ハワイ会戦 序章 ルテナント・コマンダーの独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
米英独伊連合軍総旗艦である、[ポートランド]級重巡洋艦[インディアナポリス]の艦橋横のウイングで、レイモンド・アーナック・ラッセル少佐は、星空を眺めていた。
「・・・スグリ大佐。貴女も、僕と同じように、星空を眺めていますか・・・?」
レイモンドは、星空を見上げながら、つぶやいた。
「再び僕は、ハワイに出向こうとしています。今度は、偵察では無く、ハワイ諸島を奪還するために・・・」
レイモンドは、遠く海の向こうにいる女性に、語りかけた。
「僕は、貴女と比べれば、まだまだ未熟です。しかし僕は、数10万の海軍将兵の命を預かっています。未熟なりに考え、貴女を打ち負かすための秘策を、用意しました。はたして、貴女は勝てますか?僕の秘策に・・・」
彼は、アメリカ本土にいる時、ただ1つ、菊水総隊海軍(海上自衛隊)第1艦隊(第1護衛隊群)の先任参謀である村主京子大佐(1等海佐)を、打ち負かす事だけを考えていた。
彼女の作戦家としての才能は、極めて脅威であり、下手をすれば米英独伊連合軍連合海軍が、彼女1人のために、敗退するかもしれない。
レイモンドは、彼女の秘策によって壊滅する、米英独伊連合軍連合海軍の艦隊を想像した。
無数のロケット弾による集中攻撃と、空から突撃するジェット戦闘攻撃機の群れ・・・
そして、海中に潜む潜水艦からの雷撃・・・
それらの攻撃を凌いだ次は、大日本帝国海軍聯合艦隊の戦艦部隊及び空母機動部隊からの猛攻である。
想像しただけでも、ゾッとする。
「おや?作戦参謀殿が、こんな所で何を?」
背後から、かけられた声に、レイモンドは振り返った。
「艦長?」
彼に声をかけたのは、米英独伊連合軍総旗艦である、重巡洋艦[インディアナポリス]の艦長だ。
「星が綺麗なので・・・少し、気分転換するために、外に出ていました」
「そうか。今夜は気分転換には、最適な夜だろう」
艦長は、レイモンドの隣に立って、星空を眺めた。
「作戦室で、籠もっているよりは、こういう夜に外に出て、夜空を眺めるのも、いいだろう」
彼は、そう言った後、艦橋にいる水兵に振り返った。
「コーヒーを2つ、用意してくれ」
「アイアイ、艦長」
「いえ、私は・・・」
レイモンドが断ろうとするが、艦長が振り返る。
「星空を見ながらのコーヒーは、絶品だ。ついでに、チェリーパイもね」
「わかりました」
「では、頼む」
艦長が、水兵に顔を向けた。
水兵は、コーヒーと、デザートを用意するために艦橋を離れた。
「艦長」
「何だ?」
「貴方は、自分の未来を知ってなお、どうして、この艦の指揮官に?僕が持ち帰った資料を、ご覧になったはずですが・・・」
レイモンドは、艦長に顔を向けて、質問した。
「貴官が持って帰った資料の1つに、私のこれから辿る未来の出来事があった。大統領からの極秘任務を受けて、アメリカ本土からテニアン島に、新型爆弾を輸送した。輸送任務を終え帰投する際、[インディアナポリス]が、イ号潜水艦の雷撃で沈没した。その新型爆弾が、大日本帝国で、2つの都市を焼き払った。もう1つの歴史での私は、とても言葉にできない心境だったと思う。大勢の部下を失った事と、新型爆弾で戦争に関係無い大勢の者たちが、一瞬のうちに地獄の業火に焼き払われた事に・・・」
レイモンドは黙って、艦長の言葉に、耳を傾けていた。
「ニミッツ提督は、私に、こう言った。もう1つの歴史の中で、私の辿る運命を、自らの意思で変えるチャンスが与えられたと。それを聞いた瞬間、私は、この艦の艦長職を引き受けたよ」
「そうですか・・・」
レイモンドがうなずいた時、艦橋からコーヒーカップを2つ乗せたトレイを持った水兵と、チェリーパイの皿を載せたトレイを持った、艦内食堂の給養員が現れた。
「艦長、作戦参謀殿。コーヒーとデザートを、お持ちしました」
「・・・・・・」
「あれ、カズマ?どうして、ここに?」
ずっと、会う事が出来なかったサンディエゴ海軍基地の食堂で働いていた少年の姿に、レイモンドは、目を丸くした。
「人手が足りないって言われたから、志願しただけだ」
素っ気ない口調で、最低限の事しか語らないカズマ・キリュウに、レイモンドは理由が分からず首を傾げる。
「・・・建前と本音は違う・・・という事だ」
艦長が、小さくため息を付いた。
「太平洋に、これだけの大艦隊、大部隊を派遣し、さらに大西洋方面の防衛、ヨーロッパ方面への派兵・・・その上、メキシコ国境沿いの不測の事態に対処するには、州軍、連邦軍を併せても、とてもでは無いが人員が足りない。16歳以上の徴兵制を採用しても、志願する者の数より、兵役を拒否する者が多い。連邦議会では、戦場に16歳未満の少年兵は、出さない・・・と、明言しているが、実際は、そう言っていられないのが現状なのだ。もちろん、前線には出さない。しかし、兵站の拠点防衛や、輸送任務の護衛のために、背に腹は代えられない・・・遺憾な事だが・・・海軍でも、戦艦や空母等、戦闘艦には乗艦させていないが、輸送艦等の食堂では、彼のような少年兵を勤務させるしかないのが状態なのだ・・・」
「そうですか・・・」
思っている以上の、祖国の窮状を聞かされて、さすがにレイモンドも驚く。
単に、これは戦争だけが影響しているわけでは無い。
東南アジアで暗躍していた組織があるように、アメリカ国内でも、1年以上の時間をかけて、暗躍していた組織もある。
その組織の工作が、ジワジワとアメリカを内部から蝕んでいた訳だが、この事はレイモンドも知らない事である。
「・・・とにかく・・・危なくなったら、ちゃんと隠れるように」
ここに至っては、仕方が無い。
年長者として、レイモンドは、キリュウに助言する。
「船の中で隠れても、沈められたら、意味が無いだろう?」
「ぐぅ・・・」
しっかりと、突っ込まれた。
「そうならないように、アンタが知恵を絞ってくれるのだろう?」
「全力を尽します・・・」
そう答えるしか無い。
しかし・・・海兵隊の1等軍曹から聞かされた話で、心配はしていたが、いつも通りのレイモンドのボケに、適格な突っ込みを入れてくるキリュウを見て、少し安心した。
ハワイ会戦 序章をお読みいただきありがとうございます。
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