表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
323/452

HELL ISLAND 第16章 老兵と新兵の水上戦[ミズーリ]対[ミズーリ] 1 胆戦心驚

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 PBY[カタリナ]は、ハワイ諸島の南西海域を、哨戒飛行していた。


「機長。こんなに遠くまで来て、大丈夫ですか?スペース・アグレッサー軍や、大日本帝国軍の戦闘機に、迎撃されませんか?」


 副操縦士の少尉が、心配した口調で尋ねる。


「安心しろ。ここは太平洋の、ど真ん中だ。こんな所に戦闘機だけで来るのは無理だ」


 機長である大尉は、海上に視線を向けながら答える。


「海軍省情報部の情報では、大日本帝国海軍とスペース・アグレッサー軍の空母機動部隊が、増援部隊として、ハワイ諸島に送られて来ているのでしょう?万が一にも、その艦載機に発見されたら、一巻の終わりですよ」


「だからと言って、哨戒飛行をしないという選択肢は無い。ハワイ諸島に向かっている増援部隊を発見し、それを迎撃艦隊に伝えなければならない」


 米英独伊連合軍海軍は、戦艦部隊と空母機動部隊の一部を引き抜き、迎撃艦隊として投入している。


 米英独伊連合軍海軍司令部は、速力30ノット以上の戦艦を中核として遊撃部隊を編成し、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートや、大日本帝国海軍の空母機動部隊、輸送船団に、遊撃戦を実施するために投入している。


 さらに、米英独伊連合軍ドイツ第3帝国国防軍海軍は、仮装巡洋艦を大量に投入し、通商破壊任務や哨戒任務に、従事させている。


 彼らの活躍は、かなりのものであり、大日本帝国陸海軍の輸送船や補給艦を撃沈しただけでは無く、ハワイ諸島に向かっているアトランティック・スペース・アグレッサー軍のゴースト・フリートを発見した事もある。


 アトランティック・スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの戦艦らしき戦闘艦を発見しただけでは無く、至近まで接近し、その戦闘艦を撮影する事が出来たそうだ。


 因みに、知らせを受けた別のPBY[カタリナ]が出撃し、艦影を確認しようとしたが、艦載のロケット弾攻撃で、撃墜された。


「でも、それならドイツ海軍に、任せればいいじゃないですか?」


 副操縦士の言葉に、機長は、サングラスを掛け直しながら、答えた。


「それでは海軍の面子が、潰れてしまうのだよ」


「結局は、面子ですか・・・」


 連合国と枢軸国が講和し、未曽有の大危機に対して手を組んだとはいえ、この未曽有の戦争に勝つにせよ負けるにせよ、各国軍が、どこかの国軍に役目を丸投げしたとなれば、その国軍の面子が消滅する。


 だから、お互いが競い合うように、同じ事をする。


 それが、良い結果を出す事もあるが、悪い結果を生じる場合もある。


 今回に限れば、どちらかと言えば、悪い方向に傾きがちだ。


 各軍司令部も、総司令部もそれらの調整に、相当頭を悩めているだろう。


 ここは、何かを切掛けに、悪い風向きを変えたいところだ。


「何としても俺たちの手で、スペース・アグレッサー軍のゴースト・フリートか、大日本帝国海軍の艦隊を、発見するぞ!」

 

「機長。何かを発見しました!戦艦らしき艦影が、見えます!」


 機長が言い終えた後、副操縦士が報告した。


「大日本帝国海軍か?」


 機長は副操縦士が、指差す方向に視線を向ける。


「この位置では、遠すぎて見えないな・・・」


 機長は、そう言った後、操縦桿を右に回した。


「機長?」


「もっと近づいて、艦影を視認する」


 PBY[カタリナ]の機首を、戦艦らしき艦影に向けた。


 高度は1000メートル程度だが、これだけ晴天なら近付けば確実に艦影が何か、わかるはずだ。


 その艦影との距離がどんどんと縮み、それが何かが、わかってきた。


 それは・・・


「あれは・・・」


「まさか・・・」


 その艦影が何であるか、はっきりと理解出来た時、2人は目を丸くし、言葉を失った。


 大日本帝国海軍の[ヤマト]級戦艦とは趣が違うが、その勇壮で優美な艦影は、[ヤマト]級戦艦に勝るとも劣らない・・・


「[アイオワ]級戦艦・・・?」


 機長が口にした言葉は、それだけであった。





 米英独伊連合軍海軍統合遊撃部隊第1遊撃部隊旗艦の[アイオワ]級戦艦3番艦[ミズーリ]の艦橋で、第1遊撃部隊司令官のシリル・ディーン・ホワイト少将(1つ星)は、幕僚からの報告に、食べかけのクッキーを落とした。


「戦艦[ミズーリ]だと?」


「何かの間違いだろう。戦艦[ミズーリ]は、ここにいる。我々を敵と誤認したのか?」


 幕僚の1人が、告げる。


「いえ、その可能性はありません。小官もそう思って、レーダー員に確認しましたが、レーダーは航空機らしき機影を、探知していません」


 報告した幕僚が、答える。


「先任参謀」


「はっ」


「スペース・アグレッサー軍の陣営には、未来のアメリカ軍もいると聞いている。未来の戦艦[ミズーリ]という可能性は、考えられるか?」


 ホワイトが、先任参謀である大佐に聞く。


「その可能性も十分考えられます。しかし・・・そうなると・・・80年の艦齢という事に、なります」


「それが本当に、戦艦[ミズーリ]だったとしても、かなりの老朽艦だな・・・」


「はい、総司令部の作戦参謀、ラッセル少佐の報告では、スペース・アグレッサー軍に属する未来の日本海軍は、退役した老朽艦を近代化改修して、実戦に投入しているとの事です。もしかすれば、戦艦[ミズーリ]も、同じように改修がされているかもしれません」


「悪魔の悪戯か、それとも神の導きか・・・それとも他の何か・・・」


 ホワイト率いる第1遊撃部隊は、マリアナ諸島や大日本帝国本土から出撃する増援部隊及び輸送船団等に打撃を与えるために、投入されている。


 当然、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの増援として派遣されている戦闘部隊も攻撃目標である。


「戦艦[ミズーリ]の相手が、未来から来た戦艦[ミズーリ]というのは、大変名誉な事であろうな」


 少し不謹慎かもしれないが、80年という時を越えて、戦艦[ミズーリ]が退役せず現役だというのは、誇らしさを感じる。


 ホワイトは、どこか楽しそうな口調で、つぶやいた。


 彼は、懐からパイプを取り出し、口に咥える。


「ですが、提督。いくら老朽艦[ミズーリ]でも、80年という時間は、かなりのものです。恐らく、戦闘能力、操艦能力等の艦の性能は、この戦艦[ミズーリ]を、上回るはずです。さらに、例の対空兵器を搭載している可能性もあります!」


 先任参謀が、進言する。


「そうかもしれん。しかし、このような機会は、願っても無い事だ。戦艦[ミズーリ]対戦艦[ミズーリ]という、本来なら考えられない歴史的な戦いを、当事者として経験する事が出来る。これは大変な名誉だ」


「では、まずは相手の力量を図りましょう。付近にドイツ海軍の仮装巡洋艦が、展開しています。彼らを向かわせて、そのレベルがどのくらいのものか、見てはいかがでしょう」


 若い幕僚が、好戦的な口調で具申する。


「この時代に、2隻の[ミズーリ]は必要ありません。[ミズーリ]対[ミズーリ]も結構ですが、彼らが我々と砲撃戦を交えるに値する力量があるかどうか、試してみてはいかがでしょう?」


 若い幕僚の言葉に、ホワイトは振り返った。


「なるほど、貴官の言い分にも一理ある。先任参謀、統合遊撃部隊司令部に連絡して、仮装巡洋艦を、老朽艦[ミズーリ]と戦わせる事を、具申してくれ」


「わかりました」


 統合遊撃部隊司令部にも、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの、老朽艦[ミズーリ]の事は、届いているだろう。


 もしかしたら、蜂の巣を突いた大騒ぎに、なっているかもしれない。


 これを機に、他の海域を航行している他の遊撃部隊が手柄を立てようと、我先に殺到して来るかもしれない。


 急がねば、かなり近い海域を航行しているはずの、ドイツ海軍の第2遊撃部隊に、手柄を取られてしまう。


 これ程の獲物は、そうそう無い。


 仮装巡洋艦如きに沈められたのなら、諦めもつくが、戦艦同士の戦いで沈んだとなれば、とても悔しい思いをするだろう。





 米英独伊連合軍ドイツ第3帝国国防軍海軍太平洋遊撃艦隊に所属する、仮装巡洋艦[ムー]は、米英独伊連合軍海軍統合遊撃部隊司令部からの指示を、受け取った。


「艦長。統合遊撃部隊司令部からです!」


 通信士官が、電文を持って、艦橋に現れた。


「うむ」


 仮装巡洋艦[ムー]艦長のエーミール・フォン・アンドロシュー少佐は、通信士官から通信文を受け取った。





『スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの戦艦1隻を基幹とする、戦艦部隊を発見。ただちに当海域に急行し、戦艦部隊に奇襲攻撃を、実施せよ』





 アンドロシューは、通信文を副長に回した。


「これは・・・面倒な任務を、寄こしましたな、司令部は・・・」


 副長が通信文を読み、その後に発した第一声が、それだった。


「そもそも本艦は仮装巡洋艦であって、正規の巡洋艦では無い。司令部は、それを理解しているのか?」


 副長が、ぼやく。


 仮装巡洋艦とは、旅客船、油槽船、貨物船等の商船を改造した戦闘艦である。


 大量の人員や物資、油等を積む事ができるため、巡洋艦に匹敵する武装が搭載可能であるが、装甲等の防御力は申し訳程度しか無く、航空機からの爆撃や雷撃、艦艇からの砲撃や雷撃を受けると、数発で航行不能又は撃沈される可能性が高い。


 しかし、正規の巡洋艦を建造するよりも、短期間且つ安価で建造出来るという利点があるため、ドイツ第3帝国海軍は、大西洋での輸送船等の商船破壊に、仮装巡洋艦を大量に投入した。


 それこそ、潜水艦に匹敵する程の数だったそうだ。


 商船を流用した船舶ではあるが、海軍籍であるため、乗組員は海軍軍人である。


「命令である以上は、従わなければならない。それに・・・仮装巡洋艦が、正規の軍艦と戦うのは、ヨーロッパ大戦でもあった。必ずしも、無謀な命令という訳でも無い」


 アンドロシューの言う通り、第1次世界大戦(ヨーロッパ大戦)では、世界に根拠地を持つイギリス帝国を敵とするドイツ帝国は、仮装巡洋艦を主力として、商船破壊等を行った。


 この時ドイツ帝国には、船の燃料である石炭を供給する同盟国や友好国が少なかったため、仮装巡洋艦は、石炭を必要としない帆船を利用した。


 帆船は、石炭を必要としないため、長期航行に必要な物は衣類と糧食、飲料水だけであった。


 そのため、イギリス及びその同盟国、友好国の石炭輸送船を徹底的に沈め、イギリスから海の悪魔として恐れられた。


 ドイツ第3帝国は、1939年の会戦以来、仮装巡洋艦を大西洋や地中海等に投入し、再び海の悪魔として連合国に恐れられた。


 枢軸国と連合国が軍事同盟を結び、スペース・アグレッサー軍と大日本帝国軍との会戦に踏み切った後は、大量の仮装巡洋艦が、インド洋、太平洋に派遣された。


 大日本帝国陸海軍の輸送船や補給艦だけでは無く、パトロール部隊に所属する駆逐艦やフリゲートを撃沈した功績がある。


 アンドロシューも、インド洋で商船破壊に従事し、大日本帝国陸海軍や民間の物資輸送船舶を撃沈しただけでは無く、パトロール部隊に所属する駆逐艦やフリゲートを沈めた戦果を持つ。


 米英独伊連合軍海軍統合遊撃部隊司令部も、その戦果を評価して、戦艦部隊への攻撃を任せたのであろう。





 アンドロシューは、搭載機である水上偵察機He114[ハインケル]を、2機発艦させた。


 水上偵察機ではあるが、50キロ爆弾を2つ搭載可能であるため、もしも、うまく行けば老朽艦[ミズーリ]に、爆撃を仕掛ける事が出来るかもしれないためである。


 2機のHe114は、レーダー探知圏外である超低空を飛行し、PBY[カタリナ]が発見した戦艦部隊に向かった。


「機関全速!左舵一杯!」


 アンドロシューの命令を、航海長が復唱し、総舵手が左に舵を切る。


「いいか、相手は戦艦だ。怪しまれないよう慎重に行動しろ!」


 搭載する艦砲及び機関砲等は、入念に偽装されている上に、戦う寸前までカバーがかけられているため、簡単には見破れない。


 しかし、相手はスペース・アグレッサー軍である。


 どんな絡繰りで、仮装巡洋艦と見破られるか、わからない。


「見張り員。対空目標は、無いか?」


「見当たりません」


 連合国アメリカ海軍の上級将校(ハワイ諸島オアフ島に潜入した経験のある少佐)からの情報では、人が乗らずに自由自在に空を飛び回る無人偵察機が、存在するそうだ。


 無人航空機の研究は、ヨーロッパ大戦時にもあった。


 しかし、遠隔操作の難しさから、実現する事は出来なかった。


 だが、彼らが使う無人偵察機は自らの意思で飛行し、偵察を行うそうだ。


「何も・・・」


 見張り員が報告する前に、通信士官が報告した。


「He114からの連絡が、途絶えました!」


「撃墜されたか?」


「恐らくは・・・」


 通信士官の言葉に、アンドロシューは悟った。


「どうやら、我々の小細工は、見破られているかもしれんな・・・」


 報告では、天候にもよるが、目視できない高々度からも、正確に艦影等を確認できる高性能カメラがあるそうだ。


 もしかしたら、最初から見つかっていたのかもしれない。


 この広い海域で、1隻の船を識別するのは不可能に近いが、幸運が重なれば、それができるかもしれない。


 PBY[カタリナ]が、戦艦部隊を発見した時点で、高性能レーダーが捉えないはずがない。


 こちらの行動は、完全に把握されていると見るべきだろう。


「艦長!回転翼機が、接近してきます!」


 見張り員の報告に、アンドロシューはウィングに出た。


 彼は、双眼鏡を覗く。


 灰色の回転翼機が3機、こちらに接近している。


「対空戦闘用意!!」


 アンドロシューが、対空戦闘を命ずる。


 甲板に設置されているカバーが外され、対空機関砲が姿を現す。


 兵員が取り付き、対空機関砲の砲口を、接近する回転翼機に向ける。


「フォイヤ!!」


 対空機関砲の指揮官が、叫ぶ。


 射撃手が操作し、対空機関砲が火を噴く。


 だが、回転翼機が散開し、機関砲弾を回避する。


 その回転翼機からロケット弾が発射され、そのロケット弾が甲板上に設置された艦砲や機関砲に直撃した。


 ロケット弾が炸裂し、艦砲や機関砲が破壊される。


 艦体が、激しく揺れる。


「艦長!武装が、破壊されました!」


 報告を受けなくても、わかる惨状だった。


 回転翼機は、艦の周囲を旋回しながら、こちらを見下ろしている。


「降伏しろ、という事か・・・」


 アンドロシューは、つぶやいた。


 しかし、彼は降伏を選択する事は無かった。


 艦長として、最後の命令を出した。


「白兵戦用意!!ライフルと、機関銃を持て!!」


 艦内には、個人携行火器であるライフルや、機関銃等がある。


 まだまだ、戦える。


 1人の将校が、ワルサーP38を構えて発砲している。


 弾を撃ち尽くすと、上空から砲弾の飛来音が響いた。


 そのまま砲弾が、甲板に突き刺さり、炸裂する。


 仮装巡洋艦[ムー]が、炎に包まれる。

 HELL ISLAND 第16章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は5月25日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ