ハワイ会戦 第1章 幕は切って落とされた
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
菊水総隊海上自衛隊第6航空群第6航空隊第61飛行隊所属のP-1対潜哨戒機は、ハワイ諸島近海にて、哨戒飛行を行なっていた。
「機長。どこまで、飛行するつもりですか?」
副操縦士である2等海尉が、尋ねる。
「航続距離ぎりぎりまで、飛行するつもりだ」
機長である1等海尉が、答えた。
「米英独伊連合軍機動部隊が、もう、ここまで進出して来ているのですか?」
「俺の第6感が、そう叫んでいる!」
「もしも、機動部隊を発見したら・・・どうします?本機に搭載されている91式空対艦誘導弾を、撃ち込みますか?」
P-1は、91式空対艦誘導弾を、最大8発搭載できる。
「本機1機で、空母を2隻、沈められる力があります」
「いや、もし見つけても誘導弾は使わない。すぐに離脱して、聯合艦隊空母機動部隊と、第1護衛隊群に通報する。俺たちの任務は、哨戒任務だ。戦う事では無い」
「アメリカ本土等から出撃した、米英独伊連合海軍の参加艦艇は、2000隻以上と聞いています。俺たちだけでは、十分な打撃を与える事は出来ませんね」
「そういう事だ。正規空母だけでも10隻以上、艦載機は、1000機以上いる。打撃を与えるには、お偉方が、十分に作戦を考える必要がある」
アメリカ本土だけでは無く、フィジー、サモア島からも米英独伊連合海軍に属する艦艇が出港した事は、すでに彼らにも聞かされている。
「上の考えでは、上陸阻止や水際防御は、しないそうですね」
「それはそうだろう。上陸部隊の第1陣だけでも、推定で50万人以上だ。それに対し、こちらは菊水総隊陸上自衛隊、大日本帝国陸軍ハワイ軍、朱蒙軍陸軍を中核として、大韓共和国軍、フィリピン軍、タイ王国軍等で編成されたアジア連合軍陸軍、新世界連合軍連合支援軍陸軍を合せても25万人。上陸時の勢いを考えれば、水際防御をしたとしても突破されるだろうし、そこで多くの将兵を失うのは、今後の防衛作戦を展開するのに、支障をきたす」
「本機は、対艦装備だけでは無く、対地装備も装備可能ですから、ハワイ決戦が行なわれたら、我々も忙しくなりそうですね」
副操縦士は、これから始まろうとしている激戦を、想像する。
P-1は、P-3Cと違い、対潜水艦捜索能力と対潜水艦戦闘能力が、あるだけでは無い。
近年の情勢に応じて、対地攻撃能力を、有している。
これは、近隣諸国の外洋海軍能力が向上し、離島での戦闘が想定されるようになったからだ。
離島奪還及び離島防衛のために、必要な装備を搭載できるように開発された。
「機長!赤外線モニターに、反応!!」
電装員が、叫ぶ。
「ここを任せる」
機長は、副操縦士に操縦に任せて、コックピットを離れた。
彼は、電装員のモニター画面を覗いた。
赤外線モニターの映像から、複数の熱源が確認できる。
「これだけでは、十分な情報が収集できないな・・・」
機長は、そうつぶやきながら、コックピットに戻った。
「通信員!!司令部に、米英独伊連合軍連合海軍と思われる艦隊を発見した。と、報告しろ!!」
彼は、操縦席に座る。
「操縦を、代われ!!」
「どうするつもりですか?」
副操縦士は、何か嫌な予感に襲われる。
「高度を下げて、目視で確認する。この高度では、目視確認が出来ない」
不運にもスコールが発生しているため、当空域は、分厚い雲におわれている。
「まあ・・・本機の巡航速度なら、この時代のレシプロ戦闘機では追いつけませんからね。いいでしょう。乗ります!!」
「よし!!」
機長は、操縦桿を押した。
グングンと、高度が下がる。
米英独伊連合海軍アメリカ海軍所属の[フレッチャー]級駆逐艦[ラ・ヴァレット]は、艦隊護衛艦として、対空、対潜、対水上警戒を行なっていた。
「まったく・・・こんな時に雨とは・・・な」
艦橋見張員として配置された水兵が、激しい雨に打たれながら、ぼやく。
「雨の影響で視界が悪い。しっかり見張れ!!」
「なあに、俺たちが気を抜いても、多少は大丈夫だ。この艦には、新型のレーダーが搭載されているからな」
生真面目な同僚に、もう1人の水兵は、欠伸をしながら答える。
「まったく・・・お前って奴は・・・パナマの件を、忘れたのか?」
「・・・・・・」
同僚の言葉に、水兵の脳裏に、パナマでの一件が過ぎる。
この2人は、スペース・アグレッサー軍ゴースト・フリートが、パナマ運河破壊を実行した時に当直要員として、沿海警備の駆逐艦に勤務していた。
あの時の光景は、今でも忘れた事が無い。
潜水艦と思われる不明艦から、ロケット弾が2発発射された。
そのロケット弾は、意思があるかのように、パナマ運河ミラ・フローレス閘門に、突っ込んだ。
ミラ・フローレス閘門は、ロケット弾の直撃で破壊された。
その後、彼らが乗艦する駆逐艦は、緊急出航し、周辺海域の捜索を行なった。
彼らの乗艦する駆逐艦のソナーマンの話では、恐ろしく速い潜水艦が、海中に潜んでいたそうだ。
おまけに、爆雷が到達出来ない深さに艦を潜めていたため、爆雷攻撃をしても、まったく意味が無かった。
彼らは、そんな恐ろしい潜水艦が、いつ、こちらに向かって牙を剥くかという恐怖に怯えた。
唯一の対潜攻撃の兵器である爆雷が、まったく効果が無いという事は・・・
もしも、その艦が爆雷も届かない深度から魚雷、若しくはミラ・フローレス閘門を破壊したロケット弾を使用すれば、追跡中の駆逐艦も危なかった。
2人は海軍に入って以来、初めて恐怖を覚えた。
「忘れる訳が無い・・・」
水兵は、小さくつぶやいた。
「あの日の事は、1日たりとも忘れた事は無い!」
水兵は、双眼鏡を覗いた。
「だが、俺たちが乗っていた駆逐艦よりも、この艦は最新鋭艦だ。レーダーという電子索敵装置があるし、今まで以上の大艦隊だ。お前が心配するような事は無いよ・・・」
この言葉には、ある種の希望的願いのようなものも、含まれている。
「見張員!!」
「サー!!」
艦橋にいる士官から、呼ばれた。
「何でしょうか?」
「レーダー室から、航空機らしき反応があったと、連絡があった。至急確認しろ!」
「サー!!」
艦橋にいる士官の言った方向に、双眼鏡を向けた。
「なっ!!?」
双眼鏡を覗いた水兵が、それを確認し、声にならない絶叫を上げた。
「ス・・・スペース・アグレッサー軍の、航空機を確認!!」
「何だと!!?」
同僚が、水兵が航空機を発見した方向に、双眼鏡を向ける。
慌てていたのは、同僚だけでは無い。
艦橋にいた艦長や副長も、慌てて飛び出してきた。
「何て事だよ・・・」
水兵の目に焼き付いたのは、主翼下に搭載されている、無数のロケット弾だった。
彼の脳裏に主翼下に搭載されているロケット弾が、白い尾を引きながら、こちらに向かってくる光景が浮かんだ。
「対空戦闘用意!!!」
艦長の叫び声が、響く。
艦首に搭載されている、2門の5インチ単装砲が、旋回した。
5インチ単装砲だけでは無い。
対空機銃も、同時に銃口を上げる。
スペース・アグレッサー軍の航空機は、艦隊を目視で確認できる高度に達すると、速度を上げて、離脱した。
「単なる偵察・・・か・・・?」
艦長が、つぶやく。
「そのようですね」
副長が、同調する。
米英独伊連合軍総旗艦である重巡洋艦[インディアナポリス]に、スペース・アグレッサー軍航空軍の哨戒機に発見された事が、緊急電で伝えられた。
艦橋に詰めている作戦参謀のレイモンド・アーナック・ラッセル少佐にも、その件について報告された。
「ラッセル少佐」
米英独伊連合軍連合海軍総参謀長のチャールズ・ホレイショ・マクモリス中将が、腹心の幕僚に声をかけた。
「貴官の意見を聞こう」
「サー。これは、単なる偵察飛行だと思います」
「理由は?」
「もしも、我が艦隊に攻撃を仕掛けるつもりであった場合、すでに大規模攻撃が実施されています。1機の哨戒機からの情報で、他の攻撃機が無数のロケット弾を、我が艦隊に浴びせているでしょう。そのような攻撃が無いという事は、単なる偵察飛行です」
レイモンドの予想に、司令官席に座る米英独伊連合軍総司令官であるチェスター・ウィリアム・ニミッツ・シニア元帥が、視線を逸らさず口を開いた。
「その哨戒機は、ロケット弾を搭載していたと報告を受けた。それを使わなかった理由は?」
「サー。これは私の予想ですが、単機の状況下で、ロケット弾を使っても、我が艦隊に効果的な打撃を与える事はできません。1機が搭載できるロケット弾は、それ程多くないのです。我が艦隊に効果的な打撃を与えるために、ロケット弾を温存していると思われます」
レイモンドの予想を聞きながら、マクモリスが顔を向けて聞いた。
「つまり、スペース・アグレッサー軍が装備するロケット弾は、それ程多くない・・・という事か?」
「確証は、ありませんが・・・その可能性は、高いと思われます」
レイモンドは、東南アジアや南太平洋での戦況を思い出した。
「今も南太平洋及び東南アジア各地では、陸海空で激戦が行なわれています。いかに精強なスペース・アグレッサー軍といえども、装備するロケット弾には限りがあり、補給能力にも限界があります。南太平洋と東南アジア各地での激戦を考えますと、ロケット弾等の高性能兵器は、そちらに回されていると考えます」
「ラッセル少佐」
ニミッツが、艦橋から見える穏やかな海上を眺めながら、口を開いた。
「貴官の推理は、正しいだろう。スペース・アグレッサー軍は、開戦時のハワイ攻略の時のように、1つの戦場に集中できる状態では無い。世界の半分を戦場としている。いかに高性能な兵器と、優秀な補給能力があっても、それには限界がある。今、敵は、その限界点に達しているという訳だな」
ニミッツは、レイモンドに顔を向けた。
「その通りです。今が好機です」
レイモンドの言葉を聞き、ニミッツは、目を閉じた。
スペース・アグレッサー軍が、補給線の限界点に達した所で、総攻撃をかけるというのはアメリカ陸海軍が、当初の段階から計画していた事だ。
どんなに恐るべき新兵器や高性能な電子機器を持っていたとしても、それだけ高性能であれば、後方支援態勢が万全で無くてはならない。
後方の支援態勢が整っていて、十分な補給、修理、整備が出来て初めて、それらの高性能な電子機器や高性能な新兵器は、本来の力を発揮する。
ニミッツたちにしてみれば、願っても無い機会だった。
「クリスマス島に連絡!連合空軍に出動命令を出せ!」
ハワイ諸島奪還のために、米英独伊連合軍連合空軍の戦略基地として整備されたクリスマス島には、戦略爆撃機や戦術爆撃機が、配備されている。
菊水総隊旗艦である指揮艦[くらま]の司令部作戦室では、P-1哨戒機からの情報が、リアルタイムで届いた。
「P-1哨戒機が、敵機動部隊を発見しました」
情報担当の幕僚が、報告した。
「同機は、高度を下げて、敵機動部隊の艦影を目視出来るぐらいまでの低空を飛行しました。同機からの映像を、表示します」
司令部作戦室のメインモニターに、P-1哨戒機からの映像が映し出される。
「随分と低空飛行をしたな・・・」
統合省防衛局菊水総隊司令部付の防衛政務官である、畑中達が、つぶやく。
「攻撃は、されなかったのか?」
畑中が、心配したような口調で、つぶやく。
開戦以来ずっと指揮艦[くらま]に乗艦し、自衛官では判断できない政治的な判断を行なってきた彼ではあるが、少々心配性なところがある。
「攻撃を受けたという報告は、受けていません」
「それは、良かった」
畑中は、ほっと胸を撫で下ろす。
「無人偵察機からの最新情報は?」
菊水総隊司令官である山縣幹也海将が、情報担当の幕僚に聞く。
「まもなく現場空域に、到着します」
情報担当の幕僚が言った後、彼の部下がメモを渡した。
「政務官、司令官。無人偵察機が、現場海域上空に到着しました」
情報担当の幕僚の報告に、山縣はメインモニターを眺めながら、指示を出す。
「映像を映せ」
P-1哨戒機が撮影した映像の隣に、無人偵察機であるRQ-4[グローバルホーク]の映像が、映し出される。
「これは無人機だから、まだ安心だ」
畑中が、つぶやく。
「もしも、撃墜されたら・・・と考えたら、落ち着いて映像を見る事もできない」
80年後の時代でも、有人の哨戒機が、紛争地域で撃墜されるという事はある。
しかし、そういった緊迫した状態での哨戒活動である以上、そのような事態は十分起こり得る。
もっとも、この時代のレーダーの性能なら、向こうに発見される前に、こちらが先に発見するため、十分安全圏に離脱する猶予はあるはずだ。
あまり極端に、恐れる必要は無いと思うし、哨戒機の搭乗員も、注意は十分払っているはずであるだろう。
そのような事を心配していては、総隊司令部付の防衛政務官は、勤まらないだろうと思う、山縣であった。
「政務官、司令官。早期警戒機から緊急連絡です。クリスマス島より、戦略爆撃機と護衛戦闘機が離陸中!」
情報担当のスタッフが、報告する。
「政務官」
山縣が、畑中に顔を向けた。
「哨戒機及び早期警戒機が確認した、艦隊及び戦略爆撃機に対して、総攻撃を実施しますが、よろしいですね」
山縣の言葉に、畑中は、先ほどまでの心配性が、どこかに消えたように、引き締まった顔になった。
彼は心配性ではあるが、無能では無い。
決断しなければならない事は、自分で決断し、決して誰のせいにもしない。
彼と山縣は、この時代にタイムスリップした時からの付き合いだが、彼の決断力の高さは、驚く限りである。
「只今より、武器の無制限使用を、許可します」
厳かな口調で、畑中の許可が下った。
武器の無制限使用とは、使用する武器に、一切の制限が無いという事だ。
展開する菊水総隊自衛隊及び、その指揮下で行動している新世界連合軍連合支援軍、朱蒙軍等は、保有する全火器を、ふんだんに使用できる。
「政務官から、許可が出た。待機中の陸海空自衛隊及び、新世界連合軍連合支援軍陸海空軍、朱蒙軍陸海空軍は、ただちに出撃、機動部隊及び、戦略爆撃機部隊を、迎撃せよ!」
山縣は、司令官席から立ち上がった。
この会戦が、いつから始まったのかについては、諸説ある。
大日本帝国軍による、ハワイ占領から既に始まっていたと主張する者。
アメリカ連邦議会の、ハワイ奪還戦の決議決定から始まったと主張する者。
米英独伊4ヶ国連合軍が、サンディエゴ軍港から出航した時から始まったと主張する者。
新世界連合軍(スペース・アグレッサー軍)の哨戒機に、4ヶ国連合海軍の大艦隊が、発見された時から始まったと主張する者。
最初に砲火が交された、日時から始まったと主張する者。
様々である。
後に、第2の南北戦争、もう1つの維新戦争、世界規模の易姓革命と言われる事になる、もう1つの第2次世界大戦の、最大規模の局地戦である。
1942年7月4日。
遂に、ハワイ会戦の火蓋が切られた。
ハワイ会戦 第1章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は8月19日を予定しています。




