HELL ISLAND 第7章 4ヵ国連合軍連合陸軍の進撃 4 打ち込まれる楔
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
菊水総隊陸上自衛隊第6師団と、大日本帝国陸軍ハワイ方面軍オアフ島軍第1歩兵師団と、第1近衛師団が、米英独伊4ヵ国連合軍地上軍と激戦を行っている頃、第14機動旅団第15即応機動連隊は、第1騎兵旅団第13騎兵聯隊と共に、目的地に到着した。
「よし、敵部隊主力の後方に到着した」
第15即応機動連隊長の樫原薫1等陸佐が、82式指揮通信車から上半身を出した状態でつぶやいた。
最前衛には、16式機動戦闘車で編成された、機動戦闘車隊2個機動戦闘車中隊が、展開している。
その後方には、96式装輪装甲車に分乗した、第1普通科中隊がいる。
「連隊長。火力支援中隊より、砲撃準備完了との報告です」
連隊本部付の通信科隊員が、報告する。
「わかった」
火力支援中隊は、第14特科隊の特科隊員で編成された、火力支援部隊である。
特科出身の隊員たちで編成されているが、榴弾砲を装備せず、第1空挺団特科部隊や水陸機動団特科部隊が装備する、120ミリ迫撃砲を装備している。
重迫撃砲であるため、榴弾砲に匹敵する威力があり、空輸の際にはCH-47JA[チヌーク]で砲と弾薬、人員を一度に輸送出来る。
そのため、即応展開部隊である即応機動連隊の火力支援として、配備されている。
樫原は、ヘッドセットに叫んだ。
「火力支援中隊、砲撃開始!!」
「撃て!!」
連隊長から砲撃許可が下りると、火力支援中隊の中隊長である1等陸尉が、叫んだ。
「撃て!!」
射撃小隊長が叫び、射撃員が半装填した120ミリ迫撃砲弾を装填し、伏せる。
120ミリ迫撃砲の砲口が、吼える。
他の射撃小隊からも、120ミリ迫撃砲が吼える。
火力支援中隊の砲撃開始と同時に、機動戦車隊及び普通科部隊等が、突入を開始した。
「突撃!!」
第15即応機動連隊機動戦闘車隊第1機動戦闘車中隊第1小隊長が搭乗する、16式機動戦闘車が前進する。
「小隊長!前方に、M13!」
砲手が、叫ぶ。
「イタリア陸軍の中戦車か・・・」
小隊長である准陸尉が、ディスプレイを見る。
「史実では、北アフリカ戦線に投入されたが、砂漠という環境下で、故障が相次いだ戦車だな」
「そうです。イタリア陸軍は、北アフリカだけでは無く、ヨーロッパ各地に投入されましたが、弱小戦車しかありませんでしたから、連合軍に大敗、全敗し、ドイツ陸軍の足を引っ張っていました」
砲手の言葉を聞いて、車長であり小隊長である彼は、否定した。
「それは違うぞ。イタリア陸軍だって、北アフリカ戦線やヨーロッパ戦線で、ドイツ軍に匹敵する活躍を見せた」
「そうなのですか・・・」
「そうだ」
「こんな時に、悠長に会話をしている場合ですか!?」
装填手が、呆れた口調で突っ込んだ。
「そうだな・・・」
准陸尉が気を取り直し、M13を見る。
M13の砲塔が旋回し、こちらに砲が向く。
砲口が閃光を発し、砲弾が撃ち出される。
しかし、16式機動戦闘車は、ジグザグに走行していたため、砲弾が当たる事は無かった。
「今度は、こっちの番だ!!」
准陸尉が、叫ぶ。
「目標!M13!」
「了解!」
砲手が操作し、M13をロックオンする。
「ロック完了!」
「撃て!」
准陸尉の叫び声で、砲手が発射ボタンを押す。
52口径105ミリライフル砲から、装填された装弾筒付翼安定徹甲弾が、発射される。
105ミリライフル砲であるため、74式戦車の砲弾と共有できる。
発射された装弾筒付翼安定徹甲弾は、M13の正面装甲を貫徹し、火の塊とする。
「前方に、CV33!」
別の16式機動戦闘車が、主砲である2連装8ミリ重機関銃を連射しながら、こちらに突っ込んで来るCV33を確認した。
「豆戦車が・・・その程度の火力で、ヒトロクの装甲を貫けると思っているのか?」
車長である陸曹が、つぶやく。
16式機動戦闘車は、歩兵携行火器の攻撃に耐えられる防護能力を有する。
対戦車火器の攻撃にも、ある程度は耐えられるよう設計されている。
CV33の機銃程度の攻撃で、16式機動戦闘車の装甲を貫徹できる訳が無い。
「あんなのに、砲弾をぶち込むのは、もったいないな・・・」
車長は、そうつぶやくと、操縦手に告げた。
「新入り君。君に問題だ」
「何でしょう?」
操縦士である陸士が、緊張した声で答えた。
「簡単な問題だ。そんなに緊張するな」
車長が、ニンマリと意味あり気な、少々意地の悪い微笑を浮かべる。
「問題。目の前に豆戦車が、現れたら・・・?」
「跳ね飛ばす!」
「正解!」
車長の言葉を聞いた後、操縦手は16式機動戦闘車を加速させた。
16式機動戦闘車は装輪車輛であるため、最高速度は100キロである。
ここは、整地では無いが、不整地でも無い。
かなりの速度が出る。
高速走行状態で、CV33と正面衝突した。
かなりの衝撃が、16式機動戦闘車を襲う。
「かなり来るな・・・」
車長が、つぶやく。
「豆戦車と言っても、重量は3トンぐらい、ありますから・・・」
装填手が、答える。
しかし、CV33の方は、衝撃どころの騒ぎでは無い。
16式機動戦闘車は、重量26トンある。
高速走行状態で、正面衝突したのである。
CV33は、そのまま吹き飛ばされて、ゴロゴロと地面を転がり、ようやく横転した状態で止まる。
かなりの衝撃だったのか、中にいる搭乗員が姿を現さない。
「あの・・・車長・・・」
操縦手が、恐る恐る声をかけてきた。
「どうした?」
車長が、聞く。
「たぶん・・・ヘコみました」
何が?とは、聞かなくてもわかる。
「・・・・・・」
操縦手の言葉に、車長が言葉を失う。
「豆戦車だから、気付かなかった・・・という事にしよう」
「一般道路で、その言い訳は、まったく通用しませんよ。確実に、免許取り消しの事案です」
「ここは、一般道路じゃ無い。それに、陽炎団警察の交通課の連中も、いない!小さい事を気にするな!」
かなり無理のある発言である。
82式指揮通信車の車内では、機動戦闘車隊等から、次々と報告が上がっている。
「イタリア陸軍より根強い攻撃を受けていますが、16式機動戦闘車と120ミリ迫撃砲で、抵抗を排除しています」
「現在までに確認された戦車は?」
樫原が、部下に聞く。
「豆戦車、軽戦車、中戦車のみで、重戦車の存在は、確認されていません」
「P40は、いないのか?」
「確認されていません」
「連隊長。P40は、恐らく温存されている可能性があります。偵察部隊等からの報告では、P40は、他の重戦車と違って、多くありませんでした」
イタリア陸軍も、ドイツ陸軍と同様に戦車等の兵器が、史実よりも早く登場しているが、
史実でもP40は、1200輌程が発注されたが、イタリアが連合国に降伏を申し込む前だったため、完成したのは100輌程度だった。
この時代では、1000輌程度のP40が既に完成しているそうだが、イタリア本土配備、ヨーロッパ、北アフリカに重点的に配備している状態であるため、米英独伊連合軍に配備されているP40は、それほど多くない。
因みに、少数ではあるが東南アジアにも、P40が投入されている事が確認されている。
16式機動戦闘車があるため、例え、P40が戦場に投入されても遅れをとる可能性は低いが、重戦車がいるのといないとでは、行動計画は大きく変わる。
やはり、重戦車であるため、火力及び防御能力は侮れない。
「総員、下車!」
第1普通科中隊長の号令で、普通科隊員たちが、96式装輪装甲車の後部ランプから飛び出した。
96式装輪装甲車には96式40ミリ自動擲弾銃を装備しており、援護する火力は十分である。
小銃分隊の下車が完了するまで、援護射撃を実施する。
使用されている弾種は40ミリ対人対戦装甲擲弾であるため、対人攻撃から装甲車輛への攻撃が可能な多目的榴弾である。
89式5.56ミリ小銃や5.56ミリ機関銃NIMINIを構えて、展開する。
小銃部隊が展開した後方で、迫撃砲小隊が展開し、81ミリ迫撃砲L16を設置する。
「砲撃用意!」
分隊長の叫び声に、すばやく隊員たちが81ミリ迫撃砲弾を半装填する。
「砲撃準備よし!」
「撃て!」
分隊長の号令で、81ミリ迫撃砲に砲弾を装填する。
砲口が吼え、81ミリ迫撃砲弾が発射される。
120ミリ迫撃砲程の威力は無いが、普通科中隊の火力支援としては最大火力である。
「うわぁぁぁ!」
89式5.56ミリ小銃を装備する小銃員の陸士に、枢軸国イタリア陸軍が使役する軍用犬が飛びかかって押し倒し、喉元に咬みつこうとしている。
「ギャウッ!!!」
別の小銃隊員が89式5.56ミリ小銃の銃床を、軍用犬の顔面に叩きつける。
「戦闘犬に注意しろ!」
小隊長が叫ぶ。
戦闘犬とは軍用犬の一種であり、大型犬の戦闘能力を用いて、直接敵兵を攻撃させるものである。
古代から使われていたものであり、古代等では首輪に刃物を取り付け、敵軍に突っ込ませ、敵兵を殺傷させる等という事を行わせたりもしていた。
第2次世界大戦では、枢軸国及び連合国でも積極的に使用され、機関銃陣地等の陣地を陥落させた戦果もある。
しかし、視覚及び聴覚が人間よりも優れている点が災いし、艦艇による艦砲射撃や野砲による砲撃により、神経症となり、戦線離脱が後を絶たない。
それでも訓練された軍用犬は、戦場において、もっとも厄介な存在である。
世界大会で優勝した事のあるプロの格闘家が、大型犬を怒らせた状態で襲い掛かかられれば、絶対に勝てる気がしないと言った事があるそうだ。
2020年代でも、犬による人間の死亡事故の世界での被害者は、約5万件を超えており、これはサメによる死亡事故の1000倍以上であり、熊による死亡事故と比べても、100倍を超えている。
犬による死亡事故の原因は、狂犬病や破傷風が主であるが、咬み殺される事故も、サメや熊等の死亡事故よりも圧倒的に多い。
因みに、戦闘犬は、第2次世界大戦時に積極的に投入されたが、戦後は戦闘目的のみで訓練する事は、ほとんど無い。
現代戦では多用性が求められているため、戦闘だけでは無く、探知(味方の捜索及び潜んでいる敵兵の捜索、地雷等の爆発物を捜索)等もできるよう訓練されている。
いかに戦闘訓練された普通科隊員でも、戦闘犬が相手では、かなり厳しい。
だが、防衛局及び菊水総隊司令部でも、それは最初から予想していたため、対策は、きちんと用意している。
防弾仕様された高機動車が現れ、そこから探知犬が現れた。
探知犬は、負傷者や行方不明者の捜索や潜んでいる敵兵の捜索、トラップ等の捜索が主であるが、戦闘もできる。
探知犬であるラブラドール・レトリバーが、素早い動きで戦闘犬であるジャーマン・シェパードに襲い掛かり、喉に咬みついて絶命させる。
「ラブラドールのイメージが・・・」
その光景を見ていた自称愛犬家の陸士が、嘆く。
「お前、愛犬家のくせに知らないのか?ラブラドール・レトリバーは、元々は狩猟犬だ」
日本人が想像するラブラドール・レトリバーのイメージと言えば、盲導犬や介護犬といった、身体障害者や視覚障害者等の補助犬である。
家庭犬としても、幼児や高齢者まで幅広い遊び相手でもある、心優しい大型犬と認識されがちではある。
だが、実際は、盲導犬、介護犬だけでは無く、警察犬、警備犬、災害救助犬、軍用犬としても幅広く使用されている。
実際、現代のアメリカ軍でも戦闘部隊と同行したラブラドール・レトリバーが確認されており、攻撃、捜索、伝令、輸送等の幅広く使われていた。
確かに、愛嬌があり、優しそうな顔付きをしたラブラドール・レトリバーが、敵兵や敵の軍用犬に襲い掛かる光景は、何とも言えない。
探知犬と共に第1普通科中隊は前進を開始し、イタリア兵や軍用犬を排除する。
戦車や装甲車輛に関しては、16式機動戦闘車や96式装輪装甲車の105ミリライフル砲や96式自動擲弾銃が対処している。
第15即応機動連隊と同行している第1騎兵旅団第13騎兵連隊第1騎兵大隊第1騎兵中隊第4騎兵小隊長である石垣達美中尉は、軍刀を振りかざした状態で、軍馬を走らせている。
「大和魂を、見せてやれ!!」
石垣はそう叫びながら、馬上状態で軍刀を、イタリア兵の胸元に突き刺す。
馬であるため、自動車や装甲車よりも小回りが出来る上に、機動力も高い。
そのため、第15即応機動連隊に、匹敵する戦果を上げた。
彼らは、64式7.62ミリ小銃改Ⅱ型を構えて、馬上射撃を実施している。
石垣は、部下たちの様子を見て、フィリピン戦のように、必要以上に弾薬を消費する事が無いのを確認した。
64式7.62ミリ小銃改Ⅱ型が第1騎兵旅団に導入される前は、三八式騎銃や四四式騎銃といった手動装填式小銃であった。
そのため、連発射撃に慣れていない彼の部下たちは、フィリピン戦で必要以上に弾薬を消費した。
量産された64式7.62ミリ小銃改Ⅱ型は、第1騎兵旅団騎兵部隊に、優先的に配備された。
基本的な射撃や操作等は、幽霊総隊陸軍から指導されたが、十分な訓練を行わないまま実戦を迎えた。
騎兵たちは、馬上状態で64式7.62ミリ小銃改Ⅱ型を、単発射撃で発射する。
馬上状態であるため、常に馬は動き、揺れているためそれを制御した状態で照準を合わせて、射撃を行う事になる。
その射撃は、地面で射撃をするのとは訳が違う。
地面は、揺れる事は無い。
確かに砲爆撃等で地面が揺れているが、馬程では無い。
イタリア陸軍兵たちは、M1938[カルカノ]を武装しているが、手動装填式小銃であるため、滅多な事では当たらない。
だが、射撃は正確であり、被弾する騎兵たちもいる。
「イタリア陸軍は練度が低いと聞いていたが、ここに投入されたイタリア兵は、練度が高いな・・・」
石垣は、旅団司令部から、もたらされていた情報と、実際戦闘を行っているイタリア兵の練度が違う事に気付く。
イタリア陸軍は、1936年に、エチオピアに侵攻した。
エチオピア兵と戦ったイタリア兵たちから、6.5ミリライフル弾では遠距離射撃してもエチオピア兵は、なかなか倒れなかったという指摘があった。
しかし、実際には、射手の技術不足により、命中率が低かったのだ。
小銃の威力不足や性能上の問題は、まったく関係ない。
騎兵の1人が、馬上状態の状態で九七式手榴弾を持ち、安全ピンを抜き、鉄帽に先端を叩き、信管を作動させる。
「手榴弾!」
騎兵が叫び、九七式手榴弾を投擲する。
九七式手榴弾が炸裂し、イタリア兵たちを吹き飛ばす。
HELL ISLAND 第7章をお読みいただきありがとうございます。
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