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HELL ISLAND 終章 1 衝撃

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 米英独伊連合軍連合軍総司令部が置かれている、総旗艦である重巡洋艦[インディアナポリス]の兵員食堂は、食事をする下士官や兵卒で、ごった返していた。


 それらの下士官や兵卒に食事を供する厨房内では、厨房員が忙しく動き回っていた。


「カズマ!食べ終わった食器が溜まっているぞ!そっちはいいから、食器洗いに回ってくれ!」


「はい!」


 厨房のカウンターに並んでいる兵士たちの持っているトレイの皿に、シチューを盛り付けていたカズマ・キリュウは、料理長に声をかけられ、返事をして同僚と配膳を代わった。


 ある意味では、食事時間の厨房は、戦争状態ではある。


 これは、どこの国の軍隊でも変わらない。





「ふぅ~・・・」


 目が回るかと思う程の忙しい時間が過ぎ、人の気配の無くなった食堂の床にモップを掛けながら、キリュウは大きく息を付いた。


「カズマ、モップ掛けが終わったら、もう上がっていいぞ」


「はい」


 年長の厨房員に声を掛けられ、返事をする。


 今日1日の仕事が終わり、やっと休息がとれる。


 厨房内では、何人かの厨房員が、夜勤をする兵士たちのための食事を作りながら、翌日の食事の準備をしている。


「しかし、お前は良く働くな・・・この戦争が終わったら、海兵隊に正式に入隊するのなんか止めて、料理人にならないか?」


 清掃道具を片付けていると、料理長が声を掛けてきた。


「はぁ・・・」


「俺は、この戦争が終わったら、退役してニューヨークあたりで、レストランでも開こうと思っているのだ。そのくらいの蓄えも出来たからな・・・お前は、真面目だし、良く働く。俺の所で、料理人の修行でもしないか?」


「・・・戦争・・・本当に、終わるのでしょうか?」


 まるで、終わりが見えているかのような料理長の言葉に、キリュウは問いかけた。


「さあな・・・だが、良い事も悪い事も、いずれは終わりが来る。戦争だって同じだ。どんな、結果になってもな・・・」


「・・・・・・」


 どこか達観したような口調で語る料理長を、キリュウは無言で見詰めた。


 料理長が何を思っているのか・・・何となくだが、理解は出来る。


 人間というものが、一番リラックス出来るのは、おそらく食事時間だ。


 兵員食堂は、堅苦しい士官がいない分、下士官や兵卒たちが、のびのび出来る。


 これは、戦時であっても平時であっても同じだ。


 食事時間は、一定の秩序は保っているが、陽気な会話や冗談が弾んでいる。


 だが、何か違和感がある。


 このところずっと、陽気な雰囲気に隠されているが、どこか重苦しい空気が消えない。


 一介の艦内食堂の厨房員でしかないキリュウが、戦況を把握出来る訳が無いが、食堂に来る下士官や兵卒の様子や、時折耳に挟む会話等から、全体的に戦況が、余り良くないようだと推測する事は出来る。


 だからといって、自分に何かが出来る訳では無いのだが・・・





 休息を取るために、艦内通路を自室に向かって歩いていたキリュウは、前から歩いてくる海軍の勤務服を着用した、士官に気が付いた。


 キリュウは通路の脇へ寄り、挙手の敬礼をしながら道を譲る。


 士官は、キリュウを気に止める事無く、答礼をして、通り過ぎた。


 見送ってから、キリュウは歩き出そうとした。


 カツン・・・


 靴音を響かせて、士官が立ち止まった。


「・・・たしか、君は第1海兵師団に所属していた、准隊員では無いかね?」


「・・・はい?」


 急に士官に話し掛けられて、キリュウは、歩き出そうとした所で立ち止まった。


「・・・知っているかね?オアフ島カイルア地区を防衛していた第1海兵師団は、スペース・アグレッサー地上軍の奇襲を受けて、全滅したそうだ・・・」


「・・・!!」


 振り返らずに告げる、士官の言葉に、キリュウは驚愕の表情を浮かべて振り返った。


「全滅!?全滅って、どういう事だ!?」


「言葉の通りだ。地上からの攻撃と航空攻撃を受け、カイアル地区に展開していた第1海兵師団を含む、合同海兵師団は多大な損害を被って、撤退を余儀なくされた」


「そんな!?皆は!皆は、どうなったのだ!?」


 あまりの衝撃に、思わず士官に詰め寄った。


 だが、全滅といっても、1人残らず戦死するという訳では無い。


 それは、理解しているから少しでも希望が持てるような言葉を聞きたいと思うのは、無理からぬ事ではある。


「負傷し、後送された者は、撤退する輸送船に収容されたそうだが、かなりの数の行方不明者も出ている。捕虜になったのか、戦死したのかに付いては、現時点では確認は不可能だ」


 しかし、士官の言葉は無情だった。


「・・・レイモンドは、何も言っていなかった・・・」


 告げられた言葉に、頭の中が掻き回され、キリュウが言葉に出来たのは、それだけだった。


「それは、仕方が無い。ラッセル少佐にしても、すべての戦況を把握する事は出来ないだろう。それに、1つ1つの戦況を、すべての将兵に周知すれば、士気の低下を招きかねないからね」


「・・・そんな事を、何故俺に告げる?」


 まだ、混乱から立ち直っていないが、辛うじて冷静さを保っている心の一部から浮かんだ疑問を、口にした。


「今、ラッセル少佐らが進めている正規の作戦行動と並行して、非正規の作戦行動の計画を準備している。上手くいけば、戦局をひっくり返す事も不可能では無い。現在、陸軍、海軍を問わず、その極秘作戦に参加する者を募っているのでね。もちろん危険は大きいから、志願者のみでの実行となる。だから、君にも声を掛けさせてもらった。それだけだよ」


「・・・・・・」


 立ち去っていく士官の後ろ姿を、キリュウは呆然と見送った。

 HELL ISLAND 終章1をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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