間章 第1章 新ソ連軍侵攻開始
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
ドイツ第3帝国・ハンブルク港。
ドイツ最大の湾港に、アメリカ陸軍第442連隊戦闘団以下、増援部隊として米英陸軍が、続々と上陸した。
ロウたちは、上層部の配慮で、長旅に疲れを癒すため、港近くの酒場で部下たちと共に酒を楽しんでいた。
「貴方たちは、アメリカ軍の軍服姿だけど、ヨーロッパ系アメリカ人では無いわね?」
ロウたちが占拠するテーブルに、ウイスキーを運んできた女性が、語りかけてきた。
「ああ。俺たちは、日系アメリカ人だ」
「え!?そうなの?日系アメリカ人は、敵対行為を働く可能性があるから、ほとんどの人が収容所に収容されたって、聞いたわ」
女性が驚いた口調で、告げた。
「どこの情報?」
ロウと共に、酒場で酒を飲みに来た、日系アメリカ人の下級士官が聞いた。
「アメリカと日本が開戦した時に、そのようなラジオ放送が流れたわ」
「それは間違いだ。確かに、拘束された同胞もいるが、全員では無い」
ロウは、ウェイトレスに簡単に説明しながら、グラスに入ったウイスキーを飲んだ。
「そうなんだ」
ウェイトレスは、ロウたちのテーブルに、ウイスキーのボトルと氷を置いた。
「何か、ヴィースキ(ウイスキー)の当てになる物を、持ってきましょうか?」
ウェイトレスが、新たな注文を聞く。
「じゃあ、この店おすすめのメニューを、持ってきてくれ」
ロウが注文すると、ウェイトレスが元気な声で告げた。
「ブラートカルトッフェルン(ジャーマンポテト)と、ブラーテヴルスト(焼きソーセージ)を、4人分用意します!」
ウェイトレスは、そう言うと彼らに背を向けた。
「ブラートカルトッフェルン・・・ああ、ジャガイモとベーコンを、炒めて塩胡椒で味付けしたやつか・・・」
ロウは、ドイツの家庭料理の定番メニューが出されると知って、苦笑を浮かべた。
「てめぇ~!何をしやがる!!」
どこからともなく怒号が響いた。
ロウが振り返ると、ヨーロッパ系アメリカ人の上級将校である少佐が、新人らしい若いウェイトレスに、怒鳴っていた。
「お前のせいで、この軍服が汚れたでは無いか!」
「すみません!すぐに、お拭きいたします!」
どうやら、若いウェイトレスが、少佐の軍服に料理か何かを、こぼしたようだ。
ウェイトレスが、ポケットからハンカチを取り出した。
「汚い布で、服を拭くな!!」
少佐は、かなり酔っているのか、若いウェイトレスを突き飛ばした。
だが、少佐の周囲にいる者たちは、我関せずとばかりに無視して酒を飲んでいる者や、さり気なく席を外す者、無表情でこの光景を眺めている者ばかりだった。
もちろん、諫めようと立ち上がる者もいたが、別の者に止められたりもしている。
理由は、推測できる。
いくら、講和して軍事同盟を結んだからと言っても、つい先日まで、枢軸国とは銃火を交えていたのだ。
アメリカは、これまで義勇軍程度の派兵しかしてないといっても、義勇軍兵士や士官に、枢軸国軍との戦いでの、戦死者が出ていない訳では無い。
中には、家族や友人が枢軸国軍に殺されたという将兵もいるだろう。
そんな者たちにとっては、いくら状況が変わったからと理解していても、感情として水に流すというのは難しい。
『昨日の敵は、今日の友』・・・
言葉としては理想だが、現実は簡単では無い。
この少佐の気持ちは分からないが、理性と感情の折り合いを付けるのに、苦悩しているが故の、行為なのだろうとは理解できる。
同じ、アメリカ市民権を持ちながら、敵性国民として距離を置かれている日系アメリカ人だから、それが理解出来る。
しかし、それはそれ、これはこれである・・・
このまま、放っておく訳にはいかない。
「やれやれ、ここは戦場では無いのに・・・」
ロウは、ウイスキーが入ったグラスを置き、立ち上がった。
そのままロウは、少佐の元に向かった。
「まあまあ、そう怒らずに・・・」
ロウは、少佐の肩に手を置き、落ち着かせる言葉をかけた。
「何だ!貴様は・・・」
ロウは、振り返った少佐の顔面に向けて、思い切り拳を叩き込んだ。
殴られた少佐は、そのまま吹っ飛び、床に倒れた。
「き、貴様!上官を殴る等!上官暴行罪だぞ!」
少佐は、ロウの階級章を確認してから、叫んだ。
「上官暴行罪で、軍法会議に告発してやる!」
「そうですか。それは、ありがたいですね」
「何?」
ロウの冷静な対応に、少佐は彼を睨んだ。
「軍法会議の席で、貴方が民間人に暴行を働いた事を、話しましょうか?」
「ぐぬ・・・」
ロウの言葉に、少佐は唇を噛みしめた。
軍法会議(高等軍事裁判)は、軍事裁判であるため、告発すれば、何故、そのような事態になったかを、徹底的に調べられる。
この場合、少佐が民間の娯楽地区で、若い女性に暴行を働いたため、ロウが上官を殴った事になる。
当然ながら、ロウは、上位者を殴った事で処罰を受けるが、少佐も、ただではすまない。
「まあまあ、お二人さん」
2人の間で、冷たい空気が流れている時、その2人に声をかける者がいた。
「ここは、疲れを癒して英気を養う場所ですよ。小さい事は忘れて、気分を変えて飲み直しましょう」
その場には、似合わない明るい声により、2人は完全に毒気を抜かれた。
「ここは娯楽の場、そんなに熱くなる必要は、無いでしょう。その元気は戦場で発散すれば、よろしいのでは?」
その人物の言葉により、少佐は、ある程度落ち着きを取り戻したのか、立ち上がった。
「飲み直しだ。行くぞ」
少佐は、自身の部下たちを引き連れて、店を出て行った(もちろん、お代は払った)。
酒場での騒動が一段落し、ロウは初対面の男と酒を飲み直した。
「貴方がたが、日系アメリカ人で編成された、第442連隊戦闘団の方々ですね?」
「私たちを知っているのですか?」
「ええ。メディア界では、結構有名ですよ」
男はそう言った後、自己紹介した。
「失礼しました。私は、従軍記者のデイビスです」
「タケオ・ロウ大尉です」
2人は固い握手をしながら、簡単に自己紹介した。
「最初に見た時は、年配の軍人の方かと思いました」
ロウが、ウイスキーを飲みながら、告げた。
「強ち間違いではありません。欧州大戦の時に、下級将校として従軍しました」
「そうだったのですか」
「あの時と比べれば、今回の世界大戦は、前例が無い程の激戦です」
太平洋では、パシフィック・スペース・アグレッサー軍が出現し、大日本帝国軍と共に、ハワイから東南アジアまで、勢力を拡大している。
大西洋では、アトランティック・スペース・アグレッサー軍が出現し、フォークランド諸島、スエズ運河が攻略され、米英独伊連合軍は、ソ連国内での地上戦で敗退した。
「1つ思い出しました」
ロウは、先ほどウェイトレスが持ってきた、ブラーテヴルストを、口に運びながら、つぶやいた。
「スペース・アグレッサーという呼称を最初に使ったのは、貴方がたでは、なかったですか?」
「ええ、そうです。大日本帝国の支部が、見慣れない軍用機と軍装の兵士たちを見て、そう記事にしました」
「貴方も、そのスペース・アグレッサー軍を、見ましたか?」
「ハワイ諸島がアメリカ準州だった頃に、大日本帝国軍上陸部隊と共に上陸して来た彼らの姿を見ました」
「どんな感じだったのですか?」
ロウは、デイビスの言葉を待った。
「初見の時の印象は、普通の日本人や東洋人と、あまり変りませんでした。しかし、彼らの使う武器、兵器は、まったく異なる物です」
デイビスからの回答で、これから自分たちが戦うアトランティック・スペース・アグレッサーを重ねる。
スペース・アグレッサーについては、さまざまな噂が、彼の耳に入っていた。
彼らは自分たちと同じ人間である、という話があれば、彼らは人間では無いという、オカルト話まで存在する。
「ロウ大尉。あまり大きな声では言えないのですが、彼らについての有力な噂が、1つあります」
「何ですか?」
デイビスは、小声で、その噂を口にした。
「彼らは、未来の大日本帝国軍や、アメリカ軍で、あるらしいのですよ・・・」
「何ですって!?」
ついロウは、驚きの声を上げた。
周りにいたアメリカ軍将校や下士官たちが、ロウの声に驚いて振り返る。
「ロウ大尉・・・」
デイビスに名前を呼ばれて、ロウは、落ち着きを取り戻した。
周りのアメリカ軍将校たちも、特に何でも無い事が分かると、再び雑談を始めた。
「それは・・・確かなのですか?」
「はい、帰国した捕虜たちの中に、そのような話をする者が多くいます。むろん、連邦政府や軍部からの公式な回答がありませんから、どこまで本当かは、不明ですが・・・有力な情報です」
ロウは、ウイスキーを飲むのも忘れて、彼の話を聞くのであった。
翌日。
朝礼を終えた第442連隊戦闘団の隊舎に、陸軍総司令部からアトランティック・スペース・アグレッサー軍の侵攻に備えて、新式の自動小銃が届いた。
M1918A3である。
ハワイ攻防戦及びフィリピン攻防戦で、大日本帝国軍とパシフィック・スペース・アグレッサー軍は、火力の高い自動小銃で武装していた。
そのため、アメリカ陸海軍の主力小銃では、威力不足であった。
半自動小銃や手動装填式小銃では、彼らに対抗するには不十分だった。
アメリカ陸海軍省は、これらの問題点を考慮し、新式の自動小銃の開発を命じた。
そこで早期開発されたのが、M1918をベースにした、新式の自動小銃である。
短銃身化と軽量化が行なわれ、ピストルグリップの追加等の改良が行なわれた。
民生用、警察モデルのモニターではあるが、短銃身化と軽量化だけでは無く、銃剣の装着機能があるため、ほとんど別物である。
「いいか、M1918A3は、本土で扱っていた、M1[ガーランド]や、M1[カービン]とは、まったくの別物だ!」
ロウが部下たちに、M1918A3を見せながら、注意事項を伝える。
「フルオート射撃機能があるため、弾薬の消費が早い。今までの小銃のような使い方をしていれば、すぐに弾切れになるぞ!」
「中隊長。新式の自動小銃が届いた・・・という事は、我々も戦地に行くのですか?」
兵卒の1人が、質問する。
「その質問に関しては、俺もわからない。だが、ソ連とヨーロッパの境界線であるポーランドに、米英独伊連合軍は、大規模な防衛線を構築したそうだ。アトランテック・スペース・アグレッサー軍と、その傘下の新ソ連軍が侵攻を開始すれば、大規模な戦闘が予想される。俺たちも、参加するかもしれん」
ロウは、自分の元に届いた情報を、部下たちに説明した。
ドイツ第3帝国軍占領下のモスクワ郊外で行なわれた米英独連合軍と、アトランティック・スペース・アグレッサー軍との大規模な会戦で、米英独連合軍が敗退した事は、ロウたちも知っている。
噂レベルの話では、米英独連合軍の攻撃は、ほとんど効果が無く、戦車砲弾や榴弾等の砲弾や航空機の爆弾は、謎の対空兵器で、すべてが空中で撃ち落とされていたと言う。
ロウ自身も、そのような話を噂レベルで聞いたが、単なる戦場伝説だろうと思っていたが、ヨーロッパに到着し、実際に彼らと戦闘を経験した将兵たちの話を聞いて、若しかしたら、その戦場伝説は、本当なのかも知れないと思った。
「だが・・・大丈夫なのか?敵は、俺たちの想像を超える新兵器を、数多く取り揃えているらしいぞ・・・」
誰かが、弱音を吐く。
「おい!弱音を吐くのは、早すぎるぞ!俺たちのモットーを、忘れたのか!?」
兵卒の1人が弱音を吐き、直属の上官である下士官が、部下を叱った。
「忘れていません!!当たって砕けろ!!です!!」
弱音を吐いた兵卒は、声を高らかに第442連隊戦闘団のモットーである言葉を叫んだ。
他にも、さまざまなモットーが存在するが、第442連隊戦闘団でのモットーは、『当たって砕けろ!』が、多い。
「ですが、相手は宇宙人だと言う話ではありませんか、しかも、大日本帝国人は連中に、1人残らず洗脳されて、傀儡と化しているとか・・・俺たちの武器が新しくなったからといって、倒せるのですか?」
「馬鹿か、お前は!!どんな生物だろうが、生きているのなら、殺せる。だから、安心しろ!」
別の兵卒が、弱音を吐いた兵卒の肩を叩く。
新ソ連と、ポーランドの国境線付近。
ポーランドの国境線では、米英独伊連合軍地上部隊による大規模な塹壕が構築され、新ソ連軍と、アトランティック・スペース・アグレッサー軍からの大規模攻勢に備えていた。
前衛に歩兵部隊の塹壕と、戦車部隊の戦車壕が構築され、後衛に砲兵部隊と高射部隊の陣地が、構築されている。
「交代の時間だ」
StG44を肩にかけた兵士が、見張に着いている兵士に語りかけた。
「もう、そんな時間か・・・?」
見張に着いている兵士は、交代要員の兵士に双眼鏡を渡した。
「さて、気分を変えるために、アメリカ産のコーヒーでも飲もうか」
見張に着いていた兵士の言葉に、交代要員の兵士は、薄く笑った。
「アメリカ軍やイギリス軍が来てから、豊富な補給物資が、こんな前線にまで届くようになった。コーヒーだの・・・紅茶だの・・・」
「ああ、そうだ。それに、こいつも融通してくれる」
見張に着いていた兵士は、懐から煙草を取り出す。
「1本、どうだ?」
見張に着いていた兵士は、交替要員の兵士に煙草を差し出す。
「いや、遠慮しておくよ。総統閣下は、公務中に酒を飲まないし、その部下たちも同じだと聞く。俺たち兵卒が、それを破る訳にはいかない」
「律儀だな・・・」
そう言いながら、煙草を口に咥えて、火を点ける。
煙草に火を点けた瞬間・・・彼らがいるトーチカが、オレンジ色の炎に包まれた。
トーチカに配置された兵士たちは、自分の身に何が起きたのか理解できず、絶命するのであった。
トーチカが、連続で爆発した。
「な、何が!?何が、起きたぁぁぁ!!?」
地下司令部にいたドイツ第3帝国国防軍陸軍の上級将校が、外に出ながら叫んだ。
「わかりません!!最前衛の陣地が、連続的に爆発しました!!」
「弾薬に、誘爆でもしたのか?それとも・・・?」
上級将校は、双眼鏡で空を確認した。
「なっ!!?」
微かに・・・ではあるが、機影を捉えた。
「敵機発見!!」
上級将校が、叫んだ。
「空軍のレーダー部隊は、何をしていたのだ!!?」
誰かが、叫ぶ。
「米英軍からの話によれば、スペース・アグレッサー軍は、レーダーに映らない戦闘機を、保有しているらしい・・・」
上級将校は、双眼鏡で、その戦闘機を確認しようとした。
彼の双眼鏡に、その戦闘機が映った時、その胴体内から何かが投下された。
それが何なのか理解した時、上級将校たちは、まばゆい炎に全身を包まれた。
ポーランド国境線に配備されていた防衛部隊を攻撃したのは、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟航空宇宙軍に所属するSu-57であった。
Su-57は、誘導爆弾を最前衛の前哨陣地に投下し、前哨陣地を無力化した。
その後、事前の偵察で把握していた地下司令部に、地中貫通爆弾を投下した。
航空攻撃を終えると、サヴァイヴァーニィ同盟軍同盟陸軍の機甲部隊と、新ソ連軍機甲部隊が前進を開始した。
ポーランドに侵攻を開始したサヴェイヴァーニィ同盟軍陸軍の部隊は、旧ワルシャワ条約機構軍に属する軍であった。
T-55AGMを前衛に出し、後衛にBTR-50を配置した陣形である。
彼らの前に立ちはだかるのは、イタリア王国陸軍であった。
イタリア王国陸軍は、重戦車であるP40で、T-55AGMに戦いを挑むが・・・75ミリ砲では、T-55AGMの正面装甲を、破る事はできなかった。
T-55AGMは、砲撃を開始し、1輛ずつ確実に撃破した。
遂に、サヴァイバーニィ同盟軍と、新ソ連軍によるヨーロッパ侵攻が、開始された。
間章 第1章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は6月24日を予定しています。




