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ハワイ会戦 第6章 米戦艦部隊対第1護衛隊群 撃沈

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 戦艦[ニュージャージー]の艦体に、鈍い衝撃波と爆音が響いた。


「艦中央部に被弾!!」


「火災発生!!」


「消火班は、艦中央部へ!!消火班は、艦中央部へ!!」


 士官たちの怒号が響く。


「怯むな!!敵の主砲は小口径の砲弾だ。被弾しても、この[ニュージャージー]は、ビクともしない!!」


 艦長が、激を飛ばす。


「さすがに狙いは、正確だな・・・」


 ヒルは、司令官席に腰掛けたまま、つぶやく。


「はい、アルミ片を空中に、ばらまいているためレーダーは攪乱されているはずですが、この距離で当てるとは・・・」


 副官が、驚愕した表情で、つぶやく。


 ヒルたちにも、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートの戦闘艦の情報は、届いている。


 総司令部で作戦参謀をしているレイモンドから持たされた情報では、ゴースト・フリートの戦闘艦の主砲射程距離は、通常弾であれば20キロメートル程度であるが、延長弾なら、射程は、60キロメートルから100キロメートル程だと言う。


 しかし、延長弾の命中率は低く、レーダーを攪乱している状態では、さらに命中率は下がるはず・・・という。


「通常弾の射程距離は、20キロメートルだ。絶対にゴースト・フリートの艦隊の20キロメートル内に接近するな!!」


 通常弾の射撃を行なった場合、かなり正確無比の砲撃が可能であるため、いかに強固な戦艦といえども、戦闘不能にされる可能性がある。


 イギリス海軍の戦艦[プリンス・オブ・ウェールズ]が、ゴースト・フリートの巡洋艦に対し、手も足も出ず、小口径の主砲弾と魚雷で追い詰められ、最後は潜水艦の雷撃を受けて轟沈した。


 記憶に新しいと言えば、大日本帝国本土を直接攻撃するために、マーク・アンドリュー・ミッチャー少将に率いられた奇襲攻撃艦隊に所属する戦艦[ワシントン]が、高速戦闘艇に反撃する事ができず、散々翻弄された挙げ句に、主砲、副砲すべてを破壊され、戦闘不能にされた。


 ヒル自身、最初、そのような話を聞かされた時は、何の戦場伝説だ?と、思ったが、レイモンドや海軍情報部が掴んだ情報に目を通すと、それが戦場伝説では無い事を知った。


「司令。そろそろ・・・」


 艦長が、ヒルに声をかける。


「うむ」


 ヒルは、うなずく。


「主砲、砲撃準備!!」


 艦長が、砲撃準備を命令する。


「右舵一杯!」


 艦長は、ゴースト・フリートの艦隊に対して、右側面を見せるよう指示する。


 これにより、9門の16インチ砲全弾を、敵艦隊に撃ち込む事ができる。


「全主砲!左に旋回!」


 砲術担当士官が、指示を出す。


 艦首及び艦尾に搭載されている3連装16インチ砲が、ゆっくりと左に旋回する。


 その間も、敵艦から砲撃を受けるが、至近の海上に被弾するだけで、今のところ1発も命中していない。


 砲術要員たちが、主砲の角度を微調整する。


 アルミ片の投下により、敵艦のレーダーを攪乱したが、それは自分たちのレーダーも攪乱する事になる。


 レーダー連動射撃ができない以上、人間の目と手で、主砲を操作するしかない。


 戦艦[ニュージャージー]に乗艦する乗組員たちは、十分な訓練を積んでいない状況下で、乗艦し、実戦を迎える事になった。


 限られた時間で、訓練を重ねた結果、十分ではないが、それなりの練度を維持するレベルに達した。


「主砲、砲撃準備よし!!」


 砲術士官が報告する。


「砲撃を開始します」


 艦長がヒルに、伺いをたてる。


「許可する」


 ヒルは、砲撃許可を出した。


「ファイア!!」


 艦長の号令と共に、砲術士官が叫んだ。


「ファイア!!」


 9門の16インチ砲が、吼える。





「戦艦[ニュージャージー]及び[ミズーリ]の砲門が、こちらに向いています!!」


[あかぎ]のCICに、艦橋から報告が届く。


「取舵一杯!!最大戦速!!」


 神薙が、号令をかける。


「40センチ砲弾が直撃すれば、一溜まりもないぞ!!必ず回避しろ!!」


 彼女は、艦長席から立ち上がり、叫んだ。


「映像出ます!!」


 CIC要員の1人が操作し、スクリーンの1つに戦艦[ニュージャージー]と[ミズーリ]の2隻の映像が、映し出される。


 神薙たちが、そのスクリーンを凝視する。


「40センチ砲18門が、こちらに向いている光景は、恐ろしい限りですね・・・」


[あかぎ]船務士兼第2分隊長の竹所鉄怍(たけどころてっさく)3等海佐が、つぶやく。


「よくもまあ、南海海戦で向井艦長は、単艦で戦艦と正面戦闘を、行えたものだ・・・」


 切山が、つぶやく。


 南海海戦では、第2護衛隊群第2護衛隊に所属するイージス護衛艦[あしがら]は、艦長判断で、戦艦[プリンス・オブ・ウェールズ]と、タイマンを張った。


 その行動に、切山は[あしがら]艦長の向井(むかい)基樹(もとき)1等海佐を、艦と乗組員を危険にさらしたと言って非難したが、神薙は違った意見を出した。


「SSM-1B(90式艦対艦誘導弾)を使って、戦艦[プリンス・オブ・ウェールズ]を撃沈したとしても、あまり効果は無い。イギリス海軍上層部は単に新型兵器によって、撃沈されたと思うだろう。[キング・オブ・ジョージ]級戦艦は、5隻も就役している。そのうちの1隻が撃沈されたところで、誰も気にも止めない。だが、向井艦長のやり方で、撃沈されれば話は別だ。イギリス海軍は、七つの海を支配する世界最強と言ってもいい海軍だ。その戦艦が、たった1隻の巡洋艦に翻弄され、しかも手も足も出せずに、結果的に潜水艦の雷撃で撃沈されたと知られれば、海軍の面目は丸潰れだ。戦闘は、単に勝利すればいいと言う訳では無い。いかに、敵の戦意を挫くかが、大事なのだ」


 神薙の哲学に、切山は尋ねた。


「ですが、艦長は、向井艦長のような無茶を、しないでは無いですか?」


「しないのでは無い。出来ないと言うのが正しい」


 神薙は、恥じる事も無く言った。


 切山は、スクリーンに映し出された戦艦[ニュージャージー]と[ミズーリ]の映像を見て、その時の会話内容を、思い出していた。


「艦長」


「何だ?」


「向井艦長の部下と艦に対する信頼感は、本当に凄いですね・・・自分は、あそこまで、艦と部下を信頼する事は、出来ません」


 切山は、向井基樹1等海佐について、改めて評価するのであった。


「私もだ」


 神薙が、即答する。


「私も、部下の能力と艦の性能を、高く評価しているし、信頼もしている。だが、向井艦長と比べれば、かなり劣るだろう。劣るからこそ、最善の策を導き出し、命令する」


 その時、スクリーンに映し出されている戦艦[ニュージャージー]と、[ミズーリ]の砲口が光った。


「戦艦[ニュージャージー]及び[ミズーリ]が砲撃!!」


 艦橋から、報告が入る。


「取舵一杯!!左停止!!右一杯急げ!!総員衝撃に備え!!」


 神薙が、回避命令を出す。


 左停止とは、左舷のスクリューを停止する事である。


 右一杯とは、右舷のスクリューの出力を、最大にする事である。


 この処置により、[あかぎ]は極めて早く、左に舵を切る事ができる。


 戦艦[ニュージャージー]から発射された砲弾は、[あかぎ]から1000メートル程離れた海上に命中し、大きく水柱を上げた。





 第1護衛隊群第1護衛隊に所属する汎用護衛艦[むらさめ]は、接近する敵攻撃隊の迎撃と、戦艦[ニュージャージー]と[ミズーリ]の砲撃に対処していた。


[むらさめ]も、他の護衛艦と同じく、30ノットの速度を出していた。


「僚艦との位置を常に確認!!衝突回避にも注意を払え!!」


[むらさめ]艦長である2等海佐は、CICで、レーダー要員と艦橋要員に、注意した。


「接近中のD(デルタ)!急降下!!」


「距離2000!!」


 対空レーダー要員が、叫ぶ。


「対空戦闘!!」


 砲雷長である1等海尉が叫ぶ。


「ESSM発射用意よし!!」


「発射用意!!撃て!!」


 砲雷長の号令で、担当士官が、発射ボタンを叩く。


 中央部に設置されているVLSから、ESSMが発射される。


 轟音と振動が、CICにも届く。


[むらさめ]型汎用護衛艦は、就役当初、従来型シースパローRIM-7M(PIP)が搭載されていたが、時代と共に旧式化し、現在では発展型シースパローESSMに変更された。


 ESSMはRIM-7M(PIP)と異なり、一度に6目標に対処する事ができる(RIM-7M(PIP)の時は、2目標だった)。


 VLSから発射されたESSMは、レーダー上でDとして識別された、敵機群に向かって突き進んだ。


 対空レーダー上の画面で、ESSMの光点と敵機群の光点が、重なる。


「ターゲットDの撃墜確認!!」


 レーダー要員が、報告する。


「艦橋よりCIC!戦艦[ミズーリ]が、主砲弾を発射!!」


 艦橋見張員の報告を受け、艦長が回避行動を指示する。


「取舵一杯!」


[むらさめ]の艦体が傾き、左に旋回する。


「戦艦[ミズーリ]の主砲弾!本艦右舷500メートルの海上に弾着!!」


 CICのスクリーンに映し出された外の映像で、海上に大きく水柱が上がるのが、確認できた。


目標群E(エコー)!!低空より本艦に、接近中!!」


「砲雷長!!ESSM残弾ありません!!」


「装填急げ!!CIWS起動!!低空から接近する攻撃機を、撃墜せよ!!」


「CIWS起動!!」


 後部に設置されたCIWSが素早く起動し、砲口を接近中の敵機に向ける。


「砲雷長!接近中の敵機は、A-20[ハボック]だ。つまり、反跳爆撃をするつもりだ。絶対に爆弾を投下させるな!投下されたら、回避は不可能だ!」


「わかりました!!」


 艦長の注意に、砲雷長は返事をする。


()ぇぇぇ!!!」


 砲雷長の号令で、CIWSを担当する射撃要員が、発射ボタンを押す。


 コンピューター制御で自動的にロックオンされた目標に、CIWSの砲弾が撃ち込まれる。


 レーダーとコンピューターの連動により、脅威度の高い目標に優先され、20ミリ機関砲弾が発射される。


 迎撃の瞬間を、テレビカメラの映像で確認する事ができる。


 3機のA-20は、CIWSの迎撃により、機体がバラバラに引き裂かれた。


 そのまま、バラバラになりながら、海上に墜落する。


「やった!!」


 CIC内で、歓声が上がる。


「待て!!もう1機いるぞ!!」


 艦橋から報告が入る。


 CIWSのテレビカメラの映像に、迎撃を免れたA-20が1機、突撃してくる様子が映し出される。


「しまった!!」


 艦長の叫び声が響く。


 そのA-20は、爆弾槽を解放し、爆弾を投下する。


 投下された爆弾は、海上を反跳し、[むらさめ]に向かってくる。


「面舵一杯!!右停止、左一杯!!急げ!!!」


 艦長は、一か八かの回避行動を指示し、もう1つ命令を付け加える。


「衝撃に備え!!!」


 反跳した爆弾は、そのまま[むらさめ]に吸い込まれるように、艦体右舷中央部に被弾する。


 爆弾が炸裂し、ものすごい衝撃が[むらさめ]艦内を襲う。


 何人かの乗組員が、床に叩き付けられる。


「応急指揮所!被害報告!!」


 艦長が、ヘッドセットに叫ぶ。


「機関室に、浸水!!」


「各所で、火災発生!!」


 ヘッドセットを通して、被害状況が次々と報告される。


 床に叩きつけられた副長は、朦朧とする意識を気力と根性で、回復させ立ち上がった。


 床に叩きつけられた時、受け身をとる事が出来なかったからだろう。


 右腕の感覚が無い。


「艦長!」


 振り返った副長は額から血を流し、床に倒れている艦長を発見した。


「艦長。しっかりしてください!」


 副長の呼びかけにも、艦長が答える事は無かった。


「衛生班を!」


「副長。指示を下さい!」


 額に軽い切り傷を負った士官が声をかける。


「総員、退艦だ!」





「護衛艦[むらさめ]被弾!!」


[いずも]のCICに、[むらさめ]が反跳爆撃によって、被弾した事が報告された。


 CIC内で、衝撃が走った。


「何だと!!?」


 内村が、声を上げた。


「[むらさめ]の被害状況は?」


 村主が、落ち着いた口調で問う。


「機関室に被弾し、浸水しています。死傷者は現在集計中でありますが、50名以上出ています」


 通信士からの報告に、村主は目を細めた。


(戦闘である以上、完璧な防御は存在しない。こちらの隙を、完全についた攻撃・・・)


 村主は、10名以上の死傷者を出した、エクアドルでのPKO活動を思い出した。


 あの時の経験で、今更ながら、現代兵器も万全では無いという事が、立証された。


「司令!首席幕僚![むらさめ]より、退艦命令が出されました!」


 反跳爆撃の被弾による被害は、予想以上に大きかったようだ。


[いずも]CICのスクリーンの1つに[むらさめ]の映像が流された。


[むらさめ]は徐々に傾きつつあり、誰が見ても沈没は免れない状況だった。


「ついに戦闘で、初の沈没艦を出したか・・・」


 内村が、つぶやく。


「司令。これが戦争です」


 村主は、きっぱりと言った。


「戦争である以上、どんなに備えをしても、こうなる事は、あります。何故なら、相手も同じ人間だからです。強い思いは、時に性能等を上回る事があります。ならば、我々がするべき事は1つ、これ以上の損害を出さない事です」


「そうだな」


 村主の言葉に、内村は気を取り直したように、うなずいた。


「現在、戦闘中だ。[むらさめ]乗員の救助は出来ないが、退艦した乗組員の生命を守らなければならない。他の護衛艦を回して、航空攻撃や艦艇から砲撃に、対処させろ!!」





 旗艦[いずも]からの指令を受けた[こんごう]は、最大速度のまま[むらさめ]に向かう事にした。


「面舵一杯![むらさめ]に向かえ!!」


 橘田が、艦橋に指示を飛ばす。


「敵機急降下!!本艦に向かって来ます!!!」


 レーダー要員が、叫ぶ。


「主砲砲撃始め!!」


()ぇぇぇ!!」


 砲雷長や砲術要員たちの叫び声が、CICに響く。


[こんごう]に艦首に搭載されている127ミリ速射砲が旋回し、砲口を向ける。


 照準を定めると、127ミリ速射砲が吼える。


 しかし・・・


「主砲、残弾ありません!!」


 接近中の敵機のうち、2機を撃墜したところで、127ミリ速射砲の残弾が0になった。


「装填急げ!!」


 橘田が、叫ぶ。


「残りの機には、CIWSで対処しろ!!」


「CIWS起動!!」


 橘田の号令に、砲術要員たちが素早くCIWSを起動させる。


 前部CIWSが起動し、砲口を敵機群に向ける。


 6砲身が高速回転し、20ミリ機関砲弾を、発射する。


 発射された20ミリ機関砲弾は、接近中の3機に向けて脅威度が高い順から迎撃を行なった。


 2機を撃墜したところで、3機目が弾幕をすり抜けて、突っ込んできた。


「しまった!!」


 橘田が叫び、ヘッドセットに叫ぶ。


「取舵一杯!!艦橋要員、即時退避!!」


 弾幕をすり抜けた3機目は、そのまま、[こんごう]の艦橋に体当りをした。


 激しい衝撃と爆発音が、CICにも届く。

 ハワイ会戦 第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次週は都合によりお休みにさせて頂きます。

 次回の投稿は9月30日を予定しています。

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