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HELL ISLAND 第14章 カイルア地区攻防戦 前編

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 ハワイ諸島オアフ島カイルア地区。


 ここにも米英独伊連合軍地上軍が上陸し、2個師団が同地区を、完全な占領下に置いている。


 洋上では、予備兵力4個師団が、駆逐艦部隊に護衛された、輸送艦群に乗艦して待機している。


 カイルア地区では、ハワイ連邦陸軍1個師団が配備されていたが、戦艦及び巡洋艦による艦砲射撃と強襲上陸作戦により、配備師団は、ある程度の損害を出した後、撤退した。


 上陸した米英独伊連合軍地上軍は、アメリカ海兵隊第1海兵師団である。


 現在も、カイルア地区防衛を任されている。


「まったく、どうなっているのだ?」


 第1海兵師団前哨部隊に所属する1等兵が、ぼやく。


「・・・何が?」


「昨日まで、攻勢に備えて準備しろという命令が出ていたのに・・・突然、今日になって、占領地区の防衛指示だぜ。どうなっているのだ?」


「わからん。上には上の考えがあるのだろうが・・・俺たち兵卒には、何もわからない」


 同僚の1等兵は、重機関銃であるM1919を、簡単に点検しながら、答える。


「お前は、いつもそうだな・・・」


「昨日、早朝に第4海兵師団が侵攻を開始したが、何の連絡も無い・・・あいつら、どうなったのかな?」


 同僚の1等兵は、それが気になるようだった。


 カイルア地区を橋頭保に、上陸した米英独伊連合軍地上軍は、アメリカ海兵隊とイギリス海兵隊である。


 上陸当初は4個師団規模だったが、オアフ島東部に上陸した、米英独伊連合軍地上軍本隊8個師団の侵攻と並行して、ここでも2個師団が侵攻を開始した。


 しかし、1日が経過しても、何も連絡が無い。


「その答は、簡単だ。あいつ等を蹴散らして、快進撃を続けている」


 1等兵は、M1[ガーランド]を持ち替えながら、告げた。


 アメリカ海兵隊では、陸軍と違い、自動小銃への更新は行われていない。


 海兵隊総司令官である、アレクサンダー・ヴァンデグリフト大将は、個人携帯火器の更新を、ハワイ奪還戦の直前まで海軍省に申請し続けていたが、予算の都合や、更新後の練度等を言い訳に、却下された。


 そのため、海兵隊の装備は、従来のM1[ガーランド]、M1[カービン]等の個人携行火器のままである。


「バウ!!バウ!!」


 警戒任務についている、警戒犬が吠えた。


「何だ!?敵襲か!?」


 前哨部隊の兵士たちが、塹壕から顔を上げる。


「人影だ!!」


 誰かの叫びに、1等兵がM1[ガーランド]の安全装置を解除する。


「待て!!相手を確認するまで撃つな!!」


 分隊長の叫び声が、響く。


 人影が、だんだんと、はっきりしてくる。


「あれは・・・」


「味方だ!!」


 前哨部隊の目の前に現れた部隊は、昨日、自分たちが見送った、アメリカ海兵隊とイギリス海兵隊の部隊だった。


 しかし・・・


「どうなっているのだ?」


 その数は、あまりにも少ない上に、彼らは全身傷だらけだった。


「どうした!?何があった!?」


「他の連中は!?」


 戻って来た海兵に、皆が口々に話し掛けた。


「スペース・アグレッサー軍の待ち伏せで、全滅した・・・」


 その海兵は、弱々しい口調で答えた。


「全滅!?」


「そんな!?」


 海兵たちが、驚愕の声を上げる。


「まずい!!総員、警戒配置!!」


 前哨部隊の将校が、叫び声を上げるが、その時、砲弾の飛来音が聞こえた。


 直後。


 連続して、榴弾の炸裂音が響く。


「榴弾砲だ!!それも大口径!!」


 アメリカ陸軍や海兵隊が配備している、105ミリ榴弾砲を越える榴弾が、連続して前哨陣地や、その後方に着弾している。


「おい!!」


 M1919を担当する、同僚の1等兵が、叫んだ。


 彼の視線の先を見ると、こちらへ進撃して来る、無数の戦車や装輪戦車があった。


「てっ・・・敵襲!!敵襲!!」


 叫び声と同時に射撃命令が出され、小銃、短小銃、短機関銃、重機関銃等が、一斉に火を噴き、迫撃砲も火を噴いた。





 カイルア地区への攻撃を実施したのは、ニューワールド連合軍NATO軍欧州連合軍最高司令部欧州合同軍地上軍ドイツ・フランス合同旅団である。


 ドイツ・フランス合同旅団は、1980年代後半に、当時のフランス大統領とドイツ連邦共和国(西ドイツ)首相との会談で、設立された旅団編成の合同部隊である。


 将軍の指揮下で、あらゆる作戦行動が可能な状態に入った段階で、欧州合同軍が設立されると、その中核部隊として編入された。


 配備地区は当初、ドイツ連邦共和国に、フランス陸軍部隊が駐留する一方、フランス本国にはドイツ陸軍部隊は駐留していなかったが、2000年代末に両国首脳が会談し、ドイツ陸軍の機械化歩兵部隊が、フランス本国に駐留する事に合意した。


 両国メディアは、この事を、大々的に世間に公表した。


 ドイツ陸軍部隊がフランス本国に駐留するのは、第2次世界大戦におけるドイツ第3帝国によるフランス占領後、初である。


 ドイツとフランスの歴史的和解、友好、協力等を象徴する結果を生んだ。


 編成は、1個旅団規模であるが、完全な機甲部隊、機械化歩兵部隊である主要な戦闘部隊である。


 フランス陸軍は、AMX-10RCで編成された、第31騎兵連隊(麾下に3個装甲偵察中隊)、第11機械化歩兵連隊が派遣されている。


 ドイツ連邦陸軍は、レオパルト2PSOで編成された第301戦車大隊、第311猟兵大隊(軽歩兵大隊)、第331装甲砲兵大隊が派遣されている。


 兵站部隊として双方から派遣、編成された混成兵站大隊が置かれている。


 これが常設部隊である。


 ニューワールド連合軍NATO軍欧州連合軍最高司令部欧州合同軍傘下に編成された時、非常設部隊が組み込まれて、規模は旅団強である。


 非常設部隊として、ドイツ連邦陸軍航空部隊からUH-1D[ヒューイ]と、空中機動作戦部隊である猟兵連隊と、フランス陸軍航空部隊よりEC665[ティーガー]で編成された、戦闘ヘリコプター部隊2個飛行隊(HAPタイプで編成された1個飛行隊とHADタイプで編成された1個飛行隊)と、ルクレールで編成された騎兵連隊が組み込まれている。


 ニューワールド連合軍が、第2次世界大戦に本格介入を決定した時、ニューワールド連合軍NATO軍欧州連合軍最高司令部欧州合同軍は、ハワイ諸島に派遣された。


 オアフ島に派遣されたのが、欧州合同軍傘下のドイツ・フランス合同旅団である。


 派遣された早々、初任務として出動したのは、ハワイ諸島占領に反対する地元住民の暴動鎮圧だった。


 ドイツ・フランス合同旅団は、PKO活動にも参加できるよう再編成されており、傘下のレオパルト2PSOは、市街地戦用に改良された主力戦車だが、PKO活動にも参加できるよう改良されていた。


 装填手ハッチ後方に設置されている全周旋回可能な遠隔操作式銃架には、非殺傷兵器が搭載可能だった。


 暴動鎮圧のために、音響兵器が使用された。


 音響兵器の前に暴徒たちは完全に無力化され、地元警察と警備隊(旧ハワイ州兵部隊)によって拘束された。


 出動したのは、この1件だけであり、本格的な出動は、ハワイ会戦まで無かった。


 ドイツ・フランス合同旅団に与えられた任務は、米英独伊連合軍地上軍アメリカ海兵隊とイギリス海兵隊が占領した、カイルア地区の奪還である。


 随行部隊として、ハワイ連邦陸軍機甲師団から、1個機甲旅団が派遣されている。


 ドイツ・フランス合同旅団第331装甲砲兵大隊所属のパンツァーハウヴィッツェ2000が、一斉に砲撃を実施する。





「敵襲だ!」


「急げ!」


 カイルア地区の防衛を担当する第1海兵師団第1海兵連隊に所属する海兵たちが、駆け回る。


 前哨部隊が、スペース・アグレッサー軍と会敵し、戦闘状態になった事は、すでに届いている。


「徹甲弾装填!」


 M5対戦車砲に、徹甲弾を装填する。


 予備として待機していた部隊も、防衛線に到着し、スペース・アグレッサー軍との戦闘に備える。





 ニューワールド連合軍NATO軍欧州連合軍最高司令部欧州合同軍地上軍ドイツ・フランス合同旅団第301戦車大隊長のディルク・バルテル少佐は、レオパルト2PSOの車長席で、デジタルモニターを眺めている。


 いくつかあるモニターの1つに、無人偵察機が捉えた敵情が映し出されている。


「大隊長車より、各車。敵部隊は投入可能な全兵力を防衛線に投入した。戦車や対戦車砲の数は極めて大だ。戦車砲や対戦車砲の徹甲弾の威力では、レオパルト2の装甲を貫徹する事は出来ない。だから、落ち着いて戦え」


 レオパルト2PSOは、市街地戦闘に対応して設計されたモデルだ。


 市街地では、建物等の影や中から歩兵携行式対戦車火器を、至近距離で撃ち込まれる可能性が高い。


 そのため、戦車の弱点部分に増加装甲を装着し、防御力を高めている。


 前進を続けていると、突如、地面が爆発した。


「対戦車地雷だ!」


 ヘッドセットから、部下の声が響く。


 しかし、その声は、かなり余裕があった。


 レオパルト2A6M以降のシリーズでは、車体底面に対戦車地雷用の装甲板が取り付けられるようになり、対戦車地雷が炸裂しても、ダメージを受けないよう設計されている。


 レオパルト2PSOは、対戦車地雷原に突入するが、車体底面に装着された装甲板により、対戦車地雷が炸裂しても、びくともしなかった。


 一部のレオパルト2PSOが、履帯を破壊されたため、その場で、立ち往生するが、すぐに戦車回収車が現れ、行動不能になったレオパルト2PSOを回収する。


 対戦車地雷原を突破した所で、カイルア地区の防衛部隊であるアメリカ海兵隊から対戦車攻撃が実施された。


「射程外だ。恐れるな!」


 バルテルが、ヘッドセットに告げる。


 榴弾砲による砲撃も実施されるが、すぐさま対砲レーダーが探知し、後方に展開しているパンツァーハウヴィッツェ2000が砲撃を開始する。


 パンツァーハウヴィッツェ2000の榴弾は、ロケット推進無しでも、30キロメートルまで届く。


 そのため、アメリカ海兵隊砲兵部隊が使用する榴弾砲の射程圏外から、榴弾を浴びせる事ができる。


「フォイヤ!!」


 バルテルの号令で、一斉にレオパルト2PSOの戦車砲が吼える。


 レオパルト2PSOは、レオパルト2A6以降のモデルでありながら、55口径120ミリ滑空砲では無く、44口径120ミリ滑空砲である。


 これは、市街地戦闘に配慮しての装備だ。


 撃ち出されたAPFSDSは、防衛陣地に展開しているM4[シャーマン]の正面装甲に直撃する。


「HEATーMP!」


 バルテルは、多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)を選択した。


 装填手が、HEAT-MPを装填する。


「ラーデン!!」


「フォイヤ!!」


 バルテルの号令で、砲手が発射ボタンを押す。


 発射されたHEAT-MPは、設置された対戦車砲に直撃し、兵員もろとも吹き飛ばす。


 M4[シャーマン]やM5対戦車砲の徹甲弾が、レオパルト2PSOに被弾するが、複合装甲と増加装甲の前に、砲弾は弾き飛ばされる。





 第311猟兵大隊も対戦車地雷原を突破し、レオパルト2PSOが撃ち漏らした歩兵に対処する。


 レオパルト2PSOには遠隔操作式銃架が装備され、40ミリ自動擲弾発射機GMW、12.7ミリ重機関銃M2、7.62ミリ機関銃MG3のどれかが装着可能だ。


 そのため、対歩兵戦能力は、かなり高いが、どうしても撃ち漏らす事がある。


 猟兵が展開し、残存する海兵たちに対処する。


 彼らは、フォアグリップやダットサイト等を取り付けたG36A2を武装しており、極めて安定した状態で正確な射撃が行える。


「攻撃犬に注意!」


 第311猟兵大隊長が、部下たちに注意する。


 第2次世界大戦時では、歩兵と随行する攻撃に特化した軍用犬の攻撃犬がいる事は、当然ながら、知っているため、猟兵たちはかねての訓練通りに落ち着いた状態で、攻撃犬を仕留める。


 元の時代では、ハンター経験のある猟兵もいるため、かなり手慣れた手つきで、攻撃犬を絶命させる。


 ドイツ連邦共和国は、イギリスと同じく動物愛護の先進国で、犬猫の殺処分率は0と、日本では教えられているが、あくまでも殺処分率が0・・・というだけである。


 犬猫の駆除は、認められているどころか、積極的に行われている。


 野良犬及び野良猫は、野生動物及び生態系に悪影響を及ぼすだけでは無く、地域住民の生命、財産を脅かす存在だ。


 そのため、駆除は積極的に行われている。


 実際、ドイツ連邦共和国の公園をうろうろしている野良犬又は野良猫を、警察官や行政職員が見つければ、確保ができない場合は射殺するそうである。


 警察官及び行政職員に駆除される犬猫は、1年間で犬が1万匹以上、猫が10万匹以上であるという統計結果がある。


 ただし、これは公的機関の報告であり、民間のハンターが駆除する数は不明である。


 ハンターの中には、例え首輪及び迷子札を付けている犬猫でも、飼い主の手元から離れた犬猫を保護せず、危険動物として駆除する者もいる(因みにドイツ連邦共和国の法的には、合法である)。


 そのためドイツ連邦共和国軍兵士にとって、軍用犬を撃つ、という事について、あまり抵抗は無い。


 第311猟兵大隊にも大隊管理下で軍用犬がいるため、弾幕をすり抜けたアメリカ海兵隊の軍用犬を排除する。


 この光景も、ドイツでは見慣れたものである。


 ハンターのなかには、狩猟犬の訓練のために、野良犬や野良猫を獲物にする者もいるそうだ。


 日本人の考え通り、確かにドイツは動物愛護先進国である。


 しかし、動物愛護とは、特定の動物を保護するのでは無く、すべての動物を保護する事にある。


 その中で、優先順位が生まれ、保護を目的とした駆除が行われる。


 海兵たちも攻撃犬に続き、銃剣を取り付けたM1[ガーランド]を前に突撃してくるが、軽機関銃であるMG4の火力の前に近付く事もできず、絶命する。


 アメリカ海兵の中には死んだふりをした状態で、待ち伏せをする者もいたが、展開した軍用犬が、それを見破り、襲い掛かる。


「うわぁぁぁ!!」


 喉元に咬みつかれ、そのまま振り回される。


 その海兵は、軍用ナイフで反撃するが、第311猟兵大隊の軍用犬は全頭、犬用防弾チョッキ、犬用ヘルメットを装着しているため、ナイフの刃は防がれてしまう。


 喉を咬みつかれた海兵は、そのまま咬み殺された。


 第311猟兵大隊に所属するライフル兵が指笛を鳴らす。


 その音に気付いた軍用犬のドーベルマンは、ライフル兵の元へ駆け寄った(アメリカ海兵を咬み殺した軍用犬である)。


 ライフル兵は、そのドーベルマンが着込んでいる防弾チョッキのポーチから救急キットを取り出し、銃撃戦で負傷した負傷兵の応急処置を行う。


 応急処置が完了した負傷兵は、その後、アメリカ海兵を咬み殺した軍用犬ドーベルマンに運ばれて、衛生兵の元に搬送された。

 HELL ISLAND 第14章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は5月11日を予定しています。

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