HELL ISLAND 第9章 4ヵ国連合軍連合陸軍の進撃 6 海軍陸戦隊特別攻撃隊 前編 最後の酒
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
米英独伊連合軍地上軍8個師団が、侵攻を開始する前・・・
オアフ島近海を、水中航行する1隻の潜水艦が、あった。
それは、大日本帝国海軍聯合艦隊第6艦隊第61潜水戦隊第661潜水隊所属の、伊三百六十一型潜水艦伊号第三百六十一潜水艦である。
史実では、ミッドウェー海戦の敗北後、大日本帝国海軍は、以降の対米作戦において、大規模な侵攻作戦を実施する事が、ほぼ不可能になった。
その打開策として、海軍軍令部は海軍陸戦隊を、敵地に隠密上陸させる作戦案を、まとめた。
このために、輸送潜水艦の建造計画が、持ち上がった。
しかし、アメリカ軍を主体とする連合軍の、ソロモン諸島ガダルカナル島への侵攻作戦が、開始された。
圧倒的な航空戦力と海上戦力等で空海を制圧し、大日本帝国陸海軍の輸送船を、次々と撃沈した。
そこで、駆逐艦による補給物資輸送作戦である鼠作戦や、潜水艦による物資輸送作戦である土竜作戦を実施したが、結果は、うまくいかなかった。
それらの教訓から建造されたのが、伊三百六十一型潜水艦である。
しかし、この伊三百六十一型潜水艦は、史実に登場した同型艦とは、大きく異なる。
補給物資輸送能力は、そのままであるが、海軍陸戦隊の兵士を完全武装状態で輸送出来るのに加えて、隠密性、静粛性等を未来の技術で、向上させた。
史実とは、まったく別物の輸送潜水艦である。
基準排水量1550トン、水中排水量2350トン、全長75メートルと、史実の同型艦よりも、大型化されている。
水上航行速力14ノット、水中航行速力10ノットで、水中航行時、巡航速度の6ノットで航行すれば、48時間の水中航行が可能である。
隠密性、静粛性が高いため、水中航行時、速力4ノットであれば、駆逐艦のパッシブ・ソナーに探知される事は無い(巡航速度6ノット状態でも、かなりの低音であるため、発見される可能性は極めて低い)。
物資輸送能力は、完全武装の海軍陸戦隊の兵士を同時に輸送する場合、海軍陸戦隊110人と、補給物資10トンを輸送する能力を有する。
兵員輸送では無く、物資輸送のみの場合は、80トンの物資を輸送する事ができる(艦内のみ)。
史実では、純粋な輸送潜水艦として建造されたタイプが存在し、魚雷発射管が撤去されたタイプが存在したが、ここでは、自艦自衛用の魚雷発射管が、4門搭載されている。
ただし、予備の魚雷は搭載されていない。
発射管に装填されている、4発の魚雷のみである。
さらに、単装砲及び対空機関砲を、搭載している。
輸送任務は夜間がメインであるが、対航空機に対処するため、対空機関砲の数は、史実の同型艦よりも増設されている。
建造された目的として、アメリカ軍を主力とした連合軍が反攻作戦を開始した時、連合軍が上陸した島嶼部近海まで同型艦で接近し、海軍陸戦隊を隠密上陸させるか、若しくは武器、弾薬、糧食、医薬品等を隠密輸送させる。
他にも、隠密性や静粛性が高いため、レジスタンス勢力及びパルチザン勢力に武器、弾薬等の物資輸送を行うためにも使われている。
伊三百六十一型潜水艦は、ハワイだけでは無く、南太平洋、インド洋、南アメリカ大陸への物資輸送作戦にも、従事した。
現在は、潜水艦部隊専門艦隊である第6艦隊に集中的配備されているが、本土防衛を担当する海軍総隊司令部の直轄部隊にも、少数が配備されている。
旧ソ連軍の北海道侵攻及び英蘭院連合軍の南東諸島侵攻の際にも、物資輸送及び海軍陸戦隊の輸送も、実施した実績がある(1隻が戦没しているが・・・)。
伊号三百六十一潜水艦の艦長である金岡登大尉は、腕を組んだまま目を閉じていた。
「聴音。海上及び海中の様子は?」
金岡は、聴音士に声をかけた。
聴音士たちは、黙ったまま耳をすませていた。
「哨戒部隊と思われる駆逐艦を、探知しました」
「気付かれたか?」
「いえ、どんどん離れていきます」
「艦長。本艦の隠密性及び静粛性は、極めて高いです。駆逐艦の聴音では、探知するのも不可能とは申しませんが、困難でしょう」
航海長の特務大尉が、静かに言った。
現在の深度は100メートルで、速力4ノットで航行している。
駆逐艦や潜水艦の聴音に、発見される可能性は、極めて低い。
深度100メートルではあるが、伊三百六十一型潜水艦の安全潜航深度は、150メートルであり、十分安全深度である。
「この作戦は、極めて重要である。絶対に失敗はできない。聴音、周囲の動きに警戒してくれ」
金岡は、小さな声で告げた。
現在、完全無音航行が命令されており、些細な音1つ、立てる事も許されない。
米英独伊連合軍連合海軍の勢力圏内に侵入している理由は、補給物資の輸送では無い。
「艦長」
戦闘服を着込んだ将校が、声をかけた。
襟章から階級が、大尉である事がわかる。
「何かね?」
金岡は、振り返り、その男の顔を見た。
「何か問題は、発生していないか?」
大尉は、金岡に質問した。
「何も問題は無い。この様子なら目的地に、予定通り到着できる」
「そうか、ならいい」
彼は、大日本帝国海軍陸戦隊特別攻撃隊第101特別攻撃隊第1中隊長の石垣達哉大尉である。
大日本帝国陸軍ハワイ方面軍オアフ島軍第1騎兵旅団騎兵中尉である石垣達美の双子の弟である。
海軍陸戦隊特別攻撃隊とは、大日本帝国海軍の特殊部隊である。
海軍陸戦隊の中でも知力、体力、語学力に優れた陸戦兵たちで編成されている。
訓練は、新世界連合軍多国籍特殊作戦軍海軍特殊戦コマンドが担当し、その厳しい訓練に耐え抜いた精鋭中の精鋭である。
輸送潜水艦又は輸送機で、敵地後方に隠密上陸又は隠密空挺降下を実施し、敵総司令部等の重要戦略拠点を奇襲攻撃し、前線部隊等を混乱させる専門の特殊作戦部隊である。
特別攻撃隊は、現在まで4個隊が編成され、第101特別攻撃隊から第104特別攻撃隊まで編成されている。
部隊内では特攻隊又は神風隊と呼称され、士気は極めて高い。
敵総司令部等の重要戦略拠点を奇襲攻撃するため、退却及び撤退をする事は前提されておらず、奇襲攻撃を開始すれば、死ぬまで戦え、と精神に叩きこまれており、味方部隊等の大規模反攻作戦等が敵にバレないよう、万が一にも敵の捕虜になってしまう場合は、自決用の手榴弾を使って自爆する事が命令されている。
もちろん、それでも捕虜になった場合は、絶対に口を割らないよう対尋問訓練及び対拷問訓練を積んでいる。
まさに必死隊である。
大日本帝国陸軍では、部隊通称で[鬼兵衆]と呼ばれる特殊部隊があるが、こちらは、敵中奥深くに潜入し、各種特殊作戦を実施するが、退却及び撤退は前提の作戦で行動する。
そのため、決死隊と呼ばれている。
陸軍の特殊部隊よりも早く創設された特別攻撃隊は、厳しい訓練により、強い精神力等を持つ陸戦兵が取り揃えられている。
史実でも、陸軍と同じく海軍にも特殊部隊が、創設された事がある。
山岡大二少佐を指揮官として、大日本帝国海軍呉鎮守府第101特別陸戦隊が、それである。
海軍陸戦隊から体力、知力が優れ、英語が堪能であり、風貌や体格が欧米人に近いという条件下で集められた陸戦兵で編成された。
兵士たちの服装及び食事も欧米風であり、テーブルマナーも同じだった。
創設目的は、アメリカ本土での破壊工作及び大統領を含む要人の、暗殺であった。
潜水艦で、海岸に接近し、そこから隠密上陸する。
上陸後は、人気の無い山中等を拠点とし、兵器工場等を含む戦略拠点を破壊する破壊工作等をするのだ。
すでに聯合艦隊が壊滅し、連合軍に対し、まとまった海上戦力を有さない状況下に追い込まれていた海軍では、潜水艦だけが残存していた。
その潜水艦をフル活用し、アメリカ本土を直接攻撃する作戦計画が、さまざま練られた。
これも、その1つである。
しかし、戦況は悪化の一方をたどり、連合国軍は硫黄島や沖縄にも上陸し、占領した。
そのため、戦況打開のため、アメリカ本土攻撃から、局地戦攻撃にも投入する計画が練られた。
内容は同じであり、敵陣地に侵入し、物資集積所の破壊や司令部に突入し、司令部にいる高級将校や上級将校を暗殺するものだった。
これにより、戦局を逆転させる方針であった。
だが、陸海空の警戒態勢及び哨戒態勢が厳しく、容易に接近する事は困難だった。
1945年に、日本帝国本土を爆撃するB-29の拠点である、マリアナ諸島サイパン島及びグアム島への攻撃計画が存在し、一式陸上攻撃機に第101特別陸戦隊を乗せ、サイパン島及びグアム島にある飛行場に強行着陸し、B-29及び爆弾貯蔵庫、燃料貯蔵庫、飛行場機能を破壊する計画だったが、同年8月に広島と長崎に原子爆弾が投下され、原爆貯蔵庫があるテニアン島への攻撃計画が、追加された(しかし、すでに原爆は使用されたため、原爆貯蔵庫は空っぽの状態だったが・・・)。
作戦が計画され、特別陸戦隊の陸戦兵たちは、それに伴う訓練を実施している中、出撃直前に、大日本帝国がポツダム宣言を受諾した事により、作戦が中止された。
第101特別陸戦隊は、一度も実戦を経験する事無く、終戦を迎えた。
指揮官であった山岡大二少佐は、この時代でも、特別攻撃隊第101特別攻撃隊の隊長となっている。
大日本帝国海軍聯合艦隊旗艦である、航空巡洋艦[生駒]に、乗艦している。
「・・・・・・」
山岡は、腕時計を見ながら作戦の経過を、見守っていた。
「予定通りであれば伊三百六十一は、上陸地点周辺海域に接近している頃か・・・」
聯合艦隊司令長官である豊田副武大将が、懐中時計を見ながら、告げた。
「はい、予定通り・・・であれば」
参謀長の桜川典則少将が、うなずく。
「オアフ島では、陸軍の栗林中将を指揮官とした反攻作戦が、進行しています。彼らの反攻作戦が円滑に行くかどうかは、彼らにかかっています」
先任参謀である神重徳大佐が、告げた。
「私の部下たちは、必ず成功させます」
山岡が、強い口調で言った。
第101特別攻撃隊の指揮官として、部下たちは鍛えた彼が言うのである。
その言葉は、重い。
伊号三百六十一潜水艦の兵員室兼貨物室で、海軍陸戦隊特別攻撃隊第101特別攻撃隊第1中隊長の石垣は、遺書を確認していた。
『父上様、自分は使命を全うするために、出撃します。もはや、生きて家に帰る事は、かないませんが、我が一族の誉れとして、最後の戦地に赴きます』
石垣は、遺書を確認しながら、部下たちを見回した。
第101特別攻撃隊に所属する100人の特別攻撃隊の陸戦兵たちは、最後の時間を各々に過ごしていた。
自分のように遺書を書いている者もいれば、旭日旗を自分の腹に巻いている者もいる。
出撃が通達された、前夜の事を思い出した。
第101特別攻撃隊は、ミッドウェー島で、出撃を待っていた。
海軍陸戦隊特別攻撃隊第101特別攻撃隊は、3個中隊で編成されている。
聯合艦隊司令長官である、豊田副武大将からの命令で、第101特別攻撃隊第1中隊に、出動命令が下された。
その時、石垣以下部下たちは、歓声の声を上げた。
全員、出撃を今か、今かと、待ちわびていた。
「中隊長。遺書の確認は、終わりましたか?」
副中隊長である中尉以下士官たちが、日本酒の一升瓶や盃を持って、声をかけてきた。
「最後に、一杯やりましょう」
「ああ。遺書の確認は終わった」
石垣は、父親宛の遺書、母親宛の遺書、兄弟宛の遺書、妻宛の遺書を小さい机に置いた。
「だが、俺たちだけで始めるのは・・・」
「その心配は、ありません」
誰かが、言った。
「すでに我々は、我々で始めています」
准士官である兵曹長が、半分になった一升瓶を片手に告げた。
「そうか。なら、我々も」
石垣は、そう言って、副官から盃を受け取る。
日本酒の一升瓶を持った副中隊長が、日本酒を注ぐ。
海軍陸戦隊特別攻撃隊の陸戦兵は、他の艦艇部隊や地上部隊と違って、飲酒制限が緩和されている。
これは、彼らの任務は、撤退や退却を前提としていない部隊であるためだ。
そのために、少ない時間を楽しく過ごすために、日本酒等の酒類が、可能なかぎり持ち込まれている。
基本的には潜水艦内で飲酒する事になっているが、他の艦艇部隊や陸上部隊よりも優遇されている。
さらに出撃前の前夜には、予めに陸戦兵1人1人にアンケートを行い、最後に食べたい食事が用意される。
最後と言っても、潜水艦等に乗艦すれば、毎食の食事が用意されるが・・・
「では、いただこう」
士官たちに日本酒がいきわたった事を確認してから、石垣がそう言って、盃に口をつけた。
最後の酒と言うだけに、その味は最高だった。
もちろん、このような部隊に用意される酒は、安酒では無い(一応、他の部隊の名誉のために言っておくが、軍隊に供与される酒類は、それなりのランクが高い酒である)。
海軍でも高級士官のみに用意される、高級な日本酒である。
特別攻撃隊の陸戦兵には、兵卒、下士官、士官を問わず、高級士官のみに用意される日本酒が提供される(因みに、高級士官には特別に、日本酒だけでは無く、ウィスキー等の洋酒も用意されるが・・・)。
現在、完全な無音航行中であるため、日本酒を飲みながら歌を歌う事はできないが、それでも彼らは、最後の酒を楽しんでいる。
日本酒を飲み終えた頃、伊号三百六十一潜水艦に所属する水兵が、兵員室に現れた。
「石垣隊長」
「何だ?」
水兵は挙手の敬礼を行い、石垣は答礼した。
「艦長より、まもなく浮上するため、上陸準備を行うようとの事です」
「わかった」
それを聞いて、彼の部下たちは、一斉に立ち上がった。
HELL ISLAND 第9章をお読みいただきありがとうございました。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は、4月6日を予定しています。




