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対米包囲網 第6章 オペレーション・インディアナポリス 6 天国と地獄の狂騒曲

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 日が沈み、夜の世界となったパナマでは、榴弾砲の発射音や、ロケット弾の飛翔音が、響いた。


 第71戦車戦闘団特科大隊第1射撃中隊に所属する99式自走155ミリ榴弾砲が、一斉に咆吼を上げる。


 パナマに上陸してから、第71戦車戦闘団特科大隊は、昼夜を問わず、パナマの敵陣地に向けて砲撃を実施していた。


 数え切れない光が、尾を引いて漆黒の闇に撃ち出されている。


「ものすごい砲撃音です!!」


 99式自走155ミリ榴弾砲をバックに、レポーターが、砲撃音の凄まじさを伝えるために、両耳を手で塞いだポーズで、カメラに向かって叫んでいた。


「見えますでしょうか!!99式自走155ミリ榴弾砲を装備した特科部隊が、連合軍陣地に向けて、砲撃しています!!」


 レポーターは、砲撃で自分の声が、かき消されないようにするため、大きな声で叫ぶ。


『連合国軍からの反撃は、あるのでしょうか?』


 レポーターのインカムから、質問が投げかけられる。


「はい!3日間にも及ぶ砲撃の実施と、戦車部隊と歩兵部隊の進撃を行なっていますが、パナマ国家警備隊並びにアメリカ軍からの大規模反撃は、確認されていません!!」


 レポーターが振り返り、99式自走155ミリ榴弾砲を、一瞥する。


 報道が許可されているとはいえ、間近で特科部隊の砲撃を、見る事はできない。


『新世界連合軍と朱蒙軍、菊水総隊自衛隊は、どのような作戦で、パナマ攻略を行なっているのですか?』


 再び質問される。


「はい!新世界連合軍、朱蒙軍、菊水総隊自衛隊の、それぞれの公報部からの情報では、洋上に展開している空母や揚陸艦から戦闘機、戦闘攻撃機が発艦し、地下司令部等の戦略目標を、高々度から精密誘導爆弾や、ミサイルで破壊し、砲兵部隊、特科部隊の野砲による砲撃を昼夜問わず、実施しています。歩兵部隊や戦車部隊の前進は、夜間に行なわれるそうです!」


『夜間に拘る理由は、あるのですか?』


「はい!夜間に進撃する目的として、対ゲリラ戦の想定と、敵に心理的ダメージを与えるとの事です!夜間に進撃を行なえば、敵に休息をする時間を、与えなくてすむからです!」


『なるほど。確かに、昼夜を問わない大規模な砲爆撃と、夜間の進撃であれば、連合国軍兵士たちが、気を休める時間は、ありませんね』


 彼は、簡単に説明できるよう、予め用意していたボードを見せた。


 ボードには、航空部隊や特科部隊、戦車部隊、普通科部隊の行動が、簡単な図で描かれていた。


 レポーターと、日本共和区にいるキャスターとの会話が続く。


『現地の自衛官や、兵士たちに、取材する事は、可能ですか?』


 キャスターの質問に、レポーターは、少し遅れて答える。


 日本共和区からパナマまで、かなりの距離があるため、どうしても中継機や中継船の中継能力には限界がある。


「夜間帯での取材は、許可されていません。取材を受ける自衛官や、兵士たちの心理状態への配慮が必要であるため、現地にいる自衛官、兵士たちの取材は、昼間に限定されています」


 レポーターの回答に、少し遅れてキャスターが答えた。


『そうですか。わかりました』


 キャスターの回答を聞いた後に、99式自走155ミリ榴弾砲の砲撃が、終了した。


「砲撃が止みました。恐らく歩兵部隊と、戦車部隊の前進が、開始されるのでしょう。陸上自衛隊が世界に誇る戦車部隊と、機械化歩兵部隊が、前進します!!」


『南方戦線では、陸上自衛隊の戦車や装甲車に、被害が出た事が報告されていますが、ここでは、そのような事態に備えた対策は、行なわれているのでしょうか?』


 キャスターの質問に、レポーターは答える。


「はい!対ゲリラ戦に備えて、増加装甲板を取り付けているそうです!」





 第71戦車戦闘団第2戦車中隊が、普通科部隊と共に、前進を開始する1時間前・・・


「今日のパックメシは、洋食だな」


 神薙は、戦闘糧食Ⅱ型から、主食としてクラッカータイプの乾パンと、副食としてホワイトシチューを取り出した。


「車長の好物の、シチューですね」


 砲手が、ドライカレーを食べながら、話しかけてくる。


「俺が好きなのは、お袋が作るシチューだ。他のシチューは、そこまで好きでは無い」


「そんな事を言ったら、ほとんどのメニューが、好きでも嫌いでも無い料理になるじゃないですか?」


 操縦手が、突っ込む。


「お前等だって、お袋が作る料理が、一番だろう?」


「それは、そうです」


「まったく、その通りです」


 神薙の部下である2人の砲手と操縦手は、神薙とほとんど歳は、変らない。


 それでも、3人の中で最年少なのは、神薙である。


「それで、お前たちは、お袋の料理で、何が好きだ?」


 神薙が、ホワイトシチューに、クラッカータイプの乾パンをつけながら聞く。


「母親の料理ですか?」


 砲手が、少し考え込む。


「おかんが作った料理で、好きな物・・・」


 操縦手が、小首を傾げながら、唸る。


「なんだ、お前たち。自分の母親が作る料理の中で、一番好きな料理が、出てこないのか?」


 神薙が、ホワイトシチューをつけた、乾パンを口に運ぶ。


「そう言う訳ではありません」


 操縦手が、手を振る。


「母が作る料理で好きな物と言われたら、全部好きですね。まあ、好みに合わない物が出されても口に合わない物は、出しませんから」


 砲手が、答える。


「それに、そんな事を考えた事もありませんよ」


 操縦手が、ハンバーグを口に運びながら、告げる。


「車長も、そうでしょう?母親が作る料理で、これが一番だ!という料理は、無いでしょう?」


「あるぞ!!」


 神薙が、即答する。


「お袋が作る料理で一番好きなのは、カレーライスだ!!」


「「却下!!!」」


「何で!!?」


 神薙の回答に、砲手と操縦手が同時に、却下の判定を下した。


「定番過ぎです」


「その通り!」


「車長。質問に規制を加えます。カレーライス及びそれに関連する料理以外で、好きな物をお願いします」


 操縦手の言葉に神薙は、「何故だ!?」と叫んだ。


「カレーライスや、それに関連する料理が選択肢の中にあったら、みんな、言うでしょう?」


 砲手が、規制理由を説明する。


「それにカレーライスは、家庭料理です。家庭の味とも言われます。つまり、カレーライスを誰もが好きなのは、当たり前です」


「もう1つ付け加えますが、金曜カレーがある海上自衛隊の、好きな料理を答えるアンケートでは、カレー以外で考えるように。と、言われるそうです」


「むむむむむ・・・」


 砲手と操縦手の言葉に、神薙は言葉を失った。


「出てこないな・・・」


 神薙が、ぼそっと答えた。


「でしょう?」


「そうでしょう」


 神薙の部下2人は、それぞれの夕食を食べながら、告げた。


「いや、無い訳では無い。あり過ぎて、どれを答えればいいのか、わからないだけだ」


「そんなものです」


 砲手が、言った。


「給食等とは訳が違います。給食では、第一に考えられるのは栄養です。もちろん、味も重要ですが、二番目に考えられています。しかし、家庭料理は、まったく違います。栄養も当然、考えられていますが、味も同じレベルで考えられています。だから、給食は、美味しくない、家の飯は美味い。と、いう発想になるのです」


 砲手の哲学を聞いて、神薙は、なるほど、と理解した。





 行動開始予定時刻を迎えると、菊水総隊陸上自衛隊第7機甲師団第71戦車戦闘団第2中隊は、連合支援軍旧中国人民解放軍陸軍戦車部隊と、朱蒙軍陸軍戦車部隊と共に、前進を開始した。


 中央を第71戦車戦闘団第2中隊、左翼を朱蒙軍陸軍戦車中隊、右翼を旧中国人民解放軍陸軍戦車中隊が担当し、一列横隊を築いた。


「中隊長より各車へ、パナマ国家警備隊は、特科部隊や砲兵部隊等の攻撃で、不眠不休の状態だ。真面な攻撃をしてくる可能性は低い。まあ、仮に抵抗があったとしても、シャーマン戦車の戦車砲では、90式戦車の装甲を貫く事はできない」


 第2戦車中隊長の声が、神薙のヘッドセットに聞こえる。


「車長。敵は、出てきませんね・・・」


 神薙が乗る90式戦車の砲手が、つまらなさそうに、つぶやく。


「我々の登場に驚いて、逃げたんじゃ無いんですか?」


 操縦手が、砲手の話に乗る。


「その可能性は、低いだろう」


 神薙は、車長用スコープを覗きながら、告げた。


「パナマを失うという事が、どういう事なのか・・・それを知らないアメリカ軍や、パナマ国家警備隊では・・・」


 神薙が、言い終える前に、目の前の地面が吹き飛んだ。


「敵襲!!」


 神薙のヘッドセットに、叫び声が響く。


「ついに、出てきた!!!」


 砲手が、叫ぶ。


 その声は、待ち望んでいた瞬間に、狂喜するような感じだった。


「落ち着け!!」


 神薙が、車長用スコープを、砲撃のあった方向に向ける。


「敵戦車発見!!」


「確認!!」


 神薙が敵戦車を発見した後、砲手も発見した。


「射程距離です!!」


 砲手が、報告する。


「撃て!!!」


「了解!!!」


 砲手が、戦車砲の発射ボタンを押す。


 神薙が乗る、90式戦車の砲口が吼える。


 撃ち出された装弾筒付安定徹甲弾は、M4中戦車の正面装甲に、吸い込まれるように直撃した。


 M4中戦車は、一瞬にして炎の塊となった。


「第2目標!照準!」


「第2目標に、照準よし!!」


「撃て!!」


 神薙の号令で、再び90式戦車の砲口が吼える。


 M4[シャーマン]からも反撃を受けるが、90式戦車の複合装甲により、徹甲弾は、はじき返される。


 90式戦車で編成された第2中隊は、連携して、1輛ずつ確実に撃破していった。




 進撃を続ける、第2中隊の眼前に、強固に築かれた対戦車陣地が現われた。


「前方に、歩兵部隊の陣地あり!!」


 神薙は、そう叫ぶと、車長ハッチを開放し、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床を構えた。


 砲手もハッチを開放し、副武装の12.7ミリ重機関銃を握る。


 歩兵部隊の陣地に向けて、神薙は89式5.56ミリ小銃折曲式銃床の引き金を引いた。


 同時に、12.7ミリ重機関銃の銃口からも火が噴く。


 他の90式戦車も、副武装の12.7ミリ重機関銃による射撃で、歩兵部隊と戦う。


 歩兵陣地で、手動装填式小銃や重機関銃等で武装したパナマ国家警備隊の歩兵たちは、戦車を失っても戦い続けたが、圧倒的な火力の前に蹴散らされた。


「撃ち方やめ!!撃ち方やめ!!」


 中隊長の叫び声が、ヘッドセットから聞こえた神薙は、89式5.56ミリ小銃折曲式銃床の引き金から指を離した。


 生き残ったパナマ国家警備隊の歩兵たちが、両手を挙げて、立ち上がる。


「どうやら、戦うのを諦めたようだ・・・」


 神薙が、投降するパナマ国家警備隊の歩兵たちを眺めながら、つぶやく。


「投降するパナマ国家警備隊の兵士たちは、後続部隊に任せて、我々は前進する!」


 中隊長の指示が、ヘッドセットから伝わると、神薙は車長ハッチを閉めて、砲塔内に戻った。


「戦闘団本部からの報告では、パナマ国家警備隊の他の部隊は、後退を始めた。我々は、その追撃に入る」


「ふぅ・・・」


 新たな指示を聞きながら、神薙は小さく息を付いた。


 投降したとはいえ、パナマ国家警備隊の反攻は、粘り強かった。


 こちらに大した損害は無かったが、予定がかなり狂った。


 



「伏撃には、十分注意しろ!右翼部隊と左翼部隊との連絡が、取りにくくなっている!」


 中隊長からの指示を受けたと同時に、いきなり側面から、砲撃を受けた。


「何だ!!?」


 神薙が、叫ぶ。


「こちら、第2小隊2号車!!被弾!!」


「まだ、シャーマン戦車が、いたのか!!?」


「いや、違う・・・」


 神薙は、冷静に告げて、車長用スコープを覗き込む。


「いたぞ!!」


 車長用スコープで、自分たちに砲弾を撃ち込んだ、戦車を確認した。


「右翼側より、M26[パーシング]を確認!!」


「右翼!?右翼側には、中国軍戦車部隊が、配置されているはずでは!?」


「恐らく、隙間を通ったか・・・予め、隠蔽していて、俺たちの行動に合せて紛れ込んだか・・・どちらかだろう・・・」


 だが、冷静に状況を把握する暇は無い。


 右翼と中央の隙間に、楔を打込まれた形になってしまった。


 これを分断の危機ととるか、挟撃の危機ととるかだが、それは、どちらが仕掛けたかで変る。


 当然、仕掛けた側が優位に立つ。


 右翼と中央に、混乱が生じた。


 伊達に今まで、アメリカ軍も、無駄に敗退を続けていた訳では無い。


 様々な報告や戦闘結果から、スペース・アグレッサー軍が、極めて高度な通信体制の元、精密な戦闘を行なっている事は、周知となっていた。


 であれば、賭けの要素は高いが、その通信体制を一時的にでも混乱させる事が、出来れば・・・


 両軍入り乱れての混戦状態に、持ち込む事が出来れば・・・


 撃退は不可能でも、行動に制限を掛ける事が、不可能とはいえない。


「車長。目標を、指示してください!!」


 砲手が、叫ぶ。


 その声は、突発的な状況に、焦っているかのように聞こえる。


「わかった!!」


 神薙が、冷静に目標の戦車を見つけようとしている時に、再び右翼側に現われた戦車が、砲撃した。


「撃ってきました!!」


「撃ち返せ!!」


 神薙の指示で、砲手が発射ボタンを押す。


 90式戦車の砲口が、吼える。


 並行して、走行していた戦車が、炎に包まれる。


「命中!!」


 神薙が、命中報告をする。


「次の目標に照準!!」


「了解!!」


 神薙と砲手の息の合った行動であったが、次の交信が、彼らの背中に冷水を浴びせた。


「待て、あれは味方だ!!!」


「何だって!!?」


 神薙は、慌てて聞き直した。


「お前たちが、今、攻撃したのは、88式戦車だ!!」


 無線を聞いた神薙は、慌てて砲手に確認する。


「撃ってきたと言ったな!?」


「はい!確かに、撃ってきました!!」


「それは、俺たちにか!?それとも、別の目標にか!?」


「わかりません!!」


「思い出せ!!!」


「わかりません!!!!」


 砲手の言葉に、神薙は、M1A1戦車が、味方を敵戦車と誤認して、砲撃したアメリカの戦争映画の一場面を思い出した。


 日本では、報道がほとんど無かったため、余り知られていないが、その戦争映画の実際の舞台である湾岸戦争では、当時、最新鋭のM1A1戦車が、味方同士の誤射で破壊されたという報告がある。


 その当時、産まれていなかった神薙にとって、後から資料を読んで知った事実より、映画で観た映像の方が、遥かにインパクトが強い。


 映画のその場面が、頭の中で、何度も再生され、頭の中が真っ白になった。


 まさか自分が、あの映画と同じ事をしてしまうとは・・・


 一方の砲手も同じなのか、自分のした事について、酷く混乱していた。


「・・・嘘だろ・・・嘘だ!!嘘だ!!俺は!!俺は!!?俺は!!?」


 混乱し、パニックを起こしたように、喚く。


 神薙は、必死に冷静さを取り戻そうとするが、砲手のパニックに引き摺られて、混乱する思考が暴走しかける。


「神薙2曹!!応答せよ!!」


 ヘッドセットから響く声も、混乱にさらに拍車を掛ける。


「車長!!指示を!!」


 3人の中で、唯一、少しの冷静さを保っている、操縦手がいたのが、救いだった。


 神薙自身も、混乱が収拾出来なくても、おかしくない状況だったが、操縦手のおかげで混乱の渦に飲み込まれそうになるのを寸前で、止める事ができた。


 そして・・・


 脳裏に、海自の制服を着用した、母親の後ろ姿が浮かんだ。


 どんな時も、自分を守ってくれていた母親。


 自分の目標であり、いつかは超えたいと思う存在である母親。


 そして、いつかは自分が守りたいと思う、大切な存在・・・その母の姿が、混乱する心を嘘の様に鎮めてくれた。


 その時、1つの考えが、思い浮かんだ。


 大きく深呼吸した神薙は、操縦手に指示を出す。


「操縦手!!前進だ!!」


「了解!!」


 神薙は、車長席のハッチを開けて、上半身を出す。


「車長!!?危険です!!!」


 操縦手が叫ぶ。


「大丈夫だ!!俺に考えがある!!そのまま前進しろ!!」


 振り返って、叫ぶ操縦手に、そう答えた。


「砲手!!今、起きた事は忘れろ!!今は、目の前の敵を撃破する事だけ考えろ!!!」


 神薙が、砲手に叫ぶ。


「了解」


 砲手は、弱々しい口調であったが、はっきりと告げた。


 それを聞いた神薙は、再び車長席から身を乗り出す。


 そして、ヘッドセットを外し、目を閉じると、内蔵が飛び出そうになるほどの、砲撃音と振動の暴風の中に、身を晒す。


 ほとんど、自殺行為にも等しい行動だったが、赤外線暗視スコープでも、形状から即座に敵味方を判別するのが困難なら・・・


 思い付いた事を試す事に、躊躇っている暇は無い。


 子供の時に母に連れられて、海自の基地に行った時に、一般公開されていた潜水艦に乗艦させてもらった事があった。


 その時に、潜水艦のソナーが探知した、色々な音の録音を聞かせて貰った事があった。


 海流の音、鯨の泳ぐ音、鮫の泳ぐ音、小さな魚の群れが泳ぐ音・・・


 それは、とても静かで・・・普通に聞けば、同じ様にしか聞こえない・・・


 神薙は、その全ての音が、違う事に気がついた。


 それを、側で見ていた潜水艦のソナー員に驚かれ、「海自に入って、ソナー員にならないか?」と、言われた。


 90式や10式、88式やK2の砲撃音や駆動音は、判別できる。


 それらと違う音を探す。


 無心で、音を探っていた神薙の耳に、1つのキャタピラー音が響いた。


(見つけた!!)


「パーシングを確認!!」


 車長席に、身体を滑り込ませた神薙は、砲手に方向を指示する。


「撃て!!」


 90式戦車の砲口が、吼える。


「命中!!」


 神薙は、炎上するM26を確認して、叫んだ。


 右翼部隊と中央部隊の隙間に侵入したパナマ駐留のアメリカ陸軍戦車部隊は、混乱状態を脱し、冷静さを取り戻した中央部隊と右翼部隊に、包囲殲滅された。


 重戦車であるM26[パーシング]であったが、90ミリ戦車砲では、90式戦車や、88式戦車の装甲を破る事はできず、120ミリ滑腔砲や、105ミリライフル砲に装填された対戦車砲弾に撃破された。





 日の出と共に、戦闘は終結した。


 90式戦車、88式戦車、K2戦車は、後から現われたパナマ駐留アメリカ陸軍の攻撃で、キャタピラー等が破壊された戦車が数輛出た。


 神薙は、炎上するM26[パーシング]を眺めながら、昨夜の戦闘を思い出していた。


 敵を撃退したという高揚感は無く、唯々、苦い思いを噛みしめていた。


「味方を誤射した事を、悔いているのか?」


「中隊長・・・」


 中隊長(1等陸尉)が、神薙に話しかけた。


「お前のせいでは無い。あの混戦状態の中で、味方への誤射の可能性がある、と警告しなかった俺のミスだ」


 中隊長は、神薙の肩を叩いた。


 彼の言う通り、後の旧中国人民解放軍陸軍と、陸上自衛隊で行なわれた調査委員会では、神薙及び部下の砲手に、過失は認められないという結果が出た。

 対米包囲網 第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。


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