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HELL ISLAND 第19章 空母機動部隊集結 前編 レイズ オア リレイズ

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 米英独伊連合軍旗艦の重巡洋艦[インディアナポリス]の艦橋で、米英独伊連合軍総司令官であるチェスター・ウィリアム・ニミッツ・シニア元帥は、総参謀長のチャールズ・ホレイショ・マクモリス少将から、オアフ島に向かっているスペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの増援部隊についての、報告を受けた。


「潜水艦及び偽装哨戒艇等からの報告によりますと、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの空母機動部隊は、すでに作戦行動中のスペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの空母機動部隊と、合流するようです」


「ふぅむ・・・」


 ニミッツは、顎を撫でる。


「ラッセル少佐」


「はい」


「貴官は、どう考える」


 ニミッツに聞かれ、作戦参謀のレイモンド・アーナック・ラッセル少佐は、自分の考えを述べた。


「監視活動中の仮装巡洋艦等の報告から推測しまして、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの空母機動部隊は、すべて一ヶ所に集まり、作戦行動を行う可能性があります。正規空母4隻、軽空母2隻が合流すれば、その航空作戦能力は、極めて高いでしょう。現在の我々の航空戦力、海上戦力、海中戦力でも、太刀打ちは出来ません。しかし、これはチャンスだと考えます」


 レイモンドの言葉に、ニミッツとマクモリスが顔を向ける。


「チャンス?」


「はい、クリスマス島には、ドイツ第3帝国国防軍戦略軍が、展開しています。ドイツ第3帝国の軍部が開発した移動式ロケット弾と、例の新型爆弾を使えば、もしかすると、集結する空母機動部隊を壊滅させる事が出来るかもしれません」


「なるほど」


 ニミッツは、レイモンドが何を言おうとしているか、理解した。


「それと、作戦を確実に成功させるために、クリスマス島及び展開する空母機動部隊から、可能な限りの航空戦力を投入し、ゴースト・フリートの空母機動部隊に、航空攻撃を仕掛けるべきです」


「参謀長の意見は?」


 ニミッツは、レイモンドの上官である、マクモリスに顔を向けた。


「私も、その意見には賛成です。合流すれば、一時的にでも指揮系統等が乱れます。その隙をついて、航空戦力の航空攻撃と、海中戦力の海中攻撃を実施すれば、大きな隙を作れるかもしれません。その隙にロケット弾攻撃と例の新型爆弾を投下すれば、ゴースト・フリートの空母機動部隊を、確実に消滅させる事が出来ます」


「ふうむ」


 ニミッツは腕を組んだ。


「だが・・・もしもだが、新型爆弾による攻撃が成功したとしても、その報復としてアメリカ本土、又はドイツ第3帝国本土が、攻撃される可能性は?」


 ニミッツは、1つの懸念を述べた。


「その可能性は、あります」


 答えたのは、レイモンドだ。


「我々が先に、新型爆弾を使用すれば、彼らは報復の大義名分を得る事になります。そして、その報復に、一切の容赦は無いでしょう。しかし、4個の空母機動部隊が消滅すれば、パシフィック・スペース・アグレッサー軍の戦略に、大きな打撃を与える事が出来ます。そうなれば、今後の外交にも隙が出て、我々の生存権を確実に約束させる事が出来ます」


 レイモンドの言葉に、ニミッツは、マクモリスを見た。


 彼も、うなずく。


「わかった。ラッセル少佐の作戦案を、採用する」


 ニミッツは、決断した。

 

 すでにオアフ島で行われた大規模な地上戦は、4ヵ国連合軍連合陸軍側の敗退である事は届いている。


 ニミッツは、上陸部隊司令官である、ハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン上級大将に、占領地域の死守を命じた。


 必要なら、予備部隊のすべてを投入しても構わないという指示を出した。


 そう簡単には、今後の地上戦で、敗北する事は無いだろう。





 ライン諸島クリスマス島。


 同島の飛行場で、1機の戦略爆撃機に、1発の爆弾が搭載されていた。


 戦略爆撃機は、ドイツ第3帝国国防軍空軍の、Me264[メッサーシュミット]である。


 搭載されている爆弾は、他の爆弾と明らかに違う。


 普通の爆弾よりも、一回りも二回りも大型である。


 ドイツ第3帝国第1副首相のロザリンダ・ベレ・クラウゼンが、ヒトラーが国家元首に就任した時から、軍部に極秘研究及び開発を行わせていた、新型爆弾である。


 それは、原子爆弾である。


 クラウゼンとて、核兵器を保有するという事が、人類社会にどんな影響をもたらすか、十分熟知している。


 しかし、核兵器の研究開発は、既に主要な国家で行われている以上、それを止める術は無い。


 あんなものは、無い方がいい。


 それは、正論だ。


 しかし、いずれ何処かの国が、開発に成功してしまうのならば・・・


 持つ国家と持たざる国家の力関係が、どれ程の差を生み出すのか・・・


 それを知っているだけに、綺麗事を言う訳にはいかないというのが、彼女の本音であった。


 ドイツと、ドイツに住む人々を守るために・・・


 もっとも、クラウゼンとしては、あくまでも抑止力としてというのが、目的であったのだが。


 だが、現実は残酷であった。


「しかし・・・この1発で、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの空母機動部隊4個を、完全に消滅させるだけの威力があるのか・・・?」


 ドイツ帝国国防軍空軍下士官が、その新型爆弾の性能について、懐疑的な口振りでつぶやく。


「アトランティック・スペース・アグレッサー軍は、これと同じような兵器を、実際に使用したらしいという話だ。こいつに、それだけの威力があるかどうかは、正直疑問だが、本当らしい」


 ドイツ帝国国防軍空軍の下級士官が、下士官の疑問に答える。


 アトランティック・スペース・アグレッサー軍が新型爆弾を使って、30万人の上陸兵力を乗せた輸送船団を殲滅した事については、ドイツ第3帝国国防軍の軍部では、上級士官までに通知し、それ以外には完全に秘匿した。


 真相を知る下級士官、下士官、水兵たちには、口外しないように厳重に周知した。


 しかし、それは無駄な事であった。


 30万人の戦死は、どんなに隠しても隠しようが無い。


 その結果、下級士官、下士官、兵たちには噂レベルで、その話が広がった。


「噂が本当だとしても、これを使えば、向こうも報復してくるだろうな・・・」


 下級士官が、つぶやく。


「そんな事になったら、完全な消耗戦ではないですか?」


 下士官が、最悪の未来図を想像する言葉を口にする。


「消耗戦どころか・・・最悪、最終(ハルマ)戦争(ゲドン)になるやもな・・・しかし・・・」


 原子爆弾を搭載しながら、兵装要員たちは、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの空母機動部隊に打撃を与える事を願った。


 だが、同時に敵に打撃を与える事で、自分たちに何が返って来るのかも想像出来る。





[フレッチャー]級駆逐艦部隊が、クリスマス島の警戒を強化する。


 米英独伊4ヵ国連合軍連合海軍司令部から、詳細な報告を受けないまま、警戒を強化するように指示された。


[フレッチャー]級駆逐艦の1隻で、艦橋から海上を眺める駆逐隊司令の大佐は、何とも言えない表情を浮かべていた。


「司令。コーヒーを、お持ちしました」


 水兵の1人が、アルミ製のカップを手渡した。


「まったく、嫌な戦争だ・・・」


 大佐は、そう愚痴りながら、コーヒーを啜る。


 彼は大佐であるため、立場上、これから何が起こるのか知っている。


「爆撃機が、離陸していくぞ!」


 見張り員が、声を上げる。


 大佐は艦橋の窓から、その光景を眺める。


 爆装したB-25[ミッチェル]や、A-20[ハボック]の機影を確認する。


(あの半分以上は、戻って来ないだろうな・・・)


 大佐は心中でつぶやきながら、挙手の敬礼をした。


 出撃するのは、爆撃機だけでは無い。


 戦闘機や艦上戦闘機、艦上爆撃機、艦上攻撃機等も参加する。


 出動機数は、400機である。


 それだけでは無く、ヨーロッパ戦線、北アフリカ戦線、ソ連戦線で投入された、戦略兵器であるロケット弾も発射される。


 スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの空母機動部隊は、4個である。


 これが作戦行動を行えば、確実に米英独伊連合軍は壊滅する。


 制空権も制海権も、確保できないだろう。


 これまでは、物量戦で、互角レベルの戦闘が出来たが、これからはそうはいかない。


 それこそ、太平洋のすべての制海権を失うかもしれない。


 それだけは、させない・・・


 だからこそ総司令部も、無謀とも思える大博打に出たのだろう。





 菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群旗艦のヘリコプター搭載護衛艦[いずも]も、麾下の第1護衛隊と第5護衛隊のイージス護衛艦や汎用護衛艦8隻を率いて、新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊第1空母打撃群、第2艦隊第3空母戦闘群、連合支援軍海軍大連艦隊、防衛局長官直轄部隊海上自衛隊第1空母機動群の4個機動部隊が合流する海域に到着していた。


「絶景だな・・・」


 第1護衛隊群司令の内村(うちむら)(ただ)(すけ)海将補は、[いずも]の艦橋横のウィングから、合流する4個機動部隊の光景を眺めながら、つぶやいた。


「群司令。まもなく、例の飛行隊が到着します」


 第1護衛隊群首席幕僚の村主(すぐり)京子(きょうこ)1等海佐が、報告した。


「そうか。もう、そんな時間か」


 内村が、腕時計を見る。


 合流した4個機動部隊の前衛に、菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群が配置されている。


 そのため、[いずも]の後方から見れば、後衛に配置されている第5護衛隊(4隻のイージス艦と汎用艦)の後方に、4隻の正規空母を、見る事ができる。


[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦は、軽空母に分類されるため、正規空母4隻と比べると明らかに小さく見えるが、各艦隊幅があるため、そんなに違和感が無い。


 因みに4個機動部隊の最後衛に配置されているのは、朱蒙軍海軍第1艦隊である。


 上空は、菊水総隊航空自衛隊の戦闘機や新世界連合軍連合空軍の戦闘機等が警戒飛行しているため、各空母の艦上戦闘攻撃機と合わせると、40機近い戦闘機、戦闘攻撃機等がいる。これに加えて、早期警戒管制機や早期警戒機、空中給油機、対潜哨戒ヘリコプターが追加されるため、その数は60機ぐらいであろう。


「群司令。まもなく視認できます」


 村主の言葉を聞いて、内村が双眼鏡を覗く。


「海上自衛隊が運用する、国産の固定翼航空機・・・」


 彼らが現れる空域に双眼鏡を向けると、その機影が発見できた。


「時間通りですね」


「ここまで来るのに、何回も空中給油機で空中給油を行いながら、硫黄島から飛んできたのだ」


 内村は、双眼鏡を下ろし、村主に向いた。


「首席幕僚。彼らのために、握り飯と味噌汁の準備は、できているか?」


「問題ありません。給養員長に指示して、作らせてあります。それと、デザートも用意させました」


「塩分と糖分は、身体の疲れや精神の疲れを、癒す事が出来るからな」


「はい、彼らにはすぐに実戦の場が用意されています。ゆっくりと休養する余裕は、ありません」


 村主は、予想していた。


 4個機動部隊が合流した瞬間が、攻撃のチャンスであると・・・彼がいる以上、必ず、この好機を逃さない。


 恐らく投入可能な、全兵力を投入してくるだろう。


 4隻の正規空母を、沈めるチャンスなのである。

 

 飛行甲板では、着艦作業準備のために、甲板作業員や誘導員等が駆け回っている。


 航空管制室では、航空管制を行っているだろう。


 飛行甲板上では、広報士官が同行した状態で、日本共和区に本社を置く2人の記者が、カメラを構えていた。


「彼らも、仕事熱心な事だ」


 内村は、そんな2人の姿を見て、つぶやいた。


「この戦争で戦うのは、自衛官や軍人だけではありません。彼らメディアの人間にも我々と同じレベル・・・もしかすれば、それ以上の戦場を戦う事になります」


 村主が、2人の記者を見下ろしながら、つぶやいた。





 菊水総隊海上自衛隊航空団第151航空群第151飛行隊所属の湊稚人(みなとわかと)2等海尉は、F-2Cに変わる新たな機体を操縦しながら、[いずも]後方に接近していた。


 彼が搭乗する多用途戦闘機は、海上自衛隊が導入した、新型の垂直短距離離着陸機であるF-3Bだ。


 見た目はF-2戦闘機をさらに大型化した機体であるが、尾翼と主翼に、さらにカナードを追加した三翼機である。


 あくまでも見た目がF-2に似ているだけであり、ほとんど別物である(F-2Cもそうだったが、F-3は、それ以上だ)。


 F-2Cは、あくまでも海上自衛隊が運用するためのノウハウを取得させるために開発された物であり、かなり強引で無理な設計であるため、機体寿命が短いのだ。


 因みに海上自衛隊が運用するのはBタイプであり、Aタイプも存在する。


 Aタイプは垂直離着陸機能が無く、短距離離着陸機能のみである。


 Aタイプは、航空自衛隊のF-2改の後継機として、導入する予定である。


 操縦等の操作は、F-2Cとほとんど同じであるが、旋回性能や加速性能等は、比べ物にもならないぐらい速い。


 因みに速度も、マッハ1.5とF-2Cより速い。


 湊は、そういったものに馴れるのに苦労したが、現在は問題なく操作できる。


「[いずも]管制室より、ピューマ1」


 ヘリ搭載護衛艦[いずも]の航空管制室から通信が入った。


 ピューマ1とは、湊のコール・サインである。


「ピューマ1より、[いずも]管制室へ、感度良好」


「ピューマ1、着艦を許可する。些細ではあるが、歓迎の準備が整っている」


「こちら、ピューマ1。ラジャ」


 湊は短く答えて、F-3Bを垂直飛行モードに切り替える。


 そのまま出力を下げながら、[いずも]の飛行甲板に着艦させる。


 海上自衛隊が運用する[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦は、V/STOLが運用できるよう改修された。


 1番艦ヘリ搭載護衛艦[いずも]は、タイムスリップ前に改修が完了しているため、V/STOL運用能力があるが、2番艦[かが]には、タイムスリップ後に運用能力を持たせるために改修が行われたが、東南アジアでの部隊行動計画初期では、運用する計画は無かった。


 新世界連合軍連合海軍艦隊総軍第3艦隊第4空母戦闘群と、共同部隊行動が行われるようになってから、制海権を確保する目的でV/STOLの運用が持ち上がった。


[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦に、F-3等のV/STOLを運用する目的は、制空権確保や航空制圧等を目的するのでは無く、諸外国海軍の軽空母を運用する制海作戦が、目的である。


 湊はF-3Bを着艦させると、すぐに着艦スペースをあけた。


 上空には、まだ5機のF-3Bがいる。


 基本的には[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦に、6機運用だ。


 SH-60K[シーホーク]、7機、UH-60J、1機、V-22B、1機の計9機運用の状態であるから、6機の運用が限界である。


[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦は、14機の航空機を運用する想定であるから、F-3B、6機運用も、かなり厳しいのが現状だ。


 湊が待っていると、他の5機も順次着艦していく。


 F-3Bのパイロット6人が[いずも]の飛行甲板に揃うと、艦長と副長(飛行長も兼務)と挨拶した後、パイロット待機室に移動した。


 パイロット待機室の椅子に腰かけると、給養員たちが握り飯と味噌汁、デザートを持って入室してきた。


 湊たち6人のパイロットは、ささやかな歓迎を受けた。

 HELL ISLAND 第19章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は6月15日を予定しています。

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