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ハワイ会戦 終章 3 救いようの無い理不尽

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です

 カタ・・・カタカタ・・・カタ。


「あっ!」


 騒々しい音を立てて、タイプライターのキーを打っていたレイモンドは、思わず声を上げた。


「また、間違った・・・」


 書きかけの紙をクシャクシャと丸めて、放り投げると、また新しい紙を、タイプライターにセットする。


 間違ったら、白い絵の具を上から塗るなり、別の紙を貼り付けて、修正するなりすれば良いのだが・・・


 変な拘りというか、そういった修正をするのが嫌で(単に面倒臭い)、延々と無駄な作業を続けている。





 不器用な指使いで、タイプライターに文字を打ち込みながら、レイモンドは、これまでの事を振り返っていた。


 第81歩兵師団は、事実上壊滅したと言ってもいいだろう。


 副師団長からの作戦中止命令を受け、師団司令部陣地まで撤退中だった各部隊は、待ち伏せしていた菊水総隊陸上自衛隊、大日本帝国陸軍の部隊の追撃に遭い、半数以上が帰投出来なかった。


 襲撃され、壊滅した師団司令部陣地での救出作業については、無線で呼び寄せたレイモンドの護衛分隊の半数と、先に橋頭保陣地に帰投した分隊からの報告を受け、グデーリアンの指示で差し向けられてきた増援部隊が救出作業に加わった事で、瓦礫等の下敷きになったりした事で、辛うじて命を拾った将兵たちを救出出来たのは、不幸中の幸いと言うべきかもしれない。


 ただ、こればかりは運の問題だが、炸裂した榴弾に吹き飛ばされたり、破片や、吹き飛ばされた対空砲やトラックやジープ等に直撃されて、命を落とした者たちも大勢いた。


 しかし・・・


 1つ謎が残る。


 メイソン少将を、殺害したのは一体誰なのか? 


・・・で、ある。


 結局、検死の結果は、軍医も爆撃に巻き込まれて死亡した事から、わからず仕舞いとなった。


 不可解なのは、軍用犬が、何の反応も見せなかった事だ。


 陣地内にいた軍用犬たちは、部外者に対して、警戒感を露わにしていた。


 レイモンドも、散々吠えかけられた事から、軍用犬たちの警戒心は、本物だとわかる。


 それなのに・・・


 人間ならともかく、犬たちの監視を掻い潜って、一体誰が・・・?


「・・・ふう。これって、ホームズかブラウン神父、ポアロくらいの人じゃなきゃ、解決出来そうもないね・・・」


 人によっては、不謹慎とも取られかねない、つぶやきではあるが、レイモンドだけでなく、4ヵ国連合軍にとっては、メイソンの死の原因の究明より、深刻な事態になりかねない問題が発生していた。


 以前から、大日本帝国軍の諜報員や工作員が、潜入し暗躍しているとの警戒から、それらの摘発に、MPが躍起になっていたが、第81歩兵師団の一件で、スペース・アグレッサー軍が、かなり早い段階から各国の政府内や軍部内に、諜報員を送り込んでいたのでは?という噂が出始め、それが大きくなりつつあった。


 何しろ、ニューワールド連合軍は、連合国、枢軸国の子孫たちで編成されている。


 自国の風習やら慣習を熟知している者たちが、かなり早い段階から各国の政府や軍部に送り込まれていたとすれば・・・?


 もし、自分の隣にいる同僚が、実はスペース・アグレッサー軍から送り込まれたスパイなのだとしたら・・・?


 もし、自分がスパイではないかと、疑いをかけられたら・・・?


 今のところは、単なる噂程度に過ぎないが、その疑惑が、密かに軍人たちの心の奥底に、根を張って行けば、それらを解明する手立ても、時間も無い現状では由々しき問題になりかねない。


(・・・もしかして、今回の第81師団司令部を壊滅させる作戦は、これが、本当の狙いだったのかな?)


 ふと、そう思った。


 本格的な地上戦を前に、どんな攻撃を仕掛けてくるか予想出来ない遊撃部隊を叩いておくというのは、あり得る事だとは思うが、あそこまで徹底的にするのには、何かの裏があるのではと、勘ぐってしまいたくもなる。


 あの時出会った、イシガキという男も、多分知らない事だろう。


 階級的に考えても、彼は、命令された事を、単に実行したに過ぎないだろう。


(・・・ヒムロ中佐・・・)


 自分の知っている人物の中で、こういった狡猾な策略を仕掛けそうなのは、彼しかいない。


[オペレーション・スウェルフィッシュ]の裏で、パナマ攻略を目論んでいた事を看破出来なかっただけに、レイモンドの彼に対する警戒感は強い。


 ただし、それはレイモンドの知っている人物に限られるから、必ずしも彼が仕掛け人とは限らないが・・・


 何だか、彼以外にも、とんでもない黒幕が、いそうな気もする。


「ちょっと、休憩・・・」


 余計な事を考えたために、頭が痛くなってきた。


 まったく報告書の作成が、はかどっていない状態で、レイモンドは大きく伸びをした。





 コン!コン!


 個室のドアが、ノックされる。


 そういえば、夜食としてコーヒーとチェリーパイを、頼んでいたのだった。


「どうぞ」


 夜食の乗ったトレイを片手に、入ってきたのは白いコック服姿のキリュウだった。


「何だよ、これ?」


 個室を見回して、床に散らばっている紙屑の数に、キリュウは眉を吊り上げる。


「あっ!今、片付けようと思っていた所だよ」


 雷が落ちる前に、先手を打つ。


「・・・・・・」


 それを信じたかどうかは、わからないが、キリュウはデスクの上に無言で、トレイを置いた。


「そうだ!カズマ。八つの頭のある蛇って、何か知っている?僕は、ギリシャ神話のヒュドラしか思いつかないのだけど。それ以外に、そんな怪物っている?」


 第81歩兵師団司令部陣地で見かけた犬の防弾チョッキには、そんなマークがあった。


 だから、少し気になっていたのだ。


「・・・八岐大蛇か?」


「ヤマタノオロチ・・・?」


「ああ。日本の神話で、最高神の天照大神の弟の須佐之男命に、退治された蛇の怪物だ」


「へえ。黄金の三つ首の竜の怪獣と、どっちが有名?」


「何だ、それは?」


 あくまでも、レイモンドの言う竜の怪獣は、日本の特撮怪獣映画に出てくるキャラクターであり、その特撮怪獣映画が日本で初公開されたのは、1954年であるし、映画で、その怪獣が初登場したのは、1964年であるからキリュウが知っている訳が無い。


「で・・・八岐大蛇が、どうしたって?」


 レイモンドが、ハワイで捕虜になっていた時に、未来人とはそれなりに交流していた事は、周知の事である。


未来の日本人に、おかしな知識を教えられたり、レイモンドも自分なりに変な解釈をしたりしているから、キリュウが理解出来ない事を言ったりするのには、もう慣れているが・・・


「うん。ちょっと気になってね・・・それだけ」


 レイモンドの散らかした紙屑は、話している間に、キリュウがすべて拾って、ごみ箱に放り込んでいた。


 以前、捕虜でありながら客人待遇で、ヘリコプター搭載護衛艦[いずも]に滞在していた時も、同行してくれていたマーティ・シモンズ2等水兵(当時の階級)が、色々と身の回りの世話をしてくれていたが、今はキリュウが同じ事をやってくれている(頼んではいないのだが・・・)。


「なあ・・・」


「何?」


 珍しく、いつもは無口なキリュウから、話しかけてきた。


「スペース・アグレッサーって、俺たちの子孫なのだよな?」


「そうらしいね」


「・・・・・・」


 キリュウは、何か思う所があるように見える。


「何か、気になる事でもあるのかい?」


「・・・テオ・・・いや、ベルンハイム1等兵から聞いたのだが・・・」


 何か、言い難そうな素振りだ。


「俺たちが会った連中だが、男の方は、もしかしたら自分の親戚の子孫かもしれないと・・・ベルンハイム1等兵の母親は、日本人なのだそうだ。それで、元の姓はイシガキで、男の子供にはタツの字を名前に付ける慣習があるそうだ・・・」


「ふうん・・・まあ、そうだとしても、不思議は無いかもね」


 レイモンドにしても、まだ恋愛対象となる女性がいない状態では、いきなり『貴方の子孫です』と、誰かに言われても、ピンとこないが・・・あり得ない話では無い。


「・・・そうか・・・」


「イシガキ中尉が、どうかしたのかい?」


 何か考え込んでいるキリュウに、問いかける。


「・・・何でもない・・・」


「そうかい?」


 元々、口数が少ないキリュウであるから、あまりしつこく聞いても、答えてくれ無い場合が多いから、そこは待ちの姿勢を見せる。


「・・・その、イシガキとか言う奴の動きは、俺の爺さんの剣術の流派と似ていた・・・何となく、そう思っただけなのだが・・・」


 自信がなさそうな口振りだが、キリュウの告白に、少し驚いた。


「そうなの?じゃあ、日本にいる君の親戚の人が、彼に剣術を教えていたって事かな?」


「・・・そんなはずは無い。爺さんの兄貴が死んで、キリュウの直系は、爺さんだけだったんだ」


「・・・となると、君の子供か孫に当たる人物が、何10年か後に、日本に帰国して、彼に教えたって事かな?」


「・・・わからない・・・」


 レイモンドでさえ、ピンとこない話なのだから、まだ14歳のキリュウに、子供や孫の話をしても想像が付かないのも仕方が無いだろう。


「もし、イシガキという奴に会って聞けば、誰から教わったのか、わかるのだろうか?」


「多分ね」


 それについては、レイモンドも、そう答えるしか無い。


「俺の子供や孫なんて、どうも想像が出来ないな。でも、俺たちが今、戦っている敵の奴らって、皆、誰かの子孫って事なのだよな?」


「・・・・・・」


 当たり前の事だが、キリュウの言葉に、今更ながら気付かされた。


 そうなのだ。


 彼らが自分たちの子孫という事は、自分たちは彼らから見れば、祖父や曽祖父に当たる。


 過去の歴史でも、後継者争いや、政治的や宗教的な事情等で、親子や兄弟が敵味方に別れて争うという事は、古今東西枚挙に暇が無い。


 骨肉の争い程、救いようが無いものは無い。


 それでも未来人たちは、時代を越え、歴史を変えるために、彼らの先祖である自分たちに挑んできた。


 各宗教によって、解釈は多少異なるが、親殺しは重罪であるにも関わらず・・・


「私たちの覚悟を、舐めるな!」


 そう主張したコマツ中尉の言葉が、甦る。


(・・・やはり、貴女がたは怖い人たちですね・・・スグリ大佐。貴女がたは、その罪の十字架を背負う覚悟で、歴史を変えようとしている・・・)


 レイモンドは心中で、1人の女性に語りかけた。

 終章3をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 本日の投稿で、ハワイ会戦編は終了です。次回からは、HELL ISLAND編に入ります。

 次回の投稿は1月27日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  読者からは、わかっていた灯台下暗し。  カズマ君やレイモンド氏側から見たら、相当な業を感じるでしょうね。タイムパラドックス的にも どのような影響が出るかもわからないで…
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