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HELL ISLAND 第12章 4ヵ国連合軍連合陸軍の進撃 9 戦場の現実 K1A1対センチュリオン

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 菊水総隊陸上自衛隊第7機甲師団第11普通科連隊第1普通科中隊第1小隊長は、89式装甲戦闘車に前進命令を出した。


「敵戦車は、90式戦車及び10式戦車が排除した!残りは歩兵部隊と装甲車のみだ!我々の火力で十分対処できる!」


 第1普通科中隊長が、各小隊長に伝える。


 89式装甲戦闘車は、その形状から戦車と間違われる事があるが、戦車では無い。


 確かに、戦車と同行する事があるが、対戦車戦をメインとした戦闘をする訳では無い。


 あくまでも普通科隊員を輸送しながら、火力で対歩兵戦を実施する。


 陸上自衛隊では、60式装甲車と73式装甲車を装備し、普通科隊員を防護しながら戦車と共に行動していたが、両装甲車は自衛目的の重機関銃及び汎用機関銃を装備するのみで、戦車に随行しながら、普通科隊員や戦車の火力支援をする事は出来なかった。


 当時の仮想敵国であったソ連では、主力戦車と歩兵戦闘車が、ペアで作戦行動を行うのが一般的だ。


 これに対し、主力戦車であった90式戦車のみで対処するのは、極めて困難だった。


 当然ながら、歩兵戦闘車に搭乗する歩兵部隊(ソ連軍の呼称では、狙撃部隊)は、携行式対戦車火器を装備している。


 90式戦車が、ソ連軍の主力戦車に集中している状況下で、側面に回り込んだ敵歩兵に、携行式対戦車火器で攻撃されれば、ひとたまりも無い。


 73式装甲車が随行した状態でも、強力な火力を有する歩兵戦闘車に、すぐに撃破され、完全に無力化される。


 そこで、陸自は、戦車に随行し、戦う事ができる戦闘車を求めた。


 そこで登場したのが、89式装甲戦闘車だ。


 強力な90口径35ミリ機関砲を装備し、砲塔左右に79式対舟艇対戦車誘導弾を装備しているため、戦車及び普通科隊員を強力な火力で支援しながら、部隊行動がとれる。


「砲手!戦車は今のところいないが、パンツァーファウストを装備した歩兵がいる。側面には注意しろ!」


 小隊長が、砲手に注意した。


「了解!」


 90式戦車より前に出た途端、猛烈な機関銃による砲火を受けた。


「MG42だな・・・」


 小隊長兼車長が、つぶやく。


「そんな豆鉄砲で、こいつの装甲を貫徹できる訳が無いだろう」


「油断するな。機関銃や小銃の砲火で、俺たちの目を引き付けた隙に、パンツァーファウストを装備した対戦車兵が、側面に回り込む気だ」


「了解」


「もっとも砲火が強い場所を攻撃する!」


 車長の指示で、砲手が砲塔を旋回させる。


 89式装甲戦闘車が装備する35ミリ機関砲は、装弾筒付徹甲弾と焼夷榴弾の弾種を使用する事ができる。


 目の前にいるのは歩兵であるため、焼夷榴弾を使用する。


 即応弾として装弾筒付徹甲弾と焼夷榴弾の17発入りマガジンが、左右にセットされている。


「照準よし!」


 砲手が叫ぶ。


「撃て!」


 車長の号令で、砲手が発射ボタンを押す。


 35ミリ機関砲の砲口が、吼える。


 発射された砲弾は、歩兵が展開する場所に着弾する。


 土煙が巻き起こり、火点が沈黙する。


「目標を無力化!」


 砲手の報告を聞きながら、車長は次の目標を探していた。


「戦車接近!」


 車長が、こちらに向かっている中戦車を確認した。


「Ⅳ号戦車H型だ!」


「戦車、発砲!!」


 砲手が、叫ぶ。


 砲弾は、89式装甲戦闘車の近くに着弾した。


「重MAT!」


 車長が、指示を出す。


「了解!」


 砲塔両側面に装備された、79式対舟艇対戦車誘導弾発射機が起動し、発射態勢に入る。


「発射準備完了!」


「発射!!」


 砲手の報告を聞き、車長が発射命令を出す。


 撃ち出された79式対舟艇対戦車誘導弾は、戦車の弱点である上部装甲に着弾する。


 装甲を貫徹し、Ⅳ号戦車H型を破壊する。





「総員下車!」


 第7機甲師団第11普通科連隊第1普通科中隊第1小銃小隊第3班所属の池上(いけがみ)大希(たいき)1等陸士は、副分隊長である陸士長の指示で、開放された後部ハッチから、外に飛び出した。


 89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を構えて、初の戦場を経験する。


 第7機甲師団は、陸上自衛隊唯一の機甲師団であり、戦場では、もっとも激戦地帯に投入される事が決まっていた。


 それが、ここ、ハワイ・オアフ島である。


 しかし、実際にオアフ島の土を足で踏んでみたものの、実戦の機会に恵まれる事は、中々無かった。


 池上は、陸上自衛隊北部方面隊北部方面混成団第120教育大隊で、教育訓練が終了したばかりで、太平洋戦争時代にタイムスリップする話を聞かされた。


 二度と元の時代に帰れないという話だったが、彼は興味本位で志願した。


 最初は、菊水総隊陸上自衛隊の予備部隊に配属され、そこで、普通科隊員としての教育と練度向上に努めていたが、強い意志で実戦部隊に配属されるよう希望した。


 この時代に来て、実戦を経験する事無く、終わるのは嫌だった。


 願いは叶い、陸上自衛隊第7機甲師団第11普通科連隊に配属された。


 池上にとって、初めて経験する実戦である。


 訓練で何度も経験した89式装甲戦闘車の射撃音、99式自走155ミリ榴弾砲の榴弾の着弾音・・・だが、彼の知っている現実は、的が跡形も無く吹っ飛ぶ光景である。


 今、彼の目の前で繰り広げられている光景は、ただ単に砲弾が当たった的が、砕ける光景では無い。


 本物の人が・・・


 本物の装甲車、戦車等の車輛が・・・


 バラバラになって、吹っ飛んでいるのだ。


「?」


 その時、半長靴が何かを踏んだ。


 その感触は、石でも無ければ、車輛の破片でも無い。


「ひいっ!?」


 無残に千切れた、人の手だった。


 池上が、尻餅を付く。


 戦争映画で何度も見る光景だが、実際に目にすると、頭の中が掻き回される。


「おい!しっかりしろ!!」


 自分より5歳ぐらい歳上の陸士長が、肩を強く叩いた。


「士長・・・」


「今は何も考えるな!!目の前の事に集中しろ!!」


 陸士長は、5.56ミリ機関銃NIMINIを乱射しながら、叫ぶ。


「手榴弾!」


 陸士長は、手榴弾を投擲する。


 池上は、正気に戻った。


「やるしかない!」


 彼はそう言って、伏せ撃ちの姿勢で、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を構えた。


 教本通りに狙いを定めて、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床の引き金を引いた。


 無駄撃ちを避けるために、3点射制限射撃で射撃を行うため、3発発射されると、自然と発砲は止まる。


 池上は近くの敵兵は狙わず、遠くにいる敵兵を狙った。


 近くにいる敵兵を狙えば、自分が発砲した弾丸で、絶命する光景を目にする事になるが、遠くの敵兵なら、自分が発砲した弾丸で絶命しても、自分が殺した、という実感は湧かない。


 自分の発砲した弾では無く、自分以外の誰かが撃った弾が当たったと、自分に言い訳が出来る。


 それが、情けないとは思わない。


「敵の攻勢は小規模だ!!怯まず、前進を続けろ!!」


 分隊長兼89式装甲戦闘車の車長である3等陸曹が、叫ぶ。


 その声が、インカムに届く。


 池上は、立ち上がり、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を発砲しながら、前進をする。


 その隣には、ある程度経験がある陸士や、さっきの陸士長がいる。





 菊水総隊陸上自衛隊第7機甲師団と同じく、左翼を攻撃した朱蒙軍陸軍第1軍第1機甲師団は、米英独伊連合軍地上軍侵攻部隊のイギリス陸軍と対峙していた。


 朱蒙軍陸軍第1軍第1機甲師団第11機械化歩兵旅団第101戦車大隊第3中隊第4小隊長の櫂智彦(クォンジオン)少尉は、K1A1戦車の車長席で、玩具のM4[シャーマン]を手に持ち、それを眺めていた。


 神薙司に貰った、プレゼントである(女性にプレゼントする物として、妥当かどうかに付いては、あくまでも当事者間での問題であるため、そこに突っ込む無粋な者はいない)。


 自分にしても神薙にしても、母親が海軍(神薙の場合は、海上自衛隊)にいるにもかかわらず、海軍には行かず、陸軍(神薙の場合は、陸上自衛隊)に進んだ。


 どういう訳か、子供の時に2人で一緒に見た、陸軍の公開演習で、力強く走行する戦車に憧れを感じ、陸軍に行きたいと強く思った。


 成長した神薙が、第2次世界大戦時の戦車が活躍する戦車アニメのDVDと、何かのイベントで当たった景品だという、手の平サイズのM4[シャーマン]の玩具を送って来た。


 付属していた手紙には、とっても面白い戦車アニメだから、是非見るようにと、書いていた。


 神薙は、オタクというほどでは無いが、アニメ好きではある。


 本来、自分の好みを押し付けるような、無粋な事はしない神薙が、わざわざ送って来るという事は、相当気に入っているアニメであるのだろう。


 確かに、面白かったが・・・


 わざわざ貸すのでは無く、プレゼントしてくれる必要があったのか、問いたくなった。


「車長。そろそろ戦闘地帯です。車内に、お入り下さい」


 装填手である中士が、声をかけてきた。


 櫂は何も言わず、車内に戻った。


「全車へ」


 中隊長の声が、ヘットセットから聞こえる。


「後方は、日伊の即応部隊による奇襲攻撃で、完全に分断され、敵は混乱している。前衛のドイツ軍とアメリカ軍の後衛を守っているのは、イギリス軍だ。無人偵察機からの情報では、イギリス軍は、巡航戦車センチュリオンを側面に展開して、側面攻撃に備えている。17ポンド砲の徹甲弾では、K1A1戦車の正面装甲を貫徹する事はできないだろうが、常に僚車との距離を保ちお互いを援護できるように配慮するように」


 中隊長は、各小隊長に注意した。


「第4小隊。了解」


 櫂が、返答する。


「小隊各車」


 櫂は、小隊長車以下3輌のK1A1の車長と交信した。


「まもなく接敵する。知っての通り、私は実戦を経験するのは、パナマ以来2回目だ。もちろん、それは私だけでは無い。韓国陸軍のほとんどが、戦車対戦車の戦闘を行うのは、韓国戦争以来、ほんの数回と言っても過言では無い!」


 大韓民国軍は、韓国戦争以降の対外戦争に参戦した経験はあるが、あくまでもアメリカ軍の補助という立場が強い。


 大規模に投入されたベトナム戦争でも、韓国軍は、非正規戦闘に従軍する事が多かった。


 南ベトナム解放戦線や、北ベトナム軍のゲリラ部隊といった、非正規の攻撃に対処するのがほとんどであり、その任務は対反乱作戦等を遂行する治安部隊としての役割が強かった。


 むろん、戦車戦も存在していたが、ここまでの戦車戦は、韓国戦争以来・・・


 と、言っていいだろう。


「APFSDS装填!」


 櫂は、装填手に指示した。


 装填手が弾薬庫からAPFSDSを取り出し、装填する。


「装填!」


 装填手が、叫ぶ。


「センチュリオンを視認!」


 砲手が、叫ぶ。


「照準を合わせて!」


 第3世代主力戦車であるK1A1は、ほとんどがコンピューター制御されているため、照準等も自動化されている。


 砲手がセンチュリオンに照準を合わせると、コンピューター制御されているため、自動的に弾道計算等がされる。


「照準を合わせました!」


 砲手からの報告を受けると、大隊長である中領から射撃命令が出た。


「撃て!!」


 櫂が、命令する。


 K1A1の砲口が吼える。





「敵重戦車が、一斉に砲撃!」


 米英独伊連合軍地上軍侵攻部隊イギリス陸軍第11装甲師団第11戦車旅団第111戦車大隊長の中佐は、砲手からの報告を受けた。


 砲手に言われなくても大隊長も、重戦車の砲撃を確認した。


 その砲弾は、いともたやすくセンチュリオンの正面装甲を貫き、火の塊とした。


「何と言う威力だ・・・これは、ロシア解放軍地上軍の重戦車、IS-2の122ミリ戦車砲を上回っている・・・」


 ロシア解放軍とは、ドイツ第3帝国国防軍がソ連に侵攻した時、捕虜となったロシア人の中から反共産党で、ドイツ第3帝国に協力する者たちで編成された軍事組織である。


 アンドレイ・アンドレーエヴィッチ・ウラソフ上級大将(ドイツ第3帝国国防軍から与えられた階級)を総司令官として、組織されたドイツ第3帝国国防軍陸軍傘下のロシア人部隊である。


 アトランティク・スペース・アグレッサー軍による傀儡国家である新ソ連の建国後、その体制に従わない多くのロシア人が、ドイツ第3帝国に亡命した。


 そのため、ロシア解放軍も拡大し、地上軍と航空軍が新設された。


 東部防衛戦では、米英独伊連合軍と共に戦い、防衛戦を繰り広げた。


 ロシア解放軍の兵器は、旧ソ連の兵器がほとんどであり、その中にIS-2もあった。


 IS-2は、KV-2等と言った重戦車と共に、新ソ連軍及びスペース・アグレッサー軍と戦った。


 大隊長は、その時の光景を知っている。


「APDS装填!」


 砲手が、叫んだ。


 少数ではあるが、装弾筒付徹甲弾(APSD)が、装備されている。


 これは、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の前者に当たる砲弾だ。


 装甲を貫く事に特化した砲弾であり、至近距離で撃ち込めば、もしかすればスペース・アグレッサー軍地上軍の重戦車にも効果があるかもしれない。


 そう考えた大隊長は、一縷の望みを託し、そのAPDSを選択した。


 しかし、この砲弾には欠点があった。


 装甲貫徹能力は高いが、命中率が極端に低いのだ。


「操縦手!ジグザグに走行しろ!」


 大隊長は、指示を出し、全速走行状態でジグザグ走行を命じた。


 同時に他のセンチュリオンも、前進する。


 だが、敵の重戦車の照準は極めて正確であり、1輌、1輌と確実に撃破されていく。


 もちろん、センチュリオンも、ただやられている訳では無い。


 こちらも撃ち返しているが、発射された徹甲弾は、敵重戦車の正面装甲を貫徹する事ができず、弾き返される。


「砲手!かなり難しい行進間射撃であるが、確実に当てろ!」


「ラジャ!」


 大隊長の言葉に、砲手が叫んだ。


「距離900で、発射する!」


 大隊長は、かなり無茶な命令を出す。


 APDSは、900メートル程度で発射した場合、200ミリ程度の装甲板を撃ち抜く程の高い威力がある。


 元々は、ドイツ第3帝国国防軍陸軍の重戦車の正面装甲を貫徹できるよう開発されたが、スペース・アグレッサー軍地上軍の重戦車に対抗できる可能性があるため、開発量産が急がれた。


「距離900!」


「シュート!」


 大隊長が、発射命令を出す。


 センチュリオンの、17ポンド戦車砲が吼える。


 発射されたAPDSは、その重戦車の正面装甲に着弾したが、何も起こらなかった。


「くっ!駄目か・・・」


 その重戦車の砲口が、こちらに向いた。


 砲口から閃光が発せられ、次の瞬間、大隊長が搭乗したセンチュリオンが炎に包まれた。

 HELL ISLAND 第12章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は4月27日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  物語の各所に見かける個人名、今回はアンドレイ・アンドレーエヴィッチ・ウランフ上級大将。  膨大な資料を抱えて執筆されているのだなぁ、と思った次第です。  私も書けれた…
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