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HELL ISLAND 第5章 4ヵ国連合軍連合陸軍の進撃 2 吼える203ミリ自走榴弾砲

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 菊水総隊陸上自衛隊第6師団第6戦車大隊第1戦車中隊は、第20普通科連隊と共に、防衛陣地を構築していた。


 第6師団第6戦車大隊は、第22即応機動連隊機動戦闘車隊が創設された時に、廃止されたが、この時代にタイムスリップする事が決められた時、廃棄処分される74式戦車を現役復帰させて、再編成された。


 中隊長である1等陸尉は、大隊本部を経由して師団司令部から届いた、敵部隊が侵攻を開始したという情報を受け、中隊長車である74式戦車に乗り込んだ。


「中隊長。敵部隊8個師団って、想像しただけで、生きた心地がしませんね」


 装填手である1等陸曹が、93式装弾筒付翼安定徹甲弾を装填しながら、声をかけてきた。


「第6偵察隊からの報告では、前衛はドイツ陸軍のⅣ号戦車を主力とする戦車部隊と、M26[パーシング]が、左右に展開している。その後方に歩兵部隊だ」


「ドイツ陸軍の戦車部隊は、グデーリアン装甲軍第24装甲軍団です。東部戦線では、電撃侵攻の主力となった部隊です」


 砲手である1等陸曹が、告げた。


 彼は、第2次世界大戦のヨーロッパ戦線の知識が高い。


「そうだな・・・」


 そう言い終えた後、大隊本部から無線が入った。


「第6高射特科大隊の対空レーダーが、接近中の攻撃隊を探知した。対空警戒を厳にせよ!」


 大隊本部からの無線連絡に、中隊長が車長席のハッチを開く。


 車長席から上半身を出し、空を見上げる。


 装填手も上半身を出し、副武装の12.7ミリ重機関銃の安全装置を解除する。


 副武装の12.7ミリ重機関銃は、対人及び対非装甲車両への攻撃用だけでは無い。


 対空射撃も、ある程度は可能である。


「頼むぞ・・・高射特科大隊」


 装填手が、つぶやく。


 第6戦車大隊第1戦車中隊と、第20普通科連隊が展開する後方に配置された第6高射特科大隊射撃中隊に所属する11式短距離地対空誘導弾から連続して、11式短SAMが発射された。


 旧型の81式短距離地対空誘導弾と違い誘導性能、追尾性能が格段に向上し、超音速あるいは小型の空対地ミサイルや巡航ミサイルの迎撃も可能だ。


 今頃、地上攻撃に現れた敵機が、11式短SAMに追撃されている頃だろう。


 遠くの空で、複数の爆発が確認できた。


「!?」


 中隊長は、双眼鏡を覗く。


「ついに来たか・・・」


 双眼鏡は、土煙を上げて迫って来る、無数の敵部隊の姿を捉えていた。


「Ⅵ号戦車が中央に配置され、その左右にⅣ号戦車H型が、展開している訳か・・・」


 この陣形は、完全に中央突破をするための陣形である。


「中隊各車。聞こえるか?」


 中隊長は、ヘッドセットで全車に無線交信を行う。


「敵侵攻部隊は、我々の予想をはるかに超える大部隊だ。しかし、恐れる必要は無い。これまでの訓練通りに慎重に砲撃しろ!」


「「「了解!!」」」


 第1戦車中隊に所属する、戦車乗りたちが返答する。


「まずは、第6特科連隊が、挨拶する!」


 中隊長が言った途端、後方から砲撃音が聞こえた。


 第6特科連隊の155ミリ榴弾砲FH-70が、一斉に火を噴いたのである。


 連続して榴弾が、敵部隊に向かって飛翔する。


 連続的に炸裂する。


 中隊長は双眼鏡を見ながら、その光景を眺める。


「大隊長より、各車へ、敵が榴弾砲の砲撃を突破した!各車、前衛の戦車部隊に照準を合わせろ!」


 大隊長の指示で、第6戦車大隊の74式戦車の砲塔が旋回する。


「砲撃始め!!」


 大隊長の命令が届き、各中隊長が号令を出す。


「撃て!!」


 一斉に、74式戦車の砲口が吼える。





 ドン!ドン!ドン!


 74式戦車の砲撃音が響く。


 塹壕から64式7.62ミリ小銃を構える彼女も、その音を耳にする。


 菊水総隊陸上自衛隊第6師団第20普通科連隊第2普通科中隊第3小隊第3班長の金子(かねこ)(ゆう)3等陸曹は、発射された砲弾が、前衛の敵戦車に命中する光景を見届けた。


 89式5.56ミリ小銃では無く64式7.62ミリ小銃を携行しているのは、彼女の射撃技術が高いからである。


 師団内で行われる射撃大会では、普通科部隊、偵察部隊の男性隊員を差し置いて、上位の成績を有する。


 射撃の腕だけでは無く、徒手格闘能力、銃剣術能力も高く、師団内の大会だけでは無く、全部隊で行われる大会でも、高い成績を有する。


 身長も、一般的な日本人女性の平均身長より、少し高いぐらいである。


「敵部隊に、後退の兆しは無い!第3小隊、各員、射撃準備!!」


 小隊長からの指示が、インカムから聞こえる。


「射撃準備!」


 金子は、無線に叫ぶ。


 彼女が指揮する小銃班の隊員たちが、89式5.56ミリ小銃、64式7.62ミリ小銃、5.56ミリ機関銃MINIMIの安全装置を解除する。


 84ミリ無反動砲を装備する砲手が、装填手に榴弾を装填する指示を出す。


 対戦車榴弾を装填しない理由は、対戦車攻撃は、第20普通科連隊本部管理中隊対戦車小隊と、01式軽対戦車誘導弾を装備する射手が担当するからだ。


 金子も、64式7.62ミリ小銃の安全装置を解除する。


 64式7.62ミリ小銃の先端には、64式銃剣が装着されている。


 他の小銃員の89式5.56ミリ小銃や、64式7.62ミリ小銃の先端にも、89式多用途銃剣や64式銃剣が、装着されている。


 これは師団長命令で、戦闘が予想される事態には、必ず銃剣を装着するように、指示されているからだ。


「距離400メートルで、射撃を行う!」


 小隊長の声が、響く。


 74式戦車及び155ミリ榴弾砲FH70からの砲撃が続く。


 重戦車及び中戦車を次々に撃破しているが、敵は怯む様子を見せず、前進を続けている。


 敵からの砲撃も来るが、目の前の地面が吹き飛ぶだけである。


 敵も榴弾砲を使っているようだが、こちらには対砲レーダーがある。


 榴弾砲が砲撃すれば、第6特科連隊のFH70が砲撃を行う。


 どんどん敵が、迫って来る。


 必然と、隊員たちの呼吸も荒くなる。


 無理も無い・・・8個師団の進撃である。


 兵数にすれば、16万である。


 恐怖が心の奥底から湧き出るのは、仕方の無い事だ。


「400メートル!撃て!!」


 小隊長の号令が、響く。


「撃てぇぇぇ!!」


 金子が小銃班に、号令を出す。


 一斉に、89式5.56ミリ小銃及び5.56ミリ機関銃MINIMIから、連発射撃音が響く。


 金子も、64式7.62ミリ小銃の引き金を引く。


 銃口から、7.62ミリ小銃弾が発射される。


 単発射撃であるため、1発1発しか発射されないが、確実に敵兵を仕留める事ができる。


 84ミリ無反動砲を装備する砲手も、引き金を引き、榴弾を発射させる。


 地面が吹き飛び、近くにいた敵兵が、吹き飛ばされる。


 普通科中隊に所属する各迫撃砲小隊の81ミリ迫撃砲L16が、火を噴く。


 敵も、やられるだけでは無い。


 当然ながら、撃ち返してくる。


「敵弾!」


 金子が叫び、塹壕に身を潜める。


 戦車砲弾か迫撃砲弾か、わからないが、近くで炸裂する。


 塹壕内に、土砂の雨が降る。


 収まると、再び身体を出し、64式7.62ミリ小銃を構える。


 敵に狙いを定めて、64式7.62ミリ小銃の引き金を引く。


 激しい地上戦が、開始された。




 菊水総隊陸上自衛隊第6師団第20普通科連隊及び第44普通科連隊の防衛陣地後方には、第1特科団司令部が置かれていた。


 地下指揮所から姿を現した第1特科団長の木川(きがわ)()(すけ)陸将補は、88式鉄帽と防弾チョッキ3型を着込んだ状態だった。


 地下指揮所の出入口では、89式5.56ミリ小銃を携行した特科隊員が、2人配置されている。


「団長。外は危険です。敵榴弾砲からの砲撃が、時々届いています!」


 副官である2等陸尉が、危険を伝える。


「・・・・・・」


 木川は、何も答えない。


 ただ、目を閉じて、耳をすましている。


 砲撃音や爆発音等が、木川のいる場所にも届く。


 その時、第1特科団地下司令部周辺で、敵の榴弾が炸裂した。


「団長。身を屈めて下さい!」


 副官の叫び声にも、まったく反応せず、木川は立っている。


「105ミリ榴弾だな・・・アメリカ軍ならM101、ドイツ軍ならIeFH18だな」


「団長!無人偵察機の情報で、アメリカ陸軍砲兵部隊は、203ミリ榴弾砲M115を投入してきました!」


「ほぅ」


 第1特科団第2科長である2等陸佐が、身を屈めながら報告した。


「M115は、自走式では無い大口径榴弾砲・・・それを出してきたという事は、我々の出番か?」


「はい!第6師団司令部より、M115を無力化せよ。との事です!」


「わかった。指揮所に戻る」





 第1特科団第1特科群第101特科大隊に、第1特科団司令部から砲撃命令が出た。


 展開する203ミリ自走榴弾砲が、砲撃準備に入る。


 203ミリ自走榴弾砲の車体後部で、大型の駐鋤が地面に食い込む。


 これは、発射時の反動から、車体を固定するためのものだ。


 203ミリ自走榴弾砲は、他の自走榴弾砲と違い、砲が剝き出しである。


 そのため、NBC防護どころか、運用する隊員の安全も、考慮されていない。


「しっかり空を、守ってくれよ!」


 特科隊員の1人が、第101特科大隊が展開する地域に配置された、93式近距離誘導弾に向かって、つぶやいた。


 もちろん、これだけでは無く、91式携帯地対空誘導弾も第1特科団に配備されている。


 203ミリ榴弾が装填され、砲身が上がる。


「砲撃準備よし!」


 自分の中隊が砲撃準備を完了した段階で、大隊長に報告した。


 他の中隊長からも砲撃準備完了との報告を受けて、大隊長は号令を出した。


「撃て!!」


 大隊長の号令と共に、展開した203ミリ自走榴弾砲の砲口が、一斉に吼えた。


「次弾装填!」


 大隊長は、次の砲撃に備える。


 203ミリ自走榴弾砲は、車体が小型であるため、榴弾を2発しか搭載できない。


 そのため、すぐに榴弾の補給を、しなければならない。


 87式砲側弾薬車が現れ、各203ミリ自走榴弾砲の後方に停車した。


 弾薬を補給するためである。


 次弾が装填され、再び203ミリ自走榴弾砲の砲身が、上がる。


 そして、再び砲口が吼える。





 第1特科団地下司令部では、203ミリ自走榴弾砲の砲撃する映像が、リアルタイムで流されていた。


「弾着!」


 観測員が叫ぶ。


 無人偵察機から送られているM115の展開映像に、203ミリ榴弾が弾着する光景が、映し出された。


 203ミリ榴弾が炸裂し、M115ごと兵員を吹き飛ばす。


 巡洋艦の艦砲に匹敵する203ミリ自走榴弾砲は、その威力は計り知れない。


 しかし、弾薬が少ないために、あまり戦場で撃つ機会が与えられなかった。


「凄まじい光景ですね・・・」


 副団長の1等陸佐が、つぶやく。


「M115は、牽引式の榴弾砲で、それが自走式になったのが、203ミリ自走榴弾砲です。そう考えますと、複雑な思いです」


 高級幕僚の1等陸佐が、つぶやく。


「・・・・・・」


 木川は、何も答えない。





 敵部隊との距離が、200メートルを切った。


「小銃擲弾!」


 金子が、叫ぶ。


 89式5.56ミリ小銃や64式7.62ミリ小銃を装備する小銃手たちが、06式小銃擲弾を小銃の先端に装着する。


「発射!!」


 金子の号令で、一斉に06式小銃擲弾が、発射される。


 発射された小銃擲弾は、そのまま敵歩兵部隊に着弾する。


「装填!」


 89式5.56ミリ小銃を装備する、小銃手の1人が叫ぶ。


 塹壕に身を隠し、89式5.56ミリ小銃の30発弾倉を外し、弾倉入れから30発弾倉を取り出し、装填する。


「装填!」


 金子も装填されていた64式7.62ミリ小銃の弾倉が空になった事を確認して、叫ぶ。


 弾倉入れから、20発弾倉を取り出す。


 20発弾倉を叩き込み、槓桿を引く。


「補給です!」


 配給班が、弾薬の入った木箱を持って駆け付けた。


「各員!交代しながら、弾薬の補給!」


 金子は、インカムに叫ぶ。


 一番弾薬の少ない隊員から順に、弾薬の補給が行われる。


 この間に、水筒で水分補給を行う。


 金子は、64式7.62ミリ小銃を構える。


 敵部隊との距離が、100メートルぐらいになった。


「!?」


 Ⅳ号戦車H型の砲口が、こちらに向いた。


「伏せろ!!!」


 金子が、叫ぶ。


 その時、ものすごい炸裂音と衝撃波が襲う。


「ぐわぁぁぁ!!!」


 数人の隊員が、吹き飛ぶ。


「くそ!負傷者だ!!」


「後方に運べ!!」


 負傷した隊員を、健全な隊員が搬送する。


 衛生員が駆け付け、手早く診る。


「彼は重傷だ!鎮静剤を打つ!」


 衛生員は、使い捨て注射器を取り出し、重傷の隊員に打つ。


「マルヒトで、さっきの戦車を破壊しろ!!」


 金子が、01式軽対戦車誘導弾を持つ射手に叫ぶ。


「申し訳ありません!誘導弾を使い切りました!」


「こんな時にぃぃぃ!!」


 金子が、顔を上げる。


 さっき、砲撃を行ったⅣ号戦車H型が、こちらに砲を向けている。


 だが、2発目を撃つ前に、そのⅣ号戦車H型が、爆発炎上した。


 後ろを振り返ると、16式機動戦闘車が、砲口から煙を出しながら現れた。


「増援だ!!!」


 誰かが叫ぶ。


 第6師団第22即応機動連隊が、駆け付けたのだ。


 後方で予備部隊として待機している、第22即応機動連隊が投入された。


 16式機動戦闘車の後方から、96式装輪装甲車が現れる。


 後部ドアが開放され、89式5.56ミリ小銃や5.56ミリ機関銃NIMINIを携行した小銃隊員や機関銃員、84ミリ無反動砲や01式軽対戦車誘導弾を携行した対戦車隊員が、吐き出される。


「この隙に誘導弾及び無反動砲弾の補給を、急げ!!」


 第22即応機動連隊が応援に駆け付けたため、迫撃砲による支援砲撃が増加した。


 FHー70による支援砲撃は行われているが、敵部隊の数が多いため、とてもでは無いが数が足りない。


 16式機動戦闘車及び74式戦車が対戦車戦闘を行い、普通科部隊が対歩兵戦闘を行っている。


 戦車を失っても、敵歩兵部隊は前進を続けている。


「接近戦に、備えろ!!」


 イヤホンから、小隊長の声が響く。


 すでに敵歩兵部隊との距離は、30メートルも無い。


「接近戦に、備えろ!!」


 金子は、叫ぶ。


 84ミリ無反動砲を装備する砲手や、01式軽対戦車誘導弾を装備する射手も、9ミリ拳銃に持ち替える。


 84ミリ無反動砲の装填手も、89式5.56ミリ小銃に持ち替える。


 敵歩兵部隊が目の前に現れた瞬間、金子は64式7.62ミリ小銃の先端に取り付けた64式銃剣を、腹部に突き刺した。


 血を噴き出しながら、敵兵が倒れる。


 そのまだ温かい返り血を浴びても、何故か冷静でいられる事を、金子は一瞬疑問に思ったが、今は、それどころでは無い。


「このぉ!!」


「ギャン!!」


 間隙を縫って背後から、襲い掛かって来た、敵の使役する攻撃犬である1頭のジャーマンシェパードを、64式銃剣で切り裂く。


「怯むな!!死にたくなかったら戦え!!!」


 顔面を、夥しい血で染めながら、金子は班員に向かって叫ぶ。





 人間対人間の、激しい白兵戦が続く。

 HELL ISLAND 第5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は3月9日を予定しています。

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