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HELL ISLAND 第3章 Pandora’s box

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様でした。

 ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊第1空母打撃群は、ハワイ・オアフ島に向かっていた。


 第1空母打撃群は、旧ソ連軍が北海道に侵攻した際に、北海道防衛戦に投入された。


 旧ソ連軍北海道侵攻軍や、旧ソ連極東方面への艦載機による航空攻撃や、トマホーク・ミサイルによる洋上からの攻撃に従事した。


 新ソ連が誕生した後は、日本海の防衛及び警備に従事していたが、ハワイ・オアフ島に米英独伊連合軍が攻勢をかけた事により、艦隊総軍からの新たな命令が、発令された。


 その命令とは、ハワイ・オアフ島への増援である。


 第1空母打撃群は、所属する将兵の休養と艦の補修、整備のために、大韓市国の海軍拠点である釜山軍港に、入港していた。


 そのため、将兵の士気は高い。


 第1空母打撃群原子力空母[フロンティア]は、護衛の[アーレイ・バーク]級ミサイル駆逐艦フライトⅡA及びフライトⅢ、原子力潜水艦を率いて、対馬海峡を通過し、太平洋に進路をとっていた。


 小笠原諸島周辺海域で、[フロンティア]に客人が訪れた。


 ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍参謀長、ファーディナンド・クラーク・キプリング中将と、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊司令官、クレイグ・アナキン中将の2人である。


 第1空母打撃群司令官であるディビット・スティッツ少将(2つ星)は、2人を自室に招き入れた。


 キプリングは、とある書類を持って、[フロンティア]に乗艦して来たのだ。


 彼は、元は北大西洋条約機構軍(NATO)欧州連合軍最高司令部の幕僚として勤めていた経験のある、イギリス海軍軍人である。


 アナキンも、元の時代ではアメリカ海軍艦隊総軍第2艦隊司令官のポストについていた、アメリカ海軍軍人である。


 2人とは面識があり、元の時代では、ヨーロッパと大西洋の防衛と警備に、従事していた。


「ニューワールド連合軍総司令部からの決定は、理解したか?」


 直属の上官である、アナキンが問うた。


「決定は了解しました。私も海軍軍人です。命令とあれば実行するだけですが・・・本当に、よろしいのですか?」


 スティッツは、顔を上げて、2人の上官に質問した。


「背広組は、決定に変更は無い。という事だ。事務次長兼最高副司令官、加藤(かとう)(しげる)閣下は、猛反対されたそうだが、側近の説得により、渋々承諾された」


「そうでしょうね・・・」


 スティッツは、テーブルに置かれた、コーヒーカップを手に取り、冷めたコーヒーを啜る。


 キプリングは、イギリス貴族らしい上品な飲み方で紅茶を飲むが、上級貴族出身にしては、いささか乱暴な飲み方だった。


 彼自身も、今回の決定事項に対して、複雑な心境である事が窺える。


「第3艦隊司令部が、難色を示すのもわかるが、我々は、それ以上だ・・・」


「私たちは、2度、使っています。3度目を使う事になるとは・・・覚悟はしていましたが、実際に使うとなると、考えます」


 ニューワールド連合軍総司令部から出された命令は、戦術核兵器の輸送及び使用である。


[フロンティア]にも、戦術核弾頭を搭載した艦載用爆弾が、連合戦略軍のCV-22B[オスプレイ]によって空輸された。


 戦術核兵器と言っても、ヒロシマ型原子爆弾の15倍の破壊力がある。


「あくまでも戦術目的の使用だ。そこの所は、幸いなのか・・・」


 核兵器には、戦術目的と戦略目的の2つが、存在する。


 その違いは、威力の違いでは無く、使用する目標だ。


 あくまでも、軍隊及び、軍施設に向けて使用する場合は、戦術核攻撃。


 政治的中枢、及び民間に向けて使用する場合が、戦略核攻撃である。





[フロンティア]の飛行甲板では、連合戦略軍に所属するCV-22B[オスプレイ]が、着艦した。


 上空では、護衛戦闘機として同行した、F-16C[ファイティング・ファルコン]が、旋回していた。


[フロンティア]の上空警戒も、いつも以上に強化され、F/A-18E/F[スーパーホーネット]や、F-35C[ライトニングⅡ]が、警戒飛行を行っている。


 着艦したCV-22Bから、デジタル迷彩服であるOCPを着込み、M4カービンで武装した完全装備姿の兵士が出てきた。


[フロンティア]側でも、青色を基調したアメリカ海軍のデジタル迷彩服に黒色のヘルメット、黒色の防弾チョッキを着込んだ水兵たちが、展開している。


 彼らの手にも、M4カービンを握られている。


[フロンティア]艦長のリック・マッシュ・フォール大佐が、CV-22Bから降りてきた、純白の制服を着た海軍中佐から、資料を受け取る。


「荷物の空輸は、完了しました」


 海軍中佐の事務的な言葉を聞いて、フォールは、CV-22Bの貨物室に、目を向けた。


 厳重に保管された、B61戦術核爆弾が、積まれていた。


 B61戦術核爆弾は、航空機に搭載可能な比較的軽量の核爆弾として、1960年代に開発された。


 2012年にもB61の延命計画が決定され、F-35[ライトニングⅡ]への搭載が、可能になった。


 1960年代の登場から、2020年代まで配備され、その間、さまざまな改良が行われてきた。


 F-35以外にも、現在アメリカ海空軍で運用されている戦闘機や戦闘爆撃機に、搭載が可能である。


 核爆弾であるため、空中爆発、地上爆発、遅延爆発に、対応可能である。


 湾岸戦争の教訓から、1990年代後半に開発された改良型のB61は、地中貫通爆弾としての機能も持たされた。


 投下後、地中深くに貫入し、その後、爆発する。


 それにより、地下施設を完全に破壊する事が出来る。


「背広組は、ハワイ方面での戦闘に、かなり危機感を持っているようだな・・・」


 フォールが、海軍中佐に話しかける。


 CV-22Bは、エンジンを停止していないために、騒音が響いている。


 そのため話声も、かなり大きな声になる。


「サヴァイヴァーニィ同盟軍の存在が、かなり大きいようです」


「そうだろうな。ハワイ方面での戦闘に敗北した場合、連中との外交で、我々が遅れをとる事になる」


 サヴァイヴァーニィ同盟軍は、大西洋を完全な支配下に置いたと言っても過言では無い。


 強力な西海攻略艦隊と、三海攻略艦隊に所属する空母艦隊が、フォークランド諸島を拠点に展開している。


 さらに、南アメリカの一部も、支配下に置いた。


 米英独伊連合軍と、ヴェルサイユ条約機構軍による、フォークランド諸島奪還作戦が開始されたが、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟海軍西海攻略艦隊は、戦術核ミサイルの攻撃で輸送艦隊を攻撃し、同艦隊を消滅させた。


 その後、数々の新兵器で圧倒した。


 ヨーロッパ方面での戦闘でも、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟陸海空軍は西進を行い、ポーランドを、事実上占領したそうだ。


 アイゼンハワー、モントゴメリー、ロンメルの三将軍は必死の抵抗をしたが、結局、ドイツ本国まで押し戻された。


 その後、大規模侵攻は行っていないようだが・・・サヴァイヴァーニィ同盟軍は、確実に足場を広げている。


 ニューワールド連合としても、これ以上の苦戦は容認し難いのだろう。





 グアム島アンダーセン空軍基地。


 司令部庁舎の会議室で、紺色の制服を着た者たちが、作戦計画書に目を通していた。


 1人の男は、長身のアフリカ系アメリカ人であり、名はテレンス・キャボットだ。


 アメリカ空軍大将で、ニューワールド連合軍連合戦略軍総司令官である。


 その隣にいるのは、ニューワールド連合軍連合戦略軍参謀長の宇佐美(うさみ)健人(たけと)空将である。


 連合戦略軍は、核兵器を含む戦略兵器による攻撃、及び反撃能力の保持と戦略兵器による抑止力を主任務とする独立連合軍である。


 ニューワールド連合軍傘下の連合軍ではあるが、ミサイル防衛、早期警戒等を主任務とする連合防空軍と同じく、ニューワールド連合軍最高司令官兼ニューワールド連合事務総長の直接指揮下に置かれている。


 場合によっては、ニューワールド連合軍最高司令官の直接命令で、作戦行動が行える連合軍だ。


 連合戦略軍は、傘下に戦略地上軍、戦略海軍、戦略航空軍があり、戦略地上軍は地上発射型大陸間弾道ミサイル部隊の保有及び指揮を行う。


 戦略海軍は、弾頭ミサイル搭載原子力潜水艦部隊の運用。


 戦略航空軍は、戦略爆撃機を運用する。


 戦略地上軍傘下に、施設及び戦略兵器輸送の警備部隊が置かれている。


「ニューワールド連合軍総司令官の命令で、連合戦略軍戦略航空軍第501爆撃航空団第18爆撃飛行隊及び第19爆撃飛行隊に、出動待機命令が出ました」


 連合戦略軍総司令部に所属する幕僚の1人が、説明する。


「作戦計画書にも書かれております通り、ハワイ・オアフ島に向かう第18爆撃飛行隊は、ミッドウェー島へ、第19爆撃飛行隊は、パナマに移動しなければなりません」


 幕僚の説明を受けながら、キャボットは、目を閉じた。


 背広組が決定したとは言え、連合戦略軍に出動命令が出るとは、今も信じられなかった。


 連合戦略軍が保有及び管理する戦略兵器は、抑止として使う事が想定されていた(あくまでも建前として)。


 しかし、サヴァイヴァーニィ同盟軍の登場により、再び東西の冷戦が、始まろうとしている(見方によれば、すでに始まっていると考えるべきだろう)。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍は、圧倒的兵器を駆使して、この時代に地盤を築いた。


 このままでは、ニューワールド連合軍は、戦略的に先手を取られる事になる。


(神は、我々に何をさせようとしているのか・・・?)


 キャボットは、心中でつぶやいた。


 彼の言う神とは、自分たちをこの世界に送った、管理世界の者たちでは無い。


 キャボットにしてみれば目に映り、手で触れられる存在は、神では無い。


 彼が言った神とは、別の物である。


 だが、自分は軍人である。


 政治家たちが決定したのなら、自分は、その命令を遂行するだけだ。


「将軍」


 説明を行っていた幕僚が、キャボットに声をかけた。


 彼は、目を開いた。


「第501爆撃航空団第18爆撃飛行隊及び第19爆撃飛行隊を、展開してよろしいですか?」


 幕僚の言葉にキャボットは、迷いの無い顔で、うなずいた。


「許可する」


「では、そのように行います」


 幕僚がそう言うと、会議はそこで終了した。


 キャボットは、立ち上がり会議室の窓に近付いた。


 窓から見えるエプロンには、出撃準備を整える、B-2[スピリット]がある。


 連合戦略軍による核攻撃準備命令が出されたのは、戦略航空軍だけでは無い。


 戦略海軍にも、命令が出された。


「我々が、パンドラの箱を開けた時、最後に残るのは何だろうな・・・」


 キャボットのつぶやきは、誰の耳にも届く事は無かった。





 ミッドウェー島近海。


[インディペンデンス]級沿海域戦闘艦[コロンブス]は、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊司令部から新たな命令が出て、ミッドウェー島周辺海域の海上警備及び海上防衛が命じられた。


「対空、対水上、対潜目標無し!」


[コロンブス]のCICで、レーダー員が報告する。


「引き続き警戒を、厳とせよ」


 第1艦隊司令部から届いた命令では、ミッドウェー島航空基地が、連合戦略軍戦略航空軍の作戦基地になるため、ミッドウェー島の防衛強化が命じられた。


 大日本帝国海軍聯合艦隊や菊水総隊海上自衛隊からも、駆逐艦や護衛艦が派遣されている。


 沿海域戦闘艦は、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊前線展開部隊に所属する戦闘艦である。


 その名の通り、第1艦隊の中核となる空母打撃群の前哨部隊として、位置付けられている。


 沿海域戦闘艦は、フリゲート又は哨戒艦に区分される戦闘艦であるが、独自の多様作戦が展開可能な戦闘艦である。


 同艦が建造された背景には、2000年に発生した、ミサイル駆逐艦襲撃事件が影響している。


 ミサイル駆逐艦は、定時の燃料補給のために湾内で停泊中だった。


 燃料補給が開始された後、小型ボートが艦に接近し、自爆した。


 自爆攻撃により、艦は大きなダメージを受けた。


 事件の影響により、沿海域戦闘おいて、安価な武器でも高価格、高性能な艦に近寄り、大きなダメージを与える事ができると確認された。


 偽装小型ボートは、見た目からは、テロ目的又は軍事目的に使用されると判断がしづらく、仮に、気付く事ができても、小型艦の方が高速航行能力及び旋回能力等の機動性が高く、大型戦闘艦では不利だった。


 沿海域戦闘艦は、従来の戦闘艦と比べると、小型で高速航行能力を有するために沿海域での戦闘時の回避能力及び小型船の追跡能力も高い。


[コロンブス]も、ニューワールド連合軍が太平洋戦争に介入した時も、第1空母打撃群の前方展開艦として作戦行動に従事した。


 津軽海峡突破の際にも、潜水艦からの攻撃を警戒し、艦載のMH-60Rが哨戒飛行を行い、偽装船からの攻撃に備えて[コロンブス]が、警戒を行った(対潜警戒及び偽装船警戒のために、菊水総隊海上自衛隊及び連合海軍航空隊の対潜哨戒機が、共同で警戒飛行を行っていた)。


[コロンブス]の艦長も元の時代では、麻薬戦争や海上治安維持活動に従事した。


「艦長。第1艦隊司令部作戦参謀が、お呼びです」


 副長が、報告した。


[コロンブス]艦長である中佐が、CICの艦長席を立った。


 通信士官と代わり、ヘッドセットをつけた。


 液晶モニターに、ニューワールド連合軍連合海軍艦隊総軍第1艦隊司令部作戦参謀である大佐が現れた。


「作戦命令書は、届いているな?」


「届いています。大佐」


「ミッドウェー島飛行場は、連合戦略軍戦略航空軍の作戦基地として使われる事になった。貴艦の任務は、ミッドウェー島の海上防衛及び海上警備だ」


「任務は了解しています。ですが・・・」


「何だ?」


「戦略航空軍は、本当にオアフ島に展開する米英独伊連合軍を、攻撃するのですか?」


 艦長は、作戦参謀に質問する。


「あくまでも、最終的解決手段の準備だ。攻撃するか、否かは、私の権限を越える。第1空母打撃群[フロンティア]にも、連合戦略軍管理の戦術核爆弾が移送された。しかし、使用するかどうかは・・・まだ、何とも言えない」


「そうですか」


 作戦参謀の言葉に、艦長は淡々とした口調で、答えた。

 HELL ISLAND 第3章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は2月24日を予定しています。

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