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HELL ISLAND 第10章 4ヵ国連合軍連合陸軍の進撃 7 海軍陸戦隊特別攻撃隊 後編 散華

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 伊号三百六十一潜水艦は、上陸地点周辺海域に到着し、浮上した。


 電探が起動し、対空及び対水上探索を行う。


 艦長以下士官たちが、艦橋に姿を現し、双眼鏡を覗く。


「艦長。電探には、何も反応はありません」


 航海長が、報告する。


「周辺に敵影は、ありません!」


 艦橋で周囲を捜索する士官が、報告した。


「特攻隊を、出撃させろ!」


 金岡が双眼鏡を下ろしながら、指示を出す。


 ゴムボートの準備が行われる中、水雷科の水兵たちが対空機銃に取り付き、万が一にも敵機が襲来しても対処できるよう配置についている。


 特別攻撃隊の隠密上陸は、夜間に行う事が決められている。


 事前の偵察で、敵勢力圏内でも警戒態勢が薄い地点を確認し、潜水艦で上陸地点近くまで接近し、特別攻撃隊をゴムボートで隠密上陸させる。


 米英独伊4ヵ国連合軍連合陸軍には、50万人の上陸部隊がいるとはいえ、全部が上陸する訳では無い。


 輸送船等で、待機している部隊もいる。


 その上、大規模侵攻作戦間際だ。


 その準備のために、部隊を展開させなければならず、すべての地点を警戒する事は、不可能である。


 ゴムボートの準備ができ、特別攻撃隊第101特別攻撃隊第1中隊は、ゴムボートに分乗した。


「頼むぞ、神風」


 金岡は、海上を走るゴムボートに向かって、挙手の敬礼をする。


 先頭を走るゴムボートから、1人特別攻撃隊の陸戦兵が立ち上がり、答礼した。


 恐らく中隊長の、石垣大尉であろう。


「艦長。電探より、駆逐艦らしき艦影を、発見したとの事です」


 部下が、報告する。


「気付かれたか?」


「いえ、その可能性は、低いとの事です」


 その報告を聞いても、金岡は安心しなかった。


「ここは敵勢力圏内だ。長居は無用!」


「はっ!」


 航海長が、甲板に出ている者たちに、艦内に戻るよう指示をした。


 いくら自艦自衛のための魚雷や備砲が搭載されているとは言え、戦わないのに越した事は無い。


 伊三百六十一型潜水艦は、輸送が主任務であり、戦闘が目的では無い。


 あくまでも魚雷や備砲対空機関砲は、万が一にも戦闘をしなければならない場合になった時のみに、自分たちを守るためにある。


 金岡も艦内に戻った。


「急速潜航!」


 金岡が指示を出し、航海要員たちが、潜航のための操作を行う。


「深度90!」


「深度90!」


 艦長の指示を、潜航指揮官が復唱する。


「聴音。駆逐艦の動きは?」


「こちらに接近する動きは、ありません」


 聴音が耳をすませながら、告げる。


 潜水艦が、もっとも無防備になるのは、潜航する寸前である。


 潜航準備の段階では、甲板要員は全員が艦内に移動するため、万が一にも航空機や駆逐艦に発見されたら、どうにもならない。


 こうなった場合は、自衛戦闘を、するしか無い。


 もっとも、艦載の砲で、水上艦に対抗する事は、できないが・・・


 伊号三百六十一潜水艦は、海中に潜り、そのまま息を潜めた。


「速力4ノット!味方勢力圏内まで離脱する!以後、完全無音航行!」


 自分たちが今、敵に見つかる訳にはいかない。


 伊号三百六十一潜水艦が、敵の駆逐艦に発見されてしまえば、米英独伊連合軍地上軍総司令部周辺の警戒態勢が、強化されてしまう。


 潜水艦が敵勢力圏内に現れたという事は、上陸部隊や物資を満載した輸送船を撃沈する事が目的だと、敵は、まず予想をする。


 しかし、それが行われなかった・・・という事は、別の目的があると思われる。


 連合国アメリカ軍は、大日本帝国軍や、菊水総隊自衛隊、新世界連合軍について、ある程度には、情報を収集している。


 大日本帝国海軍の潜水艦の中に、輸送目的の潜水艦がある事は、すでに把握されていると、考えておく必要がある。





 上陸する事に成功した海軍陸戦隊特別攻撃隊第101特別攻撃隊第1中隊は、ゴムボートを岩陰に秘匿した。


「各員、装備を点検!」


 石垣は、部下たちに装備を点検するよう指示した。


 主力武装である一〇〇式機関短銃改と、予備弾倉がある事を確認する。


 一〇〇式機関短銃改は、1939年に開発された一〇〇式機関短銃を改良した機関短銃である。


 主な改良点は、陸海空軍で導入された新拳銃の9ミリ弾に対応するために、9ミリ弾仕様に改良された事である。


 三十年式銃剣が装着可能で火力も高い、この条件から特別攻撃隊の主力武器として、一〇〇式機関短銃が導入された。


 一〇〇式機関短銃の確認を終えると、壱式自動拳銃及び軍刀と、九七式手榴弾を確認した。


 九七式手榴弾は、実戦用と自決用が存在するため、それぞれを確認する。


「確認できたか?」


 石垣が副官に確認すると、副官はうなずいた。


「問題ありません」


 副官からの報告を聞き、石垣は携帯地図を出した。


「現在位置を確認する」


 携帯地図には、上陸地点の印がされており、米英独伊連合軍地上軍の総司令部がある地点の印もある。


「明日から米英独伊連合軍地上軍8個師団が侵攻を開始する。我々は、8個師団と守備隊が接敵した所で、襲撃をかけ、総司令部を混乱させる」


 石垣が士官たちに確認をとると、士官たちが、うなずいた。


「行くぞ」


 問題が無い事を確認すると、石垣は前進を命じた。


 海軍陸戦隊特別攻撃隊が創設されてから、本格的な任務である。


 これまで、厳しい訓練を積むだけであったが、自分たちの力が発揮される日がきた。


 石垣たちが前進を開始すると、少数の警戒部隊が展開している事はわかったが、それだけであった。


「敵の警備部隊は、少数ですね・・・」


 副官が、つぶやく。


「恐らく、大規模侵攻に備えて、部隊の配置転換を、しているのだろう」


 単純に考えれば8個師団が侵攻するという事は、とても、大変な事である。


 まず、侵攻する8個師団、予備部隊の3個師団だけでは無く、占領地域の警備及び防衛を担当する部隊、兵站地点及び補給路の安全を確保する部隊が、必要である。


 補給物資に関しては、コマンド部隊による破壊工作等を警戒しているのか、補給拠点は各地に設けられており、その警備部隊も、各地に分散配備されている。


 そのため、石垣率いる第101特別攻撃隊第1中隊100名が、米英独伊連合軍地上軍総司令部近辺に接近する事は、容易だった。


「よし、攻撃準備に、とりかかろう・・・」


 石垣が小声で指示をだすと、部下たちは、火力支援火器である二式迫撃砲を設置した。


 二式八糎迫撃砲は、未来から供与された64式81ミリ迫撃砲を陸海軍が改良し、生産した迫撃砲である。


 軽量化されているため、陸海軍の通常部隊だけでは無く、特殊部隊に位置付けられている部隊にも導入された。


「設置完了」


 迫撃砲班から合図を受けると、副官が報告した。


「よし、突入準備!」


 石垣が、指示を出す。


 敵地の真っただ中であるため、あまり大きな声は出さない。


 一〇〇式機関短銃を携行する陸戦兵たちが、突撃準備を行う。


 石垣が、手を上げる。


「撃ち方用意!」


 副官が無線で、迫撃砲班に指示する。


 そして、石垣が手を下ろす。


「撃て!」


 副官の号令で、設置された二式八糎迫撃砲が、一斉に火を噴いた。





 米英独伊連合軍地上軍総司令部は、突如として砲撃を受けた。


「何だ!?何事だ!!?」


 総司令部の天幕で、ハインツ・ヴィルヘルム・グデーリン上級大将が、叫んだ。


「閣下!敵襲です!!」


 副官が、報告した。


「敵襲だと!?爆撃を、受けているのか!?部隊規模は!?」


 参謀の1人が、聞いた。


「報告では、1個中隊規模の軽歩兵による攻撃です!」


 副官の報告に、グデーリアンの幕僚たちが、ざわめいた。


「警備部隊は、何をやっていた!?」


「やられた・・・」


 グデーリアンは、つぶやいた。


 侵攻部隊及び予備部隊を合わせて8個師団という大部隊を投入する事で、兵站の構築及び兵站の防衛、警備を行うために部隊を再転換したため、総司令部等の警備態勢及び防衛態勢が、薄くなってしまった。


 その隙を、突かれた。


 さらに、侵攻部隊が、スペース・アグレッサー軍及び大日本帝国陸軍の2個師団と接敵したという報告が、入ったばかりだ。


 下手な対応をすれば、前線部隊が、無駄な混乱をする事になる。


「敵襲の知らせは、前線部隊に届いたか?」


 グデーリアンが、副官に確認する。


「申し訳ありません。通信部隊が全回線で、敵襲を知らせてしまいました。それだけでは無く、通信部隊の先任将校が、最悪の事態に発展する事を恐れて、通信回線を切りました」


「何て事だ!!」


 グデーリアンが、叫んだ。


 恐らく、敵襲の知らせに驚いた通信部隊が、平文で味方部隊に敵襲の報を、通達したのだろう。


 それは、仕方の無い事だ。


 しかし、敵襲の報せを行った状態で、味方部隊との交信を切ったのは、非常に、まずい。


 交信が途絶すれば、前線部隊が、憶測から余計な混乱を招きかねない。


「至急、通信部隊に伝令を出せ!通信系統を一刻も早く回復させ、全部隊に詳細を報告しろ!それと、近くの部隊にも伝令を出し、総司令部は問題無い事を伝えろ!!」


 グデーリアンは、すぐに必要な指示を出した。


 総司令部には警備部隊として、1個大隊が配備されている。


 警備部隊には、Ⅱ号戦車L型が配備されている。


 小火器で武装した1個歩兵中隊等、問題無く対処できる。


 北アフリカ戦線で、アトランティク・スペース・アグレッサー軍地上軍が、普通の自動車に重火器を搭載する武装車輛を投入した事に対抗するために、グデーリアンが参謀本部に提案したものだ。


 重戦車や中戦車では、小回りが効く自動車部隊に対応ができず、翻弄された挙句に、撃破されるという惨状を招いた。


 そこで、装甲強化と速力向上型の、Ⅱ号戦車L型を大量生産し、その自動車部隊に対処する案を出した。


 イタリア王国軍では、CV-33を大量投入し、これに対処する案を出し、ある程度の戦果を上げる事に成功した。その成功例を踏まえての提案だった。


 米英独伊連合軍ドイツ第3帝国国防軍陸軍でも、司令部や兵站部隊等の後方警備及び防衛のために、Ⅱ号戦車L型が、投入されている。


「だが、前線部隊の混乱は、避けられないか・・・」


 ドイツ第3帝国国防軍陸軍の将兵のほとんどは、実戦経験の浅い者たちである。


 経験豊富な将兵たちは、北アフリカ戦線や東部戦線に、投入されている。


 実際、グデーリアンの指揮下にいるドイツ兵たちは、経験の浅い将兵たちである。


 もちろん、彼と共に戦った将兵たちもいるが、そのほとんどが侵攻部隊や予備部隊、兵站防衛及び警備部隊に回している状況だ。





 二式八糎迫撃砲の砲撃と同時に、石垣は突入を命じた。


 一〇〇式機関短銃を連射しながら、総司令部に向かって駆け出す。


「前方にⅡ号戦車!!」


 特攻兵の1人が叫び、新世界連合軍から供与された、M72使い捨て対戦車ロケット弾発射機を構えた。


「発射!!」


 66ミリ対戦車ロケット弾が発射され、Ⅱ号戦車の砲塔を吹き飛ばす。


 新世界連合軍に属するアメリカ陸海空軍及び海兵隊の、陣地攻撃や市街地戦での使用を目的とした、歩兵携行火器であるが、海軍陸戦隊特別攻撃隊には、安価で、小型軽量の利点等から導入されている。


 新世界連合軍では、現代の主力戦車に対しては破壊力、装甲貫徹力が劣るため、対戦車攻撃には使われないが、この時代の戦車に対しては十分な威力があるため、携行式対戦車火器として導入されている。


 特別攻撃隊だけでは無く、陸軍や東南アジア等で友好関係にあるパルチザンに供与され、さまざまな実績を残している。


 機関銃陣地から、汎用機関銃であるMG42が乱射される。


 特攻兵が、1人1人と、絶命していく。


「手榴弾!」


 九七式手榴弾の安全ピンを外し、先端を鉄帽で叩き、信管を作動させた状態で投擲する。


 機関銃陣地の手前で、九七式手榴弾が炸裂する。


 九七式手榴弾の炸裂は1度だけでは無く、2度、3度と続く。


 手榴弾の炸裂により、機関銃兵が顔を伏せる。


 その隙を逃さず、石垣が突撃し、一〇〇式機関短銃を乱射する。


 機関銃兵たちが、絶命する。


「怯むな!!突撃!!」


 石垣は振り返り、部下たちに叫んだ。


 彼は、一〇〇式機関短銃の弾倉を取り換えた。


「大尉殿!!」


 副官が、叫ぶ。


「敵の増援です!!」


 副官が指を指す方向に顔を向けると、中戦車3輌を中核とした1個歩兵中隊が現れた。


「もう、敵の増援が来たか・・・」


 石垣が副官に振り返るが、副官は胸元から血を吹き出しながら、倒れた。


 気付けば、他の特攻兵たちが、その中戦車に突撃を仕掛けていた。


 だが、車載機関銃により、次々と絶命していく。


 石垣は、一〇〇式機関短銃を乱射しながら、駆け出す。


 中戦車の周りにいる歩兵たちを片付け、中戦車の至近まで接近する事ができた。


 そのまま石垣は、車体の下に潜り込んだ。


 懐から九九式破甲爆雷を取り出し、先端を叩いた。


 10秒後、九九式破甲爆雷が炸裂し、中戦車を撃破する。


 石垣は、その爆発に巻き込まれて即死した。


 他の特攻兵たちも突撃するが、歩兵たちや中戦車の車載機関銃に邪魔され、次々と絶命する。


 銃弾に倒れるが息のある特攻兵は、九七式手榴弾の安全ピンを抜き、先端を叩き、信管を作動させた状態で、最後の力を振り絞り、立ち上がった。


 そのまま近くにいたドイツ陸軍将校に、しがみついた。


 九七式手榴弾が炸裂し、将校もろとも爆死した。


 完全に銃口を向けられた状態で、もはや突っ込む事もできない状況下になった特攻兵は、九七式手榴弾の信管を作動させた状態で、それを胸に抱き、自爆した。


 自爆する特攻隊や、敵兵を道連れにする特攻兵が続出したが、海軍陸戦隊特別攻撃隊第101特別攻撃隊第1中隊は、わずかな生存者を除いて、他は戦死した。


 その生存者たちも、重度の銃創を負っていた。


 しかし、彼らの必死の攻撃により、侵攻部隊及び予備部隊の前進速度が低下し、さらに予備部隊は、攻勢のタイミングを逃した。





 海軍陸戦隊特別攻撃隊の戦果は、深部偵察の任に就いていた偵察隊から聯合艦隊旗艦である、航空巡洋艦[生駒]に、報告された。


 その報告を聞いた山岡は、1人[生駒]の艦橋横のウイングに立っていた。


 神風の戦果は、これまでの戦闘、これからの戦闘の、1つの結果に過ぎない。


 しかし・・・


 彼らの献身は、風の如く戦場を吹き抜けていった。


 その事を・・・自分は、決して忘れないだろう。


「・・・・・・」


 山岡の口から、小さな歌声が漏れる。


 それは、軍歌であり準国歌といわれる歌であった。


 それは・・・彼の部下であり、命を掛けた任務を全うし散華した、夏の桜に捧げる、手向けの歌・・・

 HELL ISLAND 第10章をお読みいただきありがとうございました。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は4月13日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  手向けの歌は、「海ゆかば」ですね。国体を守る為、何としても皆を守る為に、と兵が歌う歌。  私、この歌をうまく歌えないんですよ。  メロディーがゆったりしていて、歌詞の…
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