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ハワイ会戦 第20.5章 忘れていた事

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 収容ポイントで、任たちを収容した他のMi-24Dと合流した後、石垣たちはヘリの燃料補給のため、第50普通科連隊指揮所の臨時ヘリポートに着陸した。


 そこで、待っていたのは氷室だった。


「お疲れ様」


「氷室2佐、どうしてここに?」


 労いの言葉を掛けてくる氷室に、思わず聞いた。


「いくら何でも、作戦立案者が後方に引き籠っているっていうのは、無責任過ぎるでしょ。せめて、状況の確認が出来る場所には、いなくちゃね」


 当然といった表情で、氷室が答える。


「そうですか・・・」


「でも・・・見直したよ、石垣君。これは、ぜひとも君のお兄さんに、録音データを送らなきゃ!」


「勘弁して下さい・・・」


 一体、どれだけの人間が、あの会話を聞いていたのか・・・それを考えると、頭が痛くなってきた。


「ワン!ワン!」


 頭を抱えて、しゃがんでいる石垣の耳に、伝助の吠え声が聞こえてきた。


「・・・忘れていた・・・」


 非常に薄情かもしれないが、いつの間にか姿を消していた伝助の事を、すっかり忘れていた。


 それどころか、置き去りにしてしまっていたような・・・


「・・・何・・・あれ・・・?」


 氷室の声に、顔を上げた石垣は、目が点になった。


 自分に向かって走って来る伝助の後ろには、見知らぬ犬が10数頭付いて来ている。


「ワン!ワン!ワン!」


 石垣の前で、お座りをした伝助が、笑顔で何かを言っている。


「第81歩兵師団陣地にいた、軍用犬を連れて来た・・・ですって」


 本当に、通訳をしているかどうか非常に怪しい、小松の言葉。


「・・・あの時の遠吠えは・・・もしかして・・・?」


「そう、陣地内にいた軍用犬に、『逃げろ!』って、言っていたのよ」


「・・・・・・」


「戦争は、人間が勝手にしている事。いくら、人間に使役されている軍用犬だからって、人間の都合の巻き添えには出来ない。そう、思ったんでしょう。それに、その軍用犬たちの世話をしていた、兵士たちも一緒に逃がす事が出来ると考えたんじゃないかな。軍用犬を追いかけて、陣地外に出た兵士たちも、それなりにいたし・・・まあ・・・逃げるか、投降するとか、してくれれば良かったのだけれど・・・さすがに、そこまではね・・・」


「・・・・・・」


「伝助には、ちょっと変わった能力があってね。本来、軍用犬のような犬は、使役する人間以外の命令は聞かないはずなのだけれど、伝助は、理由はわからないけれど、鳴き声に、一種の犬笛のような高周波の音を被せる事で、それを超越して犬限定で、拒否不可能の絶対命令を下せる。信じるか、信じないかは、ご勝手に」


「・・・嘘・・・だろ?」


 確か、モンゴルのある民族には、ホーミー(喉歌)と呼ばれる、独特な歌唱法が伝わっているそうだが、それと似たような独特の発声法のようなものが出来るという事だろうか?


 信じ難い話ではあるが・・・


「・・・まあ、こんな変わった系を、探し出してくる8人目のスカウト能力って、常識の斜め上を行っているわ・・・」


 それ以前に、その能力は反則だろう!という突っ込みは、取り敢えず置いておく。


 それで、203ミリ自走榴弾砲の砲撃が始まる前に起こった異変は、理解できた。


 あの遠吠えを聞いた時、犬笛を吹かれたような音が、石垣の頭の中で、響いたのを感じたのは、伝助が危険を軍用犬たちに、直接知らせていたのだろう。


 信じるか、信じないかは、小松の言う通り、人それぞれだが・・・


「でも、どうするんだ、この犬たち・・・?」


「・・・まあ、投降してきたようなものだから・・・捕虜?・・・犬だから、保護?・・・かな?」


「ク~ン、クンクン」


 伝助が、訴えるような目で、石垣を見詰める。


「無理、無理、無理!保護なんて出来る状況じゃない!」


 伝助が何を言っているか、小松の通訳無しで理解できた。


 軍用犬たちを保護して、面倒を見て欲しいと言っている。


 石垣の脳裏に、保護した犬たちに与える、大量のドッグフードの幻影が浮かぶ。


 もちろん、それだけでは無い。


 狂犬病ワクチンやら・・・その他のワクチンやら・・・蚤ダニ駆除薬やら・・・場合によっては、去勢避妊手術・・・それらにかかる費用を考えたら・・・。


 財布から、お札が羽を生やして飛んでいく光景が、想像出来る。


 それに報告書には、何て書けば良いのか・・・


「ク~ン・・・」


 伝助の目が、悲しそうだ。


 そんな目で見られると、自分が非情な人間に見えてしまう・・・


「・・・いや・・・だからね。こういった事は、最後まで責任を持って、飼育できるって環境が必要だから・・・」


 何で、犬に説明しているのだろう・・・?


「ク~ン・・・」


「・・・・・・」


「ク~ン・・・」


「・・・わかった。何か、方法を考えてみるよ・・・」


 伝助の目力に、負けた・・・


「ワン!」


(ありがとう!)といった感じで抱き着かれた(正確には、飛び掛かられた)石垣は、尻餅を付いた。


 そのまま、顔をベロベロと、舐められる。


 そこで、気が付いたのだが・・・小松も氷室も、姿を消していた。


「逃げられた~!!」


 思い切り、貧乏クジを引かされた。




 どうやら石垣は、勉強不足だったようだが・・・


 新世界連合では、捕虜や交戦国の難民等の保護に関する国際法の規定と並んで、軍用犬、探知犬等を含む、軍隊で使役されている動物の保護についての規定が、新たに定められているという事を、追記しておく。


 よって石垣は、自分の財布を心配する必要は、実は無い。

 ハワイ会戦 第20.5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

 次回の投稿は1月20日を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  石垣君のお財布が軽くならずにすんで良かったですw  さて、カズマ君とレイモンド氏は、どうなったのでしょう?次回にご期待でしょうか?
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