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間章 第2章 アメリカのハンニバル

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 第442連隊戦闘団が使用する隊舎で、小隊長以上の将校たちが、非常呼集された。


 会議室に集められた将校たちは、連隊長である大佐から、事態の説明を受けた。


「昨日、ポーランド国境線が、新ソ連軍とアトランティック・スペース・アグレッサー軍からの攻撃を受け、突破された」


「「「何ですって!!?」」」


 大佐の説明に、第442連隊戦闘団の将校たちは、一斉に驚きの声を上げ騒めく。


「静粛に!」


 大佐の声で、それがピタリと収まった。


「国境に配備されていたドイツ第3帝国軍の陸空軍は、アトランティック・スペース・アグレッサー軍の機甲部隊と、ジェット戦闘機部隊による攻勢で壊滅した」


 大佐の説明は、続く。


「ポーランド・ワルシャワの総司令部では、全軍を持って、ポーランドに侵攻した新ソ連軍と、アトランティック・スペース・アグレッサー軍に対し、侵攻阻止を実施している。総司令部からの命令で、予備部隊である我々も、前線に投入される事になった。諸君!日々の訓練を実践する時がきたぞ!」


 大佐の言葉に傾注していた、第442連隊戦闘団の将校たちは、歓声の声を上げた。


 第442連隊戦闘団は、ドイツ・ハンブルクに到着してからは、ポーランド・ワルシャワに司令部を置いた、アメリカ陸軍ヨーロッパ軍の予備部隊として配置されていた。


 第442連隊戦闘団と共に、ヨーロッパに派遣された他の部隊は、優先的にポーランドや北アフリカに投入されたが、第442連隊戦闘団だけが、予備部隊として位置付けられた。


 理由としては、日系人の部隊である第442連隊戦闘団の存在を快く思っていないヨーロッパ系アメリカ人の高級将校や上級将校たちによって、弾除けにされるのでは無いか?という危惧を、司令部が持っていたからだ。


 それだけでは無く、パシフィック・スペース・アグレッサー軍による西海岸での戦略爆撃機によるビラ配りによって、日系アメリカ人と彼らが、裏で手を組んでいるのでは無いか・・・というデマ情報が、下士官や兵たちの間で広がり、信じ込まれているからだ。


 パシフィック・スペース・アグレッサー軍は、戦略爆撃機による西海岸でのビラ配りで、日系アメリカ人を、不当に扱う事は許さない、という警告を行なった。


 国民の中には、それを根拠として、そういった疑いを持つ者がいるのも、仕方無い事だろう。


 第442連隊戦闘団は、ヨーロッパに派遣されたが、今まで、本国から送られてくる物資の確認と、近いうちに来るであろう、実戦に備えた訓練ばかりだった。


 そんな状況下であったため、実戦部隊への参加を認められた事は、喜べる事であろう。


 彼らも、悪戯に戦闘をしたい訳では無いが、戦闘部隊でありながら、戦闘に参加させられないというのは、苦痛以外の何ものでも無い。


 中には、戦闘に参加できない不満から、他の部隊や同じ部隊間で、乱闘騒ぎを起こす輩もいた。


「ついに、俺たちの出番だ!!!」


「ヨーロッパ系アメリカ人たちに、俺たちの愛国心を、見せてやろうぜ!!!」


 下級将校たちが、歓声を上げる。


「やれやれ・・・血の気が多いのは困る・・・」


 歓声を上げる下級将校たちを見ながら、ロウがつぶやく。


「そう言うな。今まで、雑用係だったんだ。このぐらいのガス抜き位、させてやれ・・・」


 同僚が、肩に手を置く。


「そうだな。乱闘騒ぎの後始末は、もう懲り懲りだ・・・」


 ロウは、そう言いながら苦笑した。


 彼は、自分の中隊に所属する、兵や下士官たちが起こした乱闘騒ぎの解決に、1日を費やしていた。


「諸君!!」


 連隊長が、叫んだ。


 集まった将校たちが、顔を向けた。


「諸君等全員に、戦うチャンスが与えられた。敵は、強大な力を有している。相手にとって不足は無い。思う存分に暴れてこい!!以上だ!!」


「「「オオオッッッ!!!」」」





 連隊長からの訓示が終わった後、第442連隊戦闘団は、出動準備に取りかかった。


 第442連隊戦闘団は、歩兵連隊を基幹とし、砲兵大隊、工兵中隊が組み込まれた、独立戦闘部隊である。


 連隊という編成ではあるが、第442連隊戦闘団は、1個旅団弱の規模を有する。


 ロウは、自身が率いる歩兵中隊の最終確認を、行なっていた。


 中隊管理の武器、弾薬、糧食、医薬品、衣類、日常品等である。


 彼の中隊は、各小隊長の指揮下で、バックパックの中に個人装備を詰め込む。


「急げ!!急げ!!」


「敵は、待ってくれないぞ!!」


 小隊軍曹の怒号が響く。


 将兵たちは、完全武装の状態で、輸送トラックに、次々と乗り込んでいく。


「タケオ!」


 自分の名前を呼ぶ声に気づき、ロウは振り返る。


「ディビット。どうした?」


 ロウを呼んだのは、彼の親友であり、第442連隊戦闘団本部付の情報将校である、ディビット・ハセガワ大尉だった。


「お前に、伝えたい事がある」


 ハセガワは、人目を気にしながら、小声で伝えた。


「本部に寄せられた最新情報だが、アトランテック・スペース・アグレッサー軍の迎撃に、パットン将軍指揮下の、第1軍団が投入されるそうだ」


「第1軍団?ポーランド国境線地区の防衛は、ロンメル将軍指揮下の機甲部隊が担当していたはずでは・・・?」


「これは、まだ大隊長までにしか伝えられていないのだが・・・ロンメル将軍指揮下の機甲師団は、国境線が突破された後、すぐに出動したが、強力な戦車と装甲車で編成された機甲部隊に、叩かれたそうだ・・・」


「そうか・・・」


 ロウは、これから向かう戦場が、どれだけ酷いものか、予想する。


「だが、パットン将軍指揮下の第1軍団が、投入されるなら安心だな」


 ロウは、気を紛らわすように告げた。


 ジョージ・スミス・パットン・ジュニア中将は、アメリカ陸軍ヨーロッパ派遣軍第1機甲軍団長であり、彼に率いられる第1機甲軍団は、アメリカ陸軍精鋭の機甲部隊である。


 ロウが聞いた話ではあるが、パットンは厳格な性格であり、部下たちには厳しい軍規を守らせている。


 軍規を守らない者は、士官でも、下士官でも、兵卒でも、容赦無く罰を与えるそうだ。


 それが行き過ぎて、暴力事件や舌禍事件に、発展した事もある。


 乱暴者のイメージがあり、嫌われていたところもあるようだが、彼に敬意を払う兵卒や、下士官、士官も多い。


 ヨーロッパに派遣されたのと同時に、独自の訓練を計画し、第1軍団をロンメル将軍麾下の機甲部隊に匹敵する、精鋭の機甲部隊にした程だ。


 厳しい将軍として知られるパットンではあるが、勇敢に戦った将兵や、勇気ある行動を行なった将兵に対して、これでもか!という程、褒めるそうだ。


 ロウも、パットン将軍に対するさまざまな噂を聞いているし、第1機甲軍団の将兵たちとも顔を会わした事がある。


 他のヨーロッパ系アメリカ人部隊では、日系人部隊である第442連隊戦闘団を見ると、敵性国家の部隊等と囁く者もいるが、パットン将軍指揮の第1機甲軍団の将兵には、そのような言動をする者は、1人もいなかった。


 中には、アメリカ人らしく、フランクな感じで親しく話しかけられ、一緒に酒を飲む事もあった。


「彼らと肩を並べて、戦えるのであるなら、今まで以上に奮戦しなければならないな・・・」


「今まで以上の奮戦って・・・俺たちは、これが初陣だぞ」


「常に、軍務に着いている時は、戦場だと思え!!」


「士官候補生だった時、教官の口癖だな」


「そうだ」


「それだけの強い意思があるのなら、安心して、お前を戦場に送れる」


 ハセガワは、そう言って、ロウの肩を叩いた。


「無事に帰ってこいよ。まだまだ、やる事は一杯あるからな」


 ハセガワは普通の声で、友人の無事を祈った。





「大事な事を、忘れていた!」


 寿司詰め状態とまでは言わないが、結構ギュウギュウ詰めであるのには違いない。


 そんな状態の輸送トラックの荷台に、乗り込んでいた1人の兵士が、急に装備を外して、肌着まで脱いで、上半身裸になった。


 当然、周囲から抗議の声が上がる。


「済まない。すぐ終わらせるから・・・誰か、ペンか何か持っていないか?」


 兵士は謝りながら、近くの別の兵士からペンを借り、広げた肌着の胸の辺りに、素早く文字を書き込んだ。


 KAZUMA・KIRYU・・・と。


「誰だ?」


「弟だ。この派兵に出発する時に、約束したんだ。兄ちゃんは、いつも、どんな時も、お前と一緒にいるって・・・だから、敵陣に突撃する時も、お前と一緒に突撃するって・・・」


「お前の親か祖父母は、会津の出身か?」


「いや、祖父は東京府・・・江戸の出身だ。父親は、アメリカで産まれた・・・それが、何か?」


「俺の祖父は、薩摩の出身だったのだが・・・西南の役の時に、会津出身の政府軍の兵士は、会津戦争で亡くなった戦友の名を書いた、肌着を身につけて、参戦していたそうだ。その働きは、敵ながら見事だったそうだ・・・祖父は死ぬまで、いつも、こう言っていた。『真の武士は、会津武士だった』・・・と」


「そう言えば、俺の爺さんも、同じ様な事を言っていたな」


「俺たちも、会津武士に負けないような、奮戦をしなくてはな・・・」


「そうだな、武士の心を忘れた大日本帝国の連中に、俺たちの武士道を見せ付けてやろう!」


 輸送トラックの荷台で、2人の兵士は語り合った。




 

 アメリカ陸軍ヨーロッパ派遣軍総司令官である、ドワイト・デビット・アイゼンハワー元帥の命を受けた、パットン率いる第1機甲軍団は、ポーランド国境線に向かっていた。


 パットンに与えられた第1機甲軍団は、M26[パーシング]重戦車と、M4[シャーマン]中戦車を主力とした、機甲部隊である。


「敵についての情報は、どのくらい届いている?」


 パットンは、不機嫌そうな顔で、情報担当の幕僚に聞いた。


「総司令部から届けられた情報は、これだけです」


 情報担当の幕僚は、パットンの不機嫌そうな顔にも怯まず、総司令部から届けられた情報を伝えた。


「これだけの情報で、作戦が立てられるか!!総司令部の連中は、情報の重要性を、まったく理解出来ていない!!」


 パットンは、怒鳴り声を上げた。


「敵の規模すらも、わからないだけでは無く、何を目的とした侵攻なのかも、不明とは・・・」


「それは、把握されています。ポーランドを、完全占領する事が目的です」


「ポーランド占領は、確かにそうだろうが、今回の侵攻で、それを行なうとは限らない」


 情報担当の幕僚の主張に、パットンは、否定的な見解を示した。


「単なる偵察・・・という可能性もある。我が国が、ハワイで行なった事が、いい例ではないか」


 パットンとしては、今回の侵攻が、ポーランドを完全占領する事を、主目的とした攻勢には、どうしても思えなかった。


 ハワイ諸島が、パシフィック・スペース・アグレッサー軍と、大日本帝国陸海軍の攻勢を受けて陥落した後、見慣れない兵器の正体を確認するために、陸軍航空軍と海軍艦艇部隊及び航空部隊は、威力偵察を実施した。


 その規模は、大中小様々ではあるが、それなりの規模であった。


 ポーランド全土には、新ソ連軍及びアトランティック・スペース・アグレッサー軍の侵攻に備えて、大規模な部隊を、米英独伊連合軍が配備している。


 いかに、アトランティック・スペース・アグレッサー軍が精強であっても、物量戦に持ち込まれれば、対処出来ないだろう。


「とりあえず、これだけの情報だけで、作戦を立てなければならない。米英独空軍に連絡して、近接航空支援を、いつでも要請出来るようにしておけ!」


 パットンは、出来る範囲内での基本戦術を立案した。


 彼の手元に届いた情報は、国境に配備したドイツ陸軍の防衛部隊が、1日も経たずに、壊滅した事である。


 国境にはロンメル将軍麾下の、精強な1個師団が配備されていたにもかかわらずだ。


 それが1日で壊滅したとなれば、アトランティック・スペース・アグレッサー軍と、新ソ連軍は、それなりの戦力を投入した事になる。


「とりあえず、もっと情報が必要だ。総司令部には、再度連絡して、できる限りの必要な情報を、取り寄せてくれ!」


 パットンとしては、これ以上の命令を出しようが無かった。


 自分の部下たちが精強である事は、彼自身が一番理解している。


 しかし、敵に関する情報が無いのでは、いかに精強な軍団だったとしても、敗れる場合がある。


 さらに、敵の戦車部隊は、自分たちが予想する以上に高性能な武器、兵器で武装している。


 砲弾や爆弾を空中で捉え、破壊する事が出来る、謎の破壊兵器の存在も確認されている。


 そのような人知を超えた武器、兵器を持つ敵に対して、情報が乏しい状態で戦うのは、無謀以外の何ものでもない。


 パットンは、猛将ではあるが、無謀では無い。





 ポーランドに侵攻したサヴァイヴァーニィ同盟軍同盟陸軍第3軍集団地上軍第3装甲師団は、国境を突破した後、補給等のために停止していた。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟陸軍の正規軍である第3軍集団は、旧ワルシャワ条約機構軍で編成された軍集団である。


 ワルシャワ条約機構に加盟する国家が、次々と民主化する中、共産主義を信奉する勢力は、旧ソ連内に密かに移動した。


 軍人、文民を問わず・・・である。


 20世紀末期に民主化し、ロシア連邦となった、旧ソ連国内で再び共産主義を起ち上げるための機会を、密かに待ち続けていたのだった。


 第3装甲師団は、旧ドイツ民主共和国国家人民軍地上軍に所属していた将兵たちで編成された師団である。


「同志師団長。後方で展開している第31自動車化狙撃師団が、予定より遅れています」


 司令部テントで、参謀長が報告した。


「どのくらいの遅れだ?」


「物資輸送の遅れでありますから、作戦そのものに、深く影響するものではありません」


「今回の侵攻作戦は、ポーランドの完全占領では無い。この程度の遅れは想定範囲内だな」


 師団長が、参謀長から提出された書類を見ながら、つぶやいた。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍と、新ソ連軍が行なったポーランド侵攻作戦は、ポーランドの掌握を目的とした侵攻作戦では無い。


 近い将来に行なわれるヨーロッパ掌握に備えた、準備と言った方がいいだろう。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍は、強力な軍事力を有するが、正規軍及び義勇軍を含めて、兵士個人の練度は、バラバラである。


 それが部隊ともなれば、尚更である。


 サヴァイヴァーニィ同盟軍に属する旧ロシア連邦軍や、旧中華人民共和国人民解放軍の練度は、兵士個人レベルで見ても高いが、他の正規軍では異なる。


 今回のポーランド侵攻は、練度の低い将兵たちに実戦を経験させて、兵士としての能力向上を図るために行なわれた。


 わかりやすく言えば、新兵は実戦で磨かれる、という言葉を実践しているのだ。


「新ソ連軍の状況は?」


 師団長の言葉に、連絡将校として派遣されて来ている、新ソ連軍の大佐が報告する。


「我々は、旧ロシア連邦軍陸軍で編成された、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟陸軍第1軍集団と共に、従軍した経験がありますから、兵士たちの士気は、元からとても高い上に、国境線に強固に配備されていたドイツ軍を破る事ができた事で、さらに士気が高まっています」


 新ソ連軍地上軍は、新式の武器、兵器を駆使して、ロンメル将軍麾下の1個師団との戦いに、見事に勝利した。


「だが、新式の武器、兵器に十分に慣れていないのか、弾薬消費が無視できないレベルだった」


 参謀の1人が、告げた。


「確かにそうですが、最初の段階と比べれば、格段に進歩しています。このまま行けば、ポーランドだけでは無く、ドイツ・ベルリンにまで、辿り着く事ができます!」


 大佐は、自信満々の様子で断言する。


「油断は、しない事だ」


 大佐の楽観に、師団長が告げた。


「敵将は、ロンメル、アイゼンハワー、モントゴメリーの3人だ。今回はうまく行ったが、次もうまく行くとは限らない。どのような奇策で挑んでくるか、わからないからな」


「同志師団長は、慎重ですな・・・」


 戦果に昂揚する気分に水を差されて、鼻白んだ大佐が、告げた。


「戦場である以上、慎重に行動しなければ、どのような落とし穴に落ちるか、わかったものでは無い」


 第3装甲師団を預かる彼は、慎重派の高級軍人として知られている。


 ドイツ民主共和国が健在だった頃、彼は戦車部隊の1個中隊を率いる中隊長であった。


 かつて、ロシア連邦になる前の旧ソ連軍と行なった演習では、慎重な行動で、倍の仮想敵部隊に殲滅判定を出した事もある。

 間章 第2章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は7月1日を予定しています。

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