対米包囲網 第1章 オペレーション・インディアナポリス 1 狼煙は上がった
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
パナマ市郊外の、廃墟となった集落。
かつては、100人規模の集落であったのだろうが、現在は、完全に廃墟となっていた。
そんな小さな集落の中央に、教会があった。
その教会の窓から、人影が一瞬だけ見えた。
廃墟の集落を拠点に、防衛局長官直轄部隊陸上自衛隊特殊作戦群第2中隊は、元の時代で共にタイムスリップした、パナマ共和国国家保安隊国家警察隊の特殊部隊と、パナマ攻略作戦の準備を進めている。
「中隊長。パナマ市に潜入した隊員からの、最新情報です」
部下から、端末機を渡された。
パナマの現況は、史実と同じく、アメリカとの友好関係を強化し、それに反対する勢力や、敵性外国人に対する、監視態勢が強化されていた。
特に、パナマ在住の日系人の扱いは、アメリカ本土より厳しいものだった。
パナマは、治安維持を任されている国家警備隊を増強し、国防軍化されている。
アメリカから、M4中戦車[シャーマン]や、M3軽戦車[スチュワート]等が供与され、装甲車、野砲等も供与された。
パナマの沿海防衛、警備のために、哨戒艇や水雷艇も配備され、パナマ近海を防衛、警備するアメリカ海軍の駆逐艦、フリゲート部隊と共に、防衛作戦を共同で行なう。
パナマの軍備化が進められたのは、菊水総隊海上自衛隊の潜水艦部隊による、パナマ運河破壊が行われてからである。
パナマの防衛は、アメリカ軍が行っていたが、ハワイ陥落で、パナマ政府は、自分たちだけで国土を防衛する国防軍の新設を、決定した。
軍隊では無いが、治安維持及び治安警備を専門とする、警察隊が存在していた。
警察隊を国家警備隊に格上げし、対日戦で、軍事物資の大量生産を行っているアメリカ軍から戦車、装甲車、戦闘艇、戦闘機等を供与して貰っていた。
「P-38[ライトニング]まで、配備されているな」
中隊長である3等陸佐が、つぶやく。
「我々に協力する事を表明した、パナマ人たちの軍事訓練は・・・?」
中隊長は、同席しているパナマ国家保安隊国家警察隊特殊部隊の指揮官に、聞いた。
「エクアドルを拠点に、武器、弾薬をパナマに持ち込み、軍事訓練を実施している。パルチザンとしての能力は、十分にある」
パナマ市を含む、パナマ全土で、アメリカ軍施設やパナマ国家警備隊施設、輸送部隊への襲撃を、パナマ革命軍(パナマ国家保安隊国家警察隊に、創設されたパルチザン)が、行っている。
「中隊長!エクアドルから極秘電文です!」
特殊作戦群第2中隊付の無線員が、報告した。
第2中隊長は、無線員から電文を受け取る。
「これから忙しくなるな」
第2中隊長が、つぶやいた。
エクアドルから届けられた指示は、パナマ攻略作戦が、実行段階に移ったため、第1の制圧目標である、パナマ市での後方攪乱及び落下傘降下する多国籍特殊作戦軍アメリカ陸軍特殊戦コマンドに所属する第75レンジャー連隊1個大隊と、連合海兵隊総司令部直轄部隊である武装偵察部隊の、援護及び降下地点の誘導である。
パナマ国家保安隊国家警察隊の任務は、パナマ革命軍と共にゲリラ戦、後方攪乱等で、パナマ市攻略中に、他方からやってくる増援部隊を、足止めする事である。
第2中隊長は、パナマの地図を、見下ろしていた。
「歴史は、繰り返すどころか・・・歴史の繰り上げだな・・・」
彼の脳裏に、1980年代末に勃発した、アメリカ軍によるパナマ侵攻が、過ぎった。
パナマ攻略に投入される武器、兵器は自衛隊、朱蒙軍、連合陸軍、連合海兵隊、連合支援軍、大日本帝国軍は、最新式の武器、兵器を中核とした軍事力で圧倒する。
それに対し、パナマ国家警備隊は一部を除いて、新式の武器、兵器(この時代では)を、保有しているが、ほとんどは旧式である。
パナマ革命軍は、未来から現れた、パナマ国家保安隊国家警察隊による軍事教練で、パルチザンとして活動できるレベルに達していた。
パナマ攻略作戦が開始されれば、パナマ革命軍は攻略軍の斥候、後方攪乱、兵站の襲撃等と言った任務を遂行する。
「自分が学生時代だった時は、軍隊を保有していない平和な国家の1つとして教えられましたが、自国防衛する機関を持っているのですね」
パナマ革命軍に連絡要員として派遣されている幹部自衛官が、パナマ国家保安隊国家警察隊の幹部に告げた。
「パナマは、軍隊を持たないのでは無く、保有を制限されているのだ」
パナマは、1980年代末に勃発したパナマ侵攻で、アメリカ軍に敗退。
敗戦後、パナマ国防軍は、解体された。
その後、国内の安定化及び将来的に国土防衛を目的とした、国家保安隊が新設された。
わかりやすく説明すれば、戦後の日本で創設された、警察予備隊と保安隊に相当する。
「因みに付け加えておくが、隣国のコスタリカも軍隊は無いが、それに相当する警備部隊を保有しているし、憲法で個別的自衛権及び集団的自衛権の行使が、認められている」
実際、日本国内にいる一部の団体やマスコミが、常備軍の無いパナマやコスタリカ等を、世界一の平和な国家だと主張し、自国の自衛隊を憲法違反と主張しているが(意見としては、聞くべき所はあるのだが・・・しかし、比較する対象を間違っているのではと、質問せざるを得ない。なぜなら、日本国憲法の序文と、9条の矛盾点に、それを主張する人々は、誰も答えてくれていない)、パナマやコスタリカ等の軍隊を保有していない国の人々の中には、逆に、日本が世界一の平和な国家であると、主張する者がいる。
その理由として、国家を防衛する自衛隊(軍事組織)があるにも関わらず、自衛隊創設以来から半世紀も戦争をせず、自衛隊(軍事組織)を国家の守護組織にしたのは、前例が無いからだそうだ。
軍隊の無い国が平和なのは、当たり前と思われず、軍隊を保有している国が戦争をせず、それを維持する国は、世界一の平和国家だと思われるのは、皮肉な話である。
「新しい武器兵器が、届いたぞ」
パナマ国家保安隊国家警察隊の運用する、トラックが現れた。
トラックの荷台から、木箱が下ろされる。
エクアドル経由で送られる軍事物資は、大日本帝国本土で生産された、手動装填式小銃や半自動小銃、軽機関銃、重機関銃等である。
他にも少人数で携行、運搬できる迫撃砲もある。
「機は、熟した・・・」
幹部自衛官が、つぶやく。
ここに最初に投入された自衛官たちは、今回の任務がどれ程、重要なのか理解している。
パナマ攻略作戦は、パナマ運河破壊の段階から、既に準備されていた。
戦略的にパナマは、太平洋と大西洋を繋いでいる。
ここを確保すれば、完全に大西洋から太平洋に渡る最短コースを、遮断できる。
サヴァイヴァーニィ同盟軍が、スエズ運河を確保したため、万が一にもパナマ運河が彼らの手に落ちれば、大西洋の制海権は、完全にサヴァイヴァーニィ同盟軍の物になってしまう。
パナマは、南方作戦と同様に、いかなる犠牲を払おうとも、攻略しなければならない要衝である。
「パナマ市攻略開始は、秒読みに入った」
幹部自衛官は、そうつぶやいた。
パナマ国家保安隊国家警察隊の幹部と共に、パナマ革命軍首脳部と今後の作戦について協議するため、彼らが使っている地下洞窟に移動した。
パナマ市全域の警備を任されている国家警備隊司令部が置かれている駐屯地は、日の出前に、何者かに攻撃を受けた。
突如として、駐車していた軍用トラック等が爆発し、燃料貯蔵庫、武器、弾薬庫等が破壊された。
「な、何が、起きている!!?」
高級幹部の1人が、自室で眠っていた所を叩き起こされて、叫んだ。
「わかりません!!」
高級幹部付の補佐官が、叫ぶ。
「敵襲!敵襲!!」
軍用車両及び武器、弾薬庫等が爆破された後、駐屯地警備指揮所から敵襲が、知らされた。
「敵襲!?」
高級幹部は、慌てて窓の外を眺めた。
「どういう事だ・・・」
駐屯地内では、武装勢力からの襲撃を受け、警備兵たちと交戦している光景が見られる。
駐屯地を襲撃したのは、パナマ革命軍である。
パナマ革命軍の兵士たちは、供与された一式半自動小銃や、三八式手動装填式小銃等で、パナマ国家警備隊の警備兵たちと戦闘を繰り広げる。
小銃だけでは無く、軽機関銃や軽迫撃砲まであるため、完全に不意を突かれた状態では、満足な戦闘はできない。
「至急!アメリカ軍に、応援要請!!」
完全に目を覚ました高級幹部は、アメリカ軍に、増援部隊を要請した。
「パナマ市、各地に駐屯する国家警備隊に緊急連絡して、部隊を集めさせろ!」
高級幹部は、寝室から地下にある司令部作戦室に、駆け出した。
何故、地下に司令部作戦室を構築しているかというと、スペース・アグレッサー軍からの爆撃対策であるからだ。
国家警備隊は、パナマ国防軍化を目指すために新設された武装組織であるため、軍隊に相当する武器、兵器が取り揃えられている。
しかし、ほとんどの部隊は、M1903手動装填式小銃や、M1917重機関銃といった、旧式の武器である。
戦車もあるにはあるが、市街地とあって、軽戦車が主体である。
それに対し、パナマ革命軍は、未来のパナマ国家保安隊国家警察隊、陸上自衛隊特殊作戦群、多国籍特殊作戦軍アメリカ陸軍特殊戦コマンド特殊部隊群から近代戦術の教育を受けており、1人1人の戦闘能力は高い。
司令部を襲撃したパナマ革命軍は、パナマ市全域を担当する通信指令室に、突入した。
「爆破!!」
ドアに設置した爆弾を起爆させ、ドアを吹き飛ばす。
その後、彼らは手榴弾を投擲する。
手榴弾の炸裂の後、パナマ革命軍の兵士たちが突入する。
通信指令室にも武装した警備兵がいたが、抵抗という抵抗は、できなかった。
革命軍の兵士たちは、通信指令室に爆弾をセットすると、早々に退散した。
数分後、通信指令室は、爆発音と共に、紅蓮の炎に包まれた。
通信指令室が爆破され、外部との連絡ができなくなった。
「通信指令室が、破壊されました!」
司令部作戦室で、高級幹部が最初に聞かされた報告が、それだった。
「何と言う事だ!!」
高級幹部は、机を乱暴に叩いた。
「それで、状況は?」
高級幹部は、何とか気持ちを落ち着かせて、部下に聞いた。
「通信指令室が破壊される前に、アメリカ軍からパナマ市に駐屯する歩兵部隊1個大隊を、応援に寄こすと連絡を受けています」
部下からの報告に、高級幹部は、少しだけ安心感を持った。
いかに武装勢力が強いと言っても、装備は、歩兵が携行できる銃火器だけだ。
装甲車で編成された、1個大隊に、敵う訳が無い。
「何としても時間を稼げ!司令部全域に、バリケードを構築!敵を1人も入れるな!!」
高級幹部が、叫ぶ。
だが・・・決して、地下も安全では無かった。
高級幹部が椅子に腰掛けようとした瞬間、地下の司令部作戦室が、炎に包まれた。
「ケール1より、コントロールへ、敵司令部を破壊」
ケール1のコール・サインを持つF-15E[ストライクイーグル]は、エクアドルから出撃し、地下に設置された司令部等に、GBU-28を投下した。
予め、パルチザン及び現地民に変装した特殊部隊兵士が、地下司令部等の位置を把握し、パルチザンによる攻撃開始と共に、地中貫通爆弾による攻撃で、無力化する事に決めていた。
日の出を迎えたパナマ市では、各地で小規模な戦闘が繰り広げられていた。
パナマ革命軍が主体となり、事前に潜入路を確保していた国家警備隊の駐屯地や、アメリカ陸軍の駐屯地で、破壊工作を行った。
破壊工作により、ある程度の混乱が発生したが、アメリカ軍は、こういった事態を想定していたのか、すぐに部隊機能を回復させた。
部隊機能を回復させると、アメリカ陸軍は、パナマ市の防衛及び治安維持能力回復に、部隊を展開させた。
パナマ市内を走行するアメリカ陸軍のM3[スカウトカー]は、パルチザンに攻撃されているパナマ市の警備を担当するパナマ国家警備隊司令部駐屯地に、急行していた。
「目標を確認!」
建築物の影に潜んでいた特殊作戦群第2中隊に所属する陸曹が、無線機に話しかける。
「了解。行動計画に変更無し、目標を撃破せよ」
指揮所からの指示に陸曹は、相棒の鉄帽を2回叩く。
相棒は、特殊作戦群に導入されたばかりの、単発使い捨て無反動砲ATー4の砲口を、先導のM3に向けた。
ATー4の砲口が火を噴き、対戦車榴弾が発射される。
84ミリ、であるため、主力戦車の正面装甲を貫徹できるぐらいの破壊力がある。
対戦車榴弾が、M3の運転席に直撃し、そのまま炸裂した。
M3は、あっとう言う間に炎の塊と化した。
「よし、撤退だ!」
双眼鏡で戦果を確認した陸曹がつぶやき、その場を立ち去る。
先導を走るM3が吹っ飛んだ瞬間を見て、後続部隊は、慌ててM3を急停止させた。
M1[ガーラント]や、M1[カービン]等を武装したライフル兵が、対ゲリラ戦に備えて展開する。
しかし・・・攻撃は、これだけでは無かった。
上空から砲弾の飛来音が響いた。
「砲撃だ!伏せろ!!」
指揮官の叫び声に、展開した兵士たちが地面に伏せる。
飛来した砲弾が、正確にM3に直撃する。
猛烈な爆風と衝撃波が襲い、近くにいた兵士たちを、巻き込む。
彼らを攻撃しているのは、洋上に展開した艦隊からの艦砲射撃である。
無人偵察機と観測ヘリ、そして、地上で展開している特殊作戦群第2中隊からの正確な位置情報で、艦砲である5インチ単装速射砲が、正確な照準で艦砲射撃を実施している。
運良く、砲撃から身を守れたアメリカ陸軍兵の1人が空を見上げると、上部にプロペラを搭載した航空機が、無数に出現した。
その航空機から、次々と武装した兵士たちが、地面に降りてくる。
その兵士は、立ち上がり、M1A1を構えた。
「これでもくらえ!!」
M1A1の引き金を引き、M1A1の銃口から火が噴き出す。
しかし、目の前に現れた迷彩服を着た兵士たちは、撃ち出された弾丸をかわした。
弾丸をかわした迷彩服の兵士たちは見慣れない小銃を構えて、撃ち返す。
「ぐっ!はっ!!」
数発しか撃たれなかったが、確実に急所に弾丸を、撃ち込まれた。
対米包囲網 第1章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は12月27日を予定しています。




