ハワイ会戦 第7章 沈まずの戦艦
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
大日本帝国海軍聯合艦隊戦艦部隊第1艦隊は、菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群が展開する、カウアイ海峡に向かっていた。
「長官![いずも]からの通信を、傍受しました!」
通信参謀が、報告する。
「平文で、菊水総隊司令部と、交信しています」
大日本帝国海軍聯合艦隊戦艦部隊第1艦隊司令長官兼第1戦隊司令官である伊藤整一中将は、第1艦隊旗艦兼第1戦隊旗艦である戦艦[大和]の、第1艦橋の司令長官席に腰掛けたまま通信参謀の報告を聞いた。
「平文?暗号文では無いのか?」
戦艦[大和]は、戦艦[武蔵]と共に、通信システムの向上が図られている。
80年後の戦闘艦であっても、暗号文でなければ傍受は可能である。
これも、80年後の技術援助があっての事だ。
「はっ!菊水総隊第1護衛艦隊に、被害が出た模様です。そのため、旗艦[いずも]が、慌てて交信をしています」
第1護衛艦隊とは、菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群の、大日本帝国海軍部の呼称である。
通信参謀の報告に、第1艦隊兼第1戦隊の幕僚たちが、ざわめいた。
「第1護衛艦隊に被害だと?」
「あの高性能な電探と攻撃能力を、有しているのにか?」
「何かの間違いでは無いのか?」
幕僚たちが、疑問を口にする。
「被害状況は?」
伊藤は、冷静に聞いた。
「はっ!駆逐艦[むらさめ]撃沈、神風艦[こんごう]の艦橋に敵機が突っ込み、操艦不能との事です!」
通信参謀からの報告に、再び幕僚たちが、ざわめいた。
「そんな馬鹿な!!」
「神風艦の防空網を、突破したというのか!?」
幕僚たちのざわめきを気にする事も無く、伊藤は司令長官席からゆっくりと、立ち上がった。
「その情報に、誤りは無いのか?」
「はっ!3度確認しましたが、どれも同じ内容でした。間違いありません!」
「・・・・・・」
伊藤は、戦艦[大和]の第1艦橋から見える海上を眺めた。
「北太平洋での海戦で、米英独伊の4ヶ国連合軍は、新世界連合軍の原子力空母を、中破に追い込んでいる。神風艦の防空網を突破して、決死の突撃で、原子力空母に損害を与えた」
伊藤は、静かに言った。
彼は振り返り、幕僚たちの顔を見回した。
「米英独伊の4ヶ国連合軍は、無能では無い。これまでの戦闘結果を、詳細に分析、研究し、神風艦の弱点を見つけた。どんなに時代が進み、技術が進歩しても、所詮は人間が作った物である。人間が作った以上、必ず弱点は存在する。米英独伊連合軍は、その僅かな隙を、見逃さなかった・・・」
「寄せ集めの連合軍では無い・・・と、言う事ですね」
参謀長が、つぶやいた。
実際、米英独伊連合軍は、新設されてから時間が短い。
そのため、菊水総隊自衛隊や、新世界連合軍では、練度が十分では無いと、油断していた素振りがあった。
士官だけでは無く、下士官や兵にまでも、その油断が蔓延していた。
だが、今回の神風艦[こんごう]の被弾と、駆逐艦[むらさめ]の撃沈は、第1艦隊将兵だけで無く、菊水総隊自衛隊、新世界連合軍全体に、衝撃を与える結果を生むだろう。
第1艦隊第1戦隊に所属する、戦艦[大和]及び戦艦[武蔵]に乗艦する乗組員は、身を持って、神風艦の戦闘能力を目の当たりにしている。
そのため、彼らが傷つく姿を、すぐに想像出来ないのが現状だった。
「通信参謀。戦闘は、まだ続いているのか?」
伊藤が、聞く。
「はっ!航空攻撃と、戦艦[ニュージャージー]と、戦艦[ミズーリ]の砲撃を、受けている模様です!」
「彼らを見殺しにする事は、出来ない」
伊藤は、そう告げると、戦艦[大和]艦長の有賀幸作大佐に、顔を向けた。
「艦長。全速航行で、第1護衛艦隊の救援に向かう」
「わかりました」
有賀は返答すると、指示を飛ばした。
戦艦[大和]、戦艦[武蔵]以下の第1艦隊は、2隻の戦艦の最高速度に合わせて、第1護衛隊群の救援に向かった。
戦艦[ニュージャージー]の艦橋で、ヒルは、見張員からゴースト・フリートの戦闘艦にダメージを与えた事を知った。
「敵艦2隻に、ダメージを与えました!!」
「被害状況は?」
ヒルは、敵艦のダメージレベルを聞いた。
「駆逐艦クラスのゴースト・フリートの戦闘艦は、確実に沈むと思われます。もう1隻の巡洋艦クラスの戦闘艦は、艦橋にダメージを与えたので、操艦不能になったと思われます」
見張員からの報告に、幕僚たちが歓声を上げた。
「やったぞ!」
「これまでの、同胞たちの無念を晴らす時が来た!」
幕僚たちは、口々に告げた。
「諸君。まだ、勝利の歓声を上げるのは早い。ゴースト・フリートの戦闘艦は、まだ残っている。それをすべて沈めてから、勝利の歓声を上げようでは無いか」
口ではそう言っているが、ヒルも喜びの表情を浮かべていた。
アメリカ海軍が、初めてスペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートと遭遇したのは、パールハーバーへの奇襲攻撃の時だった。
ハワイに展開していた2隻の空母・・・[エンタープライズ]と[レキシントン]は、ゴースト・フリートの潜水艦と思われる戦闘艦のロケット弾攻撃で、海の藻屑にされた。
多くの将兵・・・特に[レキシントン]の乗組員が、ほとんど犠牲となった。
[レキシントン]は、ロケット弾攻撃だけでは無く、魚雷攻撃も受けた。
まず、2発のロケット弾が飛行甲板に命中し、艦載機格納庫まで火が迫った。
その後、2本の魚雷が命中し、[レキシントン]の竜骨を、へし折った。
あっと言う間に[レキシントン]は、海の藻屑にされた。
ハルゼーが乗艦する空母[エンタープライズ]は、そうでは無かった。
攻撃を受ける前に、警告を受け、退艦命令を出せる猶予を与えられた。
当初、ハルゼーは、潜水艦からの電文だと気づき、護衛の駆逐艦に対潜捜索と爆雷攻撃を命じたが、結果は、ロケット弾攻撃を受ける結果となった。
しかし、事前の警告と備えがあったため、[エンタープライズ]の乗組員は、多くが脱出する事に成功した。
(思えば・・・あの日から、すべて変わった)
ヒルは、心中でつぶやく。
ハワイ諸島が陥落した後、グアム島、ウェーク島にも、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの艦隊が押し寄せた。
フィリピン攻防戦でも、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの艦隊が現れ、イギリス海軍東洋艦隊も壊滅した。
多くの人命が、スペース・アグレッサー軍によって失われた。
しかし、その報いを与える日が来た。
「全艦!突撃!ゴースト・フリートの艦隊と、距離を詰めるぞ!」
ヒルは、突撃命令を出した。
「今なら勝てる!勝機を逃すな!!」
距離を詰めれば、主砲の命中率も上がる。
遠距離砲撃から中距離砲撃に、切り替えようとした。
「機関全速!!」
戦艦[ニュージャージー]の艦長が、艦速を上げるよう指示する。
「提督!!」
突然、見張員が叫んだ。
「どうした?」
「新たな敵艦隊が、出現!!」
「何ぃぃぃ!?」
ヒルが叫んだと同時に、目の前の海上で、巨大な水柱が上がった。
「撃ぇぇぇ!!」
戦艦[大和]の戦闘指揮所で、有賀の叫び声が響く。
「撃ぇぇぇ!!」
砲術士官が復唱し、砲術要員たちが、発射ボタンを押す。
戦艦[大和]の3連装四六糎主砲2門が、吼える。
発射された主砲弾は、戦艦[ニュージャージー]の至近に、命中した。
巨大な水柱が上がる。
チャフ片が空中に撒かれている影響で、レーダーよる照準砲撃が出来ないため、観測要員たちの目で、照準を合わせて、砲撃するしかない。
「戦艦[武蔵]!主砲、発射!!」
通信士官が、報告する。
「第2射!発射用意!!」
有賀が、次弾発射の命令を下す。
[大和]型戦艦は、3連装四六糎主砲の装填に、約40秒強かかる。
「第2射、発射用意!!弾種、徹甲弾!!」
先任砲術士官が、叫ぶ。
「戦艦[武蔵]の主砲弾!戦艦[ミズーリ]の至近に弾着!水柱が上がりました!!」
見張員が、報告する。
各主砲塔では、担当の下士官や兵が忙しく動き回り、九一式徹甲弾の装填作業が、行なわれている最中だろう。
常に、日頃から訓練しているため、装填は早かった。
「1番砲塔!装填完了!!」
「2番砲塔!装填完了!!」
前部に設置されている、2門の主砲塔から報告が入る。
「艦長。装填完了しました!」
「よし!主砲発射用意!!」
「主砲発射用意!!」
先任の砲術士官が、復唱する。
砲術要員たちが、見張員や観測員たちからの指示に従い。主砲の角度を調整する。
「対空見張員!敵機の状況は、どうだ?」
有賀が、対空見張所に聞く。
「こちら対空見張所!敵機は、第1護衛艦隊への航空攻撃を実施していますが、数機が、こちらに向かってきます!」
「対空戦闘!対空砲、弾幕!」
有賀が叫び、戦闘指揮所から各対空戦闘指揮所に連絡され、左右に搭載されている速射砲及び高射砲が火を噴く。
「1番砲塔、射撃用意よし!!」
「2番砲塔、射撃用意よし!!」
主砲塔を担当する砲術士官が、報告する。
「艦長。砲撃準備完了!!」
先任の砲術士官が報告する。
「主砲、九一式弾!砲撃始め!!」
有賀の叫び声を聞き、先任砲術士官が、「撃ぇぇぇ!!」と叫んだ。
主砲塔を担当する先任士官が、発射ボタンを押す。
戦艦[大和]の前部に搭載されている、2門の3連装四六糎主砲が、吼える。
「戦艦[ヤマト]!主砲弾発射を確認!!」
「右舵一杯!!」
見張員からの報告を受け、戦艦[ニュージャージー]艦長が、回避命令を出す。
「戦艦[ムサシ]!主砲弾発射!![ミズーリ]に向かいます!!」
「[ミズーリ]!右に舵を切り、回避行動!!」
別の見張員が、報告する。
「提督。敵の増援が来た以上、この辺りでよろしいかと考えます」
「・・・・・・」
幕僚の1人が、具申した。
「我々は、ゴースト・フリートの戦闘艦を少なくとも1隻を大破、もう1隻を操艦不能にしました。これだけでも十分、大戦果です」
別の幕僚が、続く。
「・・・ここで無茶をしても、戦況に何らかの変化を与えるものでは無い・・・」
ヒルは、戦場となった海上を眺めながら、つぶやいた。
「よし、全艦に命令!これより、撤退する!」
「イエス・サー!!」
参謀長が、挙手の敬礼をする。
幕僚たちが、駆け出す。
ヒルは、戦場となった海上を眺めながら、口を開いた。
「後一歩・・・後!一歩のところで!!!」
彼の心に、悔しさが込み上げる。
確かに1隻を沈没させるだけのダメージを与え、もう1艦も操艦不能にしたが、ここまでの戦果を出すために、どれ程の多くの人命が消えたのか・・・
ヒルは、理解していた。
当初の決意だった、全艦を海の藻屑にする事は、叶わなかった。
「また、戻ってくるぞ!!」
ヒルは、ゴースト・フリートの艦隊に向けて、告げた。
大日本帝国海軍聯合艦隊旗艦である航空巡洋艦[生駒]に、聯合艦隊第1艦隊を経由して、菊水総隊海軍第1護衛艦隊の被害状況が、届いた。
「第1艦隊より電文!駆逐艦[むらさめ]撃沈!神風艦[こんごう]操艦不能!」
通信参謀からの報告に、聯合艦隊の幕僚たちは、どよめいた。
「2隻も、やられたか・・・」
報告を聞いた聯合艦隊司令長官である豊田副武大将は、作戦室に設置されている長官席で、つぶやいた。
「[むらさめ]の状況は?」
参謀長の桜川典則少将が、聞く。
「第1護衛艦隊は、全力で[むらさめ]乗員の救助を、行なっています。第1艦隊第1水雷戦隊第6駆逐隊も、救助活動に参加し、[むらさめ]の乗員救助を行なっています」
通信参謀が、電文を片手に報告する。
「まさか・・・神風艦の防空網を、突破するとは・・・」
「我々でも、なし得なかった事を、アメリカが、やってのけるとは・・・」
参謀たちは、口々にそう言った。
彼らが驚くも、無理は無い。
大日本帝国海軍は、何度も菊水総隊海軍、朱蒙軍海軍、新世界連合軍連合海軍との演習をしたが、その鉄壁の防空網の前に攻撃隊は、ことごとくが撃墜判定を出された。
希に、神風艦に接近する機もあったが、艦載の対空砲の前には無力だった。
「桜川、神。君たちの意見を聞きたい」
豊田は、信頼する2人の参謀の意見を聞いた。
「敵は、これまで何度も菊水総隊海軍等の艦艇に攻撃を実施し、失敗しています。彼らの戦い方を何度も研究し、出した結論でしょう」
先任参謀の神重徳大佐が、告げる。
「我々は、アメリカの底力に、叶わないと言う事か・・・」
豊田が、小さくつぶやいた。
「はい、残念ながら」
桜川が、答えた。
「連合軍は、過去の敗北から学び、急速に対抗策を考えた。その対抗策を使い、連合海軍第1艦隊第2空母打撃群の原子力空母、菊水総隊海軍駆逐艦、神風艦に損害を与えた。こんな敵が、我々の敵という訳か・・・」
「長官」
神が、立ち上がった。
「今後の敵の予想ですが・・・」
広げられた、ハワイ方面の地図を見下ろしながら、彼は告げた。
「潜水艦及び偵察機、菊水総隊等からの情報では、敵は、前哨部隊の空母機動部隊の損害だけでは怯む様子も無く。集結しています。恐らく、本格攻勢は、明日からと思われます」
机には、通信参謀や情報参謀が用意した、書類の山が並べられている。
書類には、敵機動部隊について記載された情報が、ほとんどだ。
「これだけの規模の敵機動部隊と、真正面から戦うのは、危険と判断します」
神が、続ける。
「敵は、原子力空母1隻、駆逐艦、神風艦に損害を与えた事で、士気が向上しているはずです。この状況下で正面決戦を挑んでも、こちらの損害が増えるばかりです」
「では、どうするのだ?」
豊田が、聞く。
「現在、ハワイへの大規模侵攻の報を受け、新世界連合軍連合海軍第1艦隊及び第2艦隊が、こちらへ急行中です。彼らと合流して、戦うのが良策です」
神は、強く進言した。
「・・・・・・」
「長官!」
「・・・もう1つの大東亜戦争の逆だな・・・4ヶ国連合軍は、別の歴史の大日本帝国と、同じ過ち・・・いや、それを意図して作戦を構築している・・・しかも、大規模に・・・味方ごと、敵である我々を、削り殺すつもりだろう・・・そうなれば、数で劣る我々に勝ちの目は無くなる。ここは、乾坤一擲の策で、敵の戦意を挫く必要がある。新世界連合軍海軍と合流し、総力戦に移行するのが得策だろう。攻勢防御の姿勢を維持し、可能な限り損害を最小限に押さえる」
ほんの少しの躊躇いの後、豊田は口を開いた。
「先任参謀の具申を受ける」
「ありがとうございます」
神が、頭を下げる。
「・・・しかし・・・」
「?」
「このような非道とも言える作戦を、誰が考えたのか・・・地獄に堕ちる覚悟が無ければ、とても出来まい・・・」
豊田は、桜川と神にしか聞こえない、小さな声で、つぶやいた。
ハワイ会戦 第7章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。
次回の投稿は10月7日を予定しています。




