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薄明光線 第0章 起死回生の一手

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 アメリカ合衆国コロンビア特別区の某所にある、別荘。


 アメリカ合衆国大統領の、フランクリン・デラノ・ルーズベルトは、ホワイトハウスから指揮機能を、その別荘に移していた。


 安全保障上、ホワイトハウスでは、大統領の生命を守る事が出来ないと、ホワイトハウス警察隊が判断したからだ。


 敵対勢力であるパシフィック・スペース・アグレッサー軍や、アトランティック・スペース・アグレッサー軍は、80年後の未来から来た未来人である事から、ホワイトハウスの地下通路や避難経路等は、すべて把握されている可能性が高い。


 そのため、アメリカ合衆国財務省は、特別予算を設けて、49州の各所で別荘を購入し、大統領以下閣僚たちの臨時避難所にした。


 大統領警護や各省の長官、副長官たちの警護を担当する警護担当局は、局員を分散配置させ、警護を行わせた。


 大統領及び副大統領のみ、別荘のある州の治安維持を担当する州兵を、大統領命令で、連邦軍の指揮下に置く事が決まった。


 むろん、秘匿性を維持するために、州兵に所属する将兵たちには、一部の高級士官及び上級士官にのみ、警護対象が誰であるかというのは伝えているが、それ以外には、正体は伝えていない。


「やれやれ、太平洋では激戦が繰り広げられているというのに、俺たちは、どこの誰かもわからない大富豪の身辺警護とは・・・」


 M1[ガーランド]を肩にかけた、州陸軍の兵士が、ぼやく。


「戦争は、連邦軍の役目だ。俺たちは、州の治安維持や防衛が役目さ」


 同僚の兵士が、M1918A1を、肩にかけた状態で答える。


「でもよ・・・俺たちの同僚の中にも連邦軍に編入された奴もいるのに、俺たちは、ここで警護配置だ。帰ってきたら、あいつらに、どんなに自慢されるか・・・」


「それも仕事さ。もしかしたら、ハワイ会戦で、俺たちが大勝利を収めたら、大規模な反攻作戦が、開始されるかもしれない」


「そうなったら、俺たちの中から、新たに連邦軍に編入される奴も出てくるかな?」


 州兵とは、州知事の指揮下に置かれている軍事組織であり、郷土防衛隊の1つである。


 任務として、州の治安出動及び災害派遣出動等の緊急事態対処にあたる。


 必要に応じて、連邦政府の命令によって、連邦軍に編入され、国外作戦や他の州兵では対処できない事案に投入される事がある。


 アメリカ陸軍、空軍の予備役部隊として位置付けられる説明があるが、実際は予備役と言うよりは国内軍としての常備軍である。


 いつでも連邦軍に編入されてもいいように軍事訓練を受けているが、本来の任務は、大規模犯罪及び大規模暴動を鎮圧する治安維持戦力であり、常に行っている訓練は、警察の訓練である。


「お前たち、戻ったか?」


 巡回コースの巡回を完了した2人の兵士は、臨時の即席警衛所に顔を出した。


 警衛所で指揮を行っている軍曹が、デスクに座って、書類に目を通しながら声をかけてきた。


「只今、戻りました。異常無しです」


 報告を聞いた軍曹が、顔を上げた。


「わかった。交代要員を出したから、お前たちはコーヒーでも飲んで、休んでいろ」


「サー」


「軍曹殿。俺たちが警護している大富豪は、どんな人なのでしょうか?」


「俺は、聞いていない」


 軍曹は、書類にペンを走らせながら、答える。


「相当な大富豪とは聞いている。何といっても、独自の警護要員を雇っているからな」


「そんな人たちでも、手に負えないって、どんなマフィア組織を、怒らせたのですかね・・・?」


「知らんな・・・だが、詮索はしない方がいい」


「どうしてですか?」


「それが長生きの秘訣だ」


 若い兵士たちが、警護対象の情報が、ほとんど与えられない事に、不審や不満を抱いているのは十分理解出来る。


 しかし、それなりに人生経験を積んでいる者からすれば、必要以上に知らない方が良い事もあるという事を、敏感にとまでは言わないが、何となく察する事が出来るようになる。


 軍曹は、そう言って若い兵士たちに注意を促す。





 別荘の大統領執務室。


「コスタリカ、アイスランドが、パシフィック・スペース・アグレッサーに、屈したか・・・」


 ルーズベルトが、書類を片手に、つぶやく。


「はい、アイスランド政府とコスタリカ政府は、スペース・アグレッサー軍の駐留も認めたそうです。潜伏工作員からの報告では、パナマ運河を通り、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの艦艇が、カリブ海を通過し大西洋にまで進出しました」


「さらに、キューバが、アトランティック・スペース・アグレッサーに屈し、グレナダが占領されたか・・・」


 出された書類のページをめくり、ルーズベルトは、つぶやいた。


「アトランティック・スペース・アグレッサー軍は、キューバに大規模な基地建設をしています」


「どちらのスペース・アグレッサー軍も、ドイツが開発したV-2ロケットを上回る戦略ロケット弾があると聞く、その対策は?」


「はい、大西洋艦隊司令部に連絡して、新造空母と新造戦艦を投入して、キューバ等の近海を海上封鎖しています。さらに、潜水艦を投入し、輸送船への雷撃を命じましたが、どこまで通用するか・・・」


 補佐官の言葉に、ルーズベルトは、表情を曇らせる。


 現在、ハワイ諸島の奪還作戦が行われているが、仮に奪還が成功しても、戦略的に見れば勝利とは言えない。


 あくまでも、局地的勝利でしか無い。


 スペース・アグレッサー軍は、完全に地盤を固めた。


 局地的勝利をしても、効果的な勝利を収める事は出来ない。


「大統領。ドイツから供与された、例の新型爆弾使用についてのお考えは?」


 補佐官に質問され、ルーズベルトは、さらに顔を曇らせた。


 ドイツ第3帝国の技術者たちが総力を上げて、開発に成功した原子爆弾3発を供与され、1発は米英独伊連合軍に、もう1発をネバダに、もう1発をアラスカの空軍基地に、それぞれ配備している。


 ルーズベルトが顔を曇らせたのは、アラスカに配備された原子爆弾の使用目的についてだ。


 空軍参謀本部から出された作戦案の中に、大日本帝国本土又は新ソビエト連邦本土のどこかに原爆を投下するというものがあった。


 軍部の意見では、フォークランド諸島奪還作戦で、30万人の上陸兵員を資材、輸送船ごと消滅させた、アトランティック・スペース・アグレッサー軍への報復として、使う案が出されている。


 しかし、今後の状況の推移次第では、パシフィック・スペース・アグレッサー軍にも使用する事が議論されている。


 何故なら、アメリカ海軍省情報部が傍受し、解読した暗号文の中に、パシフィック・スペース・アグレッサー軍の軍部が、核兵器使用を決定したという事が、記されていたからだ。


 もちろん、こんな情報が漏洩されたという事の裏も考えなくてはいけないが、どちらのスペース・アグレッサーも、必要と判断すれば、核兵器を躊躇わずに使ってくるであろう事は、想像に難くない。


 核攻撃を経験した事のある未来の日本人は、ぎりぎりまで核攻撃を反対するだろうが、それでも、やむなしと判断すれば・・・


「大統領!!」


 補佐官補が、ドアを乱暴に開けながら、叫んだ。


「どうした?」


「ラジオを、聞いて下さい!」


 補佐官補の言葉に、補佐官が、ラジオの電源を入れる。


「臨時放送をお送りします。先ほど、ワシントンDCが、ロケット弾攻撃を受けました」


「何だと!?被害状況は?」


 ルーズベルトが、机を叩いて立ち上がった。


「現在確認中です。しかし・・・」


「まだ、何かあるのか?」


「はい、ロケット弾による都市攻撃は、ワシントンDCだけでは無く、ロンドン、ベルリン、ローマの3都市にも、ロケット弾による都市攻撃が、実施されました!」


 補佐官補の報告を聞き、ルーズベルトは、ソファーに深く腰掛ける。





 アメリカ合衆国副大統領であるハリー・S・トルーマンは、ワシントンDC郊外に設置された州陸軍野営司令部にいた。


「副大統領。アトランティク・スペース・アグレッサー軍からの声明文が、国務省に届きました!」


 補佐官が書類を持って、トルーマンに渡した。


 トルーマンは、アトランティック・スペース・アグレッサー軍の声明文に、目を通した。





『我々は、サヴァイヴァーニィ同盟軍である。現在、大西洋を事実上の支配下に置き、キューバまで、勢力を拡大した。現在、我々が保有する大陸間弾道弾は、その照準をアメリカ全土に向けている。我々は、無益な流血を望むものでは無い。そのための予兆を見せた。ワシントンDC、ロンドン、ローマ、ベルリン、4都市に対し、政治施設に向けて巡航ミサイルで、ピンポイント攻撃を行う』





「・・・・・・」


 トルーマンは、言葉を失った。


「副大統領!大統領から、お電話です!」


 補佐官補が、報告した。


「わかった」


 トルーマンは、設置されている野外電話の受話器をとった。


「私です」


『トルーマン君。現在の段階で、わかっている状況を、報告してくれ』


「わかりました。攻撃したのは、アトランティック・スペース・アグレッサー軍です。攻撃目標にされたのは、ホワイトハウス、議会議事堂等の政府関連施設5ヶ所を、ピンポイント攻撃され、完全に破壊されました。詳しい被害状況については確認中でありますが、幸いにもホワイトハウス、議会議事堂は封鎖され、わずかなスタッフがいるのみでしたのと、事前に警告がありましたので、スタッフの避難は時間的に余裕がありましたので、人的被害は、ほとんど無いと思われます。これについては、スタッフの安否確認を現在行っておりますので、暫くお待ち下さい」


『そうか、わかった。詳しい内容は、書類で報告してくれ』


「わかりました。それでは」


 トルーマンは、電話を切った。


 上院及び下院は、近くの地下シェルターに避難してもらい、そこで、議会を開いているため、議会議事堂が破壊されたからと言って、人的被害は無い。


「人的被害が軽微だったとはいえ、被害は甚大だな・・・」


「はい」


 政府関連施設が攻撃され、破壊されたのだ。


 それも多くのワシントンDCに住む市民に目撃された。


 ラジオやニュースをつければ、ワシントンDCへの都市攻撃、という題名で、大々的に報道されている。


 太平洋で行われているハワイ奪還作戦で、米英独伊連合軍が、パシフィック・スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートに打撃を与える事に成功した内容は、陸海軍省が大々的に宣伝した。


 アメリカ国民は、久々に聞く勝利の報告に、歓声を上げた。


 そんな状況下での、首都への都市攻撃である。


 国民感情が、どのようになるか、わからない。


「副大統領。記者たちが記者会見を求めていますが、どうしましょうか?」


 補佐官補が、尋ねる。


「わかった。私に許された権限の範囲内で、国民に事実を伝えよう」


 トルーマンは立ち上がった。


 州陸軍野外司令部に設置された臨時の記者会見場で、トルーマンは、記者たちに質問攻めにあった。


「皆様の心配事は、理解しています。1人ずつ質問に答えていきますので、1人に付き1つの質問を、お願いします」


 トルーマンは、自分が答えられる範囲で、記者たちの質問に答えた。


「副大統領。陸軍長官が、緊急にお会いしたいそうです」


 補佐官が、耳打ちした。


「わかった。記者たちの質問に答えたら、すぐに行くと伝えてくれ」


「わかりました」


 トルーマンは、陸軍長官が何故、緊急の面会に来たのか、わかっている。


(これは・・・時間が、かかりそうだ・・・)


 トルーマンが心中で、つぶやいた。





 応接室として使われているテントに、トルーマンが入ると、陸軍長官であるヘンリー・ルイス・スティムソンが椅子に腰かけていた。


 トルーマンが入って来た事を確認すると、スティムソンが立ち上がった。


「副大統領。緊急の面会を聞いてくださり、ありがとうございます」


「まあ、かけてくれ」


 トルーマンは、設置されているコーヒーを、アルミ製のカップに淹れた。


「コーヒーは?」


 トルーマンが聞くと、スティムソンは、「いただきます」と言った。


 彼は、すでにアルミ製カップにコーヒーを淹れているため、新たに付け足した。


「それで用件は?」


 聞かなくてもわかるが、トルーマンは聞いた。


「スペース・アグレッサーの中枢への、原子爆弾投下案についてです」


 スティムソンは、ドイツ第3帝国から供与された新型爆弾である原子爆弾使用について、強硬に主張している。


「長官。それについては、前にも話しただろう。もしも、スペース・アグレッサーの中枢施設に原爆を投下すれば、近隣の民間施設にも被害が及ぶ。そうなれば、パシフィック・スペース・アグレッサー軍若しくはアトランティック・スペース・アグレッサーが、原爆を越える原爆で、アメリカ本土に報復するだろう。すでに、アトランティック・スペース・アグレッサー軍によって、ワシントンDC、ロンドン、ベルリン、ローマの4都市が攻撃された。彼らは本気である事を通告してきた」


「その可能性はあります。ですが、このままハワイ会戦が泥沼化した場合、我々は、彼らとの対話を永久に失う事になる。そうなる前に、一か八か、スペース・アグレッサーの中枢施設に原爆を投下し、彼らの背中に冷水を浴びせる必要がある。あくまでも作戦の成否は関係ない。原爆を搭載したB-29が接近した、という事実が証明されるだけでいいのです」


 スティムソンは、ルーズベルト政権の中では徹底抗戦派であり、議会の上院、下院にも影響を与えている。


 ルーズベルト自身も、ハワイ会戦で勝利を望んでいる訳では無い。


 あくまでも6対4という状況に持ち込んで、講和すると考えている(もちろん、これは最悪の事態を想定しての事だ)。


 しかし、スティムソンは、講和に傾く中で強硬に徹底抗戦を主張した。


 彼は、陸軍と空軍(第3軍として独立したが、陸軍省の行政下である)1200万人の命を預かっている。


 将兵たちの意見を一番に聞いている以上、徹底抗戦に傾くのも仕方ない。


「わかった。大統領に相談してみる。君は、攻撃目標の査定を行ってくれ」


「それなら、できています」


 スティムソンは、大日本帝国の地図を出した。


「スペース・アグレッサーの中枢施設は、情報部が把握したレベルで、帝都東京の近隣にある地区です」


「大日本帝国本土に、原爆を投下するのか!?」


 トルーマンは、驚愕の声を上げた。


「パールハーバーへの奇襲攻撃や、ハワイ諸島、フィリピン諸島等への電撃的侵攻の命令はすべて、ここから出ています。ここが、彼らの中枢です。ここを叩けば、戦争を終わらせる事が出来るかもしれません」


 スティムソンの言葉に、トルーマンは腕を組んだ。


「東京に近いぞ・・・」


「何をお考えなのか、理解しています。ですが、これしかありません」


 スティムソンは、強い光を湛えた目を、トルーマンに向けて断言した。

 薄明光線 第0章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は8月3日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  東京に原爆投下……日本人を知っていれば悪手としか思えないですが、史実の東京大空襲とあまり変わらない結果にしかならない気がしますし。  これは、どうなってしまうのか。続…
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