章 生と死の境界線 1 クリスマス島攻略作戦
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
大日本帝国海軍聯合艦隊空母機動部隊第1航空艦隊独立旗艦の[神武]型航空母艦1番艦[神武]の作戦室で、第1航空艦隊司令長官である山口多聞中将は、配下の参謀たちと第1航空戦隊司令官及び参謀たち、第5航空戦隊司令官及び参謀たちを集めて、作戦会議を開いていた。
他にも、駆逐隊司令及び戦隊司令官たちが、顔を揃えている。
山口の隣に、聯合艦隊参謀長の桜川典則少将が、座っている。
「第1航空艦隊に、新たな作戦が、聯合艦隊司令長官の命令で発令された」
桜川は、各航空戦隊司令官、戦隊司令官、水雷戦隊司令官、駆逐隊司令の顔を見回しながら口を開いた。
「新たな作戦は、ライン諸島のクリスマス島攻略である」
桜川の言葉に、司令官たちや参謀たちは、動揺しなかった。
戦略的に考えれば、それが当たり前であるからだ。
クリスマス島には、米英独伊連合軍連合空軍の戦略基地が置かれており、戦略爆撃機や戦術爆撃機だけでは無く、長距離戦闘機等が離陸し、オアフ島への攻撃を実施している。
もちろん、その度に、オアフ島パールハーバー・ヒッカム統合基地や、ミッドウェー島航空基地や、菊水総隊空軍や新世界連合軍連合防空軍から要撃戦闘機が離陸し、迎撃を行っている。
「諸君等も知っての通り、新世界連合軍連合海軍第1艦隊司令部指揮下で、空母連合艦隊が編成され、作戦行動に入る準備段階だ。このままいけば、我が聯合艦隊の出番は無くなる。聯合艦隊司令部は、統合作戦本部を経由して、今回の作戦を我々だけで行う事を、新世界連合軍に掛け合った」
クリスマス島攻略作戦は、当初、空母連合艦隊による航空攻撃だけで、完全に無力化する事が決まっていたが、聯合艦隊司令部は統合軍省経由で、新世界連合軍及び統合省防衛局統合幕僚本部を説得した。
そこで、ハワイ方面の総指揮を行う山縣幹也海軍大将の責任で、聯合艦隊に任せるか、否かを、決断させた。
山縣は、この攻略作戦を大日本帝国陸海空軍に一任する事を、決めた。
「我々の作戦目標は、クリスマス島攻略ではあるが、恐らく、同島防衛のために米英独伊連合軍連合海軍は、空母機動部隊を投入するだろう。できれば、この空母機動部隊を撃滅して欲しい。欲しい・・・というのは、作戦目標が2つになるからだ。諺にも『二兎を追う者は一兎をも得ず』というのがある。諸君等も知っての通り、彼ら、未来人の記録にあるミッドウェー作戦では、ミッドウェー島攻略と、空母撃滅という2つの作戦目標を掲げて、失敗した。そのため、無理にとは言わない・・・というより、言えないのだ」
桜川の言葉に、航空作戦を指揮する第1航空戦隊と、第5航空戦隊の司令官及び参謀たちは、顔を見合わせた。
作戦上・・・不可能では無い。
しかし、敵も馬鹿では無い。
当然、クリスマス島攻略作戦が行われる事は、想定しているだろう。
完全な防衛態勢を構築した状態で、防衛戦を挑んで来る。
さらに、空母機動部隊だけでは無い。
戦艦部隊も、展開しているだろう。
それらの障害を除きながら、2つの作戦目標を同時に達成するのは、極めて困難だ。
もちろん、出撃するのは、自分たちだけでは無い。
第4航空艦隊や、空母機動部隊独立旗艦である、超空母[回天]も参加する。
作戦の成功率は高い。
「五航戦」
これまで黙っていた山口が、口を開いた。
「はい」
「五航戦の空母[飛龍]及び[蒼龍]の艦載機には、魚雷を搭載した状態で待機させろ。いかなる事態が発生したとしても、魚雷から爆弾に変更してはならない」
「わかりました」
山口の言葉に、五航戦の司令官は、うなずいた。
作戦の調整は、参謀たちに任せる事になった。
山口は、桜川を司令長官室に案内した。
「いいスコッチが手に入った。少し飲んで行かないか?」
山口の誘いに、桜川はうなずく。
「いただきます」
桜川の返答を聞き、山口は棚からスコッチが入ったボトルと、グラスを2個出した。
「中立国を経由して、イギリス本国から取り寄せた物だ」
山口が、グラスに氷を淹れて、スコッチを注ぐ。
「どうぞ」
「いただきます」
山口は、スコッチが入ったグラスを桜川に手渡す。
桜川は、スコッチを一口飲む。
「これは、なかなか・・・」
「そうだろう」
イギリスとは、現在戦争中であるため、スコッチを1つ購入するにしてもかなり難しい。
方法としては中立国を通じて購入するというぐらいであり、その分、値段も高騰する。
新世界連合民事局が、さまざまな酒を生産しているため、スコッチ、ウイスキー、ブランデー、バーボン等が簡単に手に入るが、帝国陸海空軍の軍人たちは、そのような酒類よりも生産国で生産されている酒を購入する方を好む。
かなり値が張るが、楽をして購入した酒よりも、苦労して購入した酒の方が、美味いと考えているからだ。
「長官。貴方は、開戦以来ずっとオアフ島にいましたから、話をする機会がありませんでしたが、貴方は、この戦争をどう見ていますか?」
桜川は、スコッチを飲みながら、切り出した。
「私の手元に届くのは、聯合艦隊司令部を経由した事後報告だけだ。直接、その情報を把握できる貴官等とは違う」
山口は、棚の中から報告書の山を、取り出した。
「ハワイ会戦が始まる少し前に、本国で発生した大規模内乱・・・背後には米英独伊が絡んでいるようだが・・・私は、彼らの存在に薄々気付き始めた世間が、不安と恐怖に怯えて、起こした内乱ではないかと考えている・・・」
山口が言っているのは、ハワイ会戦が始まる少し前に、帝都東京府を皮切りに発生した、西南戦争に匹敵する大規模な内乱の事である。
日本革命軍を自称する反乱軍が、中国地方を中心に武装蜂起した。
これに合わせて、大阪、東京等でも反乱軍が武装蜂起する。
同時に、日系人部隊で編制されたアメリカ海兵隊の特殊部隊が、反乱軍と共に宮城を襲撃した。
しかし・・・統合省防衛局自衛隊の統合運用部隊である破軍集団が、治安出動し、陽炎団警備部と共に宮城を守った。
それだけでは無く、破軍集団陸上自衛隊の部隊が反乱軍を鎮圧した。
「南方でも激戦が続いている上に、連合国軍は度重なる敗退により、彼らに従っていた現地民たちの不信感を買い。都市部で武装蜂起した現地民に、暴動鎮圧の名目で攻撃をした。連合国軍は、大規模な鎮圧を行い、完全に現地民からの信頼を失った・・・」
山口の回想に、桜川がうなずく。
「それに付いての噂を、ご存じですか?」
「噂?」
山口が、桜川に顔を向ける。
「彼らは、それらの事態をすべて事前に予想しており、自分たちの政治的発言権を強化するために、敢えて事を起こすように仕向け、それらを利用したのではないかと・・・あくまでも、噂ではありますが・・・」
「その根拠は?」
「これらの事態が発生した時、迅速に行動しているのが、何よりの根拠ではありませんか?」
「・・・・・・」
桜川の言葉に、山口は無言で、スコッチを飲む。
噂は、しょせん噂である。
だが、確たる証拠は無いから疑念は口にはしないが、誰もが思っていても、おかしくはない。
大日本帝国海軍聯合艦隊司令長官である豊田副武大将は、二式輸送回転翼機に搭乗していた。
「長官。超空母[回天]を、視認しました」
機長の声が、ヘッドセットから聞こえる。
豊田が、窓から外を見る。
超空母[回天]が、護衛の駆逐艦と巡洋艦に守られながら、堂々と展開している。
「いつ見ても、巨大だな・・・」
豊田が、つぶやく。
彼が超空母[回天]を見たのは、まだ、新世界連合に属していた[フォレスタル]級航空母艦3番艦[レンジャー]だった時だ。
基準排水量6万トン、満載排水量7万6000トンという[大和]型戦艦に匹敵する、超大型航空母艦である。
豊田は、海軍省の高官と軍需省海軍局の高官たちと共に、[フォレスタル]級航空母艦[レンジャー]を視察した。
大艦巨砲主義者が多かった、海軍省高官と軍需省海軍局高官たちは、完全に度肝を抜かれた。
特に海軍内で、大艦巨砲主義の中心人物であった嶋田繁太郎中将は、完全に戦艦が海戦の主役であるという思想を捨てた(現在は大将に昇進して、軍需省海軍局長官である)。
「着艦します」
機長の言葉に、豊田がうなずく。
二式輸送回転翼機が、高度を下げていく。
超空母[回天]に着艦した二式輸送回転翼機は、甲板作業員たちが迅速に対応して、移動式の階段が設置された。
「捧げ銃!」
「聯合艦隊司令長官豊田副武大将閣下に敬礼!」
セーラー服を着た儀仗隊が、三八式手動装填式小銃を持って、捧げ銃の姿勢をとった。
儀仗隊指揮官の海軍将校が、軍刀を抜く。
大日本帝国海軍聯合艦隊空母機動部隊司令長官の南雲忠一大将が、挙手の敬礼をする。
豊田も、答礼する。
「遠路遥々、ご苦労様です」
南雲が、豊田に声をかける。
「どうだ。超空母[回天]には慣れたか?」
豊田の言葉に、南雲は表情を曇らせる。
「若い連中と比べて、我々、年寄りたちは[回天]の最新機器に手を焼いています」
「貴官は、パソコンの早打ちは出来るか?」
「いいえ」
「そうか。私も似たようなものだ。鉛筆や筆で、書類を書いていた時が懐かしく思う」
豊田の言葉に、南雲は苦笑するのであった。
陸軍もそうだが海軍では、彼らの援助を受けてから書類作成は、すべてパソコンで入力されている。
統合省防衛装備局の話では、自分たちに供与されたパソコンは、すべて旧式の中古品という話であったが、それでも自分たちから見れば最新な物だ。
「若い連中の順応性は、驚く限りだ」
「まったくです。このまま行けば、我々の存在が不必要になります」
「彼らも、同じ事を思っているそうだぞ」
「彼らも・・・ですか?」
「何でも、人工知能とやらが、どんどんと進化しているため、ほとんどの決定が人工知能に変わるそうになるようだ。そのため、彼らも、やがて自分たちの役目は、すべて人工知能に取って代わられるのではないか?と、話しているそうだ」
豊田の話を聞き、南雲がある事を思い出した。
「艦内上映会で上映された、彼らから提供された映画の中に、人工知能が戦略決定権を持ち、我々、人類に宣戦布告をする話が、ありましたね」
「ああ、あの映画か。あれは傑作だった。何でも、その人工知能が造り出した人造人間が、過去にタイムスリップして、未来の人類軍の指導者である人物の母親を、暗殺しに来るという内容だったな・・・」
「はい、そうです。映画や書物等で人工知能についての危機感を、警告されていると言うのに、彼らは、その開発を止めません」
「人類の進歩には、歯止めは効かんよ・・・」
南雲は、豊田を司令長官室に案内した。
「一杯、いかがですか?」
「ああ、いただこう」
南雲は棚から、ウイスキーのボトルを取り出した。
主計課の水兵が用意した氷を取り出し、2つのグラスに氷を淹れた。
ウイスキーを注ぐ。
「どうぞ」
「ありがとう」
豊田は、ウイスキーを飲む。
「私的に入手したウイスキーですから、味は保証します」
南雲が、捕捉を入れる。
「うむ。美味い」
「それは良かったです。新世界連合民事局から購入したウイスキーですから、味に問題はありません」
南雲も、ウイスキーを飲む。
「それで長官。今回の乗艦理由は何でしょうか?」
「南雲。クリスマス島攻略作戦についての作戦書には、目を通したな」
「はい」
「そこで・・・だ。新世界連合軍や菊水総隊は、記者を乗艦させて、実際の戦場をある程度に見せている。それで海軍省と軍令部は、従軍記者を超空母[回天]に乗艦させる事にした」
「しかし、本艦は・・・」
「そうだ。彼らの旧式技術とはいえ、最新の技術で建造された新鋭艦(彼らから見れば、老朽艦になるが・・・)だ。だが、世間では、彼らの存在を薄々ではあるが、認識するようになっている。これまでのように内閣の特務機関や陸海軍の秘匿部隊等という誤魔化しはまったく効かない。それを理解せず、野放しにしていた結果が、あの内乱だ。海軍省は事態を重く受け止めている。そこで、彼らから購入した超空母[回天]に乗艦させて、世間が持つ不安感や不信感等を、解消する必要がある」
豊田の言葉に、南雲は、ウイスキーを飲む。
「話は、わかりました。それで乗艦する記者は?」
「中立的な立ち位置で記事を書いている、東部新聞社の記者2人を、乗艦させる」
「東部新聞社・・・たしか、彼らの存在を最初に認識した大手新聞社ですね」
これまで中小の新聞社が未確認ながら未来から来た未来人たちの存在を認識し、記事を書いていたが、その未確認情報を正式な情報にしたのは、東部新聞社である。
もっとも、陽炎団や水神団があれだけ表立った活躍していれば、内務省の特務機関という説明だけでは誰でも不審がるだろうが・・・
「2人を待たせてある。素性は問題無い」
豊田はそう言って、ウイスキーを飲み干す。
南雲も、ウイスキーを飲み干す。
司令長官室に、ノック音が響く。
「入れ」
「失礼します」
海軍少尉が、司令長官室に入室する。
「東部新聞社の記者2名を、お連れしました」
「では、私は[生駒]に戻る」
豊田は、司令長官室を出た。
「君たち、ウイスキーは飲むかね?」
豊田と入れ替わりに入室して来た記者たちから、自己紹介と挨拶を受けた後、南雲は声を掛ける。
「いえ、自分は下戸ですので、コーヒーかお茶を、いただけますか?」
「自分は、大丈夫です」
「そうか」
南雲は、コーヒーカップを取り出し、主計課が用意したコーヒーを淹れた。
その後、新たなグラスを取り出し、氷を淹れてウイスキーを注ぐ。
「飲みたまえ」
「「いただきます」」
2人は、コーヒーとウイスキーを受け取り、口を付ける。
「さすがに海軍の最新鋭艦だけであって、コーヒーの味も一流ですね」
「これは、中々美味しいウイスキーですね。内地では、これ程の物は、中々お目にかかれません」
戦時下であるため、こういった物は、軍部等に優先されている。
そのため、庶民には、なかなかこういった物は手に入らない。
もちろん、まったく手に入らない物では無い。
手に入るには入るのだが、極めて高価なのだ。
薄明光線 第5章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は9月14日を予定しています。




