HELL ISLAND 序章 1 [ちょうかい]艦長の独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
本章から、HELL ISLAND編がスタートします。
「左舷前方に、イージス艦[こんごう]と、多用途支援艦[ひうち]!」
[こんごう]型イージス護衛艦4番艦[ちょうかい]のウィングで、見張り員が報告する。
[ちょうかい]艦長である白川菊次郎1等海佐は、ウィングに出た。
白川は60代前であるが、その操艦能力及び指揮能力を評価された。
そのため定年退職していたが、再び海上自衛隊に復帰し、[ちょうかい]の艦長に任命された。
[ちょうかい]の前艦長は、タイムスリップする事を拒否したため、彼が艦長に抜擢された。
防衛局長官直轄部隊海上自衛隊護衛艦隊の所属であった[ちょうかい]は、開戦から今日にいたるまで、ほとんど前線に出た事は無い。
唯一、あるとすれば米豪新連合軍が、ニューブリテン島に上陸し、守備隊と激戦を繰り広げていた頃、大日本帝国海軍と朱蒙軍海軍と共同で、オーストラリア軍が展開するガダルカナル島攻略作戦に参加した事ぐらいである。
[こんごう]型イージス護衛艦の中で、[ちょうかい]だけが、実戦を迎える事が無かった。
「?」
白川は、[こんごう]の甲板を見た。
[こんごう]の甲板上に艦長、橘田雄史1等海佐以下[こんごう]の乗組員たちが整列している。
[こんごう]は、敵攻撃機が艦橋に突っ込んだ事により、操艦不能になった。
航海長以下艦橋要員が、全滅した。
橘田以下[こんごう]の乗組員たちが、[ちょうかい]に向かって挙手の敬礼をする。
白川も答礼する。
すると、[こんごう]から、発光信号が送られた。
『[ちょうかい]の奮戦と無事を祈る』
と、発光信号が送られてきたのである。
「艦長。返信しますか?」
いつの間にか、副長兼船務長の2等海佐が、隣に立っていた。
「いや、その必要は無い。向こうも、それは期待してなかろう・・・」
白川は、手を下ろすと副長に言った。
防衛戦の真最中に、戦線を離れざる得ない事に、[こんごう]艦長以下、乗組員たちは忸怩たる思いを抱いているだろう。
白川には、橘田の無念さが、痛い程わかる。
「それよりも、乗組員の士気は、どうだ?」
「はい、士気は極めて高いです」
「そうか。それは何よりだ」
[ちょうかい]が、なかなか実戦に投入されなかったのには、理由がある。
それは、他の3隻の[こんごう]型イージス護衛艦の中で、[ちょうかい]は幹部自衛官の脱落者が多かった。
全体の6割の幹部が脱落し、他から人員を補充した。
元から[ちょうかい]の乗組員だった幹部自衛官は、副長を除いて4割しかいなかった。
「第1護衛隊群は、ハワイ攻略戦とハワイ防衛戦で奮戦した。そんな彼らの下に、経験の浅い我々が編入された。足手纏いになる訳にはいかない」
「はい!」
副長は、挙手の敬礼をする。
「[こんごう]が戦線を離脱し、本艦が、その代わりを任された。我々は、[こんごう]以上の働きをしなければならない」
白川は、ウィングから艦橋に戻り、艦橋にいる幹部自衛官1人1人の顔を見ながら、告げる。
[ちょうかい]の幹部自衛官は、極端だった。
若手幹部と年配幹部が全体を占めて、その中間がいない・・・という状況である。
年配幹部は、海曹からの叩き上げであり、経験は豊富だが頭が固い、という欠点がある。
若手幹部は、頭は柔らかいが経験が浅い、という欠点がある。
幸いなのは、海曹たちの脱落者が、少なかった事である。
海曹が艦を運用する主力であるため、彼らがいなければ、このような編入は行われなかっただろう。
「艦長、第1護衛隊群司令内村海将補より、通信です」
「了解した」
海曹の声に、白川は振り返る。
「これで、[こんごう]と[むらさめ]の抜けた穴を、埋める事が出来る」
白川との通信を終えた、第1護衛隊群司令の内村忠助海将補は、隣に立つ主席幕僚の村主京子1等海佐を振り返り告げた。
「そうですね。次が楽しみです」
微笑を湛えて、村主は言葉少なく答えた。
内村の背筋に、悪寒が走る。
常に穏やかで嫋かな所作を、崩さない村主だからこそ、気付く者は、少ないかも知れないが・・・
彼女が、こんな微笑を浮かべている時は、恐ろしい。
自分の心の内に湧き上がっている好戦的な気分を、抑えられないのだろう。
自分の愛弟子と、再び相見える事に、心が昂っている。
「緒戦は、一本を取られました。ですが、次はこちらの番です。イージス護衛艦[あかぎ]、[ちょうかい]の能力を、見せつけてやります。それに・・・」
村主の微笑が、冷ややかな笑みに変わる。
「護衛艦[ながなみ]か?」
「ええ。居眠り艦長が、本領を発揮するでしょう・・・」
冷笑を浮かべながら、村主が、謎めいたつぶやきを漏らす。
その頃・・・
汎用護衛艦[ながなみ]の士官室で、昼食を終えた居眠り艦長こと、武部伊三2等海佐は、まったりと食後の一服である緑茶を、楽しんでいた。
「うむ。やはり茶は、宇治に限る!」
好々爺といった雰囲気(実際は、50代)で、ほっこりオーラを周囲に振り撒いている。
(すみません!茶葉生産量日本一の静岡県から、クレームが来ますよ!)
個人的嗜好の問題ではあるが・・・
色々な意味で、気苦労が絶えない副長が、内心で突っ込んでいた。
HELL ISLAND 序章1をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。




