ハワイ会戦 第13章 鬼の跳梁
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
聯合艦隊空母機動部隊第1航空艦隊第11戦隊の戦艦[霧島]は、僚艦の戦艦[比叡]と菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群第5護衛隊汎用護衛艦[あけぼの]を率いて、速力20ノットという速度で航行していた。
戦艦[霧島]艦長の岩淵三次大佐は、艦長席に腰かけたまま、暗い海上を眺めていた。
「艦長。どうやら、敵に発見される事なく、接近できそうだな」
戦隊司令官が、声をかける。
「はい、駆逐艦[あけぼの]の、電探のおかげです」
「この作戦には、神風艦の護衛が必要だと具申したが、幽霊総隊司令部は、汎用艦を回してきた・・・」
戦隊司令官は、不満そうな口調で、つぶやいた。
「汎用艦でも、高性能な電探等を搭載しています。そう簡単には、敵の哨戒網には引っかからないでしょう」
岩淵は、確信した口調で、告げた。
大日本帝国軍部が、幽霊総隊と呼称する菊水総隊と、岩淵は、戦場で肩を並べるのは、今回が初めてであるが、彼らの能力や人となりは、ある程度把握している。
今回、何故この3隻が、夜間に米英独伊連合軍の哨戒網内に侵入したかというと、ハワイ諸島オアフ島東海岸に上陸した、米英独伊連合軍上陸部隊の上陸地点に、艦砲射撃を実施するためだ。
攻撃目標は、海岸線に築かれている物資集積所である。
物資集積所に対し、戦艦[霧島]及び[比叡]の艦砲射撃で、無力化するためだ。
護衛艦[あけぼの]が同行している理由は、搭載する電探と電波傍受機等による索敵装置で、敵の哨戒網を潜り抜けるためだ。
菊水総隊航空自衛隊の無人偵察機による高々度偵察で、哨戒部隊は軽巡洋艦を中核とした駆逐艦部隊が展開しているのみで、戦艦、空母、重巡洋艦等の主力部隊は、後方に展開している事がわかっていた。
岩淵は、聯合艦隊司令長官である豊田副武大将の言葉を、思い出していた。
「岩淵大佐。今回の作戦は、極めて危険ではあるが、是非とも成功させてほしい。物資集積所への艦砲射撃を実施し、完全に破壊する事ができれば、上陸部隊の作戦行動を、制限する事ができる」
「承知しております。敵連合軍上陸部隊は、50万人と聞いております。これだけの規模が進撃を開始すれば、オアフ島守備隊だけでは、かなり荷が重いと思います」
情報では米英独伊連合軍上陸部隊は、50万人を投入しているそうだ。
それも、第1陣と聞く。
軍令部及び統合軍省が把握している全体の規模は、120万人以上である。
連合国及び枢軸国は、ハワイでの会戦を、この大戦の決戦とする勢いだ。
岩淵以下、戦艦[比叡]艦長の西田正雄大佐、汎用護衛艦[あけぼの]艦長の小村郡三1等海佐も、この作戦の重要性は理解している。
「艦長」
戦艦[霧島]の副長が、声をかけた。
「攻撃開始時間です」
副長からの報告に、岩淵は、懐中時計を見る。
「うむ」
岩淵は、艦長席から立ち上がった。
「司令官。これより、艦砲射撃を実施します」
「うむ」
戦隊司令官である少将が、うなずく。
「左砲戦用意!!」
岩淵の指令で、砲術要員たちが、砲撃前の準備に取り掛かった。
「左砲戦用意!!目標!オアフ島東海岸物資集積所!!」
四一式三五.六糎連装砲4基が、左に旋回する。
旋回を終えると、砲口を上げた。
「照準よし!!」
砲術長が、報告する。
「撃て!」
岩淵が、号令を出す。
「撃ち方始め!!」
「撃て!!」
戦艦[霧島]の主砲が、吼える。
「時間だ」
暗闇に紛れて、1人の兵士が小声で囁いた。
船坂弘伍長が、双眼鏡を構える。
双眼鏡を構えた後、海上から砲弾の飛来音が響いた。
米英独伊連合軍上陸部隊が上陸している東海岸の物資集積所に、砲弾が炸裂する。
「さすがは聯合艦隊だ」
分隊長である大尉が、無線機の受話器を耳に当てながらつぶやく。
「初弾命中。次弾発射を、要請する」
分隊長は細かく攻撃座標の誤差を確認すると、海上で艦砲射撃を実施する戦艦[霧島]及び[比叡]に、攻撃座標の修正と第2射発射の指示を出した。
「初陣が、友軍の艦砲射撃の戦果報告とは・・・」
船坂が、双眼鏡を覗きながら、つぶやく。
「どうした?これも俺たちの仕事だぞ」
「いや、俺は、もっと激しい戦闘を、想像していた・・・」
船坂弘伍長が所属する部隊は、大日本帝国陸軍の一般部隊では無い。
陸軍参謀本部が、新世界連合軍多国籍特殊作戦軍傘下の各国特殊部隊を模範に、創設した大日本帝国陸軍特殊部隊である。
特殊部隊と聞くと、1944年(昭和19年)に創設された、関東軍直属部隊である機動第1旅団が思い浮かぶ。
同独立旅団は、3個の機動聯隊を中核として、編成され、風船爆弾に使用された水素気球に兵士が1人ずつ、ぶら下がり、夜間にソビエト社会主義共和国連邦に空中より侵入し、兵站や鉄道の破壊等の後方攪乱を実施する目的で創設された。
しかし、同部隊は、史実の機動第1旅団を模範にせず、多国籍特殊作戦軍傘下のアメリカ陸軍特殊部隊群や、第1特殊作戦部隊デルタフォース、イギリス陸軍特殊部隊である特殊空挺部隊(SAS)、特殊偵察連隊(SRR)を模範に創設された。
規模としては1個旅団クラスであり、3個聯隊を基幹に編成される予定だが、創設時期が1941年だったため、現在は1個大隊クラスである。
主な任務は、陸軍航空隊の戦術輸送機又は空軍の戦略輸送機で、敵勢力圏内に侵入し、落下傘降下で潜入する。
敵陣地の通信や輸送等の主要軍事施設の潜入破壊工作が専門の特殊部隊であるが、友軍の爆撃や艦砲射撃の戦果報告、敵勢力圏内での友好的レジスタンス勢力等のゲリラ戦等の教育、レジスタンス勢力等を味方に引き込むための交渉等を実施する特殊部隊である。
現在は、試験的に運用されているため、正式の呼称は無く、大日本帝国版特戦群と、暫定的に呼称されている。
しかし、通称として与えられた[鬼兵衆]の方が、ウケが良いため、そちらの方が呼称として定着しつつある。
彼らの黒一色で統一された装備から、一部の自衛官の間では、某時代劇が連想され、その時代劇のタイトルに因んで、[漆黒の軍団]と言われたりしているらしい。
因みに、指揮艦[信濃]に乗艦している大日本帝国統合軍省統合軍作戦本部陸軍本部長の牛島満中将の直轄部隊として、大隊から引き抜かれた1個小隊が、預けられている。
「第2射接近」
兵士の1人が、静かに報告する。
海岸線に積み上げられた物資に、次々と砲弾が炸裂する。
燃料や弾薬に誘爆したため、海岸線は太陽が昇ったかのように、明るくなっていた。
「第2弾命中。被害状況は甚大。弾薬集積所及び燃料集積所は、完全に破壊された。続いて、食料集積所を砲撃されたし、場所・・・」
分隊長が地図を見ながら、的確な目標位置を伝える。
「分隊長。敵の動きが、活発になりました」
船坂の報告に、分隊長が受話器を置いて、双眼鏡で確認する。
「さすがに、これだけ正確に砲撃を実施しているのだ。敵も俺たちがいる事に、気が付いたな・・・」
「では、こいつの出番ですか?」
船坂は、同特殊部隊の主力小銃であるAKMを握った。
陸軍参謀本部では、特殊部隊用の小銃として、新世界連合軍加盟国軍の各種自動小銃を評価した。
耐久力が高く、連発射撃時に安定とした連発射撃を実施できる、AKMが選ばれた。
「そう焦るな。俺たちの任務は、艦砲射撃の戦果報告と誘導だ。戦闘では無い」
分隊長が、小さく囁いた。
「だが、敵と遭遇すれば戦闘もやむを得ない。その時は、日々の訓練の成果を出す時だ」
戦艦[アラバマ]を基幹とする戦艦部隊は、本隊を離れて上陸地点周辺海域に向かっていた。
「司令!艦長!」
通信士官が、慌てた様子で艦橋に現れた。
「至急電です!」
通信士官は、通信文を司令に渡した。
司令である少将は、素早く通信文に目を通す。
「艦長。これを見たまえ」
司令が、通信文を艦長である大佐に渡す。
艦長は司令から通信文を受け取ると、その通信文に素早く目を通すのであった。
通信文の内容は、オアフ島東海岸に上陸した連合軍上陸部隊からの緊急電だった。
「海岸線に揚陸した物資が、大日本帝国海軍の戦艦による艦砲射撃を受けている」
「この報告によれば、物資集積所は地獄絵図のような状態だそうだ。積み上げられた弾薬や燃料に誘爆し、物資集積所は、手が付けられない状況のようだ」
司令が、冷静な口調でつぶやく。
「ですが、上陸地点周辺海域には哨戒部隊が展開していたはずです。どうして、哨戒部隊に発見されなかったのですか?」
艦長から受け取った通信文に、目を通した副長が、頭に浮かんだ疑問を告げた。
「簡単な事だ。スペース・アグレッサー軍のゴースト・フリートの艦艇が、同行していたのであろう」
艦長が、冷静な口調で答えた。
「ゴースト・フリートが!?」
副長が、声を上げる。
「先日の海戦で、ゴースト・フリートの艦隊に、ダメージを与える事はできたが、完全に殲滅する事は、できなかった。与えられた損害は、ゴースト・フリートの戦闘艦1隻を撃沈、1隻の艦橋にダメージを与えた程度だ・・・報告では、ゴースト・フリートの艦隊は、9隻で1個艦隊を編成している。2隻を脱落させたとしても、7隻が健在だ。まだまだ、戦力は十分にある」
司令が、副長たちに振り返り、告げた。
「艦長」
「はっ!」
「このまま全速で、上陸地点周辺海域に急行する」
「アイアイ・サー!」
艦長は、挙手の敬礼をした。
彼は、航海要員たちに速度を増速させる指示を出した。
戦艦[アラバマ]は、[サウスダコタ]級戦艦の4番艦であり、[ノースカロライナ]級戦艦の発展型であるため、機関出力は1万馬力以上だが、排水量の関係上、最高速度は27ノット程度だ。
随行の駆逐艦及び軽巡は、戦艦[アラバマ]に速度を合わせて、上陸地点周辺海域に急行した。
そんな戦艦[アラバマ]を基幹とした戦艦部隊の動きは、戦艦[霧島]、[比叡]に随行している汎用護衛艦[あけぼの]のレーダーに捕られていた。
「敵にも勘の良い奴が、いるな・・・」
[あけぼの]の艦長である小村郡三1等海佐は、CICの艦長席で顎を撫でながら、つぶやいた。
「そうですね。真っ直ぐ、こちらに向かってくるとは・・・」
副長が、同調する。
「よし!我々の出番だ!」
小村は、CICに響く声で言った。
「水上戦闘用意!」
「水上戦闘用意!SSM-1B攻撃始め、目標、中央にいる戦艦クラス!」
小村の号令により、砲雷長がヘッドセットに叫ぶ。
ミサイル要員たちが、諸元入力を行う。
「砲雷長。報告では、敵艦艇の耐久力は、かなり向上している。確実に沈める!」
「了解」
小村の言葉に、砲雷長がうなずく。
「発射弾数3発!」
発射弾数を指定し、ミサイル要員が準備完了になるのを待った。
「諸元入力完了!」
「いつでも発射できます!」
「発射!!」
砲雷長の号令で、担当士官が発射ボタンを押す。
振動と轟音と共に、SSM-1Bが発射される。
発射されたSSM-1Bは、目標となった戦艦に向かった。
CIC要員たちは、レーダー画面を凝視する。
レーダー上で、戦艦の光点とSSM-1Bの光点が重なる。
統合作戦総長の山本五十六大将は、指揮母艦[信濃]の統合作戦室で戦況について報告を受けていた。
「戦艦[霧島]及び[比叡]の2隻による艦砲射撃で、オアフ島東海岸に揚陸された物資集積所は、完全に破壊されたものと思われます」
海軍部参謀長の黒島亀人少将が海図を見下ろしながら、報告した。
「しかし、敵上陸船団は、予想以上の規模です」
陸軍部参謀長の八原博道少将が答えた。
「揚陸された物資を回復させるのは、すぐにでも可能と思われます」
彼らの手元に置かれている資料には、大日本帝国陸海空軍、菊水総隊自衛隊、朱蒙軍、新世界連合軍が行った敵情偵察で把握された敵の規模が、記載されている。
「恐らく、米英独伊連合軍上陸部隊は、橋頭保陣地の兵站を回復させれば、すぐにでも進撃を開始するでしょう」
陸軍部本部長の牛島満中将が、告げた。
「規模として、8個師団クラスが、一気に進撃を開始します。今回の作戦で、ある程度は進撃の開始を遅らせる事が出来るとしても、数日が限界かと推測します」
牛島の言葉に、統合作戦室の空気が、重くなった。
8個師団の進撃・・・これを聞いて、平然としていられる者が、いる訳が無い。
1個師団2万人と仮定して、16万人の進撃である。
それが第1陣として、投入されるのである。
当然、後方には予備部隊が展開している。
予備兵力の数も、無視をする事はできない。
「恐らく地上部隊の大規模侵攻の前に、空海軍による航空部隊が進出し、作戦地域の制空権を確保しようとすると思われます」
空軍本部長の小沢冶三郎中将が、出された緑茶を飲みながら、発言した。
「制空権だけは、渡す訳にはいかん!」
それまで、じっと聞いていた山本が、口を開いた。
山本は立ち上がり、オアフ島の地図を見下ろしながら、口を開いた。
「明日、早朝。敵の航空部隊が出撃したと同時に、我々も陸上機、艦上機を上げて、航空決戦を行う。第1航空艦隊の戦闘機全部を、オアフ島東海岸に投入し、オアフ島陸上基地にある戦闘機全部も出撃してもらう」
「航空決戦ですか?」
海軍本部長の宇垣纏中将が、顔を上げた。
「そうだ。敵は制空権を確保し、大規模な地上部隊を前進させて、守備隊と正面戦闘を実施する構えだ。制空権を奪われた状況下では、いくら最新鋭装備を取り揃えた陸軍部隊や菊水総隊陸上自衛隊の部隊でも荷が重いだろう」
オアフ島で、もっとも敵上陸部隊と正面戦闘を行う部隊は、大日本帝国陸軍ハワイ方面軍第1歩兵師団と菊水総隊陸上自衛隊第6師団である。
たったの2個師団で、初戦を持ちこたえなければならないのだ。
2個師団で4倍の8個師団プラス予備部隊を、相手にするのだ。
制空権を奪われた状況下では、戦線を防衛する事は、極めて困難である。
「南雲君にも連絡してくれ。敵機動部隊が動き出したと同時に、超空母[回天]の艦載機部隊を出撃させ、制空権維持に努めてくれと」
「ただちに伝えます」
宇垣が、答えた。
彼は立ち上がり、通信参謀に通信内容を伝えて、聯合艦隊司令部に通信する事を、指示した。
聯合艦隊司令部を経由して、南雲忠一大将が乗艦する超空母[回天]に、山本の命令が伝えられる。
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