表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
249/452

対米包囲網 第5章 オペレーション・インディアナポリス 5 第71戦車戦闘団上陸

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

[こんごう]のCICを退室した橘田は、艦橋に顔を出した。


「艦長。上がられます!」


 艦橋にいる先任海曹が、声を上げる。


「そのままで、いい」


 橘田の言葉で、航海要員たちは、さっきまで熟していた職務を、続けるのであった。


「艦長。どうされましたか?」


 航海長が、問いかけてきた。


「さっきの対空戦闘で、撃墜した敵機の搭乗員たちを、弔うために・・・な」


「・・・・・・」


 橘田は、航海長と共に、艦橋横のウィングに出た。


「航海長・・・」


「はい」


「さっきの対空戦闘で、本艦は、18機の攻撃機を、撃墜した」


 橘田は、手を合せながら、つぶやいた。


「科員食堂で、海士や海曹たちが、囁いていた。すでに、開戦から半年を迎えようとしているのに、今だに、戦争の終着点が見えない・・・と」


「・・・・・・」


 自分たちが介入した事により、史実とは異なる結果が、生まれた。


 史実とは異なり、この半年間での連合国側の軍民の犠牲者たちは、大勢出ただろう。


 だがアメリカは、中立国を通じて行われている和平交渉に応じるどころか、枢軸国とも軍事同盟を結び、徹底交戦を構える姿勢を、見せている。


 海士や海曹の中では、自分たちと似た状況で、太平洋戦争に介入する架空戦記の物語の話をする者がいるが、現実は架空戦記のように、こちらの思い通りには、残念ながら行かない。


 このような結果が出れば、講和交渉がうまく進む・・・という訳には行かないのだ。


 新世界連合軍が、全面的に太平洋戦争に軍事介入したとはいえ、連合国は怯むどころか、さらに抵抗力を強めた。


「史実のアメリカも、大日本帝国に対して、同じような考えだったのでは無いでしょうか?」


 航海長の言葉に、橘田が振り返った。


「かつてのアメリカは、机上の空論では、日本本土侵攻まで計画されていました。ですが、実際の戦略では、本土侵攻は不可能という結論が、軍部から出されていました」


 アメリカの対日戦の戦略は、諸説存在するが、その中の1つで、アメリカはマリアナ攻略で、日本は戦争を諦めると考えていた。


 しかし、マリアナが陥落しても、大日本帝国は諦めるどころか、徹底交戦の構えを見せた。


 続いて、近代国家の生命線とも言える原油の補給を絶つために、フィリピン・レイテ島を攻略した。


 フィリピンが陥落しても、大日本帝国は戦争を諦めなかった。


 この時になって、アメリカの戦費も赤字となり、戦費確保のために、さまざま公報を軍部は行った。


 誰もが思い出すといえば、硫黄島攻略作戦で、擂鉢山の頂上に星条旗を立てた、1枚の写真であろう。


 あの写真のインパクトは、凄まじかった。


 戦争が長期化する中で、アメリカ国民が、戦争の終盤を想像した。


 そして、星条旗を立てたアメリカ兵たちを、公報に使った。


 しかし、それでも大日本帝国は、諦めなかった。


 この先の事は、言うまでも無い・・・


 ただ、大日本帝国との戦争に送られる、将兵たちを乗艦させた輸送艦には、帰投する際、入れ替わりに負傷兵だけでは無く、多くの棺も乗せられた。


 それが、何を意味するのか・・・


 勝ち続けているはずなのに・・・


 勝っても、勝っても、勝っても、勝っても、見えない終わり・・・


 連日のように、戦地に送られる兵士たちを乗せた、輸送艦が出航し・・・


 帰ってきた輸送艦から、多くの負傷兵や棺が、降ろされる・・・


 それを見る、勝っているはずのアメリカ国民たちの心情は、どうだったのだろうか・・・


「そうかもしれんな。今度は我々の番、と言う訳か・・・」


 橘田は、つぶやいた。


 彼は心中で、部下たちの心情を考えるのであった。


 開戦から半年を迎えようとする状況下で、各戦線についての内容が、大本営陸海空軍発表やニュース等で、どこも激戦を繰り広げている事が伝えられている。


「艦長。第71戦車戦闘団が上陸を開始します。至急、CICに、お戻りください」


「わかった」


 海曹が、橘田を呼びにきた。


 CICに戻る前に、彼は、空を見上げた。


 聯合艦隊空母機動部隊第1航空艦隊第5航空戦隊から出撃した攻撃隊が、母艦に帰投する光景が、目に映った。


「減らされているな・・・」


 最初に出撃した攻撃隊の機数と帰投する機数を比べると、帰投している機数の方が少なく見えた。





 橘田は、CICに戻る途中、この戦争の終盤について、考えていた。


 一介の艦長が、そのような事を考えても、何の意味も無いのだが、考えずにはいられない。


 母艦に帰投する攻撃隊の機数を見た時から、そう思えた。


(パナマ侵攻は、開戦前から既に、計画されていた・・・)


 パナマ侵攻は、ハワイ攻略、スエズ運河破壊、アメリカ本土への空襲段階で計画されていた侵攻計画である。


 当初は、ハワイ攻略と同時進行で、パナマ攻略も議論されていたが、あの時は、アメリカ側が講和交渉に応じる可能性があった上に、補給線の問題等で断念されたが、攻略計画は存在していた。


(思えば・・・エクアドルでのPKO活動の時から、計画は実行段階に移されていた。パナマを攻略すれば、パナマ運河を押さえる事ができる。アメリカの喉元に、ナイフを突き付ける事になった・・・)


 橘田は、心中でぼやいた。


(だが、敵は、こちらの予想をはるかに超える抵抗を、見せ始めている)


 当初、パナマ市攻略は、パルチザンと新世界連合軍連合海兵隊、陸上自衛隊中央即応連隊等で編成されたヘリボーン部隊で、短時間で制圧できると思われていたが、予想以上の抵抗を受けた事が報告された。


「アメリカ軍も、パナマを失う事の意味を、理解している」


「は?」


 先ほど自分を呼びにきた、海曹が反応した。


「何でも無い」


「そうですか」


 橘田は、立ち止まった。


「艦長?」


「君は、どう思っている?」


 橘田は、海曹に振り返った。


「どう・・・とは?」


「この戦争についてだ?開戦からまもなく半年を迎えようとしている。しかし、話に聞くのは講和では無く、次の攻略作戦ばかりだ。それを、どう思っている?」


「自分には、わかりかねます。同僚の中には、講和の話がまったく無い事に、外務局の外交官たちを非難する者もおりますが、人間の人生が、そうであるように、世の中、自分たちの都合通りには、いかないと思います」


 海曹の言葉に、橘田は視線を戻した。


「そうか、つまらない話を、してしまった・・・」


「いえ、艦長のつまらない話でしたら、もう慣れて、耳タコになっていますから」


「むむむ・・・」


 海曹の言葉に、橘田は唸った。


 確かに、パナマ攻略を命じられてから、エクアドルまで行くのに、ずっと愚痴をこぼしていたが、幹部自衛官だけでは無く、海曹までにも伝わっていた事に、不満を感じるのであった。


「わかった。もう何も、言わん!!」


 橘田の言葉に、随行員の海曹は、心中で思った。


(その台詞を聞くのも、何度目ですか・・・)


 海曹は心中に思うだけで、それを口にする事は無かった。


 その後、2人は何も会話をしなかった。





 CICに到着すると、橘田は砲雷長から、事務報告を受けた。


「艦長。第71戦車戦闘団は、予定通り上陸を開始しました。揚陸作業における敵の妨害はありません。連合支援軍陸軍に属する中国陸軍部隊及び朱蒙軍陸軍部隊も、上陸作業を開始しています」


 CICのスクリーンの1つに、揚陸作業の光景が映し出された。


 中国陸軍兵、韓国陸軍兵、陸上自衛隊員たちが揃って、作業をする光景は、不思議な感覚だった。


「一昔の前では、この光景を想像する事も、できないな・・・」


 中国、韓国、日本が領土等の問題を起こしている時の事を思い出しながら、橘田はつぶやいた。


「砲雷長。パナマ国家警備隊及びアメリカ軍の残存部隊からの攻撃は?」


「今のところ、ありません」





 第71戦車戦闘団第2戦車中隊は、フェリーからパナマに上陸した。


「ついに、この日が訪れた!」


 第71戦車戦闘団第2中隊第1小隊に所属する神薙司(かんなぎつかさ)2等陸曹は、90式戦車の車長席から、上半身を出しながら言った。


 陸上自衛隊唯一の機甲師団である第7機甲師団は、かなり期待された状態で、連合国軍(主にアメリカ軍)によるハワイ奪還の際、ハワイ諸島防衛の主力になると思われていた。


「連合国軍によるハワイ奪還作戦が、近々行われる可能性ある、と何度も言われていたが、結局、威力偵察に止まっていた。おかげで、俺たち第7機甲師団は、他の旅団や師団から、宝の持ち腐れと言われた・・・」


 神薙が、ぶつぶつとつぶやきながら、天を仰いだ。


 菊水総隊陸上自衛隊司令部が予想していた、アメリカ軍によるハワイ奪還作戦は行なわれないまま、第7機甲師団等は、ハワイでバカンスを楽しむ毎日だった(バカンスと言っても、訓練と常時出動待機が、続けられた)。


 大日本帝国陸軍でも、中国戦線を経験した精鋭の師団や、独立旅団を配備し、ハワイ防衛に専念した。


 実際には、ハワイ防衛の初期は、海上輸送路、航空輸送路が十分では無く、もしも、アメリカ軍による総力戦が行なわれれば、ハワイと大日本帝国本土を結ぶ海上、航空輸送路は脅かされ、満足な補給を受けられないまま、ハワイ諸島での激戦を繰り広げられただろう。


「車長。今回の出撃は、戦車戦を期待していいのですか?ハワイ諸島の時のように、暴動鎮圧では無いでしょうね?」


 神薙が乗る90式戦車の砲手である3等陸曹が、ヘッドセットで、神薙に告げた。


 彼の言ったハワイでのデモ鎮圧とは、大日本帝国の統治下に反対する団体が起こした暴動である。


 大日本帝国の統治下だったとはいえ、ハワイの行政等は、元のまま行なわれていた。


 その状況下で、一部の団体がデモを起こした。


 国家憲兵隊の監督下で、ハワイ準州で編成されていた州兵部隊と、州警察治安部隊が、デモの規制を行なっていたが、最終的にデモは暴動まで発展し、州兵部隊及び州警察治安部隊の対処能力を超えてしまった。


 そこで、菊水総隊陸上自衛隊第7機甲師団第71戦車連隊に出動命令が出され、暴動で熱くなった暴徒たちに対して、空砲射撃を行なった。


 空砲射撃により、いったんは暴動が沈静化され、大日本帝国外務省と統合省外務局の文官たちによる交渉で、暴徒たちを落ち着かせる事ができた。


「大丈夫だ!上の話では、パナマ国家警備隊は、アメリカからM4[シャーマン]や、M3[リー]等といった中戦車を供与されたそうだ。それだけでは無く、パナマに駐留するアメリカ陸軍は、M26[パーシング]を装備している。戦車対戦車戦が、できるぞ!!」


「そうですか、それならいいです!!」


「俺たちの腕が、鳴るな!!」


 神薙と砲手は、高ぶる好戦意欲を、我慢する事が、できなかった。


 若さ故・・・


 と言えば、それまでなのだが・・・


 神薙としては、ニア諸島沖で、母親の神薙(かんなぎ)真咲(まさき)1等海佐の挙げた戦果を、過剰に意識している。


 母に遅れを取りたくないという意識が、殊更、好戦意欲をかき立てていると言っても良いだろう。


 彼が、22歳という若さで車長を任されたのは、血の気が多いと言われているらしい戦車乗りにしては、母親に似て、沈着冷静であると、陸自の幹部から評価されたからであったが、彼の父の生前を知る空自の幹部は、彼を見て、真逆の感想を口にしたという。


 曰く。


「神薙2曹は、顔立ちこそ母親似だが、性格は父親似だ。アイツは、超の付く熱血漢で、要救助者のためなら、救難ヘリで、火山の噴火口にも飛び込むような、無鉄砲な所があった・・・」





 パナマ市に上陸する事ができた第71戦車戦闘団は、明日からの大規模攻勢に備えて、戦車の整備を行なわせた。


「しかし、こうして見ると、凄まじい光景だな・・・」


 神薙は、ズラリと並んだ戦車群を見ながら、つぶやいた。


 第71戦車戦闘団に所属する90式戦車や、10式戦車だけでは無い。


 連合支援軍陸軍に属する旧中華人民共和国人民解放軍陸軍の96式戦車や、朱蒙軍陸軍のK2戦車が、肩を並べている。


「日韓中の連合軍部隊とも言える、布陣だな」


 神薙は、つぶやく。


 海の方では、日韓の共同部隊行動だけでは無く、日中での共同部隊行動が行なわれている。


 旧人民解放軍海軍の空母から発艦した戦闘攻撃機が、海上自衛隊の護衛艦を援護する事もあれば、自衛艦が旧中国艦に、さまざまな支援を行なった。


「こんな所で、会えるとは思わなかったわ」


 神薙が、96式戦車やK1、K2戦車等を見回していると、背後から声をかけられた。


 その声は、よく知った声だった。


「本当に、ここで会えるとは、夢にも思わなかったよ!!」


 神薙が、振り返る。


 彼が振り返った先には、朱蒙軍陸軍の婦人将校である、櫂智彦(クォンジオン)少尉が立っていた。


 2人は顔を合せると、挙手の敬礼をした。


「良く、広い世界を飛び回っていると、特定の人物とは中々顔を合せない、と言うけれど・・・実際のところ世界は、狭い物ね」


「広い世界でも、腐れ縁で、どこかで会う事もある」


「そうね」


 櫂は、笑みを浮かべる。


「それにしても、暫く会わない間に、随分と背が伸びたわね。昔は私の方が、背が高かったのに・・・」


「それは、昔の話だろう。男なんだから、女の子より背が高いのは、当然だ!!」


「へぇ~・・・昔は、ちょっ~と、突いただけで、ワンワン大泣きした貴方が、随分と言うように、なったわね」


「突いた?」


 櫂の言葉に神薙は、反論した。


「俺の記憶では、ド突き倒された記憶しか、ないんだが・・・」


「あら、そうだったかしら?」


 櫂は、首を傾げた。


「間違いない。俺が智彦の事を、トモヒコって、男の子の名前だねって言ったら、もの凄い剣幕で、ド突かれた」


「それは、貴方に問題があるでしょう。確かに、日本人ならトモヒコは男の子の名前だけれど、国が違えば、読み方も、名前に使われる漢字の意味も、変ると考え無い?」


「あの時の俺は、小学生低学年だったから、そこまで頭が回らなかった・・・」


「その後の事は、覚えている?おばさんと、お母さんがやってきて、それぞれで怒られた」


「ああ、覚えている」


 神薙が笑みを浮かべながら、うなずいた。


 智彦を、男の子の名前だと言ってしまった神薙司は、母である神薙真咲に、「失礼な事を言うな!!」と、拳骨を受けただけでは無く、ガミガミと叱られた。


 櫂も、母である李世媛(イセウォン)から、怒って暴力を振るった事について、厳しく叱られた。


 最後には、2人共、泣きながら謝った。





「どう思う?」


「どう・・・と、言われましても・・・車長の知り合いでしょう?」


 神薙と櫂の雑談している姿を、90式戦車の車内から見届けていた砲手と操縦手が、語り合う。


「そう言えば車長は、韓国に、子供の時からの友達がいるって話していましたから・・・それが、彼女の事だったんですね」


 操縦手が、ヘッドセットに語りかける。


「車長に、あんな綺麗な彼女が、いるとは・・・」


 砲手が、羨ましそうな口調で、つぶやく。


「いや、まだ、そうだと決まった訳では無いですよ」


「いや、どう見ても友達以上、恋人未満、という雰囲気では無い。明らかに、恋人並の仲だぞ」


「後で、車長に韓国軍に、他にも女性の知り合いがいないか、確認しないと・・・」


「あっ!ずるいぞ!!それなら、俺も!!」





 戦闘の前の、僅かな和みの時間・・・


 彼らは、自分たちの前途に何があるのかを、まだ知らない。

 対米包囲網 第5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますがご了承ください。

 次回の投稿は11月29日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ