対米包囲網 第4章 オペレーション・インディアナポリス 4 要撃
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
第1空母機動群空母[あまぎ]から発艦した、E-2D[アドバンストホークアイ]のレーダーが、パナマ市に接近する航空機編隊を探知した事が、[あまぎ]のCDCに伝えられた。
「速力700キロ以上、だと・・・?」
群司令の牟田が、つぶやく。
「恐らく、枢軸国ドイツ空軍のジェット戦闘機、Me262[メッサ-シュミット]です」
第1空母機動群幕僚団空自の、高級幕僚である折原啓1等空佐が、告げた。
「情報では、フォークランド諸島と、スエズ運河が、サヴァイヴァーニィ同盟軍に占領されてから、パナマ防衛のために、ドイツ空軍が、配備したそうです」
折原の説明を受けながら、牟田は、Me262のスペックが表示されたスクリーンに、視線を向けた。
「近くを飛行している、戦闘機は?」
牟田が問うと、CDCで要撃管制等を任されている管制官が、答えた。
「連合海兵隊アメリカ海兵隊の、ハリアーが4機、展開しています」
「ハリアーのパイロットに連絡して、ジェット戦闘機を迎撃するよう、要請せよ」
「はい!」
「群司令。本艦からも、迎撃戦闘機を、発艦させます」
第1空母航空団司令の関島が、具申した。
「許可する」
関島は、艦内マイクを持って、航空管制室に繋いだ。
制空戦闘の装備をした、F-35CJの発艦準備が、行われている。
第1波攻撃隊として、発艦した8機のF-35CJが帰投する時刻だが、新たなる脅威に対処するため、飛行甲板で作業する甲板作業員や、誘導員たちは、日々の訓練通りに任務を熟す。
パナマ攻略作戦を開始するにあたって、[あまぎ]の艦載機であるF-35CJは、3つに分けている。
第1波攻撃に参加したF-35CJは、太平洋側のパナマ近海を警備、防衛する駆逐艦や、フリゲートで編成された警備艦隊を殲滅するために、対艦装備としている。
第2波攻撃に参加するF-35CJは、レーダー施設や通信施設を破壊するために、対地装備である。
第1波及び第2波に参加しないF-35CJは、万が一にもサヴァイヴァーニィ同盟軍からの航空攻撃や、不測の事態に備えて、制空装備で待機している。
連合海軍艦隊総軍第1艦隊第2空母打撃群は、参加している艦隊の上空警戒、航空施設、高射砲等の破壊に、投入されている。
2機のF-35CJが、誘導員に誘導され、カタパルトに移動する。
カタパルトに固定されると、そのまま2機のF-35CJが、射出される。
2機のF-35CJが発艦すると、後続の2機が発艦態勢に入る。
発艦態勢に入った2機のF-35CJが発艦すると、第1波攻撃として出撃した、F-35CJが、着艦態勢に入る。
「誘導員は、着艦の準備に入れ!」
艦内放送が、流れる。
「発艦が終わったと思ったら、次は、着艦かよ。前から思っていたが、戦争とは忙しいね」
「まったくだ。戦争映画等では、戦闘に参加する部隊の様子だけが描かれていたが、実際は、どこも大変なんだな」
若い空士たちが、着艦作業に入りながら、愚痴る。
「いいか!最初に着艦する機は、主翼に被弾している機だ!万が一に備えて、消火班は準備しろ!」
空曹長が、拡声器で叫ぶ。
上からの話では、流れ弾に被弾した、不運のF-35CJだったらしい。
「最新鋭ステルス戦闘機でも、こういう事があるんだな・・・」
「馬鹿か、お前は?最新鋭だろうが旧式だろうが、その時の運で、やられる時はやられる。やられない時は、やられないのさ」
「身も蓋も無いな・・・」
「それが戦場だ」
若い空士たちが、ぼやきながら作業を進める。
[アメリカ]級強襲揚陸艦[タラワ]から発艦したAV-8B[ハリアーⅡ]は、対地攻撃任務を終えて帰路についていた。
「コントロールより、ハミンギヤ1へ」
「こちら、ハミンギヤ1」
ハミンギヤのコールサインを持つ、AV-8Bのパイロットが返答した。
「君たちの飛行空域に、枢軸国ドイツ空軍のジェット戦闘機が、接近中だ。ただちに迎撃に向え」
「こちらハミンギヤ1。ラジャ」
コントロールからの指示を受けた、ハミンギヤ1のパイロットは、僚機に告げた。
「先ほどの指示は聞いたな。これより、第1世代ジェット戦闘機と、空中戦を繰り広げる」
「ハミンギヤ2。ラジャ」
「ハミンギヤ3。ラジャ」
「ハミンギヤ4。ラジャ」
ハミンギヤ編隊は、4機で編制されている。
彼らが飛び立った母艦も、強襲揚陸艦ではあるが、実際は制海艦として機能している。
「いいか、絶対に油断するなよ。ハリアーが登場して以降、撃墜率の高さは、他の戦闘機と比べて高い。相手が劣るジェット戦闘機だからといって、一方的な戦いにはならない可能性がある!」
「「「ラジャ!!」」」
ハミンギヤ1のパイロットが言ったとおり、実戦に初めて投入されたAV-8Bは、戦争中に、他の戦闘機よりも多く撃墜された。
原因として上げられたのは、他の多用途戦闘機と違って、初期型はレーダーを装備しておらず、低高度叉は中高度から爆撃を行わなければならなかった。
これは、敵側の対空ミサイルの、恰好の標的であった。
初陣での経験を生かし、後期型には、レーダーの搭載や、視界外射程空対空ミサイルが搭載された。
「ハミンギヤ・リーダー」
「何だ?」
「我々の任務は、対地攻撃でしたから、AIM-120を搭載していません」
「視界外射程空対空ミサイルは無いが、短射程空対空ミサイルはある」
彼らの任務は対地攻撃であったため、対地攻撃用のAGM-65[マーベリック]を、搭載していた。
そのため、自機自衛用のAIM-9X[サイドワインダー]が、搭載されている。
「ドイツ空軍のジェット戦闘機要撃のために、空母[あまぎ]から、迎撃戦闘機が出撃している。我々は、ヒットエンドラン戦法をとる。サイドワインダーミサイルを発射したら、ただちに、退避し、後はF-35に任せろ!」
「「「ラジャ!!」」」
早期警戒機等からの情報を頼りに、ハミンギヤ編隊は、敵よりも高い高度をとる事にした。
AV-8Bの、コックピットに搭載されているレーダーが、接近中の敵機を捕捉した。
「サイドワインダーミサイル発射用意!」
コックピットの計器類を、操作した。
「降下!!」
ハミンギヤ1のパイロットが、操縦桿を押し、一気に高度を下げる。
HUDが、敵機をロックオンし、コックピット内にロックオンを知らせるアラーム音が、鳴る。
「「「FOX2!!」」」
急降下したAV-8Bから、一斉にAIM-9Xが、発射された。
Me262が、飛んでいる高度よりも高い高度から発射したため、Me262のパイロットたちも、即応が出来なかった。
開戦以来のジェット戦闘機対レシプロ戦闘機での戦いで、得た教訓から、不確定要素が発生しないように、格闘戦に持ち込む事は極力避け、距離をとった状態で、視界外射程空対空ミサイルや、短射程空対空ミサイルを発射する戦法を採用した。
発射されたAIM-9Xは、先導のMe262に直撃した。
ハミンギヤ編隊は、そのまま機首を退避コースに向けた。
「後は、任せたぞ」
ハミンギヤ1のパイロットが、つぶやく。
「サーベルタイガー17へ、敵編隊は、ハミンギヤ編隊の奇襲攻撃で、混乱している」
[あまぎ]のコントロールから、通信が入る。
「こちらサーベルタイガー17。レーダーでも確認した。これより、一斉攻撃で、敵編隊を迎撃する」
サーベルタイガー17のコールサインを持つ1等空尉が答えながら、操作し、兵装システムから、AAM-4Bを選択する。
「視界外射程空対空誘導弾を一斉発射する。発射後、残存機掃討のために、AAM-5を使う。格闘戦に備えろ!」
自機のレーダーが捕らえたMe262をロックオンし、AAM-4Bの発射ボタンを押す。
胴体格納庫に収容されていたAAM-4Bが開放され、一斉に白い尾を引きながら飛翔した。
AAM-4Bは、ロックオンした目標に向かった。
編隊長は、敵機のパイロットたちを、気の毒に思った。
AV-8Bからの奇襲攻撃を受けて、さらなる攻撃が上方から来るのでは無いか、と思い、バラバラに展開するが、上方では無く、正面からの攻撃とは、思わないだろう。
レーダー画面上では、迫ってくるAAM-4Bに気づいたのか、回避飛行を行っている事が分かるようなコースを飛んでいる。
Me262は、最高速度820キロである。
とても、音速のジェット戦闘機を撃墜できるAAM-4Bを、振り切る事はできない。
レーダー画面上で、AAM-4BとMe262が重なり、レーダーから消える。
「スプラッシュ!!」
撃墜を報せる。
「編隊長。残りの機が撤退していますが、どうされますか?」
「このまま、野放しにしていても、いずれは、地上部隊の脅威になるだろう。追撃する!!」
「「「ラジャ!!」」」
3機の僚機から、返答が返ってきた。
空中戦において、退却中の敵機を追撃するか、否かを判断するのは、現場の飛行隊長叉は編隊長に、任されている。
戦う意欲を失い、助かりたいがために退却する敵機のパイロットを必要以上に、追撃する事をしないパイロットもいれば、彼のように、後の脅威になるかも知れないとして、脅威の芽を摘む事を進んでする者もいる。
「全機、格闘戦に備え!!」
編隊長であるサーベルタイガー17のパイロットは、AAM-5を選択し、機銃の安全装置を解除した。
統合ヘルメット装着式目標指定システムである、JHMCSを装着しているため、AAM-5の発射は困らない。
何故ならば、目標を目視するだけで、ロックオンができるからだ。
サーベルタイガー17のパイロットは、全速で戦闘区域を離脱しているMe262の後ろに付き、ロックオンする。
狙われているMe262は、回避するためにジグザグ飛行しているが、目視だけでロックオンができるため、その意味をなさない。
ロックオンを報せる、ピー、というアラーム音と共に、AAM-5の発射ボタンを押す。
左右の格納庫に収容されているAAM-5が、撃ち出される。
AAM-5は、AAM-4のようにレーダー照準では無く、赤外線誘導である。
第1世代ジェット戦闘機に分類されるMe262の、熱源を捕らえて、突入する。
発射されたAAM-5は、片方の主翼にあるジェットエンジンに直撃し、主翼を破壊した。
「残存機は、片づけました」
編隊に所属するパイロットの声が、静かに聞こえた。
奇襲攻撃後、帰路についたハミンギヤ編隊は、洋上で揚陸艦部隊の制海権及び制空権の安全を確保するために展開している[アメリカ]級強襲揚陸艦[タラワ]に着艦した。
[タラワ]は、アメリカ級強襲揚陸艦の1番艦と同じく、ウェルドックを廃止した艦である。
その分、航空機運用機能を増加し、多国籍特殊作戦軍アメリカ陸軍特殊戦コマンドの第160特殊作戦航空連隊のヘリや、第75レンジャー連隊を乗艦させ、特殊作戦を遂行するための専用艦として位置付けられている。
パナマ市攻略のために出撃した第160特殊作戦航空連隊と、第75レンジャー連隊も、[タラワ]から出撃した。
制海艦としての機能も有する。
制海艦とは、攻撃型空母の作戦支援のために編み出された、護衛空母である。
護衛空母と言っても、この時代の正規空母と変わらない排水量を持つため、観戦武官として派遣されている大日本帝国陸海空軍等の武官たちからすれば、護衛空母として訳されている制海艦も、立派な正規空母である。
艦載機であるAV-8Bや、F-35Bの打撃能力は、聯合艦隊空母機動部隊の正規空母艦載機部隊に、匹敵する。
洋上防空や、対地攻撃任務の一部等の任務を、遂行する。
一時期、アメリカ海軍では、原子力空母及び大型空母の優位を主張するグループと、原子力空母と大型空母を廃止し、制海艦を中核とした新期艦隊計画を主張するグループが、対立した時代があった。
これは、空軍が地球規模での展開能力を有するため、大型空母や原子力空母が、不要であると考えが広まったからである。
しかし、原子力空母及び大型空母の運用が継続され、強襲揚陸艦に制海艦としての任務を遂行する事になった。
[タラワ]に搭載されているAV-8B及びF-35Bは、揚陸艦部隊の洋上防空任務や上陸作戦部隊の近接航空支援任務等のために、20機以上が搭載されている。
対潜水艦哨戒任務は、MH-60Rが担当する。
常時2機が発艦し、対潜哨戒任務と不審船警戒任務を、遂行する。
ハミンギヤ編隊が、[タラワ]に着艦した後、彼らの任務を引き継ぐために、2機のF-35Bが発艦する。
「さて、整備の時間もあるし、次の出動まで、お前は何をするのだ?」
同僚が、声をかけてくる。
「食堂で、スイーツでも食べる」
「それ、いいな。俺もそうするか」
海上自衛隊の自衛艦と違い、アメリカ海軍の軍艦には、100円アイスが入った冷凍庫は存在しない。
非番となった乗組員や、パイロットたちは、常時稼働している食堂に足を運び、食堂で用意されているスイーツ等を食べるのだ(ただし、これらはすべて、給料から天引きされる)。
食堂で用意されているのは、スイーツだけでは無い。
サンドイッチ、ピザ、ハンバーガーといった、ファーストフードまで用意されている。
スイーツとしては、アメリカの定番である、パイ類やドーナツ類である。
食堂に到着したハミンギヤ編隊のパイロットたちは、食堂で用意されているファーストフードや、スイーツ類を、トレイに乗せ、ドリンクコーナーで、炭酸飲料をプラスチック製のコップに淹れると、トレイに乗せた。
厨房で勤務する水兵や、兵曹たちが忙しく、働き回っている姿を横目に、彼らは束の間の休息を楽しむ。
もちろん、思考の片隅には、今、この瞬間も敵と戦火を交えている同僚の姿がある。
だからこそ、その同僚たちが戻って来た時に、安心して休む事が出来るように、徹底的に休み、鋭気を養うのだ。
対米包囲網 第4章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は1月22日を予定しています。




