対米包囲網 序章 1 1等海佐の独語
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
1942年5月下旬。
南方地帯では、連合国軍と枢軸国軍が共闘し、新世界連合軍、菊水総隊自衛隊、朱蒙軍、大日本帝国軍等と、一進一退の激戦を繰り広げている頃。
「まぁ~た、また、来たぜ~エクアドル~・・・」
菊水総隊海上自衛隊第1護衛隊群第5護衛隊イージス艦[こんごう]の艦長である橘田雄史1等海佐が、艦長席で歌いながら、ぼやいていた。
「艦長。もうすぐエクアドルです。いい加減、諦めてください」
副長である2等海佐が、肩を竦めた状態で、突っ込んだ。
橘田が何度、演歌の大御所の名曲の替え歌で、この台詞をぼやいたのか・・・もはや、わからない。
「それに艦長。今回は、前回のようなPKO活動では、ありません。対米包囲網の、完全構築です!」
「北方は、アリューシャン列島。中央をハワイ諸島。南方が、パナマね・・・」
部下からの言葉に、橘田が、つぶやく。
エクアドルを拠点に、パナマ攻略作戦が、開始される。
橘田は、艦長席から立ち上がった。
そのまま、艦橋横のウィングに出た。
橘田は、双眼鏡を覗いた。
第1護衛隊群第5護衛隊から、イージス艦[こんごう]と、汎用護衛艦[ありあけ]の2隻が派遣されている。
両艦の任務は、ハワイ諸島オアフ島に駐屯している陸上自衛隊第7機甲師団第71戦車戦闘団を乗り込ませた輸送艦部隊を、護衛する事である。
パナマでの制空権、制海権を確保するのは、第1空母機動群が担当する。
「やれやれ・・・」
橘田は、頭を搔いた。
「歴史改変が、目的だったのに・・・これじゃあ、我々の知る歴史と、同じ展開だな・・・」
パナマ攻略に参加するのは、新世界連合軍連合海兵隊に属するアメリカ海兵隊の1個海兵師団を基幹として、連合陸軍、菊水総隊陸上自衛隊、朱蒙軍陸軍、連合支援軍陸軍、大日本帝国陸軍が投入される。
「まあ、確かに・・・これだけの規模を投入したら、パナマは、2週間程度で陥落するな・・・」
橘田は、統合省防衛局統合幕僚本部運用行動部に所属する、氷室匡人2等海佐の言葉を、思い出した。
自分たちが盛った毒は、徐々にアメリカ全土だけでは無く、連合国各国、各植民地に行き渡っている。
橘田自身も、南方戦線の戦況は、事務報告で聞いている。
連合国に不満や不信を持つ現地民と接触し、生活の保障を与えた。
医薬品、病の治療薬、新鮮な糧食等である。
それだけでは無い。
親英派の現地民たちにも、巧みに飴と鞭を使い分けて、揺さぶりを掛けているという。
橘田が聞いた話(あくまでも、噂レベルで、真偽は定かでは無い)では、陽炎団の傘下である国家治安維持局が、極秘中の極秘である部隊を南方に投入し、様々な工作活動を行っているという事だ。
現代に蘇った、怨霊に率いられた部隊・・・
彼らの活動については、菊水総隊総隊司令部でさえ、知らされていない。
その遣り口は、『卑怯、卑劣、非道』と、三拍子が揃っている。
ここまで来れば、眉唾過ぎて、信じる気も失せる。
むしろ、それが狙いかも知れないが・・・
むろん・・・南方だけでは無い。
パナマでも、同じ事が行われている(こちらは、新世界連合の文民組織に属する極秘部隊が、担当しているらしい)。
そもそも、南アメリカで、あのような事態に発展したのは、自分たちの責任でもある。
ヨーロッパの支配に、不満や不信を持つ現地民たちに接触し、反感を持たせた。
しかし・・・
サヴァイヴァーニィ同盟軍も、同じ事を南アメリカで行っていたため、現地民が予想以上の反感を、募らせてしまった・・・
その結果が・・・あれ、である。
「艦長!パナマから発信されている、ラジオ放送を、受信しました!」
通信士が、報告する。
「スピーカーに、流せ」
橘田が、艦橋に戻ると、スピーカーから、スペイン語が流れた。
パナマから流れているスペイン語は、言葉の意味は分からないが、その口調から、かなり慌てている様子が窺える。
「通訳ができる者を、艦橋に呼べ」
橘田の指示で、スペイン語が話せる海士が、艦橋に現れた。
海士は、スピーカーから流れるラジオ放送に耳を傾けた。
「パナマ市で、武装勢力による破壊工作が行われたそうです。アメリカ軍の車輌、数輛が破壊され、10人以上が死亡した・・・と、言っています」
「ついに、始まったか・・・」
ラジオ放送で、登場した武装勢力は、パルチザンの事であろう。
もはや、後戻りは出来ない。
かつて、アメリカ海軍の1隻の重巡洋艦が運んだ荷物が、その後の世界の未来を、狂わせたように・・・
[オペレーション・USS・IP]。
すなわち、[オペレーション・インディアナポリス]の発動である。
対米包囲網 序章1をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は、12月13日を予定しています。




