間章 第3章 パットンとヴィットマン
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
パットンは、自身が率いる第1機甲軍団と共に、ポーランドの首都である、ワルシャワに到着した。
彼は、米英独連合軍司令部が置かれている、庁舎を訪れた。
「おはようございます。将軍」
米英独連合軍アメリカ陸軍ヨーロッパ派遣軍司令官の高級副官である大佐が、パットンを出迎えた。
「おはよう」
「元帥閣下が、お待ちです」
高級副官は、そう告げると、パットンを執務室に案内した。
「元帥閣下。パットン将軍を、お連れいたしました!」
執務机で、資料整理をしていた男が、顔を上げた。
彼が、アメリカ陸軍ヨーロッパ派遣軍司令官である、ドワイト・デビット・アイゼンハワー元帥である。
「貴官が来るのを、ずっと待っていたよ」
アイゼンハワーは、パットンの手を取り、固く握手した。
「恐縮です」
「立ち話も何だ。そこに腰掛けてくれ」
アイゼンハワーは、彼にソファーを勧めた。
「失礼します」
パットンが腰掛けると、アイゼンハワーの従卒が、コーヒーを2つ用意した。
「貴官の資料を、読んだ」
アイゼンハワーが、コーヒーを啜りながら告げた。
「北アフリカ戦線では、大活躍だったそうだな」
イギリスが、ドイツとの講和条約を締結する前・・・
まだイギリスとドイツが、交戦状態だった頃、彼は義勇軍の機甲部隊指揮官として、モロッコに派遣された。
アメリカ軍は政治的理由等で、ヨーロッパに表立った派兵が出来なかったため、あくまでもイギリス軍の指揮下で、義勇軍を編成派遣した。
その義勇軍の中に、パットンもいた。
パットンは、チュニジアを拠点に、北アフリカを掌握しようとするドイツ第3帝国国防軍陸軍アフリカ軍団機甲部隊に、自らが率いる機甲部隊で、正面戦闘を行なった。
攻撃的姿勢を最後まで崩さず、自らも最前線で指揮を執ったため、彼に率いられた機甲部隊の士気は、極めて高かった。
M4中戦車[シャーマン]と、それを援護する対戦車砲や野砲等の火力で、Ⅴ号戦車[パンター]や、Ⅵ号戦車[ティーガー]で編成された、1個戦車大隊と機械化歩兵部隊の、モロッコ侵攻を防いだだけでは無く、追撃して大きな損害を与えた。
もちろん、パットンに指揮された機甲部隊も、少なくない損害を出したが、ヨーロッパ戦線、北アフリカ戦線で、ドイツ第3帝国国防軍、イタリア王国軍の攻勢に、大完敗した連合国軍には、久々の良いニュースであった。
さらに、パットンは、イタリア王国陸軍機械化落下傘歩兵部隊の小細工を物ともせず、進撃を続け、ついには、イタリア王国陸軍機械化落下傘歩兵部隊を、降伏させる事にも成功していた。
「貴官なら、この状況を打開できるかもしれん。私は、そう判断し、貴官をここに呼んだ」
「ありがとうございます。小官の職務は、戦場で兵を率いて敵と戦う事にあります。戦場に行けるのであれば、願っても無い機会です」
パットンは、出されたコーヒーを啜る。
「戦況に、ついてだが・・・」
アイゼンハワーは、ポーランドの地図を広げた。
「アトランティック・スペース・アグレッサー軍地上軍は、航空支援を受けながら、進撃を続けている。ドイツ第3帝国国防軍陸軍と、武装親衛隊の機甲部隊が、侵攻阻止を行なっているが、高性能な重戦車を前に、ことごとく防衛戦を突破されている」
「ですが、こちらも高性能な重戦車を、何輛か撃破しています」
「それはそうだが、戦局そのものに影響は無い」
「いいえ。我々の所有兵器が無意味では無い事がわかれば、それでいいのです」
パットンは、力強く言った。
パットンとアイゼンハワーの、会談中に・・・突然、空襲警報が鳴り響いた。
「元帥!!スペース・アグレッサー軍からの攻撃です!!」
「何だと!?」
アイゼンハワーが、立ち上がる。
パットンは、驚く事なく立ち上がり、窓に向かった。
「パットン将軍!!?」
「何をしている!?早く、防空壕に避難するぞ!!」
パットンは、アイゼンハワーと彼の副官の声を、まったく聞いていなかった。
「あれが・・・スペース・アグレッサー軍の、ジェット戦闘機・・・」
パットンは、スペース・アグレッサー軍航空軍のジェット戦闘機を、自分の目で初めて見た。
銀色の機体に、単発のジェットエンジン、主翼下に搭載されたロケット弾。
ワルシャワに配備されている高射砲が火を噴くが、パットンが見たジェット戦闘機は、それを物ともしない。
そのジェット戦闘機の主翼下に搭載されているロケット弾が発射され、ワルシャワの市街で炸裂する。
かなりの距離があるにもかかわらず、轟音と共に、ビリビリという鈍い衝撃が、断続的に足下から、パットンの身体にも伝わる。
市街が攻撃されてから、ヴェルサイユ条約機構軍航空軍の迎撃戦闘機が現われるが、スペース・アグレッサー軍航空軍のジェット戦闘機は、気にした様子も無く、市街への攻撃を続けていた。
迎撃戦闘機がジェット戦闘機の後ろを取ろうとするが、ジェット戦闘機は、恐るべき速さで、それを振り切った。
振り切った後ジェット戦闘機は、逆に迎撃戦闘機の後ろを取り、ロケット弾を撃ち込む。
ワルシャワ上空で空中戦が行なわれているが、次々と迎撃戦闘機が撃墜され、火を噴きながら市街に墜ちていく。
「何という事だ・・・」
彼が口にできたのは、それだけだった。
スペース・アグレッサー軍航空軍のジェット戦闘機の性能は、彼の予想を、はるかに超えていた。
彼自身、スペース・アグレッサー軍の事を、まったく知らない訳では無い。
太平洋と大西洋で暴れ回っているスペース・アグレッサー軍の情報は、当然、彼の耳にも入ってくる。
だが、実際に自分の目で確認した訳では無い。
彼自身の予想の部分が大きい。
予想を超える、敵戦闘機の性能を、パットンは注意深く観察していた。
あれだけの高性能なジェット戦闘機を操るという事は、操縦するパイロットの腕は、それなりに高いという事だ。
「将軍!!早く避難を!!」
アイゼンハワーの部下に腕を掴まれて、パットンは自分が今、危機的状況であるという事を知らされた。
スペース・アグレッサー軍航空軍は、ワルシャワ市内の空爆を行なっている。
今、彼がいる場所は、普通の建物であるため爆撃されたら、自分も終わりである。
しかし、彼は、それを知りながら、アイゼンハワーの部下たちの手を振り解いた。
「お前たちだけで避難しろ!!俺は、この場に残る!!」
「ですが・・・」
「高射砲部隊に所属する将兵たちは、自分たちの危険を顧みず、スペース・アグレッサー軍のジェット戦闘機と戦っているでは無いか!!!ならば、俺も動かん!!!俺は、彼らと共に最前線で戦う指揮官だ!!その指揮官が、戦う兵士たちを置いて、安全な場所に逃げられるか!!!お前たちだけで行け!!!」
パットンの言葉に、アイゼンハワーの部下たちは、顔を見合わせた。
彼の剣幕に、誰も敵う者はいなかった。
彼らの上官であるアイゼンハワーは、部下たちに連れられて、防空壕に避難したが、パットンの確固たる意思に、勝つ者はいなかった。
「さあ、早く行け!!司令官を、守るのも部下の務めだ!!」
パットンは、アイゼンハワーの部下たちに、怒鳴った。
アトランティック・スペース・アグレッサー軍航空軍によるワルシャワ空襲から数時間後・・・
市内は、恐ろしく静かであった。
数時間前の空襲が、嘘だったように・・・
パットンは、アメリカ陸軍ヨーロッパ派遣軍が用意した、宿舎にいた。
コン!コン!
パットンが、書類に目を通していた時、ドアのノック音が聞こえた。
「入れ」
「失礼します」
パットンの部屋に入ってきたのは、ドイツ第3帝国武装親衛隊の将校用制服を着た男であった。
「武装親衛隊第1SS装甲師団SS第101戦車大隊所属の、ミハエル・ヴィットマン少尉。パットン将軍の要請により、只今、参上いたしました」
ドイツ語が話せるパットンの部下が、通訳する。
「ご苦労。日々の激務で疲れているかもしれんが、アトランティック・スペース・アグレッサー軍の情報を、誰よりも知っているのは、君しかいない」
パットンは、ヴィットマンと握手しながら、告げた。
「いえ、これも軍人の勤めです」
「今、君の報告書と、軍歴を見ていた所だ」
「恐縮です」
「立ち話も何だ。座って話そう」
パットンは、ヴィットマンにソファーを勧めた。
「失礼します」
ヴィットマンがソファーに腰掛けると、パットンの従卒がコーヒーと甘いお菓子を持って、彼らのテーブルに置いた。
「私が貴官を呼んだのは、他でもない。アトランティック・スペース・アグレッサー軍の重戦車について知りたいのだ」
「報告書は、提出していますが・・・?」
「報告書だけでは、わからない事がある。だから、直接話を聞きたいのだ」
ヴィットマンは、ソ連撤退戦において、アトランティック・スペース・アグレッサー軍地上軍の重戦車を1輛撃破し、3輛を行動不能にした実績がある。
「将軍。貴方は、私のソ連撤退戦時の功績を、高く評価して下さっているようですが、あれは単に、敵が油断していただけの事です」
ヴィットマンは、そう前置きしてから、ソ連撤退戦の話をした。
彼は、ティーガーⅠの戦車乗りとして、ソ連撤退戦に従軍した。
米英独連合軍による防衛戦は、アトランティック・スペース・アグレッサー軍の恐るべき兵器により完全敗北した。
ヴィットマンは、正面戦闘では敵わないと判断し、森林地帯で待ち伏せし、厳重な偽装工作で、完全に戦車を森林地帯と同化させた。
そのままアトランティック・スペース・アグレッサー軍地上軍戦車部隊が現われた所を見計らって、至近距離で徹甲弾を撃ち込んだ。
最初に放った一撃が、戦車の急所に命中し、爆発炎上した。
予想もしてなかった反撃に、敵は混乱し、指揮系統が乱れた。
この瞬間を見逃さなかったヴィットマンは、さらなる攻撃を続けた。
結果として、アトランティック・スペース・アグレッサー軍地上軍重戦車を1輛撃破、3輛を行動不能にした。
「敵が油断していたのは事実のようだが、その隙を見逃さなかったのは、貴官の功績だな。タイミングを間違えれば、確実にやられていただろう」
パットンは、ヴィットマンからの話を聞きながら、思った事を言った。
「戦闘は、チェスと同じだ。仕掛けるタイミングを誤れば、自分が、やられる」
「将軍の考えは理解できますが、あの戦いで我々は勝った訳ではありません。単に発作的な現象が発生したに過ぎません」
「だが、その発作も、時には命に係わる事がある」
パットンの言葉に、ヴィットマンは、納得せざるを得なかった。
翌朝パットンは、自身が率いる第1機甲軍団と、指揮下に入るドイツ第3帝国国防軍、武装親衛隊の機甲部隊の上級将校たちを集めた。
軍団であるため、上級将校だけでもかなりの数になる。
パットンは、彼らの前に立つと、演説を始めた。
「諸君!この場で1つ、はっきりさせたい事がある。諸君等の中で、これから戦う事に迷いを持っている者は、今すぐ、転属願いを出せ。迷いは戦いの恐怖を助長させる。そんな兵士は、私の軍団にはいらん!!」
パットンの声に、迷いを見せる上級将校たちは、いなかった。
全員が、戦いを志す強い信念が感じられた。
彼は満足した表情で、演説を続けた。
「お前たち兵士が、戦いのために、いくら己の命を犠牲にしようが、戦いに勝つ事はできない!その戦いに生き残らなければ、戦いの勝利とは言えない!!」
パットンは、部下たちを見回す。
「諸君等は将校である!当然、部下たちの手本に、ならなければならない!自分に従う部下たちに教えるのだ。戦いに生き残る方法を!!私も、諸君等と同じく最前線で、戦いの指揮を執る!!!」
パットンの言葉に、彼の直属の部下たち以外の上級将校たちが、驚いた顔をした。
彼は、軍団司令官であり、通常は、戦況を把握できる後方で指揮を行う。
軍団司令官が、最前線で指揮をするのは異例だ。
軍団司令官は、最前線の部隊と、後方の総司令部との調整を行うのが、任務である。
最前線の指揮を行うのは、最前線部隊の師団長又は旅団長である。
「私の軍団には、さまざまな肌の色をした兵士たちがいるが、皆が第1機甲軍団の一員だ!!諸君等の中には、さまざまな差別や侮蔑を受けた者もいるだろうが、この軍団には無い!!皆、共に戦う戦友だ!!我々は、この世でもっとも強大な敵と戦う。諸君等全員を無事に生還させる事を、約束する事は出来ない。だから、頼れる戦友が必要なのだ!!この中で、人種や民族が違うというだけの理由で、差別や侮蔑をする者は、いないだろうが・・・もし、いれば、この私が直々に撃ち殺してやる!!!」
パットンは、最後の部分を、強く叫んだ。
それには、理由がある。
パットンが、これまでの戦闘報告を分析した所、米英独伊各国軍の連携に、問題があると感じたからだった。
無理も無い。
敵味方に別れていた勢力同士、遺恨が残っていない訳が無い。
幾つかの戦闘では、連携が取れていれば、ここまで無様な完敗を喫さなかったのでは・・・と、思えるものもあった。
パットンは、今回の戦闘で必ず勝利する事を目指している。
それにより、各国軍の意思を1つに纏める事が出来る。
だからこそ、演説でその部分を強調したのだ。
「諸君等全員が、心を合せて1つの目標に突き進めば、強大なる敵であるアトランティック・スペース・アグレッサー軍を倒すことができる!!我々は、昨日まで負け続けてきた!!しかし、今日からは違う!!今日から、我々が攻勢に入る番だ!!!」
パットンの最後の言葉に、上級将校たちが歓声を上げた。
演説を終えたパットンは、幕僚たちを集めて、作戦会議を行った。
「スペース・アグレッサー軍に対する攻撃方法は?」
パットンが聞くと、作戦担当の幕僚が、口を開いた。
「はっ!これまでの経験から、スペース・アグレッサー軍地上軍の戦車に対して、正面からの戦闘では、効果はありません。偽装工作を施した戦車部隊と歩兵部隊による、待ち伏せ攻撃が効果的です。そこで、戦場となる森林地帯に、大規模な塹壕と戦車豪を構築し、野砲と航空機の援護下で、スペース・アグレッサー軍の戦車部隊及び歩兵部隊への、待ち伏せ攻撃を仕掛けます」
「作戦参謀。作戦としては悪くないが、その戦法は敵も把握している可能性がある。敵も野砲や航空機による攻撃で、砲兵部隊や航空部隊の無力化を図るはずだ」
幕僚の1人が、指摘する。
「もちろん、その辺は考えています。空挺部隊による後方攪乱等を実施し、航空部隊等の注意を、そちらに向けさせます」
作戦担当である幕僚の言葉に、他の幕僚たちは異義を唱えなかった。
第442連隊戦闘団の野営地では、明日に備えて、兵士たちが思い思いの時間を過ごしている。
ロウは、気分転換の散策を兼ねて、野営地内で過ごす、自分の部下たちの様子を見回っていた。
「うん?」
ふと、離れた場所で、上半身裸で棒のような物を握って、素振りをしている兵士の姿が、ロウの目に映った。
「精が出るな」
「!!」
無心で素振りをしていたのか、声を掛けた兵士は、驚いた表情で振り返り、ロウを見ると、素振りに使っていた木の枝を投げ捨てて、慌てて敬礼をした。
「すまない。邪魔をしてしまった」
「い・・・いえ。失礼しました」
何か、見られたくない所を見つかってしまったというような表情の兵士に、答礼をしながらロウは苦笑した。
「あ・・・明日の事を考えていると、どうしても気持ちの昂ぶりを抑えられなくなって・・・落ち着くために・・・申し訳ありません」
「別に謝る必要は無い。心を落ち着かせる方法は、人それぞれだ・・・剣術か?」
日本人に対して、個人差はあれども、些か含む所を持っている日系人部隊である。
日本人を彷彿させる行為をすれば、非難はされなくても、注意や制止をされる可能性が、無くは無い。
「・・・自分のは、真似事です。幼い頃、祖父が毎朝の日課のように、素振りをしていましたので・・・」
「そうか・・・精を出すのは良いが、程ほどにな・・・休める時に休むのも、軍人の務めだ」
そう告げて、ロウは兵士に背を向けた。
明日からは、色々な意味で忙しくなる・・・そう、思いながら。
間章 第3章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は7月8日を予定しています。




