断章 帝国のイカロスたち
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
1942年1月上旬。
ハワイ諸島オアフ島大日本帝国統合軍ホノルル飛行場には、陸海軍航空部隊と、航空予備軍航空部隊の戦闘機、爆撃機等が駐機している。
隣接しているヒッカム飛行場は、菊水総隊陸海空航空部隊と新世界連合軍連合空軍が、運用している。
大日本帝国海軍航空隊に所属する坂井三郎2等飛行兵曹は、ホノルル飛行場の会議室に、顔を出していた。
彼だけでは無い。
海軍の飛行機乗りや、陸軍の飛行機乗りたちが、集まっている。
「総員起立!」
号令により、坂井たちが、不動の姿勢で起立した。
「敬礼!」
坂井たちは、脱帽時の敬礼を行う。
彼らの前に現れた、上級将校(大佐)が答礼すると、号令官の号令で席に着いた。
「諸君等は、内地で行われた、厳しい選抜試験に合格した、精鋭揃いの飛行機乗りだ。ここにいる全員は、ハワイ防衛のために配属されたと、伝えられているだろうが、それは違う。本日から航空予備軍に転向し、艦上噴進戦闘機の操縦士としての教育訓練を受ける。諸君等に与えられた訓練期間は短い。心して訓練に励むように」
大佐からの訓示を受けた後、坂井たちは解散した。
会議室の出入口には、被服と分厚い教材が、並べられていた。
坂井たちは、それを受け取り、隊舎に戻った。
自分の部屋に戻った坂井は、同じ部屋で寝泊まりする2人の同僚と、顔を合せた。
部屋は3人部屋であり、3段ベッドと3つの教卓、冷蔵庫等がある。
オアフ島ホノルル飛行場で行われる教育訓練中は、ここで過ごす事になる。
坂井は、支給された勤務服に着替えた。
航空予備軍が導入している勤務服は、航空自衛隊の青緑地を基調とした、旧作業服である。
旧作業服を、航空予備軍壱型勤務服として導入している。
勤務服に着替えた坂井は、隊舎から出た。
格納庫に収容されている、自分が搭乗する、噴進機を見学する。
格納庫には、統合省防衛装備局から提供された、T-4がある。
「こいつで、大空を飛ぶのか・・・」
坂井は、小さくつぶやいた。
ヒッカム航空基地では、定時訓練や緊急発進のために、噴進戦闘機が滑走路を滑走し、空に飛び上がる光景は、何度も見た。
しかし、自分も、同じ噴進戦闘機を操縦する日が訪れるとは、思わなかった。
カシャ!
「?」
坂井が振り返ると、自分と同じ勤務服を着た男が、フィルムカメラを持って、写真を撮っていた。
坂井は、襟に縫われている階級章を見て、挙手の敬礼をした。
彼も、答礼する。
「帝国航空予備軍2等飛行兵曹、坂井三郎です」
「帝国航空予備軍少佐、加藤建夫」
加藤と名乗った上級将校は、フィルムカメラを坂井に渡した。
「すまないが、写真を撮ってくれないか?」
「は、はい」
加藤は、簡単に使い方を教えると、坂井にフィルムカメラを渡した。
坂井は、フィルムカメラを構えて、T-4をバックに、加藤を撮った。
「ありがとう」
加藤は、礼を述べた後、坂井からフィルムカメラを、返してもらった。
「坂井2曹。君も撮るから、噴進機の前に立ってくれ」
加藤は、カメラを構える。
坂井は、言われた通り、T-4の前に立つ。
加藤は、カメラのシャッターボタンを押した。
「写真は現像したら、君の部屋に送るよ」
加藤は、そう言った後、明日から搭乗するT-4を眺める。
「近い将来、彼らと肩を並べて、空を飛ぶ光景が、思い浮かぶな・・・」
加藤も、坂井も、ハワイ攻略作戦に参加した、飛行士である。
坂井は、大日本帝国海軍聯合艦隊第1航空艦隊第1航空護衛戦隊護衛空母の艦上機操縦士として、艦隊防空任務に従事していた。
加藤は、急建造された空母型揚陸艦[あきつ丸]に乗艦し、搭載機である九七式戦闘機で編成された飛行隊指揮官として、オアフ島に上陸した陸海軍上陸部隊の援護と、制空戦に従軍した。
翌日から坂井たちは、噴進機の操縦技術を習得するための、教育訓練を受ける事になった。
ヒッカム航空基地に配備されている、菊水総隊航空自衛隊のパイロットと、統合省防衛局長官直轄部隊航空自衛隊教育隊のパイロットたちが、T-4の操縦席に座り、航空予備軍の候補生たちは、後部座席に座った。
候補生たちは、九七式戦闘機や、零式艦上戦闘機等に搭乗する操縦士であり、航空機を操縦するに辺り、基本は習得している。
あくまでもこの訓練は、九七式戦闘機や、零式艦上戦闘機等の、今まで操縦した航空機とは、まったく違う事を、身体に教えるためだ。
整備された、ホノルル飛行場の滑走路で、候補生たちを乗せたT-4が、2機編隊で離陸する。
坂井も後部座席から、滑走路を滑走し、空に上がる感覚を覚える。
「あれは?」
坂井が、空に視線を向けていると、灰色の機影を発見した。
「あれは、F-15のACM・・・空中戦闘機動訓練に、参加しているF-15ですね」
操縦席に座るパイロットが、答える。
「飛行計画で、あの空域は、空中戦闘機動訓練区域に、指定されています」
坂井が搭乗するT-4は、空中戦闘機動訓練区域の近くを飛行していた。
4機のF-15J改が、仮想敵機であるレシプロ無人機を追跡、攻撃、撃墜といった手順で、ACM訓練を行っている。
レシプロ無人機は、この時代のアメリカ軍航空部隊と同じ塗装が行われており、速度も、ほぼ同じ飛行速度だ。
坂井が搭乗するT-4も、編隊飛行を行っており、彼が乗るT-4は、編隊長機である。
さまざまな編隊飛行を、坂井は、後部座席から体験する事ができた。
実は、坂井が搭乗するT-4のパイロットは、航空自衛隊第4航空団第4飛行群第11飛行隊・・・
通称、ブルーインパルスの元パイロットである。
50代を迎えて、ブルーインパルスの、実戦部隊のパイロットを辞めて、若手の教育に回ったベテランである。
午前中は、T-4の搭乗訓練と飛行体験で終わり、午後からは座学である。
噴進機を操縦するに必要な、基礎課程を学ぶ。
1日目は、これで終わりだ。
2日目以降は、専門的な座学と、操縦訓練に備えるために、落下傘降下訓練も受ける。
しかし、元は陸海軍航空隊の操縦士であるため、基礎は、できている。
そのため、これらの教育は、短期間で終了した。
T-4の操縦段階に入ると、シミュレーションによる操縦が、実施された。
最初は、離陸と着陸を繰り返し、それを終えた後、シミュレーションで、飛行計画に従い、飛行ルートを飛行し、着陸する。
その過程を終えて、実際にT-4を操縦する。
前席に坂井が座り、後席に空自のパイロットが、搭乗する。
ホノルル管制塔と、やり取りしながら、T-4を滑走させ、機を浮かせる。
最初のシミュレーションと同じく、離陸と着陸の繰り返しである。
しかし、シミュレーションも最新式のモデルであり、シミュレーション飛行ができるのであれば問題無い。
ハワイ諸島オアフ島のホノルル飛行場で、T-4により飛行訓練を4週間続けた坂井たちは、航空予備軍の人員輸送機でホノルル飛行場から、馬毛島統合自衛隊航空基地に、輸送された。
馬毛島は、陸海空自衛隊が共同運用している航空基地であり、海上、航空自衛隊が運用する空母艦載機の陸上空母離着陸訓練を実施できる設備も整えられている。
菊水総隊海上自衛隊第1空母機動群旗艦である、[あまぎ]型多目的航空母艦[あまぎ]の艦載機であるF-35CJや、垂直離着陸機能を有するF-2C、さらに、F-2Cの開発で得たノウハウと教訓等を生かして、新型の垂直離着陸機能がある、多用途戦闘機が、離着陸訓練に利用している。
坂井たちを乗せた人員輸送機が、馬毛島に着陸すると、馬毛島統合自衛隊航空基地では、忙しく、迷彩服を着た兵士たちが、動き回っている。
上空では、噴進機が、轟音と共に、飛び回っている。
「上の話だと・・・今日から3日間、連合国軍が、馬毛島に強襲上陸する事を想定した、防衛訓練を行っているらしい・・・」
荷物を持った坂井の傍らから、同じく荷物を持った、加藤が言葉を掛けた。
先に、この島に訪れていた、航空予備軍の大佐が、坂井たちを整列させた。
「ホノルル及び千歳での1ヶ月にも及ぶ厳しい訓練によく堪えてくれた。諸君等は、明日より、新しい機体に乗り込む事になる!」
大佐が、整列した部下たちに、訓示を行う。
「これが、お前たちが乗る戦闘機だ!」
大佐が振り返ると、格納庫が開放された。
「「「おおっ!!!」」」
坂井たちが、歓声の声を上げた。
彼らの目の前に現れた、2機の機体・・・
「F-14[隼]と、F/A-18[空の鯱]だ」
大佐は、詳しい説明は省いた。
どちらの機種も、スペックダウン型ではあるが、新世界連合軍委員会の承認下で、大日本帝国軍需省が購入した、戦闘機と、戦闘攻撃機である。
「では、訓練は明日から実施される。今日1日は、ゆっくり休むように」
大佐の訓示が終わると、坂井たちは、与えられた宿舎に移動した。
宿舎で荷物をまとめると、坂井は分厚い教材を取り出し、明日から搭乗するF-14[隼]の詳細な性能評価を頭に入れた。
自分が乗る機体である以上は、何が得意で、何が苦手か、それを知っていなければならない。
勉強熱心なのは、坂井だけでは無い。
他の者も、機体性能の把握や、英語の勉強にも、力を入れている。
馬毛島に足をつけてから数週間後、坂井たちは、いよいよ自分が乗る機で離陸、空中戦、着陸といった、本格的な訓練に、参加する事になる。
「飛行確認!」
坂井は、F-14[隼]のコックピットに乗り込み、計器類を確認しながら叫ぶ。
「異常なし!」
後部座席に座る操縦補佐士が、機体状況を確認しながら叫ぶ。
「武将1番機より、マゲシマ・コントロールへ、離陸準備完了、指示を請う」
「マゲシマ・コントロールより、武将1番機へ、誘導路から滑走路に移動せよ」
管制塔から指示に従い、坂井が搭乗するF-14[隼]は、誘導路から滑走路に移動した。
「武将1番機より、マゲシマ・コントロールへ、滑走路にて待機中」
「ラジャ。武将1番機、離陸を許可する」
管制塔からの指示で坂井は、F-14[隼]を滑走させ、ぐんぐんと加速させた。
そのまま、操縦桿を引き、機首を上げる。
坂井たちは、空中戦闘機動訓練区域に移動した。
坂井たちの敵役として、菊水総隊航空自衛隊那覇航空基地に配備されているF-4EJ改が、空中戦闘機動訓練区域で待機している。
付近には、無人航空機が展開しており、撃墜判定や機体ダメージの評価等を行う空中指揮管制機が、空中戦闘機動訓練区域の、高々度から判定する。
「敵機発見!」
坂井が乗る、F-14[隼]の後部座席に座る、補佐士が叫ぶ。
「敵機、噴進弾を発射!!」
「回避飛行!」
坂井は、操縦桿を倒し、急旋回する。
「噴進弾!接近中!!」
「電波妨害弾発射!」
坂井の指示で、補佐士が、電波妨害弾を発射する。
電波妨害弾は、チャフの事である。
「噴進弾回避!!」
「よし!次は、俺たちの番だ!」
坂井は、操縦桿を戻し、補佐士は、電探が探知した敵機を、捕捉する。
「捕捉しました!」
「発射!!」
坂井は、発射ボタンを押す。
F-14[隼]が、長射程空対空噴進弾を、発射する。
念のために説明しておくが、ミサイルは、1発も発射されていない。
あくまでも、シミュレーション上での、ミサイル発射だ。
「回避されました!」
「さすがに、強い!」
「敵機、まもなく目視可能圏内に、入ります!」
「短射程噴進弾用意!」
坂井は、格闘戦に持ち込む事にした。
彼の視線の先に、塗装されたF-4EJ改が、現れた。
坂井は、エンジンを加速させて、速度を増速させた。
F-4EJ改も、短射程噴進弾を発射するが、寸前のところで熱線妨害弾を発射し、回避した。
そのまま、坂井機は、F-4EJ改の背後とった。
「これで、終わりだ!」
短射程噴進弾の発射ボタンを、押した。
F-4EJ改が、回避飛行した時、坂井は、それを見逃さなかった。
機関砲の発射ボタンを押し、F-4EJ改の撃墜判定を出した。
空中戦闘機動訓練での評価が、行われた。
坂井は、F-4EJ改の、1機撃墜判定と、1機大破判定を出した。
加藤は、2機撃墜判定を出し、2機を大破判定とした。
しかし、最終的には、どちらも追い込まれて、撃墜判定は出なかったものの、大破判定が出た。
3月上旬・・・
航空予備軍は、正式の空軍の準備軍として、組織改編されたと同時に、坂井三郎は中尉の拝命を受けた。
そして・・・
坂井たちは、南太平洋上空を、飛行していた。
「あれか!!」
坂井の視界に入った、超大型空母への第一声が、それだった。
大日本帝国軍需省が購入した、超大型航空母艦[回天]である。
「[加賀]とは、比べ物にならん」
「いや、それどころか、帝国海軍が運用する正規空母が、軽空母のようだ・・・」
坂井たちが、驚きの声を上げていると、超空母[回天]から着艦許可が下りる。
F-14[隼]と、F/A-18[空の鯱]の操縦士たちは、日々の訓練の成果を出すために、基本に徹し、超空母[回天]の飛行甲板に着艦した。
超空母[回天]に着艦したF-14[隼]と、F/A-18[空の鯱]は、40機であり、これに早期警戒機、対潜水艦哨戒回転翼機、人員、物資輸送用の回転翼機16機の計56機である。
聯合艦隊司令部直轄の秘匿艦隊に所属する超空母[回天]は、完全な軍機であるため、海軍省、軍令部、聯合艦隊司令部でも、その存在を知る者は少ない。
秘匿艦隊司令長官である南雲忠一大将は、噴進戦闘機、噴進戦闘攻撃機の搭乗員たちの前での訓示を、簡単に行った。
訓示が終わった後、坂井たちは、用意された寝室に移動することになる。
坂井たちの初陣は、日本本土防衛戦の南東諸島奪還戦であった。
そして・・・同年7月。
ハワイ会戦の、ハワイ沖海戦において、ハルゼー指揮の[エセックス]級発展型空母[エンタープライズ]を基幹とする空母艦隊と、相まみえる事になる。
断章をお読みいただきありがとうございます。
誤字脱字があったと思いますがご了承ください。
次回の投稿は11月29日を予定しています。




