ハワイ会戦 序章 2 首席幕僚の独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群首席幕僚の村主京子1等海佐は、第1護衛隊群旗艦である、[いずも]型ヘリコプター搭載護衛艦[いずも]の艦橋横のウィングで、無数の星が瞬く空を、見上げていた。
「レイモンド・・・貴方も、同じ星空を、見上げているのかしら?」
遠く、海の向こうにいる彼に向かって、つぶやく。
初めて彼と出会った時に感じた事が、現実になった。
村主がレイモンドと出会った時、彼女は、彼に作戦家としての才能があると感じた。
その頃は、それ程の階級でも無かったが、直感で作戦家としての才能を見抜いた。
彼女は、レイモンドに対し、さまざまな情報を与えた(あくまでも情報開示が、できる範囲の内容)。
情報を与えてからの彼は、彼女が予想する以上に成長した。
特に、作戦家としての才能は高まった。
兵棋演習をさせても、戦術シミュレーションをさせても、レイモンドは、トップクラスの成績を収めた。
そんな彼の姿を見て、村主は、心の昂ぶりを覚えた。
自分に匹敵する・・・いや、それ以上かもしれない作戦家の登場は、心から喜びを覚えた。
これまで、環太平洋合同演習や、アメリカ等の国との合同演習でも、彼女に匹敵する作戦家はいた。
しかし、誰が相手でも、彼女の予想を裏切るレベルの作戦家は、いなかった。
ほとんどの者が、彼女の予想通りの相手だった。
だが、レイモンドだけは違った。
自分が予想する以上の、成長を見せた。
初めて、自分の予想を裏切る結果を出したのが、レイモンドだった。
そんな彼が、米英独伊連合軍連合海軍の作戦参謀だと聞いた時は、心が躍った。
カシャ!!
カメラのシャッター音が、響いた。
「?」
村主は、音のした方に振り返った。
「すみません。星空の中にいる貴女が、まるで天の川の川縁で、彦星を待ちわびる、織姫のように見えたもので・・・」
声をかけたのは、第1護衛隊群旗艦[いずも]に、従軍記者として派遣されている、仲基陽菜である。
「そう・・・そういえば、もうすぐ七夕だったわね・・・」
仲基の、何とも言えないファンタジー的な例えに、村主は、僅かに苦笑を浮かべた。
「村主さん。少し話をしてもいいですか?」
仲基の問いに、村主が、うなずいた。
「別に・・・かまいませんよ」
「ありがとうございます」
仲基が、村主の隣に立つ。
「ちょっと待ってください。貴女、コーヒーは飲めますか?」
「はい、砂糖とミルクを淹れていただければ・・・」
村主はそれを聞いてから、ウィングに出ている海士に、声をかけた。
「コーヒーを2つ用意してもらえるかしら、仲基さんには、ミルクと砂糖を淹れてあげて」
「はい、わかりました」
海士がコーヒーの準備をするために、ウィングを離れる。
「それで・・・私に聞きたい事とは何かしら?」
「はい、村主さんは何故、自衛官に?」
仲基の質問に、村主は困った顔をした。
「その質問に答えるのは、少し難しいですね・・・」
「どうしてでしょう?」
「私が自衛官になった事を理解してもらうのは、非常に難しいわ。たったの数分間の会話だけでは、それを理解してもらうように話すのは、難しいの・・・」
村主の言葉に、仲基は彼女の横顔を見詰めた。
「それは・・・そうかもしれませんが、話していただかなければ、それも出来ないと思います」
村主は、仲基に振り向く。
彼女の記者としての信念が、強く感じられる。
村主は、目を閉じた。
「わかりました。貴女の質問に、答えましょう」
「ありがとうございます」
「セサ。コーヒーを、お持ちしました」
海士が、コーヒーカップを載せたトレイを、持って現れた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
村主と仲基は、コーヒーカップを受け取る。
「それでは、私は失礼します」
海士が、下がる。
「私が、自衛官を目指したのは・・・」
村主は、ブラックコーヒーを一口飲んでから、口を開いた。
自分が何故、自衛官としての道を選んだのか・・・?
実の所、村主自身でも、今までは答を出せていなかったのだ。
最初は、自衛官の道を選んだ、10歳年上の姉の後を追いかけたかったからだと思っていた。
しかし、姉が3等海佐で自衛官を退官し、別の道を歩み始めた時、実はそれは違っていたと気が付いた。
では、何故なのか・・・?
自分でも、ずっと疑問を抱えたまま、今に至る。
だが、レイモンドに出会った時、1つの答を得た。
現実主義者であり、運命等といったものを、信じてなどいなかったはずの自分が、こんな事を考えるとは思ってもみなかった・・・
自分は、自分の持っている能力のすべてを賭けて挑める、最強の敵を求めていたのだと・・・
そして・・・それを、ずっと探し求めていたのだと・・・
これが、極めて危険な思考であると、わかってはいるが・・・
(レイモンド・・・私は、貴方を待っていたのよ・・・)
星空の中で、微笑を浮かべて、仲基の質問に答えながら、村主の心の内を占めるのは、ただ1人の男の姿だった。
ハワイ会戦 序章2をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は8月12日を予定しています。




