HELL ISLAND 第4章 4ヵ国連合軍連合陸軍の進撃 1 メッサーシュミット襲来
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
米英独伊連合軍ドイツ第3帝国国防軍海軍空母[ペーター・シュトラッサー]は、夜明けを迎えたと同時に、オアフ島東海岸近海に接近した。
[ペーター・シュトラッサー]は、[グラーフ・ツェッペリン]級航空母艦の2番艦として建造された空母である。
飛行甲板上では、爆装された急降下爆撃機Ju87C[シュトゥーカ]と、護衛戦闘機のBf109T[メッサーシュミット]が、発艦準備を行っている。
第2次世界大戦が勃発してから、北アフリカ戦線、地中海海戦、東部戦線、ソ連戦線で活躍したJu87[シュトゥーカ]である。
1939年に始まったポーランド侵攻では、電撃戦の主役として、非常に大きな戦果を挙げた。
Ju87[シュトゥーカ]で有名な話と言えば、急降下時のサイレン音である。
これは機体に、サイレンを特別に取り付けた訳では無く、急降下時に発生する風切り音がそのように聞こえただけであったが、しかし、スペイン内乱時の敵対勢力の兵士や、イギリス軍兵士やフランス軍兵士には、とても恐れられた。
この風切り音を、ドイツ軍兵士たちは、『ジェリコのラッパ』と呼称した。
ジェリコのラッパとは、旧約聖書に記されている伝承の1つで、ユダヤ人の指導者の命令で、一斉に人々が吹いたラッパにより、ジェリコの城壁が崩れ落ちたと言われている。
東南アジアで、ドイツ第3帝国国防軍陸海空軍は、義勇軍として派兵され、Ju87[シュトゥーカ]が大量に投入された。
この時、ジェリコのラッパが聞こえると、ドイツ兵、イギリス兵、フランス兵、オランダ兵、アメリカ兵だけでは無く、彼らに協力している現地民で編成された民兵たちの士気を向上させ、交戦国である大日本帝国陸海空軍兵士たちや、彼らに協力するレジスタンス勢力に恐怖を与えた。
もちろん、スペース・アグレッサー軍の兵士たちにも、心理的ダメージを与える事に成功した。
そのため、東南アジアに派遣されたドイツ国防軍空軍の将兵たちは現地でJu87[シュトゥーカ]にプロペラの風を受けて駆動するサイレンを取り付けた。
隠密作戦だろうが通常作戦だろうが関係なく、ジェリコのラッパを鳴らし、味方には士気向上を、敵には心理的ダメージを与えるのに、一躍かった。
しかし、それが続くと大日本帝国陸海空軍及びレジスタンス勢力は、防空能力を強化し、導入された携行式対空兵器の前に、多くのJu87[シュトゥーカ]が撃墜された。
因みに、大日本帝国陸海空軍及びレジスタンス勢力が使ったのは、ニューワールド連合軍から供与された、旧式のFIM-92A[スティンガー]である。
スペース・アグレッサー軍に対しては、最初は心理的ダメージを与える事に成功したが、すぐに携行式対空兵器又は車載式対空兵器の前に、無力化された。
今回、[ペーター・シュトラッサー]から出撃するJu87C[シュトゥーカ]には、プロペラの風を受けて駆動するサイレンは、付けられていない。
当初、付けられる予定であったが、ドイツ第3帝国第1副首相であるロザリンダ・ベレ・クラウゼンが、有無を言わせず却下したのだった。
「出撃準備!出撃準備!」
飛行甲板上では、将校の叫び声が聞こえる。
「急げ!急げ!地上部隊は、待ってくれないぞ!」
[ペーター・シュトラッサー]から出撃する攻撃隊は、西進を開始する米英独伊連合軍地上部隊の、上空援護及び近接航空支援である。
エンジンを始動させた艦載機群が、次々と空に舞い上がる。
菊水総隊陸上自衛隊第14機動旅団司令部。
司令部天幕では、第14機動旅団長の井笠和彦陸将補以下彼の幕僚たちと、大日本帝国陸軍ハワイ方面軍オアフ島軍第1騎兵旅団長、秋多喜古少将以下彼の幕僚たちが、顔を揃えていた。
「第14偵察隊第1偵察小隊からの報告と、菊水総隊司令部から寄せられた情報では、米英独伊連合軍地上軍の侵攻部隊は、8個師団・・・4個歩兵師団と4個戦車師団です。その後方に、予備部隊として2個歩兵師団と、1個戦車師団が前進しています」
第14機動旅団司令部第2部長(情報担当)である1等陸佐が、報告した。
「斥候隊からも、同じ報告を受けています。報告によれば先頭に展開する部隊は、ドイツ第3帝国国防軍陸軍第2装甲軍・・・通称、グデーリアン装甲軍第24装甲軍団第3装甲師団と、第4装甲師団です。その左右にアメリカ陸軍1個戦車師団と、イギリス陸軍1個戦車師団が、展開しています」
第1騎兵旅団司令部情報参謀である中佐が、報告した。
「「「・・・・・・」」」
グデーリアン装甲軍と聞いて、司令部天幕内が沈黙する。
ハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン上級大将が直接指揮する第2装甲軍は、井笠たちの知る史実では、1941年6月22日に開始された、ドイツ第3帝国国防軍陸軍及び空軍で行われた、ソ連奇襲攻撃作戦であるバルバロッサ作戦で電撃侵攻した。
その活躍は、第14機動旅団の幕僚たちは、当然ながら知っている。
未来人からの史実、及びヨーロッパ戦線の活躍を生で聞いた、秋多以下参謀たちも、知っている。
電撃作戦の生みの親であり、ヨーロッパ戦線では数々の電撃侵攻で活躍したグデーリアンの直接指揮下の装甲軍である。
どれほどの猛烈な攻勢になるか、想像がつく。
「第6師団及び第1歩兵師団は、彼らからの猛烈な攻撃に耐えられるでしょうか?」
第14機動旅団司令部第3部長(運用担当)である1等陸佐が、つぶやく。
彼らと正面戦闘をするのは、菊水総隊陸上自衛隊第6師団と、大日本帝国陸軍第1歩兵師団である。
他の師団及び旅団も存在するが、他の部隊は左右に展開し、攻勢をかける米英独伊連合軍地上部隊を、半包囲する手筈である。
第14機動旅団及び第1騎兵旅団の任務は、敵中奥深くに侵入し、電撃的奇襲攻撃で、敵を分断させ、半包囲態勢を確実に成功させる事である。
電撃作戦であるため、機動力の高い第14機動旅団第15即応機動連隊と、第1騎兵旅団第13騎兵聯隊が選ばれたのだ。
敵を分断する・・・これは、つまり、敵のど真ん中に部隊を突入させる事である。
うまく行けば、敵を分断する事に成功するが、下手をすれば第15即応機動連隊及び第14騎兵聯隊は、逆に包囲される危険性もある。
「井笠旅団長」
第2部長が、声を上げる。
「敵の指揮官は、グデーリアンです。という事は、侵攻する全将兵が、タンクチョコレートを所持し、服用している可能性が、極めて高いです」
タンクチョコレートとは、覚醒剤の事である。
正確には、極めて強力なメタンフェタミンを、錠剤にしたタイプだ。
ドイツ第3帝国国防軍は当初、同薬の危険性をあまり認識して無く、積極的に兵士たちに支給していた。
これが、ドイツ軍の電撃戦が成功した秘訣と言える。
どんな優秀な兵士でも、個人個人で体力等の差が存在し、どうしてもスピードが優先される電撃戦では、バラつきが発生する。
そこでタンクチョコレートを支給する事で、その問題点を解決した。
さらに、兵士個人で体力の消費は、さまざまである。
その日の天候及び体調等で、体力の消費は左右される。
タンクチョコレートを服用する事で、兵士たちは疲れを感じないどころか、死の恐怖まで無くなったのだ。
「「「・・・・・・・」」」
再び天幕内が、沈黙する。
菊水総隊陸上自衛隊第14機動旅団第15即応機動連隊は、大日本帝国陸軍ハワイ方面軍オアフ島軍第1騎兵旅団第13騎兵聯隊と共に、行動開始準備を行っていた。
第15即応機動連隊長の樫原薫1等陸佐は、科長たちと共に、各中隊長及び小隊長たちが集まる場所に向かっていた。
「極めて危険な任務だ。隊員は、志願させるのか?」
樫原が、科長たちに聞いた。
「いえ、全員参加です」
副連隊長や科長たちを差し置いて発言したのは、第15即応機動連隊等最先任上級曹長である浪川太助准陸尉である。
「この時代に派遣された時から、全員、覚悟は出来ています!」
浪川は、連隊に所属する曹士たちの育成、管理に係る服務、その他の人事、教育訓練等を所掌している。
もっとも、連隊本部の幕僚の中で、曹士たちを身近に見ていたのが、浪川である。
曹士と深く交流していた浪川は、曹士たちの覚悟や意思の強さを、深く理解している。
「そうか・・・」
樫原は、そんな浪川の発言であるから、彼の言葉を疑わなかった。
正直、彼自身、今回の任務の重要性だけでは無く、危険性も理解している。
いくら敵後方からの側面攻撃だと言っても、侵攻部隊8個師団と、予備部隊3個師団の中間点に突入し、敵部隊を分断するのである。
その侵攻部隊と予備部隊を、米英独伊連合軍イタリア王国陸軍の部隊が守っている。
もしも、突入に手間取ったら、すぐに侵攻部隊と予備部隊に包囲殲滅される。
900人程度の1個諸職種部隊等、数万の軍隊に包囲されたら、物量戦で敗退するのは自明だ。
携帯する弾薬には限りがある。
第13騎兵聯隊が同行するが、それでも数は足りない。
樫原は、ふと視線を、第13騎兵聯隊に向けた。
将兵たちは、自分が騎乗する馬の世話を行っている。
「ロシア帝国陸軍コッサク騎兵部隊を破った第1騎兵旅団が、再び、この会戦の天王山とも言える戦いに身を投じるか・・・」
1904年に勃発した日露戦争で、当時、満州軍第2軍に所属していた第1騎兵旅団は、日本騎兵の父と呼ばれる秋山好古少将(当時、最終階級は陸軍大将)の指揮下で、激戦を潜り抜けた。
樫原は、幼少期から乗馬クラブに所属していたため、第1騎兵旅団の活躍及び秋山好古陸軍大将の事は、子供の時から知っている。
彼の曽祖父は、秋山支隊(第1騎兵旅団を基幹に、歩兵部隊、砲兵部隊、工兵部隊等を組み込んだ戦闘集団)に所属する永沼秀文中佐(当時、最終階級は陸軍中将)が指揮する挺身隊の下級士官だった。
ハワイ諸島オアフ島に派遣されてから、すでに現地入りしていた第1騎兵旅団と、私的な交流を行い、軍馬に騎乗させてもらったりもした。
「連隊長。そろそろ」
副連隊長である2等陸佐に声をかけられ、樫原は我に返った。
「わかった」
彼らは、再び歩き出す。
「気を付け!」
先任の中隊長が、声を上げる。
「敬礼!」
中隊長以下小隊長たちが、挙手の敬礼を行う。
樫原が、答礼する。
ドイツ第3帝国国防軍海軍艦上航空軍第2戦闘航空団第I飛行隊長のゲルハルト・バルクホルン大尉は、Bf109T[メッサーシュミット]を操縦しながら、オアフ島上空を飛んでいた。
バルクホルンは、ドイツ第3帝国国防軍空軍の戦闘機パイロットだった。
1941年6月22日に発動されたバルバロッサ作戦に参加し、旧ソ連の戦闘機を撃墜した。
度重なる出動で、彼は、数多くの旧ソ連軍戦闘機を撃墜し、エースパイロットの仲間入りをした。
モスクワ陥落まで、彼はドイツ第3帝国国防軍空軍の戦闘機パイロットとして、旧ソ連軍の戦闘機と戦い続けたが、1942年4月に騎士鉄十字章が授与されると、バルクホルンに新たな命令が下った。
それは、ドイツ第3帝国国防軍海軍への転向だ。
ドイツ第3帝国国防軍海軍は、[グラーフ・ツェッペリン]級航空母艦を、4隻建造する計画があり、空軍から優秀なパイロットを、多数引き抜いた。
もちろん、海軍内からも募集を募ったが、東部戦線、西部戦線、アフリカ戦線を経験したパイロットも、必要だった。
バルクホルンは、新たな戦場を経験できると期待し、ドイツ海軍艦上航空軍に転向した。
そして、彼はオアフ島の上空を飛行している。
「敵機来襲!!」
部下からの叫び声が、通信機から聞こえる。
バルクホルンは、敵機が現れた方向に視線を向ける。
「P-40・・・という事は、ハワイ独立軍だ」
元陸軍大将のダグラス・マッカーサーを総司令官とする、ハワイ連邦共和国国防軍は、スペース・アグレッサー軍からの援助により、最新鋭のジェット戦闘機が取り揃えられる予定であるという情報だが、建国されてから日が浅く、そのジェット戦闘機も、パイロットも、十分な数が取り揃えられていない事は、バルクホルンも知っている。
「相手がスペース・アグレッサー軍のジェット戦闘機や、大日本帝国軍の戦闘機で無いからといって、油断はするな!」
バルクホルンは、部下たちに注意した。
「「「了解!!」」」
部下からの返信が入る。
バルクホルンも、操縦桿を傾ける。
Bf109Tが旋回し、P-40に機首を向ける。
彼は機を増速させ、そのまま、ぶつけるかの勢いで、P-40に向かった。
照準器に捕らえると、機関砲の発射ボタンを押す。
機関砲弾が、連続して発射される。
目の前のP-40は、機首から火を噴き出しながら、墜落していく。
「1機、撃墜!」
バルクホルンは、素早く周囲を見回す。
僚機が、P-40と空中戦を行っている。
彼は、もう1機を捕らえて、後ろにつく。
「後ろに、着いたぞ!」
バルクホルンは照準を合わせると、機関砲の発射ボタンを押す。
機関砲弾が発射され、P-40の主翼に命中する。
2機目を撃墜した。
「!?」
2機のP-40が、地上攻撃機に向かっていた。
「させるか!!」
バルクホルンは叫びながら、そのP-40の後ろにつく。
追跡されたP-40は回避飛行するが、バルクホルンの操縦技術に敵う訳が無く、撃墜される。
「全機!目の前の戦闘機ばかりに、気をとられるな!地上攻撃機を守れ!」
「「「了解!!」」」
東部戦線、西部戦線、北アフリカ戦線を経験している戦闘機パイロットは、半数程度あり、残りの半数は、海軍から志願した新人パイロットである。
しかし、Bf109Tをうまく操縦し、P-40を上回る戦闘技術で、戦っている。
空中戦では、勝利はドイツ海軍の方に傾いていた。
HELL ISLAND 第4章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の3月2日を予定しています。




