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ハワイ会戦 終章 2 生きるという意志

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です

 作戦は、終了した。


 大日本帝国統合軍指揮母艦[信濃]に帰投した石垣は、山本らに帰還の報告と、戦闘報告を口頭で伝えた後、休養と、書面での報告書の提出を命じられた。





「クアァァァ~・・・」


 自室のデスクの前で、パソコンに向かっている石垣の足元では、まるで以前からそこにいるような感じで、伝助が大欠伸をしながら寝そべっている。


「めっちゃ、馴染んでいるんだけど・・・」


 石垣の個室を、完全に自分の部屋と思っているようにも見える。


 任務を終え、即日、別の任務のために[信濃]を後にした、小松が言っていたのだが(彼女の言う事なので、どこまで信用して良いのか、わからないが・・・)、伝助は石垣を、自分の弟分と思っているようだ・・・との事だ。


 それもあってか、伝助は、チャッカリ石垣チームの一員に、なってしまった(無理やり)。


(・・・弟か・・・)


 どこまで行っても、自分は弟という位置付けから、脱却する事は出来ないのだろうか・・・





 パソコンを前にしたものの、1文字も打ち込めず、石垣はパソコンを閉じて立ち上がった。


 何故か、強襲作戦以降、原因のわからない倦怠感が、ずっと続いている。


 軍医に相談してみたが、戦闘ストレスが再発したかについては、暫く経過観察が必要と言われた。


 気分転換に外の空気を吸おうと、石垣は個室を出る。


 伝助が、当然のように後から付いてくる。


 全通甲板に出てみると、大きな満月が東の空に顔を出していた。


「でかい月だな、伝助。もしかして・・・お前、満月の光を浴びたら、人間になったりとかする?」


 それは、逆である。


 それに、万が一、犬が人間になったら、色々と問題がある。


「クァ?」


 伝助は、何を言っている?という表情で、石垣を見上げる。


「ハハッ・・・だよな・・・」


 自嘲するように、笑いながら甲板の一画に視線を向けると、純白の剣道着姿の桐生が、素振りをしているのが、目に入った。


(桐生さん・・・?)


 桐生が、鍛錬の時間以外で、素振りをしている場面なんて、今まで見た事が無かったが・・・


「・・・・・・」


 石垣は、暫し見とれていた。


 桐生は、単純に素振りをしているだけでは無く、様々な型の動作を盛り込んでいる。


 その1つ1つが、舞踊を舞っている様に、見える。


 時間が経つのも忘れて、石垣は桐生の剣技に見入っていた。





「どうしたの、石垣君?」


「!・・・!?・・・!!?」


 そんな、状態であったから、自分のすぐ側で桐生に声を掛けられた時は、声が出ない程、驚いた。


「どうしたの?まるで幽霊にでも出会ったみたいな顔をして?」


「いえ・・・あの・・・すみません」


 一体、いつの間に・・・とも思ったが、自分がぼんやりしていたので、気付かなかったのかもしれないとも思った。


「元気が無いけど、悩み事?」


「そういう訳では無いです。ただ・・・身体から、怠さが抜けないというか・・・そんな感じで・・・」


「ふうん。何か思い当たる事は、ある?」


「いえ・・・いや、その・・・ええと・・・」


 一瞬、躊躇ったが、何となく桐生には話してもいいかなと思い、司令部陣地での出来事を話した。


 自分たちを殺そうと、軍用ナイフで斬りかかって来た少年兵の事。


 それを、何故か止める事が出来た自分。


 ラッセル少佐と名乗った、海軍士官との会話等についてだ。


「白刃止め、しちゃったんだ」


 石垣の話を最後まで聞いて、口を開いた桐生の最初の言葉だった。


「ええ」


「私に、言える事」


 桐生は、右手の人差し指をピッと立てた。


「石垣君。君の寿命、少し縮まったわよ!」


「えぇ!?」


 いきなり、断言された。


「まあ、数日か数週間、数ヵ月ってレベルくらいかな。多分、身体が怠いのは、それが原因。それくらいのエネルギーを、使っちゃったって事」


「そんな、ナイフを素手で止めたくらいで、大袈裟な・・・」


 石垣は苦笑を浮かべたが、桐生は真剣な表情だった。


「石垣君。真剣白刃止めっていうのは、日本の剣術すべての流派にあるくらい、メジャーな技だけれど、時代劇のドラマや映画、時代小説や漫画等の剣戟シーンでも、ほとんど使われていないでしょう?何故だと思う?」


「・・・わかりません」


「一番、最低で情けない、技だからよ」


「・・・・・・」


「一見、凄そうだけれど、素手で相手の刃を受け止めるって事は、武士の魂である刀を、その時点で、手放しているって事。つまり、もう負けている状況での、悪足掻きにしか過ぎないのよ。単純に、相手を死なせずに無力化するだけなら、刃を返して峰で打てば済む事だから・・・」


 確かに、剣道の試合でも竹刀を落とした場合、反則を取られる。


 それで考えれば、桐生の言う事も理解出来る。


「・・・・・・」


「それに、剣術の技は二の太刀、三の太刀と、次の攻撃に繋げていける。でも、素手で白刃を止めれば、それで、お終い。反撃に転じる事も出来ない・・・そういう事。そのくせ、無駄に難易度は高いから、ごっそりと体力と精神力を、持って行かれる・・・」


 桐生に言われると、そうかなと思ってしまう。


 あの後、全身から力が抜けて、立っている事も出来なかった事を思い出した。


 確かに、徒手格闘なら、ナイフで襲ってきた相手の攻撃を受け流し、その後、組み伏せて取り押さえる事が出来る。


 だが・・・今、思い返せば少年兵の動きは素早く、とても徒手格闘では対処出来なかったように感じる。


 それこそ、死さえ覚悟したくらいだった。


「・・・・・・」


 何故、少年兵のナイフを受け止める事が出来たのか、記憶がそこだけスッポリと抜けて、どうしても思い出せない。


「でもね・・・石垣君は、それで良いと思うわよ」


 考え込んでいる石垣に、桐生は表情を和らげた。


「私が思うに、石垣君は、その少年を死なせたくなかった。生かしたかった。そして、自分も死にたくなかった。生きたかった。その強い意志が、行動に出たのね」


「・・・生きる意志ですか?」


「そう。その気持ちを、大切にするといいわよ。身体の怠さも、石垣君の強い思いへの勲章。ゆっくりと休んで、英気を養いなさい」


「はい」


 ニッコリと微笑む桐生に、笑顔で石垣は返事を返す。


「だって、そうだよねぇ~・・・メリッサちゃんに『好き』って、告白もしてない状態で、そう簡単に、人生を終わりたくないわよねぇ~・・・」


「はい!・・・?・・・え?・・・き!桐生さん!!?今、何て!!?」


 どさくさ紛れに言われた事に、条件反射で返事をして、その内容に石垣の顔は、ボン!という音を立てて赤くなった。


「若いって、いいわよねぇ~・・・青春よねぇ~・・・」


「桐生さぁぁぁぁん!!!」





「フゥ・・・」


 顔を赤くして、アタフタしている石垣と、小悪魔的な微笑を浮かべる桐生を、交互に見ながら、伝助は、ヤレヤレといった感じで、ため息を付いた。

 終章2をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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