対米包囲網 終章 ルーズベルトの演説
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
1942年6月中旬。
ホワイトハウスの記者会見室には、大勢の記者が集まっていた。
もうすぐ、アメリカ合衆国第32代大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトの演説が行なわれる。
この演説に先立って、アメリカ政府は国民に、スペース・アグレッサーの正体を、公表した。
パシフィック・スペース・アグレッサーは、未来の日本、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、ドイツ、イタリア、シンガポール等の国々が中心となって参加した、多国籍連合軍である事を・・・
アトランティック・スペース・アグレッサーは、未来のテロリストを中核とする、共産主義勢力の同盟軍である事が、アメリカ国民に伝えられた。
その事実を伝えられたアメリカ国内は、文字通り、蜂の巣を突いたような、大騒ぎとなった。
アメリカ連邦議会でもそうであったが、アメリカ国民の間でも、主張は2つに分れた。
徹底抗戦を唱える団体と、対話による講和を唱える団体とに・・・である。
今日、放送されるルーズベルトの演説は、徹底抗戦か、講和か、どちらかを決める、重大な内容である。
そのため、国民の関心も高い。
すでに、太平洋艦隊は再建され、ハワイ奪還作戦のために出撃準備を整えている。
開戦直後、ハワイ諸島オアフ島に配備されていた太平洋艦隊は、パシフィック・スペース・アグレッサー航空軍による攻撃で壊滅したが、アメリカは、自国の工業力をフル活動させ、太平洋艦隊を再建した。
ルーズベルトが、記者会見室の会見席に立ち、記者たちを見回す。
記者席からは、眩しい程のカメラのフラッシュが、たかれる。
「今日、私は・・・」
立ち上がった記者たちの前で、ルーズベルトは、静かに告げた。
「アメリカ合衆国大統領としてでは無く、皆様と同じく、この時代に生を受け、生きる1人の人間として、国民の皆様に申し上げたい」
ルーズベルトは、記者たちを見回す。
「我々が、スペース・アグレッサーと呼称する不明軍が、実は我々の子孫たちである・・・既に、この事は皆様も、ご存知でしょう。改めて私からも、申し上げます。彼らは、私たち連合国国民、枢軸国国民の子孫たちであると・・・」
記者席からは小さくない、騒きが起こる。
既に知らされている事ではあるが、大統領の口から直接告げられた事実は、衝撃的である。
「・・・彼らが、如何なる手段を使って、未来から今に来たのか・・・?それは、皆様も当然疑問に思っている事でしょう。しかし!その手段は、問題ではありません!彼らが、彼らの過去である現代に来た理由。それは、我々に対し、NOを突き付ける事であったのです!!」
ルーズベルトは、言葉に詰まる事無く、すらすらと告げていった。
会見室は静まり返り、ルーズベルトの声だけが響く。
「彼らは、自分たちで歴史を紡いで未来に繋げる・・・そのために、我々の生きる時代に侵攻・・・いえ、侵略を開始したのです。そう、正しく彼らは侵略者です!!」
ここまで言った後、ルーズベルトは、一呼吸を置いた。
「彼ら侵略者は、未来に起こる、悲劇や惨劇を回避するために、この時代を支配し、これからの未来を、彼らの都合の良い歴史へ、書き換える・・・それが、目的です。しかし、そのような、書き換えられた未来に、私たちの幸せは、あるのでしょうか?歴史とは、その時代、その時代に、生きる人間たちによって、少しずつ築かれていく橋のような物です。親から子へ、そして孫へと繋げていく・・・なのに彼らは、それを壊し、自分たちの都合のいい橋を建設し、私たちに強制しようとしています!!!」
ルーズベルトが発する、言葉の重みが増した。
「私は、この場で皆様に申し上げたい!!私は断じて、その暴挙を認めないと!!私は、彼らに告げる!!決して、お前たち侵略者の好きにはさせない!!この時代の歴史という橋を建設するのは、私たちであるという事を!!そして、それを、決して譲らないという事を!!!」
大統領の演説が、終わった。
この時、会場では、拍手が起こった。
出席者たちが、一斉に拍手したのだ。
拍手は、ここだけでは無かった。
アメリカ国内全域で、拍手と歓声が上がった。
「これで、準備は整った・・・」
熱狂の坩堝となった、アメリカ合衆国の片隅で、誰かが、つぶやいた。
「歴史上の英雄は、英雄のまま死を迎えるから、英雄として語り継がれる・・・」
その言葉は、とても小さく・・・誰の耳にも届かない・・・
1942年6月下旬。
元帥に昇進し、4ヶ国連合軍総司令官兼連合海軍総司令官に就任したニミッツは、ハワイ奪還のため、自ら艦隊を率いて、サンディエゴ軍港を立った。
連合海軍の総旗艦であり、総司令官座乗艦に選ばれたのは、[ポートランド]級重巡洋艦[インディアナポリス]である。
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