ハワイ会戦 第3章 碧空の空中戦
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です
ハワイ諸島カウアイ海峡。
菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群旗艦であるヘリコプター搭載護衛艦[いずも]は、指揮下の護衛艦群と共に、速力12ノットの速度で、航行していた。
「司令!首席幕僚!」
[いずも]のCICで、通信士が叫んだ。
「聯合艦隊第1航空艦隊が、敵機動部隊に向けて艦載機による航空攻撃を、慣行しました!」
「それで、損害は?」
第1護衛隊群司令である内村忠助海将補が、司令席に腰掛けたまま、通信士に聞いた。
「はい、第1航空艦隊から発艦した第1次攻撃隊150機は、未帰還機41機で、敵機動部隊[エセックス]級航空母艦1隻を小破、軽巡1隻を中破、駆逐艦2隻を撃沈しました。敵艦載機の数は不明ですが、敵機動部隊の通信を傍受したところ、30機以上の迎撃戦闘機が撃墜されたとの事です」
通信士の報告に、内村は表情を変えず、村主に顔を向けた。
「どう思う?」
「序盤の戦果としては、上々でしょう。第4航空艦隊の攻撃隊のように、150機以上が撃墜されるという事態を、避けられたのですから・・・」
村主は、通信士から手渡された通信文を、読み直しながら、淡々とした口調で答える。
「ですが・・・P-1の報告では、敵正規空母の数は、10隻以上だと言う事です。この程度の被害は、向こうにとっては、かすり傷程度でしょう」
村主は、ディスプレイの表示されている菊水総隊海上自衛隊第6航空群第6航空隊第61飛行隊所属のP-1哨戒機が、送って来た状況報告と、通信文に交互に視線を向けながら、告げた。
「次の一手は、どうするかね?」
「第2次攻撃は、我々が担当するべきでしょう。ヒッカム航空基地では、空自のF-15J改と、朱蒙軍空軍のF-15Kが、出撃準備中です。F-15J改が制空権を確保し、F-15Kが敵空母への攻撃を担当する・・・」
「当初の共同部隊行動計画通りに進める・・・という事か?」
「はい。F-15J改と、F-15Kの共同部隊行動は、先のソ連ウラジオストク攻撃で、実証されています」
「朱蒙軍空軍が、ヒッカム航空基地に到着してから、共同部隊行動訓練は、積んでいたな」
内村は、真珠湾内の上空で、F-15J改とF-15Kが、共同訓練を実施していた光景を、思い出した。
「群司令」
村主が、声をかける。
「第2次攻撃は、朱蒙軍空軍や空自だけでは無く、現在、こちらに急行中の連合支援軍海軍の大連艦隊旗艦の空母[大連]の艦載機も、出撃させるべきです」
「防衛局長官直轄部隊第1空母機動群空母[あまぎ]や、聯合艦隊空母機動部隊独立旗艦、空母[回天]が近くにいるが、彼らは使わないのか?」
「はい、連合支援軍海軍は、これまで支援活動を主任務として、軍事行動を続けていました。ですが、彼らにも面子があります。最初の緒戦の戦果は、彼らの手で、上げるべきです。緒戦の戦果が無くとも、第1空母機動群空母[あまぎ]や、聯合艦隊空母機動部隊独立旗艦[回天]の出番は、ありますから・・・」
「確かに・・・」
内村は、ディスプレイの表示を見ながら、つぶやいた。
ディスプレイには、菊水総隊が掴んでいる米英独伊連合軍の規模が、表示されている。
「君の提案を、菊水総隊司令部に、具申しよう」
内村は、そう言うと、菊水総隊旗艦[くらま]に、通信文を送るよう指示した。
「とてつもない激戦が、繰り広げられようとしているな・・・」
内村は、村主にしか聞こえない声で、つぶやいた。
「はい」
村主も、彼にしか聞こえない声で、答えた。
菊水総隊自衛隊が掴んでいる米英独伊連合軍の規模は、戦闘艦艇300隻以上、輸送艦艇1500隻以上である。
ハワイ諸島オアフ島ヒッカム航空基地。
「いよいよ俺たちの、出番だな」
パイロット待機室で、菊水総隊航空自衛隊第10航空団第10飛行群第205飛行隊所属の高居直哉1等空尉が、つぶやいた。
「ああ、俺たちの出番だ!」
高居と同じ飛行隊所属の、喜村慶彦1等空尉が、答える。
「こうして見てみると、あの時を思い出すな・・・」
「あの時?」
高居の言葉に、喜村が顔を向ける。
「俺たちの初実戦であった、ハワイ攻略の時だ・・・」
「ああ」
「あの時も、同じ事を、言ったような気がする・・・」
高居は、去年の12月8日に行なわれた、ハワイ攻略の事を思い出していた。
「確かに・・・あの時は、初の実戦で緊張していたな・・・」
喜村も、去年の事を思い出す。
1942年12月8日・・・ハワイ攻略のためにマーシャル諸島に建設された航空基地から、F-15J改、F-2改、A-10Aが出撃した。
F-15J改は、ハワイ諸島オアフ島の制空権を確保するために、出撃した。
完全な奇襲攻撃であったため、オアフ島に配備されている戦闘機は、すべて地上で翼を休ませていた。
そのため、F-15J改が活躍する場面は、なかなかこなかった。
ほとんどF-2改や、A-10Aの独壇場だった。
F-2改は、対艦装備であったため、真珠湾基地に配備されている太平洋艦隊の戦闘艦群への攻撃を、担当した。
対艦誘導弾は、まず、戦艦に撃ち込まれ、第1射攻撃で、ほとんどの戦艦が大破ないし撃沈という戦果を残した。
その後、巡洋艦、駆逐艦と標的を変えて、残りの対艦誘導弾を使い切った。
A-10Aは、その攻撃能力を生かして、地上基地の攻撃を担当した。
地上基地で、翼を休めていた戦闘機に対して、容赦無く対地誘導弾や、30ミリガトリング砲弾を浴びせた。
数10機の戦闘機が、それらの猛攻をしのぎ、空に上がったが、大半は離陸前にA-10Aに撃破され、辛うじて空に上がった機も、待ち構えていたF-15J改に撃墜された。
高居の知る限り、喜村は、2機のP-40[トマホーク]を撃墜した。
因みに高居は、1機のP-40を撃墜した。
「昔の事を振り返っているようで悪いが、ハワイ攻略作戦は、振り返る程、遠い昔では無いだろう」
突然、背後から声をかけられて、高居と喜村は、振り返った。
そこには、朱蒙軍空軍航空軍作戦司令部第11戦闘航空団第111戦闘飛行隊長の、白伯春中領(中佐)と、同飛行隊に所属する沈峰大尉がいた。
話しかけたのは、白の方だった。
「確かに、昔という程では無いです・・・ですが、自分たちの実戦は、ハワイ攻略の時しか無かったのです」
「それを言えば、俺たちの実戦も、ウラジオストク攻撃が最後だった・・・」
沈が、答える。
「思えば・・・開戦以来、どこの部隊も、実戦を経験しているのは、一度か、二度程度だ。戦場が、地球の半分にまで拡大したために、そのような錯覚をするようになるのだ」
白が、告げる。
「途中からではあるが、新世界連合軍が、この大戦に参加した時でも、規模がでかいから、常に戦闘を行なっているイメージがあるが、どの部隊も、二度ないし、三度程度だ。むしろ三度目だったら多いと言ってよいな・・・」
「ですが、連合海軍の空母艦隊は、度々戦闘に参加しています」
喜村が、口を開く。
「それはそうだが、空母艦隊で戦闘に数多く参加しているのは、連合海軍第3艦隊第4空母戦闘群だけだ。他の空母打撃群(米海軍のみ)や、空母戦闘群は、そんなに作戦には参加していない」
白が言い終えた時に、菊水総隊航空自衛隊第10航空団第10飛行群司令の丑代蒼樹1等空佐を含む上級幹部たちが、パイロット待機室に入室した。
「作戦の説明だ」
白が、告げる。
ヒッカム航空基地のエプロンでは、作戦の説明を受けた菊水総隊航空自衛隊第10航空団第10飛行群第205飛行隊のパイロットや、朱蒙軍空軍航空軍作戦司令部第11戦闘航空団第111戦闘飛行隊のパイロットたちが、姿を現した。
フライトヘルメットを片手に、高居や喜村も姿を現す。
2人のウィングマン兼サポートを勤める、中川リン2等空尉と、伊倉名波3等空尉も、後から付いてくる。
彼女たちにとっては、これが初の実戦(本格的な)である。
「伊倉」
高居が、伊倉に顔を向ける。
「はい」
彼女は、少し緊張したような声で返事をする。
「今までの訓練通りにやれ。実戦だからといって、気張る必要は無い」
「はい!」
伊倉は、緊張を吹き飛ばすように強く返事をした。
「ここで別れよう」
喜村が、切り出す。
「空で会おう!!」
「おぅ!!」
高居と喜村が、互いのフライトヘルメットを、軽くぶつける。
彼らは、それぞれのF-15J改に乗り込んだ。
「気をつけて行ってきてください!」
整備員が、声をかける。
「ああ」
高居は、軽く挙手の敬礼をする。
キャノピーが下ろされ、すべての計器類をオンにする。
「こちらイーグル1。ヒッカム・タワー、聞こえるか?」
「こちらヒッカム・タワー。イーグル1、感度良好」
「これより、誘導路に移動する」
「ラジャ!3番誘導路に移動し、2番滑走路に向かえ」
「こちらイーグル1。ラジャ」
整備員や誘導員に見送られながら、高居の乗るF-15J改が、ゆっくりと移動する。
高居は、後ろに振り返る。
ウィングマンである伊倉が、ぴったりとついてくる。
管制塔の指示に従い、高居は誘導路に侵入後、そのまま滑走路に向かった。
滑走路では、次々とF-15J改や、F-15Kが滑走し、離陸していく。
「こちらイーグル1。2番滑走路に到着、待機する」
「ヒッカム・タワーより、イーグル1。離陸を許可する」
管制塔から離陸許可と、天候等の情報がもたされた。
「イーグル1。ラジャ、離陸する」
高居は、スロットルを全開にして、F-15J改を滑走させた。
十分に滑走路を滑走させると、そのままF-15J改の機首を浮かせ、そのまま機体を宙に浮かせる。
機体を宙に浮かせると、管制塔が指定した高度まで上昇する。
「こちらイーグル1。離陸成功、機体に異常は、見られない」
「ヒッカム・タワーより、イーグル1。ラジャ、存分に戦ってこい!!」
「こちらイーグル2。イーグル1の後ろに、つきます」
イーグル2のコールサインを持つ、伊倉からの通信が入る。
「ファルコン1より、イーグル1へ」
ファルコン1のコールサインを持つ、喜村からの通信が入る。
「こちらイーグル1。ファルコン1、どうぞ」
「ファルコン編隊(4機)は、イーグル編隊(4機編隊)に、つく」
「こちらイーグル1。ラジャ」
「イーグルアイより、第205飛行隊及び第111戦闘飛行隊へ、聞こえるか?」
イーグルアイのコールサインを持つ、E-767早期警戒管制機が、各飛行隊の隊長に、通信した。
「こちら第205飛行隊。感度良好」
「こちら第111戦闘飛行隊。感度良好」
各飛行隊の隊長が、返答した。
「第205飛行隊各機へ!敵機動部隊より迎撃戦闘機が上がった!F-15Kには、1機たりとも近づけてはならん!」
菊水総隊航空自衛隊第10航空団第10飛行群第205飛行隊長の大島勝好2等空佐が、叫んだ。
「全機!視界外射程空対空誘導弾を、一斉に発射する!」
大島の通信を聞きながら、高居は誘導弾の選択を行なった。
視界外射程誘導弾であるAAM-4(99式空対空誘導弾)を、選択した。
早期警戒管制機からの情報を頼りに、目標をロックオンする。
「一斉発射だ。遅れるなよ!」
大島の声が、フライトヘルメットに響く。
「イーグル1。準備完了!」
「イーグル2。準備完了!」
「ファルコン1。準備完了!」
「ファルコン2。準備完了!」
各機から、攻撃準備完了の知らせが届く。
「FOX3!!」
大島が、叫ぶ。
「「「FOX3!!」」」
第205飛行隊のパイロットたちが、叫ぶ。
30機のF-15J改から、一斉にAAM-4が発射された。
白い尾を引きながらAAM-4は、目標となった敵機に向かって、突き進む。
100キロメートル程、離れているためF-15J改の搭載レーダーでは、確認する事はできないが、E-767早期警戒管制機のレーダーは、AAM-4と敵機を捉えている。
「こちらイーグルアイ。第205飛行隊へ、第1波攻撃は命中した。敵迎撃戦闘機部隊が、乱れた」
「第2波攻撃準備!!」
E-767からの戦果報告を受けて、大島が第2波攻撃を命じる。
高居は再び、AAM-4を選択する。
「イーグル1。準備完了!」
高居の報告に続いて、各機から攻撃準備完了の報告がされる。
「FOX3!!」
「「「FOX3!!」」」
高居は、AAM-4の発射ボタンを押す。
再びF-15J改から、一斉にAAM-4が発射される。
「こちらイーグルアイ。第205飛行隊へ、第2波攻撃も命中した。上空にいる迎撃戦闘機は、数機だけだ」
E-767からの戦果報告を受けた後、F-15J改のレーダーが、残存機を捉えた。
「各機へ、個別攻撃に移れ!!」
大島が、新たなる指示を出す。
「よっしゃあ!!ファルコン2。ついてこい!!」
喜村が、叫びながらF-15J改を、増速させる。
「残りの残存機は、俺たちが片づけるぞ!!」
「はい!!」
「おいおい、ファルコン2。そんなに慌てなくても、敵は逃げやしない」
フライトヘルメットから、高居の呆れた声が響いた。
「俺たちが戦っているのは、空母機動部隊といっても、前哨部隊だ。本隊では無い。まだまだ、俺たちの獲物は、十分にいる」
「そんな事、わかるか!ハワイにいる航空部隊は、俺たちだけでは無い。新世界連合軍や連合支援軍、朱蒙軍もいるんだぞ。俺たちの出番が、少なくなるかもしれないじゃないか!!」
喜村は反論しながら、AAM-4からAAM-5(04式空対空誘導弾)を選択した。
彼は、レーダー画面に視線を向けた。
レーダー上では、敵機との距離が、ぐんぐんと縮まる。
「目標を確認!!」
HUDに、敵機を捉えた。
「安全装置解除!」
喜村は安全装置を解除し、コックピット内にロックオンしたというアラーム音が、鳴り響く。
「ターゲット・ロックオン!!」
喜村は、AAM-5の発射準備手順を、ふむ。
「FOX2!!」
喜村は、発射ボタンを押し込む。
主翼下に搭載されているAAM-5が、発射される。
狙われたF8Fは、最後の抵抗として回避飛行するが、完全に捕捉された状態ではAAM-5から逃げる事は、できない。
AAM-5は、F8Fの胴体に命中し、機をバラバラに引き裂いた。
「スプラッシュ!!」
喜村が、撃墜の報告をする。
ハワイ会戦 第3章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください
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