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閑話 5

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 これは、1942年5月上旬。


 レイモンド・アーナック・ラッセル中尉(当時)ら、ハワイからの帰還兵が、サンディエゴ海軍軍港に、帰還して間もない頃の話である。





 連合国アメリカ合衆国海軍情報部では、来たるべきハワイ諸島奪還戦に向けて、東南アジア、南太平洋、大日本帝国本土へ諜報員を送り込んで、情報収集と、各地で展開している大日本帝国軍内で飛び交う、暗号文、平文等の傍受した通信の分析に、余念が無い。


 しかし、大日本帝国の発する暗号電は、非常に難解で、解読するのが極めて困難であった。


「・・・スペース・アグレッサー軍が、大日本帝国軍に、余計な知恵を付けてくれたものだ・・・俺たちを、過労死させるのが目的じゃないのか?」


 遅々として進まない、解読作業・・・


 上からは、「早く解読しろ!!」の催促・・・


 それらのせいで、精神的苦痛は、もう限界を超えそうになっている。


 海軍情報部所属の、トーマス・パウマン中尉は、自分のデスクの上で山積みになって、減る所か、ドンドンと高さを増していく資料の前で、頭を抱えていた。


 現在情報部では、大日本帝国軍の発する電文の中に頻繁に出て来る、ある言葉に注目していた。


『雷』と、『黒』である。


 しかも、わざわざ日本語ではなく、この言葉だけ英語で、発信されているのだ。


 一体、この言葉は何を意味するのか・・・?


 何かの作戦の暗号なのか?


 それとも・・・


 秘匿兵器のコードネームなのか・・・?


 様々な予測や議論が、交された。


 情報部も、各地に派遣している諜報員を総動員して、情報を集めているが、まったくわからないのだ。


 奇しくも、大西洋とソ連に突如として出現した、アトランティック・スペース・アグレッサー軍が運用した、謎の光学兵器・・・


 戦艦を一瞬で大破させ、カール自走臼砲の榴弾を、空中で迎撃した超兵器なのか?


 若しくは、ヴェルサイユ条約機構軍の混成艦隊の輸送艦群を、一瞬で消滅させた、最終兵器なのか?


 よもや・・・大日本帝国も、それと同じ様な超兵器を、開発したのでは・・・?


「まさか?」等という言葉は、力を失って等しい。


「誰か、代わってくれ・・・」


 パウマンは、力無く心の中で叫んでいた。





 5月半ばを過ぎた、ある日。


 パウマンは、1人の海軍士官を訪ねて、サンディエゴ海軍基地のゲートをくぐった。


「レイモンド・アーナック・ラッセル大尉ですね?」


 尋ね人は、海軍基地の食堂で、チェリーパイを頬張りながら、資料を読んでいるという、少々行儀の悪い恰好でいた。


「そうですよ」


 モゴモゴと口を動かしながら、レイモンドは答える。


「大尉に、お尋ねしたい事があるのですが・・・よろしいでしょうか?」


 一応、自分より階級は1つ上なのだが・・・軍人らしい威厳が・・・まったく無い大尉に、どう対応するべきか、非常に悩む。


「良いですよ」


 フォークに刺したパイの最後の切れ端を、口に入れながらレイモンドは、自分の席の前に座るように勧める。


「失礼します」


「君も、チェリーパイを食べる?」


「いえ、結構です」


「あ、そう」


 そう言って、レイモンドは席を立つと、厨房のカウンターに行って、チェリーパイのおかわりと、コーヒーカップを2つ、トレイに乗せて戻って来た。


「それで、聞きたい事は何ですか?」


 再びパイをパクつきながら、レイモンドが問う。


「大尉は、スペース・アグレッサーの人間たちと、接触したと伺いましたが・・・?」


 現在、スペース・アグレッサー軍が、未来から来た人間たちであるという事実は、佐官以上の高級軍人にしか知らされていないが、パウマンは、立場上知っている。


「そうですよ」


「これを・・・これが、何であるか、ご存知ですか?」


「う~ん・・・」


 パウマンは、例の言葉が記された資料を、レイモンドに見せた。


「・・・もしかして・・・?」


「何か、ご存知なのですか?一体どの様な、兵器なのですかっ!?」


 レイモンドの、何か思い当たるものがあるような口調に、パウマンの声が高まる。


「多分・・・これの事だと思います」


 そう言って、レイモンドは胸ポケットから、小さな物を取り出した。


「!!?」


 一応パウマンは、語学技官程では無いが、日本語は理解できる。


 小さなパッケージのそれに書かれた、カタカナの文字・・・


 それを見た瞬間、パウマンは、しばらく時間が止まったような錯覚を覚えた。


 恐らく、唖然とした表情を浮かべて、固まっていただろう。


「これ、大日本帝国軍陸海空軍で、大人気のチョコレート菓子なのですよ。未来の日本人が持ち込んだ、お菓子なのですが・・・安くて、美味しいんですよ。戦艦[大和]の酒保で販売されて、口コミで広まったそうなのですが・・・人気が出過ぎて、すぐ売り切れてしまうそうで、中々手に入らないそうです。僕も、パールハーバー海軍基地内のショップで、ようやく手に入れたのですが・・・1人10個までって販売個数制限があって・・・」


 レイモンドの言葉は、パウマンの耳には、既に届いていなかった。


(・・・我々が、総力を挙げて、血眼で突き止めようとした、最終兵器の正体が・・・コレ・・・?コレだというのか・・・?)


 ある意味、謎の光学兵器より破壊力のある、最終兵器である・・・


 精神に、強烈な打撃を与え、もの凄い脱力感に襲われる・・・という点に付いては・・・





 ここでは無い、何処かの場所での会話。


「桐生さん!!商品の発注を、軍の暗号電文で送るのは、止めて下さい!!」


「だって、販売業をやっている人間にとって、発注した商品が何度も欠品っていう位、腹立つ事無いんだもん!」


「だもんって・・・ブリッコしても駄目です!!桐生さんがやるから、他の人たちも真似して大変なんですよ!!その苦情は、全~部、僕の所に来るんです!!」


「大丈夫、大丈夫。氷室さんだけじゃ無いから。半分は、本庄さんの所にも、いっているから問題無し!」


 半ば本気で抗議する氷室に、桐生は、シレッとした表情と口調で、トンデモナイ事を言った。


「鬼!!!悪魔!!!人でなし!!!」


「褒め言葉として、受け取っておこう・・・な~んてね」


「何、カッコいい台詞でキメて、さり気なく誤魔化そうとしているんですかぁ~・・・!!!」


 氷室の絶叫が、響く。




「・・・俺・・・この仕事に、向いていないかもしれない・・・」


 精神的打撃から立ち直れないパウマンが、ボソリとつぶやいた。





 これが、日米の情報戦における、諜報戦に該当するのかどうかは・・・


 定かでは無い・・・

 閑話5をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

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